世界の課題に挑む

緊急フォーラム「G7は今後も結束し、自由秩序の推進役となれるのか」

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2018年8月9日(木)
参加者:
林禎二(外務省経済局参事官、G7日本側サブシェルパ)
Laurent Pic(駐日フランス大使)
Nadia Burger(駐日カナダ臨時代理大使)
岡村健司(財務省国際局次長)
司会:
工藤泰志(言論NPO代表)

⇒ 有識者調査 「G7は今後も結束し、自由秩序の推進役となれるのか」

 6月にカナダで開催されたG7サミットでは、自由貿易体制を巡って紛糾し、トランプ米大統領は採択された首脳宣言をツイッターで拒否するなど、これまで自由や多国間主義を主導してきたG7の結束が揺らぐ結果となりました。トランプ大統領一人に振り回された格好ですが、来年のフランス、再来年の米国でのG7では、ルールに基づいた国際秩序や多国間主義を発展させるという役割を果たせるのでしょうか。今、G7に求められる役割は何か、国際協力の先導役としての役割を果たすために、何が求められているのか。

 今回の緊急フォーラムでは、ゲストとして、今年のG7議長国を務めたカナダからナディア・ブルジェー駐日カナダ臨時代理大使、来年の議長国・フランスからローラン・ピック駐日大使、日本側からは今年のG7でサブシェルパを務めた林禎二外務省経済局参事官と岡村健司財務省国際局次長の4氏をお招きし、議論を行いました。


kudo.jpg 議論の前に、言論NPOが行ったG7に関する有識者アンケートの結果について、言論NPO代表の工藤泰志から報告がありました。


意見衝突したら、日本はアメリカ側に立つのではなく、仲介役に徹するべき

 「G7が果たす役割は依然として重要か」、「民主主義の危機を克服するために、G7はリーダーシップを発揮すべきか」、「G7の今後はどうなるか」などの設問には、概ね八割が肯定的に答えました。興味深かったのは、「G7の中で意見の衝突が続いた場合の日本の立ち位置」についての設問で、「仲介役に徹する」とした人が63・3%でトップ。これと対照的に、「アメリカ側に立つ」と答えた人は、2・3%しかありませんでした。また、今回のサミットでも議題となったロシアについては、「G7に再加入させるべきか」と尋ね、53・9%と半数以上の人が「そう思わない」と返答、共通の価値観を大事にするG7の立場を追認する形となりました。これは、今回のサミットの直後に開催された中国、ロシア、インドなどで構成される上海協力機構(SCO)首脳会議について、「SCOの役割に期待していますか」と訊き、六割の人が「期待していない」と答えたのと歩調を合わせるようでした。

 この後、今回のG7シャルルボア・サミットの評価について議論に入りました。工藤は、「今回は世界経済、貿易、環境、イラン問題、海洋プラスチック廃棄物などで激しい議論があり、公表された何枚かの写真から、トランプ大統領を囲んで厳しいやり取りがあったことが印象付けられました。これはG7が結束して、自由でルールに基づく国際秩序の牽引役になることが難しくなったということなのか」とブルジェー臨時大使に問いました。

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40年以上継続したG7の強靭性を確信

b.jpg 同大使はこれに対し「G7の機能にはコンセンサスを作るための形があり、対話する親密な場というプラットフォームで共通の理解を得ようとします。そして行動を起こす重要なツールとして、他の機関とともに触媒の役割も果たしてきました。G7が40年以上継続してきた、その強靭性を確信しています」とG7の存在感を指摘。シャルルボアでは、成長への投資、ジェンダー(文化的・社会的に形成される男女の差異)、女性の権限、気候変動などのテーマが取り上げられました。特にジェンダーではまだ不平等があり、新しい取り組みとしてジェンダー諮問評議会を設置、来年のサミットでも引き継がれることを期待していました。「首脳同士、もし意見が一致しなくても友人でなくなるわけではない。重要なのは、付加的価値です。歴史を振り返れば、何回も合意ができないこともありました。意見が分かれたのも今回が初めてではなかった」と、G7の亀裂との見方を否定しました。

 この説明に工藤は、「激しい議論とはなったが、何とか結束し、合意をまとめたということか」と再確認するように言い、さらにコミュニケには合意しない、とツイッターで指示したトランプ大統領を、どう受け止めているか、との質問には、それでも「コミュニケは合意を得て、それは公式記録になりました」と、今回のサミット開催国としての自信を見せるようでした。
 

