1ページの首脳宣言はG7の「原点回帰」
-議長国フランスのピック駐日大使が明らかに

2019年9月05日

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 今年8月のG7フランスサミットで議長国を務めたフランスのローラン・ピック駐日大使は、言論NPOが9月5日行った「G7フランスサミット―成果と課題とは」のパネルディスカッションに参加し、1ページの宣言文のみの発表としたマクロン仏大統領の意図について、「1975年に仏ランブイエでG7が発足した際も、価値観を共有する民主主義国家の間の非公式な話し合いの中で、世界の問題を解決していこうという趣旨だった。その原点に立ち返ったのが今回の会議だった」と説明しました。

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 議論には、かつて米国の駐日大使館で首席公使を務めていた在日米国商工会議所会長のクリストファー・ラフルアー氏や、G7で日本政府側のサブシェルパを務めた塚田玉樹・外務省経済局審議官も参加しました。

k.jpg まず、司会を務めた言論NPOの工藤泰志が、今回のサミットが自由な議論を尊重したのは分かるが、共同声明をまとめることができなかったのは、新しいG7の在り方の模索なのか、合意が難しい中での破局を回避するための工夫なのか、と評価を求めました。

p.jpg ピック大使は「私たちは多国間主義の維持を優先し、多くの非公式会議で議論を重ねた。外交官でさえも従来のような20ページの声明文は読まないのが現状。それよりも、課題解決に向けた事実と行動に時間を振り向けた。そのため、市民やNGO、民間企業とも様々な対話を重ね、そして短い明快なメッセージを出すという新しい手法をとった」と説明しました。

r.jpg これに対して、ラフルアー氏も「首脳個人間の率直な意見交換を通した信頼醸成という、G7本来のコンセプトに回帰した」という認識を提示。塚田氏も「G7は40年以上の歴史の中で官僚主義に陥り、首脳宣言は官僚がすべてお膳立てし首脳の了承をもらうというスタイルだったが、今回は実際に首脳が議論した内容のうち新しい要素を首脳自らの手で文書にまとめた」と語り、3氏ともに、G7は首脳間の自由な意見交換という原点回帰をしている、との見方を示しました。


議長国である日仏の緊密な協力により、G7とG20の議論の連携が実現した

 一方で、ピック大使は、閣僚レベル、事務レベルでの協議の積み重ねという一連の会議体の総体としてのG7のプロセスは「形を変えて活かされている」という認識を提示。その例として、ブラジルのアマゾンの森林火災に対して2000万ドルの緊急支援を行うことを合意したこと、2020年までにデジタル課税の国際ルールを取りまとめる方針を、G7としても支持することが決まったことを挙げました。 

IMG_9032.jpg これに関連し、G7に加え、議長国として今年6月の大阪でのG20にも携わった塚田氏は、広範な世界課題を筋書き通りに話し合うG20と、重要テーマで高度な規範、基準を作り上げるG7、という両者の違いを説明し、「G20は全てが計算し尽くされた官僚的な完成度の高い会議であるのに対して、G7は同じ価値観を共有する国同士で、首脳間が問題に対する戦略的な考えをすり合わせる。これは官僚には手の届かないところだと思う」と、G7の重要性を強調しました。また塚田氏は、G20、G7の議長国である日仏両国が緊密に調整した結果、両者の議論には明確な親和性が見られたと振り返りました。


米中対立を巡ってG7の足並みが揃った

 次に工藤は、G7がフランスのランブイエで発足した際も、経済危機に対してG7のリーダーが、多国間でその克服での協調を行ったが、深刻化する米中対立が世界の経済のリスクになっている点では同じ状況に直面している、と指摘したうえで、今回の合意は「世界経済で高まるリスクには曖昧に見えるが」と疑問をぶつけました。

 これに対して、ピック大使は、今回の成果文書で「WTOをオーバーホール(徹底的に改める)していき、さらに効果的にしていく」との文言が盛り込まれたことを説明し、具体的には、トランプ政権下の3回のG7で初めて、紛争解決メカニズムの見直しを文書に盛り込むことに米国の賛同が得られたことが、成果だとしました。

 また塚田氏は、今回の議論にはまだ公表できない議論があるとした上で、「一番大きいのは、米中の通商摩擦が世界経済のリスク要因になっているという点で合意があったことだ。G20では必ずしもその合意ができなかったが、G7では米国も含めて合意した。これは非常に大きい」と語りました。

 ラフルアー氏は「ビジネスの観点から言うと、国際的な貿易システムを強化しようという取り組みは、多くの企業が歓迎している。だが、その中で、一部の人が取り残されたと感じているのは残念だ」と述べ、今回のG7やG20で取り組まれた不平等というテーマの重要性を強調しました。

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来年のG7の争点は「中国との向き合い方」

 最後に、今後のG7の在り方や来年、トランプ氏が議長国を務めるG7米国サミットの見通しについての議論が行われ、ラフルアー氏が「来年は最も重要なG7になる」と断言。「米中の間でどういったことが解決されるかが争点になる。中国を巡る様々な問題をどう解決するかが、G7の共通課題だ」と述べました。

 塚田氏は、「今後もG7は、世界の自由秩序の維持に主導的な役割を果たすべきだ」と強調。「21世紀の人類の課題は、中国とどう向き合うかということ。この点を考えるうえで、次回のG7は最も重要なフォーラムになる」としました。塚田氏は「次回も官僚があまり目立たない会議になるだろう」との見通しを示しました。

 ピック大使は、マクロン大統領が8月27日に各国の大使を集めて行った講演の内容を紹介。「各国が米中どちらかにつくのではなく、日本も欧州もそれぞれの立場を確立しなければいけない。多国間主義に基づく世界秩序を維持していくためにも、各国間で利害の均衡を図り、一国が利益を独占することがあってはいけない」と語り、法の支配や多国間協力の価値を守るために、現行のG7の体制が維持されることが必要だとの考えを強調しました。

 司会の工藤は、最後に、言論NPOが、世界10カ国のシンクタンク代表を集めG7に提案するため、毎年開催している「東京会議」に触れ、各国で自由と民主主義、多国間主義の規範が揺らぐ中、その規範を守り発展させるという政府間の努力を、民間としても支えていくことに意欲を示し、議論を締めくくりました。

⇒ 議論の詳細な議事録はこちら(PDFダウンロード)

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