世界のシンクタンクはグローバル化する課題にどう向かい合っていくのか ~CoC年次総会報告~

2016年5月19日

 5月15日から3日間、アメリカ・外交問題評議会(CFR)が主催し、世界主要25カ国26団体のシンクタンクが参加する国際シンクタンクネットワーク「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」の第5回年次総会がニューヨークで開催され、日本を代表して言論NPO代表の工藤泰志、同NPO客員研究員の内野逸勢氏が参加しました。


 今回の年次総会では、主に欧米にて最大のイシューとなっている難民・移民管理問題やシリア危機、世界経済・金融、インターネットガバナンス、そしてアジアの安全保障の5つが議題として取り上げられ、世界25カ国のトップシンクタンクの代表者らがこれらの喫緊のグローバルイシュー活発かつ率直な議論が交わされました。

 会議の中で、各シンクタンクは独自の視点から現在のグローバルガバナンスにおける不備や秩序の崩壊についての懸念や問題点が提起されました。難民問題については、現状のシリア難民に対して対応できるレジームが存在しないなか、どのように周辺国及び先進国が相応の負担を共有する枠組みを作るべきか、などについて議論が行われました。世界経済・金融のセッションでは、各国が中国経済や一部の先進国の財政など様々な課題点が話し合われましたが、工藤は「2008年のリーマンショックの対策の副作用に新しいリスクを生み出している。G20はマクロ経済の調整会議などを創設すべき」など、具体的な提案を行いました。


アジアの目指すべき秩序を明らかにする必要がある

 中国、インド、インドネシア、シンガポールなどアジアのシンクタンクがパネリストとして登壇した、第3日目のアジアの安全保障に関するセッションでは、これらのパネリストと欧米、中東などのシンクタンクの代表者がアジアの安全保障アーキテクチャについて議論を交わしました。その中で工藤は、アジアの安全保障アーキテクチャに構造的に大きな問題があり、それが緊張関係を生んでいることを認めつつも、より重要な論点はアジアの目指すべき秩序はどういう秩序か、という点であると主張し、さらに中国の南シナ海での自己主張や行動は国際法に基づいたものではないことを指摘した上で、「そうした社会がアジアの目指すべき将来なのか」という疑問を会場に投げかけ、安全保障アーキテクチャに留まらず、地域秩序形成における根本的な理念、規範の部分に課題があるとの見解を示しました。

 さらに工藤は、国際法にのっとった秩序をアジアにおいて形成するために、紛争当事者に留まらず、国際社会全体が国際秩序形成の当事者として問題の解決に関与する必要がある、と世界のシンクタンク代表者らに呼びかけました。

 5つのテーマのセッションのほかに、2日間のディナーでは、初日にはCNNワシントン支局長とのアメリカ大統領選に関する意見交換、2日目にはOSCE(欧州安全保障協力機構)事務総長のランベルト・ザニエル氏を招いての「地政学への回帰とグローバル課題」と題した基調講演が行われました。


世界のトップシンクタンクが評価した世界の主要10課題

 そして、最終日には、昨年に引き続き、カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)のメイン事業の1つでもあるグローバル課題に対する国際協力への評価2015年(レポートカード)を発表しました。

 本評価は世界25カ国のシンクタンクが、世界経済、貿易、国内・国外暴力、テロ、グローバルヘルス、インターネットガバナンス、気候変動など10つの分野にわたり、2015年においてグローバル課題に対する国際社会の取り組みに進展があったか、あるいは後退したか評価するレポートカードです。各国の評価をまとめると、2014年に比べて過去1年間における国際協力のグレードはCからBに改善。この理由として、米ーイランの核合意、国連におけるSDGsの合意、そして2015年末のパリでの気候変動に関する合意の3つの進展がグレードを押し上げました。

 一方で、これらの国際社会の協力体制の進展に比べ、いまだ解決策が見えず悪化するシリア危機をはじめとした国内外の暴力紛争、そして15年欧州で頻発したテロの2つの問題の停滞が大きくグローバル課題への取り組みに暗い影を作っていることも指摘されました。こうした評価作業には工藤も日本を代表して参加しており、報告書には工藤の発言も掲載されています。詳しくはこちら(英語サイト)よりご覧いただけます。

 こうして、5月15日から3日間にわたって開かれたCoCの第5回年次総会は、様々なグローバルアジェンダに関する議論が行われ閉幕しました。

 工藤はCoC閉幕後も、在米のシンクタンク、財団などアメリカの有識者と意見交換を行う予定です。報告記事は、随時、言論NPOのホームページでお知らせいたします。