マーケットは震災復興に何を求めているのか

2011年4月29日

2011年4月28日(木)放送
出演者:
湯元健治(日本総研理事)
内田和人(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)
鈴木 準(大和総研主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第3部 東北の復興をどう進めるか

工藤:それでは議論を再開します。
 今回の復興はで、、東北は若い人が参加して、地域が発展するぐらい未来に向けて、大きく変わらないといけないと、私も思っています。
 これまでのお話を聞いていると、3つくらいのポイントがありました。漁業、農業を強いものに転換できるのか。それから、クリーンエネルギーに代表されるようなエネルギー問題のモデル地域にならないとならない。また、産業構造上、非常に大きな部品の供給基地になっていたということをどう生かすのか。もう1つあるのは、高齢化の問題です。この状況を、未来に誇れるような形にするためには、どうすればいいのでしょうか。

鈴木:農業に関しては、大規模化して生産性を上げれば、日本の製品は本当に品質が高くて、安心安全で、世界に打って出ても競争力があるものだと思います。せっかく、農地法の改正などをやって、農業に参入しやすくしているわけですから、実務的な障壁がどこにあるかということをきちんと見直して、色々な人が農業に入っていけるようにすることが必要です。また、漁業に関しては、養殖とか捕獲をして、それを港に揚げて、市場を通し、さばいて、食品に加工して、その先の最終消費者までの流通までを含めた全体を効率化させるという視点が、これまで欠けていたと言われています。それを、きちんとやって近代化させれば...。

工藤:特区か何かですか。

鈴木:規制などは、縦割りになってしまっていますので、全体を戦略的に見て、特区のような形でやるというのは、1つのアイデアだと思います。


課題は都市再生と強い農業とスマートグリット

工藤:農業・漁業については、他にこうした方がいい、というのは何かありますか。

湯元:やはり、これまで議論されてきたような、農業の改革ですよね。今まで色々と反対論があって、規制が沢山あって、実現できませんでした。そこを、まず、東北の新興ということで、特区のような形で、まず、やってみるということから、考え直す必要があるのかな、と思います。ですから、一般的に言われているような、株式会社が参入できるようにしてやる、というやり方は賛否両論があります。
 しかし、例えば、若い人を放っておくと、職がないので、東北から他の地域に出てしまうのですね。そして、一旦出てしまうと、戻ってこなくなって、本当にお年寄りばかりの地域になってしまいます。ということを考えると、若い人にも農業をやってもらうということが必要になってくるので、法人形態でどんどん自分の収入が増えるような未来があれば、若い人がどんどん就農すると思います。もちろん、これは東北の人だけではなくて、日本全国から集まるようなインセンティブを与えて、そういう人達が集まってくる、ということは1つの考え方としてありますね。

工藤:鈴木さん話を続けてくれますか。

鈴木:エネルギーについて申し上げますと、当然、再生可能エネルギーを、これまで以上に推進する必要があると思います。今回、東北地方に、例えば、エネルギーパークのようなものをつくって、そこで大規模な太陽光発電、いわゆるメガソーラーや大規模な風力発電を実証的にやっていくことが考えられます。技術的には太平洋側は風況があまりよくないなど、色々とあるようですが、エネルギーについて、再生可能エネルギーを大規模に導入していく実証的に技術を高めるの場を東日本、あるいは東北につくっていくということは、そのための製造業や雇用などが生まれることで復興になります。そういうことをやるべきではないでしょうか。

湯元:再生可能エネルギーというのは、1つの非常に大きなエネルギー政策そのものを見直す際の、重要な視点だと思います。ただ、今まで打ちだしてきた政策の延長線上では、全然追いつきません。既に、中国やアメリカ、ヨーロッパ諸国は太陽光や風力とか、色々と進めていて、どんどん量産化してコストが下がっていますから、ある意味で、日本独自の省エネ技術、電気自動車や再生エネルギーを含めたトータルな都市、つまりスマートシティといったような都市を設計していく必要があると思います。これは、実は、実証実験で、横浜や北九州など、色々なところでやられていますが、僕は実証実験ではなくて、現実につくっていくということをやっていく必要があると思っています。ただ、横浜や北九州みたいな大規模な都市と、東北の小さな町づくりとは、また別ですから、被災地にあったような町づくりをしていかなければいけません。
 そういう意味では、お隣の中国では、天津市では、そこで未来型の環境都市をつくろうという動きがありますし、スウェーデンでは、ハンマービショスタッドという人口2万人位の小さな町ですけど、全てバイオガスで循環するような町をつくってしまっています。だから、スウェーデンの企業なども、日本の都市をどのように再興するか、ということを密かに情報収集していて、参入したいという企業もあります。外資の知恵なども使いながら、しっかりしたプランは、もちろん民主導でつくり、実際の現場で、どこにどういうものをつくっていくのか。地元の意見をしっかり聞いて、町づくりプランを作成していく、という形でやることが、先程、鈴木さんもおっしゃった通り、やる以上は、単に新しい再生可能エネルギーの発電設備を設置するという一次的に雇用が増えるだけでは意味がありませんので、トータルで何年もかけた町づくりという長期的な雇用に結びつければ、持続的な雇用の増大にもつながっていくと思います。

