世界秩序で米国以外の国が大きな役割を果たす必要性を、トランプ大統領が気付かせてくれた / サンジョイ・ジョッシ(インド/オブザーバー研究財団 理事長)

2020年3月10日

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工藤:ジョッシさんと「東京会議」で会うことはとても楽しみになっています。今回の会議の感想をお聞かせいただけますか。

ジョッシ:グローバルな状況を考えて、今の時点でこそ必要な会議だったと思います。新型コロナウイルスが世界に打撃を与えています。この問題は結局、世界は非常に緊密につながってしまっている、という事実を明らかにしています。世界でトラブルが発生したときに、自分だけ壁を立てて封じ込めるとか、切り離すことはもう出来ません。結局、問題は拡散します。資金も情報もウイルスも、グローバルに広がります。グローバルではない存在など、もはやありえない。そして、向こう10年、20年、具体的にどのようなグローバル化の時代に向かうのか、もしくはどのように向かうべきなのかを考えることが重要です。

 したがって、このタイミングで言論NPOが、グローバル化の再構成をどのように考えるか、将来について想像を行うように、この議論のイニシアティブをスタートしたことを歓迎したいと思います。

工藤:我々は今回、「未来宣言」を発表しました。こういう状況だからこそ、分断ではなく、ルールに基づいた仕組みを守らないといけない、我々がそのために努力することを誓う形になります。こうした宣言の内容についても、コメントありますか。


世界の新たな規範は、米中双方を統合するものでなければならない

ジョッシ:今回の「東京会議」では、世界秩序の統合化を再び図る必要がある、という議論を行ってきました。宣言には、明確に、大胆に、「誰もが世界秩序から排除されるわけにはいかない」と書いてあります。気候変動対策であれ、SDGs(持続可能な開発目標)の実現であれ、データフローあるいは情報、ハイテク規制であれば、新たな規範をこれからつくるにあたっては、全員が参画して努力を進める必要があるという考えが反映されています。これらの規範の議論には、全ての国が一緒に参画する必要があり、とりわけ中国がとても重要な存在であって、どの国も、中国を除外したいとは思ってはいません。

 中国については、これから、いわば元のトラックに統合するように努力する必要があります。グローバルな規範に中国が統合、参画してほしいけれど、それは中国だけを違う扱いにするのではなく、他国と全く同じ条件で参画してもらう必要があります。「中国だけは例外である」というこれまでの秩序を変えなければいけません。


 二つ目に、これも今回の「東京会議」で議論してきましたが、アメリカ自体を正常化していく必要があります。アメリカはこれまで、自分たちを様々なグローバルな議論から切り離そう、関与しない、という方向に動きつつありました。貿易であれ、ハイテクであれ、データであれ、これらの議論から自らを切り離そうとしていました。生態系から離れていこうとしていたけれど、世界は一つであるのだから、このように生態系から外れた存在であり続けてはならず、統合化をする必要があります。

工藤:今回の「東京会議」はアメリカ大統領選の真っただ中で開催されました。

 私たちが目指す世界の統合は、誰かを排除することを目的とするものではありません。しかし、これから始めるそのための努力は、アメリカの十分なリーダーシップがない中でも実現しなければならず、我々民主主義国は協調して取り組まなければいけません。我々が今、そういう状況に直面している、ということについてはどう思いますか。


民主主義国には、ルール作りで大きな役割を発揮する必要がある

ジョッシ:逆説的ではありますが、トランプ大統領の存在は、世界秩序にとって良かったのではないかと思います。なぜかというと、いわゆる自由主義諸国は、アメリカにかなり依存してきたからです。いつも、世界秩序を維持する砦であることなど全てをアメリカにいつも期待してきました。

 トランプ氏が現れるよりはるか前から、アメリカには、自分たちを世界秩序から切り離したいと思っている兆候がありました。これまでの政権も同じこと、つまりDisengage(切り離し)をしようとしてきました。トランプ氏のおかげで、それがアメリカとしてできるようになってしまいました。世界秩序において、アメリカ以外の国がもっと大きな役割を果たすということを、アメリカは、トランプ氏が出てくる前から実現しようとしてきたのです。今、他の国々が、それにようやく目覚めたところだと思います。

 これから、新たな連合とか取り決め、同盟をつくっていかなければいけない。それによって世界秩序を再構築しなければいけない。一夜にしてできるものではなく、時間はかかりますが、これが動き始めたのは良いことだと思うし、未来に可能性のある動きだと考えています。

 日本、インド、あるいは韓国のような国々は果たすべき大きな役割があるし、ASEANもEUも大きな役割を果たす必要があります。この場で我々が全員ともに連帯して、Reimagine(再び想像)して、Rethink(考え直した)上で、新たな制度をつくっていく必要があります。新たな制度については、貿易、気候変動、あるいはデータ・ガバナンス等に対処できるようなルールをこれから整備しなければいけませんが、そのルールもバラバラであってはいけません。例えば、影響圏、勢力圏ごとに世界が分断され、ブロック化してしまうような状況になってはなりません。このルールづくりのプロセスは、今、スタートする必要があり、そこで我々がリーダーシップを発揮しなければいけません。

 この議論には、アメリカ、中国が両方とも重要なパートナー、参加者として議論することが大事です。

工藤:ありがとうございました。


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 言論NPOは「東京会議2020」最終日の3月1日、世界10カ国の有力シンクタンクの合意で採択した「未来宣言」を、G7議長国のアメリカ政府に提出するとともに世界に発信しました。

 この宣言は、自由な国際秩序を守るために、主要国が協調して世界のシステムの安定や地球規模課題での協力で強いリーダーシップを取ること、中国は世界との相互主義を受け入れると同時に、10カ国は中国に国内経済改革を迫る必要があること、そして、自由な国際秩序を守るためにも、民主主義国はそれぞれの国自体の民主主義を強くするための努力を始めること、などを10カ国で合意し、その覚悟を示したものです。

 世界で進むコロナウイルスの感染拡大が、自由な国際秩序のもとで多国間が協力することの必要性を改めて浮き彫りにする中、世界のシンクタンクトップらは、感染拡大に伴う様々なリスクを取って、この会議のためだけに東京に集まり、危機に直面する世界の自由や民主主義を守る決意を、世界に伝えたのです。

 言論NPOでは、彼らの決意を、日本の多くの方々にも共有したいと考えています。
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