海洋ゴミ対策は、途上国を含む世界全体の課題として対処

 次に工藤は、サブシェルパを務めた林参事官に尋ねました。「今回は何が変わったのか、安倍首相が頑張って議論をまとめたという話もあるが、どうだったのか」。

hayashi.jpg 「非常に難しいサミットだった。サミット前は、グローバル化や移民問題への不満が蔓延していた。BREXITもあり、自由貿易を本当に守っていけるのか、という懐疑心もあった。二つの課題を抱えた中で激しい議論があり、私たちも三日徹夜して、コミュニケを見ると、何とか結束を守って成果を出した。例えば、グローバル化に対する不安については、民主主義とか自由経済といったことの再確認がされた。付属文書では、民主主義に対する介入が取り上げられた。民主主義を守っていくのだという付属文書もついている」と、それなりの成果を讃えました。日米が未承認だった「海洋プラスチック憲章」(他の五カ国は承認)については、「会議終了まで海洋ゴミがもつれました。EUは非常に厳しい規制で、最後まで詰め切れなかった。日本も現状を踏まえると、合意できるところとできないところはある。重要性についての認識はあるので、今後もテーマとして取り上げられるだろう。日本に来る海洋ゴミは、海外から来ているので、G7だけでは解決できない」と分析。「途上国を含む世界全体の課題として対処する必要がある」とし、G20次期議長国として今後、議論を活発化していくそうです。全体として、「従来のG7より、立場の違いは大きかった。共通の利益を調整して、折り合えるところを見つけたというところ。首脳同士の膝詰めの写真が大きく取り上げられたが、これはG7以外ではありえないこと。それだけ、いろいろな意見がぶつかるのもG7のメリットではないか」と、現場に直接、携わった者としての感想を述べました。
 

リスクは顕在化したが

okamura.jpg 次いで、岡村国際局次長は、「今回の亀裂がG7の崩壊につながるのかということですが、トランプ大統領の過激な方法論で、現行の国際秩序の牽引役という役割にとって、リスクが顕在化したということは間違いない。ただし、根っこにある現行の国際秩序の担い手である共通した普遍的価値はある。貿易問題を激しく議論はしたが、それがG7の共有する価値を揺るがすところまではいかなかった。通貨や金融の新しい秩序やG7の分裂に繋がっていくというリスクはないという冷静な見方をしている」と語りました。

 しかし、現在の米中貿易戦争が加速、進展しても、G7は壊れないのでしょうか。「大きなリスクではあると思う。同一陣営内の摩擦とは質的次元が違うというのが私の見方だが、振幅が増大して制御不能になり、分断につながるリスクがないわけではない」と、微妙な言い回しでした。
 

G7、実効性のあるものに

p.jpg 一方、ピック大使は、「G7は元々、そして現在も、同じような価値を持っている国々の集まりで、これを忘れてはいけない。このフォーラムが作られたのは、首脳間の非公式の協議を進めるためで、お互い顔を合わせて議論をする場ということ」と、その存在意義を話します。それだけに、膝詰め写真が出回ったことで、「議論できる場でなくなるのが怖い」と残念そうに言ったのは、正直な思いか。しかし、今回のサミットでは、「妥協点を見出そうという姿勢があった。過剰に悲観的な見方をする必要はない。例えば、WTOの改革で、さらに進めていきたい。今後は、世界経済への課題、移民問題、気候変動などを考えると、グローバルな文脈で考えなくてはならず、国際協力を進めていくことが重要になる。この20世紀に私たちは様々なメカニズムを、国際機関などを作ってきた。共通の価値をこれからも堅持し、アンケートの結果を見ても、皆さんまだ、G7が必要だと考えているので、G7を実効性のあるものにしなければならない」と、将来へ道を語りました。

今、G7がなすべきこと

 各パネリストの発言が一巡した後、工藤は「なぜ今、G7が重要なのか」、「現在の状況の中で、G7に問われていることは何か」と根本的な質問を投げかけました。

 林氏はまず、G7が内部的、外部的2つのチャレンジに直面していることを指摘。「内部的」とはすなわちトランプ大統領に起因する混乱を意味し、様々なコミュニケーションを平素から徹底することによって、意思疎通を改善しつつ解決を図るべきとしました。
外部的に関しては、新興国の台頭を挙げ、様々な利害が絡む中でどう課題解決に向けたリーダーシップを発揮すべきかが問われていると述べました。

 ブルジェー氏は、「不安定な世界のもと、私たちはより一層協力をしなければなりません」と語り、リベラルな価値という確かな"軸"を持つG7だからこそ、世界秩序を安定に導くことができるとその役割の重要性を強調しました。

 岡村氏は、台頭する新興国の中で、特に中国の問題を指摘。かつて、アメリカは、「中国は経済成長すれば民主化し、普遍的価値観や国際秩序に適合する国になると考えていた」し、欧州も中国に対して融和的であったと振り返った上で、「しかし、現実の中国はその期待とは逆に、独自の秩序を作ろうとしている」、「したがって、アメリカも欧州もここで手を打っておかなければ、と路線変更した」と解説。

 もっとも、それは「中国封じ込め」であってはならないと強調。そこで例えば、途上国に対する過剰融資問題では、実は中国もどう対応すべきか分かっていないと指摘しつつ、「G7がテクニカルなアシスタントをしながら、パリクラブ(債務返済困難に直面した債務国に対して、 二国間公的債務の返済負担の軽減措置を取り決める非公式な債権国会合)など既存の国際的な枠組みへ取り込むように努力すべき」とG7の果たすべき役割について主張しました。

