世界のシンクタンクがグローバル課題の解決に向けて議論~CoC年次総会報告~

2018年5月09日

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 アメリカ・外交問題評議会(CFR)が主催し、世界主要25カ国のシンクタンクが参加する国際シンクタンクの会議「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」の第7回年次総会が5月7日、8日の2日間にわたって、アメリカ・ニューヨークで開催され、日本を代表して言論NPO代表の工藤泰志と、大和総研金融調査部主席研究員で言論NPO客員研究員も務める内野逸勢氏が出席しました。

 今年の年次総会では、「トランプなしの貿易:前進への道」、「効果的な気候変動対応策を強化する」、「新技術の地政学的含意」、「イランの挑戦とその世界的含意」という4つのグローバルイシューが議題として取り上げられ、世界のトップシンクタンクの代表者らによって活発な議論が交わされました。


ルールに基づく経済秩序のためにまず行動すべき

 このうち、「トランプなしの貿易:前進への道」に関するセッションでは、現在のグローバルな貿易システムの強みと弱みは何か。貿易の地域ガバナンスと国際ガバナンスを発展させ、21世紀に適応したものにするためには何が必要か。既存の多国間貿易システムの欠点をどのような政策が改善できるのか。関税引き上げ、報復・反報復といった負の連鎖をどのように予防すべきなのか、など多角的な切り口から議論が展開されました。

 その中で、ルールに基づいた貿易秩序を守るために何をすべきなのか、といったテーマについて話が及ぶと、工藤は「そもそも、私たちは本当にルールに基づいた秩序を守ろうとしているのか」と問題提起しました。その理由として、トランプ米大統領の行動、中国の報復措置、韓国の自主規制など、現在各国がとっている行動を、「すべてルール違反」と断じた上で、「しかし、こうした行動に対して反対する声は盛り上がらず、皆は自分の国だけが措置から除外されることを望んでいる状況にある。日本政府も沈黙している。世界はトランプ大統領のディールに巻き込まれている」と指摘。さらに、その結果として「世界は確実に"WTO以前"に戻りつつある」との認識を示しました。

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 続いて工藤は、「では、どのようにルールに基づいた秩序を守るのか。3点話したい」と切り出し、その1点目として、前述のように各国が口を閉ざす中ではまず、「WTO違反の行為について反対の声を上げること」が大事だと主張。

 続いて2点目として、新たな国際的標準を作り、アメリカにプレッシャーをかけるためにも、「メガFTAを今こそ機能させること」を提示。TPPや日EU経済連携協定(EPA)はその突破口になると語りました。

 そして3点目として、「WTO改革」を提示。その中で工藤は、「WTOの紛争処理は効果的でない。時間がかかり、差し止めもできず、損害に対する補償もない」と現状の仕組みの問題点を指摘した上で、「決定の仕組みはより柔軟であるべきであり、WTOは今日の状況に適応しなければならない」と主張しました。

 最後に工藤は、「私たちはこの困難を機会に、ルールに基づく経済秩序のためにまず行動すべきだ」と居並ぶ参加者に対して強く呼びかけました。


 続く「効果的な気候変動対応策を強化する」に関するセッションでは、パリ協定のアプローチにおける成功と失敗、及びここでの教訓を今後にどう活かすか。協定から撤退する意向を示すアメリカの動きは、今後どのような影響を与えるか。パリ2.0協定(再合意)は必要なのか、必要だとすればどのような合意にすべきか。各地域でのパートナーシップ、地方政府、民間企業は、どのように協定目標の達成に貢献することができるか、などといったテーマで議論。

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 「新技術の地政学的含意」では、大きな変革をもたらす技術革新(人工知能、ゲノム科学、ロボット技術など)が国際的な安全保障に及ぼす影響がテーマとなり、現在の国際的な標準や制度は、イノベーションによってもたらされる安全保障上のリスクに対処するために十分なものなのか。新しい規範や規則を確立する必要はないのか、などについて話し合われました。

 そして今まさに、核合意をめぐって緊張が高まるイランをテーマとした「イランの挑戦とその世界的含意」に関するセッションでは、イラン国内の政治情勢を踏まえつつ、核合意文書「包括的共同作業計画(JCPOA)」の欠陥をどう是正すべきか、「作業計画」の第2弾を作るとしたらどのような合意であるべきなのか、について議論。さらに、イランの"地域的野心"に焦点を当てながら、それを実現するための能力を分析した上で国際社会はどう対抗すべきなのか、などについても議論が展開されました。

 各シンクタンクからは、その国内や地域の事情を踏まえた独自の視点から様々な問題提起と解決策の提示がなされました。

 年次総会ではこの他、「シンクタンクが直面する共通の挑戦」と題したランチミーティングも行われ、アメリカが「国際秩序の最大の守護者から攪乱者となった(リチャード・ハースCFR会長)」という危機的な状況の中、民間の叡智はどのような役割を果たすべきなのか、などについても意見交換がなされました。

 そして、最終日には昨年に引き続き、2018年版のレポートカード(国際協調進展の通信簿)が発表され、総会が閉幕しました。

 評価結果についてはこちらをご覧ください。

 工藤は年次総会閉幕後もアメリカに滞在し、在米のシンクタンク、財団などアメリカの有識者と意見交換を行う予定です。報告記事は随時、言論NPOのホームページでお知らせいたします。