地球規模課題への国際協力評価2019-2020
国内暴力紛争の 防止と対応

2020年1月30日

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地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 2019年の評価にあたって、言論NPOが対象としたのは、「アフガニスタン」、「イエメン」、「シリア」、「リビア」の4カ国である。このうち、戦闘が減少傾向にあるイエメンに関しては、「一定程度前進した」と評価したが、その他の3カ国に関しては、戦闘の継続と、それに伴う死者や避難民の増加を鑑み、状況は悪いまま「変わらない」か、「後退」と判断した。とりわけ、リビアに関しては、地域の大国による代理戦争の構図となっていたところに、さらにロシアやトルコなどプレーヤーの増加によって混迷を極めているため、最も低い評価を下した。
 以上のことから、2019年全体の評価は「D(やや後退している)」とした。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 2020年における期待に関しては、4カ国いずれも「変わらない」と判断した。和平プロセスが動き始めているところであっても、いずれも対立陣営間の相互不信は著しく、容易に交渉は進まない見込みであることをその理由とする。
 以上のことから、全体的な2020年の進展に対する期待は「C(変わらない)」とした。


1.アフガニスタン

 まず、18年にわたって紛争が続くアフガニスタンについては、2019年も状況は「やや後退している」といえる。タリバンと米軍を含む国際駐留部隊の間では、依然として激しい戦闘が全土で展開されており、民間人が頻繁に暴力の矢面に立たされている。国連によると7月1日から9月30日の3カ月間だけでも死者は1174人にものぼっている。

 一方で、暴力停止に向けた動き自体はみられる。米国とタリバンは2019年8月末までに、タリバンがアフガン国内でのテロ活動を許さないことと引き換えに、米軍が撤収する方向で一致し、和平合意の調印も目前に迫っていた。9月にはトランプ米大統領は米兵がタリバンによるテロで死亡したことを理由に協議中止を表明したが、12月になると両者は正式に和平協議を再開している。

 しかし、和平協議の方針をめぐっては、アフガニスタン内部、さらにはタリバン内部でも意見の対立がある。また、タリバンと米軍の間の交渉自体は行われているものの、その交渉においてできる限り有利な立場を得るために、前線では攻撃が増加しているという側面もあり、こうした状況は2020年も続くとみられる。和平プロセスは、後退まではしないとみられるが、このまま円滑に進むかどうかというのも現段階では不透明である。したがって2020年の情勢は大きくは「変わらない」とみられる。


2.イエメン

 泥沼の内戦が4年半以上も続いているイエメン情勢については、2019年は「一定程度前進した」といえる。サウジやUAEなどが支援するハディ政権と、イランが支援する反政府勢力「フーシ派」との間の戦闘は、2019年前半も高頻度で行われていた。

 しかし、9月以降になると戦闘は減少した。その背景としては、内戦の長期化によって政権側、反政府勢力側の双方が経済的に消耗していることがある。さらに、2020年にG20の議長国を務めるサウジにとっては、国境を接するイエメンでの混乱を極力収束させたいとの思惑もあり、9月以降は戦闘が小康状態になっている。小規模なテロ行為の応酬はあるものの、現時点ではこれが大規模戦闘の再開につながっていく様子はみられない。

 こうした暴力停止の流れが続くことは、2020年も「変わらない」とみられる。ただ、イエメン内部には、大きく分けて北部のフーシ派、南部の独立派、旧政権派という3つの勢力があるが、各勢力相互の不信感は根強い。したがって、対話によって安定的な統治を回復するための政治プロセスが、2020年に「前進する」、というところまではまだ見通せない状況である。


3.シリア

 約9年間内戦が続いているシリアについては、2019年は前年から状況は「変わらない」状態である。シリア人権監視団は12月末、2019年の死者は戦闘員と民間人を合わせて1万1215人で、過去最低だったと明らかにした。もっとも、だからといってシリア情勢が安定しているとはいえない状況である。アサド政権軍と後ろ盾のロシアは、国土の約8割を制圧し、反体制派の最後の拠点である北西部イドリブ県への攻勢を強めており、避難民の帰還は進むどころか10万人規模で増加している。

 こうした北西部での戦闘の継続と避難民が発生する状況は2020年も「変わらない」とみられる。避難民の多くは、北隣のトルコに向かっているとみられるが、すでに370万人ものシリア難民を受け入れてきたトルコは、新たな流入には耐えられないことを訴えており、2020年も人道危機が続くことが予想される。


4.リビア

 リビア情勢については、2019年は「大きく後退し、解決の展望は依然見えない」状況である。リビアでは、2011年にカダフィ政権が倒れた後、複数の武装勢力が割拠する事実上の内戦状態に突入し、大混乱に陥った。その後、2015年に国連の仲介で統一政府としてシラージュ暫定政権が西部の首都トリポリに誕生したが、東部を拠点とする「リビア国民軍(LNA)」を率いるハフタル氏はこの政権を拒否し、東西対立が鮮明になっている。エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などはハフタル氏を支持しているのに対し、暫定政権を支援しているのは国連の他には、サウジやUAEと対立するカタールであり、リビアは対立陣営間の「代理戦争」の様相も呈している。

 こうした状況の中、2019年は4月以降に戦闘が激化した。LNAは首都トリポリ奪取を目指して攻勢をかけ、暫定政権は守勢にある。また、年後半にかけて、ロシアのプーチン大統領の側近が率いる露民間軍事会社「ワグナー・グループ」がLNAへの支援を活発化させる一方で、トルコのエルドアン大統領が、暫定政権側を支援するために現地にトルコ軍部隊を派遣する方針を表明するなど、リビア内におけるプレーヤーが増加し、事態はさらに複雑錯綜したものになってきている。

 一方、2019年の前向きな動きとしては、ドイツの仲介によって、ベルリンで和平に向けた国際会議が2020年に開催されることが決定した点が挙げられる。もっとも、東西両勢力相互の不信感は根強く、会議で何らかのポジティブな合意を得られたとしても、それがどこまで守られるか、和平プロセスがどこまで進展するかは現段階では疑問視せざるを得ない。上記のようにプレーヤーの多様化によって事態は錯綜を続けており、2020年も混迷の状況は「変わらない」とみられる。