日本には、米中が共存する自由な国際秩序の実現に向け、
先進民主主義国の連携をリードする役割がある

2020年2月28日

⇒「東京会議2020」記事一覧はこちら


「東京会議2020」ワーキングディナーで甘利・自民党税調会長が講演

 「東京会議2020」の公開フォーラム開幕を翌日に控えた2月28日、同会議のワーキングディナーで自民党の甘利明・税制調査会長が講演しました。

DSC05654.png 甘利氏は、技術面で急速に米国を追い上げる中国が、影響圏の拡大を進め、覇権国への道を進んでいる、という認識を提示。こうした中、日米欧の先進民主主義国に求められているのは、中国が自由や民主主義の価値に基づくルールに参画し、応分の責任をもって国際秩序を支えるよう促すことだ、と訴え、そのために、日本には、価値観を共有する国々の連携をリードする役割がある、と語りました。

 ワーキングディナーには、「東京会議」のメンバーである世界のシンクタンクトップや、言論NPOに参加する日本の有識者など17氏が参加しました。

 初めに、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、「経済再生担当大臣としてTPPを合意し、現在は自民党の『ルール形成戦略議員連盟』の会長として、米中の技術覇権争いへの日本の対応について提言を重ねている」と紹介。「米中対立の出口と目指すべき国際秩序の姿」がテーマとなる今回の「東京会議」に甘利氏を招いた意図を説明しました。

 続いて、甘利氏が20分間の講演を行いました。


覇権政策を進める中国の台頭に、米国では恐怖感が高まっている

 甘利氏はまず米中対立について発言。「米国の当初の期待とは異なり、大国となった中国は既存の国際秩序を支えるのではなく、覇権国の道を進んでいる」との認識を示しました。

 具体的な覇権政策の中身としては、中国版GPSと言われる衛星測位システム「北斗」の普及に加え、「デジタル人民元」の発行準備を進めていることを紹介。これらを「一帯一路」の参加国に広げ、米国の影響を受けない自国の影響圏を形成しようとしている、と、中国の狙いを解説しました。

 こうした中国の台頭を受け、米国が、技術面での中国排除に同盟国の同調を求めていることについては、「先進国の機微技術がサプライチェーンを通じて中国に漏れ、それが中国の技術力を押し上げるだけでなく、軍事転用される」という恐怖感があるのだろう、との見方を提示。西側に圧倒的な技術優位があった米ソ冷戦時代とは異なり、中国も部分的には技術優位を持つ今日においては、技術流出を防ぐだけでなく、「中国からの技術流入も見込めない中で、どうやって優位を保つか」という、先進民主主義国の課題を語りました。


デジタル通貨はG7が連携して検討を

 次に甘利氏は、こうした問題意識から自身が進める政策提言について紹介しました。

 まず、4月にNSS(国家安全保障局)内に発足する経済班について、「日本はこれまで、国益を達成する手段として経済的手法を使うこと、使われることを想定しておらず、技術流出などにも甘い姿勢を取っていたが、今後は国家の安全保障のために経済と軍事を一体で考える重層的な政策決定がなされなければいけない」と目的を説明しました。
 
 さらに、2月に政府・日銀に提案した「円のデジタル化」について紹介。中国のデジタル人民元が普及した国では、米国がドル決済の停止を経済制裁の手段として使うことができなくなるとし、このため、デジタル人民元は、米国の基軸通貨体制を快く思っていない国々にとって魅力的な提案だとしました。甘利氏は、この点から、米国だけでなく、EUや日本など主要な国際決済通貨の発行国が連携してデジタル化を検討すべきだとし、したがって、通貨のデジタル化はG7で議論すべき課題だ、という主張を展開しました。


日本は米欧の橋渡し役となることが重要に

 そして甘利氏は、「東京会議」でも議題になる米中対立と日本の立ち位置に言及。米国は中国に対し、軍事覇権に直結する技術覇権争いでは絶対に譲歩できないため、対立はかなり長期化する、という見通しを示しました。

