有識者調査「自由貿易の将来とWTO改革」

2018年8月21日

⇒ 座談会「自由貿易の将来とWTO改革」報告


 アメリカは中国に対する制裁関税を、7月の第1弾を皮切りとして矢継ぎ早に打ち出している。これに対し中国政府も即座に報復を発表して高関税の応酬が続くなど、本格的な"米中貿易戦争"の様相を呈している。そこでまず、この米中対立の行方をどのように見ているのか、について質問した。


米中対立はしばらくエスカレートするが、徐々に収束に向かう、との回答が最多

 その結果、「対立はしばらくエスカレートするが、高関税に伴って安価な中国製品を得られない消費者や、対中輸出額が大きい農家などからの反発を受けるので、アメリカの措置も長くは続かず、徐々に収束に向かう」との見方が45.6%で最も多い。これと「米中対立に世界的な批判が集まり、WTOが調停し、貿易以外の分野でのディールが行われるなど双方が歩み寄って落としどころを見つける」の6.8%を合計すると、米中の全面衝突には至らないとの予測が半数を超えることになる。

 一方、「米中対立はさらにエスカレートし、最終的には通商にとどまらず、通貨競争なども含めた全面対立に発展する」は16.5%と2割に満たない。もっとも、「現時点では予測できない」が22.3%いる点には注意を要する。

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米中貿易戦争が、世界経済のリスクになる可能性を指摘する声が7割を超える

 次に、この"米中貿易戦争"が、"通貨戦争"(通貨安誘導競争)を含めた世界経済に対するリスクに発展する可能性について予測してもらった。
その結果、その可能性が「ある(「大いに」と「少し」の合計)」という見方が75.7%と7割を超え、可能性が「ない(「全く」と「あまり」の合計)」の20.3%を大きく上回っている。

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半数を超える人が、アメリカはWTOを「脱退しないと思う」と回答

 自由貿易体制の動揺の背景には世界貿易機関(WTO)の機能不全がある。そして、トランプ政権はWTOの紛争解決プロセスを批判しているが、アメリカのWTO脱退の可能性についても尋ねた。
これに対し、「脱退しないと思う」との見方が54.4%と半数を超えている。
一方、「脱退すると思う」は12.6%にすぎない。ただ、「どちらともいえない」の27.2%と合計すると、脱退の可能性を排除していない有識者は4割近い。


9割を超える人が、WTOの改革は必要だと回答している

 このようにWTOの機能不全が指摘される中、EUなどからWTO改革に向けた様々な動きが浮上している。そこでこうした改革の必要性について尋ねた。

 その結果、WTO改革は「必要だと思う」という回答が、「絶対に」と「どちらかといえば」を合計すると93.2%と9割を超えている。その内訳を見ると、「絶対に必要」と改革を強く求める回答が49.5%と約半数あり、有識者はWTO改革を喫緊の課題であると考えている。

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WTO改革については、「米中両国とも受け入れない」との回答が最多

 WTO改革をめぐっては、中国の不公正な競争環境是正などが議論の俎上に上がっているが、こうしたWTO改革を最終的に中国やアメリカが受け入れるか否かについても予測してもらった。

 その結果、「アメリカも中国も受け入れる」は25.2%と2割台にとどまっている。

 これに対し、「アメリカも中国も受け入れない」が32%、「中国は受け入れるがアメリカは受け入れない」が18.4%、「アメリカは受け入れるが中国は受け入れない」が11.7%となっている。この3つの回答を合計すると

 「アメリカは受け入れない」は50.4%、「中国は受け入れない」は43.7%となり、有識者はアメリカの方が受け入れ可能性は低いと判断している。

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特に必要はWTO改革として、「中国の不公正な競争環境是正」が最多、
「紛争解決プロセスの見直し」が続き、両者が5割を超える

 WTO改革に関する最後の質問として、WTOを機能させる上で特に必要だと思う改革を挙げてもらった。

 その結果、「中国の不公正な競争環境是正(政府の補助金、国有企業問題、強制的な技術移転など)」が59.2%で最も多い。次いで、「紛争解決プロセスの見直し」(50.5%)、「交渉方式や意思決定方法の見直し」(45.6%)の順となっている。

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日米FFRの結果、日本が米国の厳しい要求を回避し、
何とか落としどころを見つける、との回答が5割に迫る

 日米両政府は8月、新たな貿易協議(FFR)の初会合を開催した。そこで次に、この交渉の今後の展開を予想してもらった。

 その結果、「アメリカ国内での雇用創出やインフラ投資に寄与することなどで日本側が厳しい要求を回避し、何とか落としどころを見つける」という予測が47.6%で最も多い。

 「自動車、農作物などでアメリカが厳しい要求を突き付け、日本側が大幅な譲歩を強いられる」という日本側にとって厳しい結果となるとの見方は26.2%と2割台である。しかし、「WTOの改革やアメリカのTPP復帰に向けた動きが始まるなど、アメリカが日本側の主張にも配慮する結果となる」と日本側の思惑通りに交渉が進むとの楽観的な見方は9.7%にすぎない。

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日米FFRにおける日本側の主張として、
「日本はアメリカのTPP復帰を働きかけること」を挙げる人が5割に迫り最多

 それでは、そのFFRにおいて、日本側は特にどのような主張や提案をすべきなのか。有識者が選択した回答の中で最も多かったのは、「アメリカのTPP復帰を働きかけること」で45.6%だった。次いで、「中国の不公正貿易措置の是正などを含めたWTO改革での協力提案」(35%)、「農産物において、TPPを超える水準の市場開放は断固として受け入れないこと」(34%)の順となっている。

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日中経済連携の枠組みとして、7割に迫る人が「RCEP」を挙げる

 次に、日本と中国の経済関係についても質問した。日本は、中国との経済連携をどのような枠組みで進めることが有効だと思うかを尋ねたところ、「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)」を選択した回答が67%で突出して多い。「中国のTPPへの加入」(28.2%)、「日中韓FTA」(21.4%)、「日中FTA」(21.4%)はいずれも2割台だった。


自由貿易体制の未来については、「貿易戦争は収束し、自由貿易体制も一応維持されるが、中国の不公正な競争環境などの問題は残る」との意見が最多

 最後に、自由貿易体制の未来について予測してもらった。最も多い予測は「貿易戦争は収束し、自由貿易体制も一応維持されるが、中国の不公正な競争環境などの問題は残る」で45.6%だった。

 「貿易戦争がさらにエスカレートし、WTOの権威が失墜するとともに自由貿易体制が瓦解する」は8.7%にすぎない。ただ、「WTO改革が奏功し、自由貿易体制は何とか維持され、貿易戦争も収束に向かう」も15.5%と1割台にとどまっており、有識者は自由貿易体制自体は維持されるものの、WTOは今後も課題を抱え続けると予測している。

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調査概要

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