工藤:内田さんどうでしょうか。

内田:3つあります。1つ目は、お2人がおっしゃったように、このベースは都市再生計画です。これは、四川もそうだしカトリーナもそうだし、関東大震災も同じです。つまり、住宅など都市の再生というのがベースになってきます。その意味では、菅総理がおっしゃっているエコタウンというのは、具体的な絵を描き実現できれば、かなり海外も含めて見方は変わってくると思います。
 2つ目は、先程からお話をいただいている、エネルギー対策ですが、私は、湯元さんからスマートシティというお話がありましたが、スマートグリッドですね。要するに、これまでも電力は、最大消費電力というものを押さえてコントロールできれば、もの凄く効率的な経済システムができる、ということは分かったわけです。それをつくりだすことによって、それが世界の標準になる可能性が高いわけです。具体的に言えば、発電をして、電力を使わないときには蓄電をする。要するに、いかに蓄電能力を引き上げるか、ということです。それから、スマートグリッドですから、送電のシステムをもう一度整備する。これでもって、先程の太陽光発電もそうですが、家庭の買電と配電のシステムを変える。もっと言えば、日本全国の電圧をそこで統一させる。スマートグリッドというのは、今のアメリカで、オバマ大統領が提唱していますが、アメリカの場合は電線が1本しか通ってない中で、ドラスティックに買えようとしています。一方の日本は、効率的なシステムがある中で、先程も申し上げたように、日中の電力の変電能力を少し変えて、経済システムを公平化するなど、こういうことをすると、かなり競争力は高まるし、かなりフレキシブル的な品質開発になってくると思います。

工藤:この議論は、かなり時間が必要ですので、簡単にお聞きしたいのですが、今の電力の問題は今の電力会社の議論にかかわってきますよね。つまり、発電と送電の問題、それから、さっきの周波数の問題。これらが分断していて、全然動かない。戦後、こういう状況にあったわけです。そういうところが、原発問題にかかわってきていて、そういうことを含めて、全面的な見直しということにならなければいけないのでしょ。つまり、規制緩和をし送電は、別の会社がやるというイメージですか。

内田:アメリカの場合は、ご案内の通り、発電と送電は違います。基本的には民営化という形なのですが、電力は国のエネルギー政策の根幹ですから、国がどういう関与をするか、どういうコミットメントをするか、ということがベースにあってから、民営化ということがなければいけません。ですから、そこまでのコミットメントをどうやってつくっていくか、ということが重要だと思います。

工藤:湯元さん、今の話はかなり重要なのですが、どうですか一言。

湯元:かなり重要な話で、ベースには原発政策をどうするのか、というところに帰着してくると思います。いたずらに、東京電力の経営体制の問題とか、国家がどこまで何をやるべきとか、そういう議論が出ています。それが、最終的には規制緩和をするとか、日本全国の電力会社の在り方みたいなところにつながっていますが、そういう議論が出てくること自体はいいと思います。ただ、きちんとさせておかないといけないのは、原発をどうするのですかと。このまま、現行の水準を維持して、増やさない、というスタンスなのか、放っておきますと、償却期限は来ますから停止してきます。中期的には、どんどん比率が下がっていきます。それを一体何で埋め合わすのか、ということについては、先程、再生可能エネルギーの話がありましたが、これは10年、20年かけて考えるべき話であって、数年でとって代わることはできない話だと思います。他の火力発電のところは、日本が石炭やLNGを増やしているということで、価格があがってしまっている状態になっています。そこのところをはっきりさせた上で、そういう規制緩和の問題も、次のステップの話として議論して考えなければいけないことだと思います。

工藤:やはり今の話は、単に東北地域の復興だけではなくて、本当の日本の経済を始めとする色々な問題について、日本の未来をかけた全面的な見直しの起点になってきているような感じがしますよね。

鈴木:世界の電力の歴史というのは、公がやったり、一部民間がやったり、色々と揺れ動いてきました。現在の日本の場合、国民にとって一番何がプラスなのか、産業にとって何がプラスなのか。技術的なことについては、素人にはなかなかわからない問題が沢山あって、発電したはいいけど電力を送電する技術が追いつかないのでは困ります。そこは、自由化したら何が起きるのかとか、50年先に目指す姿があるとして、20年、30年、40年とどういう工程表をつくるのかなど、議論の蓄積なり、経済的な分析を積み重ねる必要があります。そうした国民的な議論は、実はあまりありません。ですから、色々な方面で、エネルギー問題をどうするのか、という議論をすぐに始めることが出発点だと思います。

工藤:この問題はこの言論スタジオでも必ずやります。そこで、最後に質問ですが、復興するときに、財源をどうするかとか、復興院など体制の問題があるのですが、そういう話ばかりです。復興を具体的に進めて行くためには、財政再建や財源問題など、そういうことの組み立てをどういう風に考えていけばいいのか。どうでしょうか、内田さん。