 ピック氏は、秩序と価値の擁護者としてのG7の役割を強調。新たなメンバー、新たなコンセプトが登場したとしても、それに対してはあくまでも既存の組織(WTO)などの中で対応、消化することが大事であって、時流に流されて秩序や価値そのものを変えてはならないと主張しました。

 また、最近の世界各地の猛暑に触れ、「気候変動問題では、野心的な取り組みが求められている。こうした中で、いかに野心的な目標を掲げ、その実現に向けて世界をリードすべきか」とし、G7が強力なリーダーシップを取り戻すことも大事だと語りました。

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新たな領域でのルールづくりをどう進めるべきか

 G7のリーダーシップという問題に関連して、工藤は、サイバー空間やAIのような新たな技術など、まだ国際的なルールが十分に整備されていない分野・領域におけるルールづくりのあり方について尋ねました。

 林氏は、サイバー空間をめぐる考え方として、「国家が管理(中国など)」、「民間が管理(アメリカなど)」、「倫理や個人情報重視(欧州など)」といった3つの潮流があると解説。現状はこうした潮流のせめぎ合いであるとしつつも、G7でもすでに議論は始まっていると説明しました。

 ピック氏は、サイバー空間に関しては、市民に対する監視を強めるべきという流れと、市民に対する介入を抑制すべきという流れの両方があるとした上で、リベラルな価値を重んじるG7は、あくまでも後者を重視すべきと強調。したがってまず、G7で議論を先行して規範の骨格を固めた上で、舞台をG20に移し中国やロシアとも議論していくという流れで、国際的な枠組みを構築していくべきと主張しました。

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世論に対してどうアプローチすべきか

 次に工藤は、今回の有識者アンケートの中で、G7が重要である理由として、多くの有識者が「民主主義」のグループであることを挙げたという結果を紹介。そして、そうであるならばG7は世論によって支えられる必要があるとしつつ、「しかし、多くの人はG7のことをよく知らない」と指摘。そうした中でG7は世論とどう向き合うべきかと問いました。

 ブルジェー氏は、今年のサミットにあたってのカナダ政府の取り組みとして、研究者や学生など民間からの意見を広く募集する「パブリック・コンサルテーション」を重視してきたことを紹介。同時に、今年3月に行われた言論NPO主催の「東京会議」からの提案も参考にしたと語り、そのようにして市民の声に向き合いながら公的なアカウンタビリティを果たしていくことが重要であると語りました。

 林氏は、国際労働組合総連合(ITUC)の代表者等が、労働組合としての主張をサミットの議論、首脳宣言等へ反映させる「レイバーサミット」や、「G7ユースサミット」などに触れ、こうした対話の取り組みを増加させることがポイントになると指摘。同時に、トランプ大統領の活発なツイッター発信に関連して、「SNSを通じた直接的な発信」の必要性についても言及しました。

 ピック氏は、各地で巻き起こるポピュリズム選挙に懸念を示した上で、G7各国のリーダーが主張すべきこととして「課題の所在を明確にした上で、その解決方法を具体的に提案すること」を提示。マクロン大統領はその選挙戦の最中、「国際課題の解決なくして国内問題の解決なし」、「欧州の連帯が結局フランスの利益にもなる」ということをしっかりと世論に対して呼びかけていたと振り返り、こうした大局的な観点から世論を説得する姿勢が重要であるとの認識を示しました。


フランス、そして日本は何を議論するのか

 最後の質問として工藤は、「来年2019年は、日本がG20、フランスがG7の議長国となる」とし、そこでの議論テーマや方針について尋ねました。

 ピック氏は、ビアリッツ・サミットでは「WTO改革」、「海洋」、「ジェンダー」、「安全保障」の4つが議論テーマとして予定されていると紹介。いずれもシャルルボア・サミットでも議論されていたテーマであることから、カナダ政府と緊密に連携した上で準備を進める方針を示しました。同時に、「多国間主義で取り組むという姿勢が大事だ」とし、G7の結束を再強化することの意欲も示しました。

 林氏は、G20では経済問題中心の議論が展開されることから、自由貿易体制の堅持が大きなテーマとなるとの見通しを示し、TPPやEUとのEPAなど多国間自由貿易体制を推進してきた日本のリーダーシップ発揮に意欲を見せました。
同時に、日本の知見を活かせる分野も議論テーマになるとし、その例として高齢化対応を挙げました。

 岡村氏は改めて途上国の債務問題について言及。この点についてもシャルルボア・サミットでの議論の蓄積があり、さらに、フランスはまさにパリクラブの舞台であることから議論の発展に期待を寄せました。その上で、「その流れの中でG7の議論をG20の舞台で広げていく」と意気込みを語りました。

 会場からの質疑応答を経て最後に工藤は、来年3月の「東京会議」での議論成果を、フランスと日本に対して提案をしていくことを約束し、白熱したセッションを締めくくりました。

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