 その上で「我々が考えないといけないのは、ただの中国封じ込めではなく、中国に応分の責任をもって国際社会を支えてもらうこと。その際、自由と民主主義、法の支配という共通の価値観に支えられたルールに、中国にも加わってほしい。そのためには日米欧の連携が必要だ」と訴えました。

 甘利氏はさらに、自由と民主主義を世界の共通ルールとするためには米欧の連携が重要だという観点から、トランプ政権が欧州の同盟国との摩擦を強めていることを懸念。このため、日本には米欧の間を取り持ち、価値観を共有する国々の連携をリードする役割がある、と強調しました。


世界でリーダーシップを発揮するためにも、日本自身の技術競争力を保つことが必要

 講演の最後に、甘利氏は、日本が国際社会で発言力を確保していくためには、日本が世界の中で技術優位を保つ必要がある、と訴えました。

 甘利氏は、「世界を変える技術は必ず日本で生まれているが、そのシーズ(種)を産業化する仕組みが弱い」と日本の課題を指摘。例として、電話とネットを初めて融合したiモードが、米製スマートフォンに淘汰されてしまったこと、さらに、量子コンピューティングの基礎理論の研究では20年前、日本が先行していたが、現在、その製品化で世界をリードするのは米中の企業であること、などを次々と挙げました。

 そして、日本が日米欧の連携を主導する上でも、「今後も日本は世界の研究開発をリードする意思を持ち、そのためにも技術と産業をつなげるエコシステム(協調関係)をつくることが重要だ」と強調し、講演を終えました。

 その後、参加者との質疑応答に入りました。

DSC05639.png

 自由な企業活動と、機微技術の管理との両立が日米欧の課題

 この中で甘利氏は、米中対立に関連し、「政府が技術面の分断を図ろうとしたところで、米中を含めた世界の民間企業の相互依存関係は決定的に強まっている」と指摘。日本も含めた企業が米中双方の市場で活動できるようにしつつ、同時に、サプライチェーンでの技術リスクを管理する仕組みをどうつくるのかが、日米欧にとって「綱渡り」の課題になると語りました。


 デジタル通貨への移行はいずれ不可避。その際に誰が発行を担うのか

 経済を専門とする参加者は、デジタル時代の課税のあり方について質問しました。

 これに対し甘利氏は、「恒久的施設の存在を根拠とした従来の国際課税基準では、データという無形の資源によって利益を上げるデジタルプラットフォーマーの課税逃れが発生してしまう」と説明し、こうした新しい事業形態に見合った課税標準をつくるのは必須だ、と主張しました。

 さらに、G20が規制の議論を続けるフェイスブックの「リブラ」計画に触れ、「利便性とコストの両面で圧倒的に優れているデジタル通貨という制度を、いつまでも封じ込めるのは不可能だ」と発言。金融政策を事実上民間の手に委ねるリスクも念頭に「いずれデジタル通貨の発行は中央銀行が担った方がいいのではないか、という視点も含め、早急な議論が必要だ」と呼びかけました。


主要な民主主義国がルール形成を主導し、それが世界標準となることが重要

 欧州からの別の参加者は、日本の閣僚が「可能性を支援する」と述べた英国のTPP加入の意義を尋ねました。

 甘利氏は、「TPPは関税だけでなく貿易・投資などのルール分野が含まれる初のメガFTA(自由貿易協定)だ。そのルールを、自由、民主主義、法の支配の規範を共有する日米がつくり、それが世界標準になることが重要だ」と語り、欧州の英国が共通ルールに加わることの意義はその点にある、と重ねて強調しました。


 その後も活発な意見交換が行われた後、言論NPOのアドバイザリーボード・メンバーで元駐米大使の藤崎一郎氏が挨拶。「今後、皆さんが主催するイベントでも、甘利さんはスピーカーに適任だろう」と、「東京会議」をきっかけにしたさらなる世界の議論交流にも期待を見せ、夕食会を締めくくりました。