政府の震災復興への取り組みにもの申す

2011年5月13日

2011年5月13日(金)放送
出演者:
石原信雄氏(地方自治研究機構会長、元内閣官房副長官)
武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)
増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第1部 震災後2カ月 政府の取り組みはなぜ遅れるのか

工藤泰志工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて言論NPOでは3月11日の東日本大震災から国民がきちんと共有できるような議論や情報を提供するため、言論スタジオで議論を開始しています。今回は第3回目になります。今、政府の方で震災復興の取り組みが始まっています。この政府の復興の動きに物申すという形で、議論をしてみたいとと思っています。
 早速、出席者をご紹介します。まず、阪神淡路大震災時に内閣官房副長官として、まさに司令塔を務め、現在は地方自治研究機構会長の石原信雄さんです。宜しくお願いします。

石原氏石原:よろしくお願いします。



工藤:続いて、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーで、総務大臣や岩手県知事を務めた増田寛也さんです。よろしくお願いします。

増田:よろしくお願いします。

工藤:最後に、日銀副総裁を務められて、現在は大和総研の理事長で、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーもお願いしている武藤敏郎さんです。よろしくお願いします。

武藤氏武藤:よろしくお願いします。



工藤:早いもので震災から2カ月が経ち、亡くなった方が15,000人、そして、まだ避難所に11万人もの方がいらっしゃいます。まさに、必死で命を救うための取り組みがなされています。まだまだ半ばだと思うのですが、この被災者を助けるための救援、復旧、復興の動きを現段階でどのように評価しているか。そこから議論を始めたいと思います。
 では、最近被災地を訪問したばかり、という増田さんからお願いします。

増田氏増田:現在、避難所生活者が12万人弱ですが、避難所はプライバシーが無いので、壊れた自宅に震災後も住んでいる、いわゆる自宅避難者がかなりいまして、この人たちになかなか支援物資が届けられない問題があります。ざっと見ましたところ、20万人近くは実質上の避難生活者と言ってもいいのではないか、と思います。
 阪神淡路大震災の時は、2カ月経った時点で都市計画が決まって、区画整理が進んで瓦礫処理も行われていました。これまでの対応を見ていますと、市町村ごとに瓦礫処理の進捗具合とか仮設住宅の建設に随分差が出てきたように感じます。全体的に少しずつ動き始めましたが、一方で、実質的な避難者がまだ20万人近くいる中で、瓦礫処理にほとんど手が付けられていない所もあります。岩手県の大槌町は町長が亡くなり、4分の1の職員がいないので、まだまだそういったところに手がついていない状況です。また、罹災証明が発行できていないので、義援金もやっと届き始めたという状況です。また実際には病気で避難所で命を落とされる人も出てきています。ですから、この被災地の人たちの「命を守る」と言うことをしっかりと他の人達にも伝えて、現実的に動かしていかないといけない、そんなことを強く感じました。


「命」を守ることに覚悟があるのか

工藤:「命を守る」という点で見れば、やはりいつまでにどういう形で一人一人に向かわないとならない。そのためには、政府のリーダーシップや強い意思が必要でしたが、今の政府の取り組みどう思われますか、石原さん。

石原:私はご紹介いただきましたように、16年前の阪神大震災時に官邸におりまして、復興対策にあたりましたが、その時と今回を比べて、初動体制と言いますか、震災発生直後の官邸の体制づくりは率直に申しまして、今回の方がよかったと思います。
 阪神大震災の時は、現地からの情報が入らなくて、官邸自身で非常災害対策本部を立ち上げたのが、10時の閣議でした。5時46分に震災が起こりましたので、かなり遅れていました。ですから、政府の対応が遅れたことは非難されましたし、私共も率直にそれは認めざるを得ないことでした。
 しかし、その後、現地の状況が分かるにつれて、政府は次々と対策を打ちました。この面では、今回よりも阪神大震災の時のほうが順調にいっていたと思います。
 今回2カ月経ちますが、なかなか復旧、復興、あるいは救援といったことが円滑に進んでいないというのが率直な感想です。なぜなのか。1つ同情すべき点を言えば、今回は地震の規模がM9.0という大変な地震であり、また貞観地震以来の大津波がありまして、被災の程度も大きく、且つ阪神大震災のときは神戸、西宮、宝塚など阪神地区が中心で兵庫県内にとどまっていましたが、今回は青森県から千葉県まで範囲が広く、それに何と言っても福島原発の事故という非常に扱いの難しい問題が起こってしまった。そういうことで内閣の対応がうまくいっていない点はあります。
 しかし、官邸自身の対応の仕方については、これだけの大災害ですから、本来、一般の津波の救済対策と原子力災害への対応は責任者を分けて、それぞれが責任を持って対応する体制を、当初からつくるべきだったと思います。今回は官邸が両方に対応しており、結果的には総理も官房長官も含めて原子力災害にいわばウェイトがかかってしまい、一般災害の対応については現地任せといった感じです。
 阪神大震災のときは、震災が1月17日に起こったわけですが、3日後の20日には、すでに小里貞利さんという大変行動力のある大臣が、災害担当責任大臣として任命され、かつ小里さんを現地に駐在させて対策にあたらせた。また、この小里さんに各省の官僚の実力者を付けてもらい、いわば現地で、即断即決で対応する、その結果についてはすべて官邸が責任を負うということを総理からはっきり言っていただきました。
 そのことが、その後の瓦礫の処理をはじめとした色々な問題の対応を非常にスムーズにしたと思います。今回は現地の責任者がいるわけではないし、対応がちぐはぐだったのではないかというイメージです。

