281人の識者は、世界の秩序や民主主義の現状をどう見ているのか ~「東京会議」事前有識者アンケート調査結果~

2017年3月05日

 言論NPOは3月4日に、世界を代表する、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダのG7参加国とブラジル、インド、インドネシアの10カ国のシンクタンクの代表と「東京会議」を立ち上げました。
 この会議では、不安定化する国際秩序や民主主義の今後を議論し、これらの議論をもとに、日本政府及び2017年のG7議長国であるイタリア政府に提案を行いました。
 「東京会議」に先立ち、言論NPOは2月27日から5日間の期間でアンケート調査を実施し、281人の方から回答を得て、集計結果を公表しました。

回答者の属性

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※各属性で示されている数値以外は無回答の割合。この頁以降、数値は小数点第2位を四捨五入しているため、合計が100%とならない場合があります。


6割の有識者がトランプ大統領に否定的

 まず、今年1月に就任したアメリカのドナルド・トランプ大統領の現時点での行動や発言についての評価を尋ねたところ、「評価できる」は5%にすぎず、「アメリカ第一主義に基づくトランプ氏の行動は、世界の規範や協力システムに関して対立や不安を高め、むしろ危険な行動である」という回答が34.5%で最も多く、これに「国際システムだけではなく、米国内でも不安や対立を高めており、評価できない」の24.6%を合わせると約6割の有識者が否定的な評価をしています。

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世界で起こる様々な出来事で、特に心配していることとは

 世界では、トランプ大統領の誕生だけではなく、英国のEU離脱や欧州での右派ポピュリズムの台頭など、様々な変化が始まっています。そこで、現在の世界の状況で特に心配していることを尋ねたところ、「戦後世界を支えた自由貿易や、多国間主義に基づく経済協力の仕組みが崩れ、保護主義や二国間交渉が強まろうとしていること」(60.9%)、「多くの国が内向き志向となり、世界の課題にリーダーシップを持って取り組む国が次第に少なくなり始めたこと」(60.1%)、「米国や欧州などの先進民主主義でポピュリズムや権威主義的な傾向が高まっていること」(60.1%)、「難民、移民に対する制限や排外主義が高まり、国際社会の断層が深まろうとしていること」(54.1%)の4つに回答が集約されました。

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グローバリゼーションと国家、民主主義は同時に実現するのか

 世界の自由と民主主義が後退している背景にグローバリゼーション、国家、民主主義がぶつかり始めているトリレンマの状況があると言われています。つまり、これらの3つが同時に実現することは難しい、ということです。そこで、こうした状況を改善するために、 この3つの中から何を優先すべき局面に入っていると考えているかを尋ねました。
 これに対し、「3つともなんとかうまくバランスをとって進めていく」という見方は28.1%で最多で、これに「グローバリゼーションと民主主義を優先する」(26.0%)が続いています。そして、「民主主義と国家を優先する」も21.0%ありました。

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今後の国際秩序については、不安定化するとの声がある一方で、
トランプ大統領が軌道修正をするだろうとの意見が拮抗

 次に、トランプ米大統領の誕生や、EU各国でポピュリズム的な政治が影響力を増す中で、今後世界のリベラルな国際システムや国際秩序はどのようになっていくのか、その予測について尋ねました。
 その結果、最も多い見方は「世界的な秩序の牽引国がない、いわゆる『G0』状態になり、不安定化が深まる」の22.8%でした。ただその一方で、「トランプ米大統領も軌道修正を迫られ、多国間主義に基づく国際協調はかろうじて維持される」も22.1%となり、「不安定化」に並びかけています。

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グローバリゼーションに何らかの修正を加えるべきとの見方が7割を超える

 続いて、グローバリゼーションの現状について尋ねました。
 これに対しては、有識者の6割はグローバリゼーションの利益を認めているものの、そのうちの45.9%は、「それが十分に世界全体の経済発展や利益になっておらず、その利益が包摂的に多くの人にもたらされるように国際社会が取り組む段階」に入っていると見ています。さらに、「現在のグローバリゼーションはそれ自体が自己目的となり、経済や貧富の格差や様々な亀裂を招いている。自由の良さを生かすためにも、国家が行き過ぎたグローバリゼーションの抑制や管理に取り組む段階」も32%あり、合計するとグローバリゼーションに対して何らかの修正を加えるべきとの見方が7割を超えています。

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民主主義を機能させるには不断の努力が必要だが、
努力を怠ったことが後退を招いしている、との認識が半数近くとなる

 世界の民主主義の現状についても、その評価を尋ねました。
 その結果、「機能している」や「壊れ始めている」という見方はそれぞれ1割未満でしたが、「民主主義は完成した仕組みではなく、それを機能させるためには不断の努力が必要だが、その努力を怠ったツケが、民主主義の後退を招いている段階」という見方は、48.8%と半数近くなりました。そして、「課題解決に向かわない民主主義ほど脆弱なものはなく、その不安や怒りが民主主義や統治側に立つ知識層やメディアにも向かい始めている。民主主義が信頼を失い始めている段階」と考えている有識者も30.6%います。

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知識層やメディアに対する役割に、否定的な見方が多数

 そして、先進国に見られるポピュリズムの動きには、知識層やメディアに対する強い批判や反発があるため、現状の知識層やメディアに課題解決の役割を期待できるかを尋ねました。
 その結果、「期待できない」(23.8%)、「初めから期待していない」(10.7%)と否定的な見方の合計34.5%が、「期待できる」の24.6%を上回っています。ただ、「どちらともいえない」と判断しかねている見方も39.5%あります。

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9割を超える識者が「責任ある自由」「民主主義」という規範を守り、
発展させていくことが必要だと回答

 ただ、こうした国際政治が不安定化する状況の中で、「責任ある自由」と「民主主義」という規範を守り、それを発展させていくことがこれからの世界や、日本にとって必要だと思うかを尋ねたところ、「必要だと思う」(「どちらかといえば」を含む)が92.9%となり、圧倒的多数の有識者がその必要性を認めています。

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民主主義を機能させるためには、有権者の意識の変革が必要とする人が最多となる

 それでは、民主主義の危機を克服し、強く機能させるためには何が必要なのか、有識者の見解を問いました。
 これに対し、「市民が、現状の課題に真剣に向かい合い、主権者としての姿勢を回復させること」(62.6%)が最も多く、以下、「言論に携わる人たちが、率先して課題解決に向かい合い、健全な世論形成のための努力を行うこと」(60.1%)、「課題に向かい合わない政治や商業主義に走るメディアに対する市民や有権者自身の眼力やリテラシーを上げていくこと」(56.2%)が続いています。

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難民問題の元凶を、世界が協力して解決すべきとの回答が突出

 さらに、今回の有識者アンケートでは、難民問題についても質問しました。まず、中東やアフリカから、ヨーロッパに大量の難民や移民が押し寄せ、ヨーロッパ各国で対応が混乱し、排外主義やナショナリズムの問題を引き起こしている中、難民の問題で今、優先して考えるべきことについて尋ねました。
 これに対しては、「難民を生み出す貧困や紛争の解決に世界が力を合わせること」が50.2%で突出しています。

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日本は難民や移民をもっと受け入れるべきとの回答が過半数

 日本が難民や移民をより多く受け入れることの是非については、「もっと難民や移民を受け入れるべきだと思う」と肯定的な回答が52.3%と半数を超え、「難民や移民の受け入れは、制限すべきだと思う」の14.6%を大きく上回っています。

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