復興財政はどう捻出するのか

内田:今、厳しい財政事情の中で、この復興の仕組みをどうするかということなのですが、今、工藤さんがおっしゃったように、ちょっと仕組みばかりが先行して、最初は復興しなければ何も決まらないものですから、それは予算の組み替えをしても、一次的な国債の発行にしても、いずれにしても財源をつける。その過程において、時限的な税制のことを考えていけばいい、という状況だと思います。なぜならば、消費税がいいか所得税と交付税の組み合わせがいいか、色々なシュミレーションがあるし、中期的には社会保障と税財政の一体改革という中で考えていかなければいけない問題です。
 ですから、まずは復興対策に対する予算については、ベースは予算の組み換え。不要不急のものについては、あるいは、民主党のマニフェストに関しても、抜本的な見直しの必要があると思います。

工藤:まだ、不徹底ですよね。

内田:それを最優先にするべきですね。それでも足りない分については、国債を発行する。ただ、国債の発行も、通常の国債ですと、阪神淡路大震災の時に毎年の市中国債は36兆円で、今は、140兆円を超えているのですね。なので、日本の国債リスクが高まる中で、単純に国債を発行するということはリスクが高い。従いまして、5年なら5年の時限的な国債、財源については責任論がありますけど、食い入って国債を発行する。それから、もう1つは、永久債など、ある程度新しい仕組みの債権を検討する。これは、個人向けの国債などもそうですけど、復興国債という形で、個人の方々の税制控除も含めた、新しい仕組みを検討する。こういうことを考えていけば、何とか財源はクリアできるのではないかと思います。

湯元:最初に、復興構想会議が復興税について議論したこと自体、違和感を感じました。ただ、確かに、日本の財政状況は震災がなくても大変な状況で、一刻も早く税制と社会保障の一体改革をしなければいけないという状況の中で、こういう震災が起きて、お金が非常にかかる。少なくとも、10兆円は超えるのではないか、というような見方になっています。まずは、マニフェストの見直し、予算の組み替えということで財源を生み出すというやり方で、最初の一時補正予算は4兆円規模を捻出したと言っていますが、実は、基礎年金の国庫負担から捻出したものを使うということをやっていまして、これは必ず何らかの増税などの手当で、対応していかないと、中期的に穴の空けられないものです。ですから、そういうことを含めて考えると、当面は時限を切った国債発行ということで、対応していくということが現実的だと思いますが、ただ、やはりそれを将来的な増税できちんと担保するような形で、財源がどういう増税かということについては、もう少し議論して拙速に決めない方がいいと思います。少なくとも増税によって償還するものであると。これは、東西ドイツが統合したときも、連帯付加税という形で所得税と法人税の税率を一定率時限的に上げるという形で、国民全体が支援するような形で組み合わせました。今回も、そういう枠組にする必要があると思います。まあ、税目の中身については、もう少し時間をかけてやっていくと。

鈴木:復興にいくらかかるかは、事業が決まらないと決まりません。ただ、事業が決まってから財源なしでは困るので、財源は同時に決めないといけないということです。税には色々とあるわけですから、増税についても、もう少し科学的な議論で影響を考えるべきです。一定の増税は避けられないと考えます。

工藤:最後に、一言だけ。日本経済は今回の震災から立ち直ることができるのか、ということについて一言ずつ言っていただけますか。

鈴木:私は、福島県出身で、家族も友人も被災地に沢山いるわけですが、東北は自然と一体となった産業のウエイトが高く、自然と一体となった生き方をしていると思います。従って、環境問題などを踏まえると、この地域には凄いポテンシャルがあると思っています。ですから、きちんとした復興計画と政策が組み合わされれば、必ず復興すると思います。

湯元:私も、今回ボランティアを始めとして、日本全国民が支援をしていこうという流れができあがっています。政治は不安定なところがありますが、基本的には、日本国民は、過去も大変な危機を乗り切ってきた国民ですから、私は、それを強く信じていますので、必ず、復活すると思っています。

内田:私も、復興するのは確実だと思っています。後は、そのスピードと復興した後の日本経済の姿です。また、閉塞感のある日本経済に戻るのか、それとも、復興を糧に、さらに構造改革を進めて、少し前向きの力が出てくるか。私は、後者の方に期待していますけど、それはやはり政治のリーダーシップだと思います。

工藤:そうですね。私も、今日の話を聞いて思うのですが、今回の震災からの復興は、日本の本当の復興につなげなければいけない、という感じがしています。そういう議論をこれからも行って行きます。今日はどうもありがとうございました。一同:ありがとうございました。

報告 第1部 第2部 第3部


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 4月28日、言論スタジオにて、湯元健治氏(日本総研理事)、内田和人氏(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)、鈴木準氏(大和総研主任研究員)が「マーケットは震災復興に何を求めているのか」をテーマに、議論を行いました。

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