工藤:武藤さんは、当時は主計局次長で、瓦礫処理担当だったそうですが。どうですか、今見ていて。

武藤:まさに瓦礫の処理についてどうも遅いと言うことで調べてみました。阪神淡路大震災のときは2カ月後に瓦礫の80%は処理されていました。それはなぜかというと、埋め立て地に瓦礫を投棄することができたからです。。
 今回は5月2日時点で、丸2カ月は経っていませんが、岩手で16%、宮城で2%、福島で4%程度しか瓦礫の処理がなされていません。まさにご指摘があったように、瓦礫がなかなか処理されないと衛生問題とか、住民の方も新たにスタートする元気が出てこないなど、心理的にも衛生的にも色々な問題が出てくるのではないかと思います。瓦礫を処理するにあたり、今回は海に投棄できませんので、山に投棄するしかありません。そこで、どこに投棄するかとなれば国有地を探すしかありません。しかし、塩水に浸かったものを勝手に埋め立てると塩害の元になるので、色々考えるとやることがたくさんある。それが、がれき処理が十分なされていないということの1つの理由だと思います。
 仮設住宅も、阪神淡路大震災時は60日後には66%、3分の2は仮設住宅が出来上がっていました。最終的に全部できるためには、時間がある程度かかりました。今回は、7万2,000戸が必要と言われていますが、現時点でその11%の8,000戸しか完成しておらず、圧倒的に遅れています。先ほど石原さんが指摘されたように、様々な点で阪神淡路大震災時と条件が違うとは思いますが、阪神淡路大震災の時には1月17日の震災後、復興の提言が3月に出されています。それから法律も2月から3月にはできていました。

石原:そうです。2月末には16本もできていた。

武藤:3月には関連法案が成立している。あの時は、やはり役所がそれぞれの情報を把握して、総合的に動いて、法律のどこをどう変えるべきなのかということを、いち早くまとめていたわけです。もちろん政治には頻繁に報告しながらやっていました。


政治家主導で官僚を動かしていない

石原:今の点は非常に大事なところです。あの時は各省の責任者、予算も法案も何をなすべきか分かる人を現地の小里さんの下に派遣しました。彼らがこうしてほしい、ああしてほしいという情報をどんどん上げて、官邸が各省庁と連絡してどんどん具体化していったわけです。今回は、どうも政治主導ということで、各省とも政務三役が中心で動いていて、実務に当たる役人は指示待ちなのです。私は、これが初動体制の遅れの要因であるのは否めないと思っています。

武藤:様々な事情があるにしろ、今回のやり方において、もっと工夫がなされるべきだったのではないかと思います。例えば、義援金が届いていないそうですが、それは「公平でなければいけない」とかいう議論が先にあり、誰も決めない。だけど、義援金についてはとりあえず配って、何度も配っているうちに結果として公平が実現されればいいわけです。

増田:阪神淡路大震災の時は2週間くらいで第1陣を配っていましたよね。

武藤:最初から、公平に配るべき、という議論をしてしまうと動かなくなるのです。有益な意見や議論はたくさん出てきても決断が遅いということだと思います。

石原:やはり実務経験者がいないからです。慣れた人がいれば、その段取りはどんどん進むのです。やはり政治家がまず仕切って、役人は指示を受けて動けばいいというのが、あらゆる面で影響していますね。

増田:現地の市長さんにお会いしましたが、とにかく政務三役や政治家の方の視察が多くて大変だと言っていました。政治家はいろいろ言いますが、後でフォローした際に、下におりてなくて、実務的につなぎようが無い。皆さん「分かりました、分かりました。帰ってから進めます」とか言いながらそれっきりで、その繰り返しだということです。まさにおっしゃったように、役人は指示待ちで、しかも出すぎてもいけない。

石原:政務三役と官僚組織の間が切れています。それが致命傷ですね。
工藤:しかし、初動については、生命の問題もあり、スピードの問題ですよね。
増田:やはり避難所で体調を悪くして命を落とした人がいます。

石原:初めの救急・救命を含めて、初期の段階は時間の問題です。いかに早く手を打つか。そこが非常に遅れていて、阪神淡路大震災のときと大きく違います。

工藤:これは、命がかかっている問題ですので、政府の責任問題は大きい。それくらい真剣に考えてもらわないといけない。

石原:私は、先般、今回の復興構想会議で意見を聞かれて、内容の問題はともかく、執行体制の問題として今の点を申し上げました。どうするかを決定する際に、政務三役会議の中に、始めから次官とか担当局長を入れれば、すぐに動く話なのですが、入れていない。私はこれからでもいいので、次官とか担当局長を入れるべきではないかと申し上げました。
 それから、地方の県庁や市役所の方が色々と悩みがあった際に訴える場合に、今は、政治家に言ってくれということになっているのですが、政治家は色々なことをやっており、専門家ではないわけです。それよりは、現地でいろんな問題が起きれば、各省の担当者に日頃からコンタクトを取っていますので、そこに意見を言って、担当者を通じて政務三役、大臣や官邸に伝えるという道を認めて欲しい、作ってほしいと申し上げました。
 今の政権になってから、官僚が事務レベルで地方の要望や意見を聞いてはいけないとなっていて、全て政治家に回せということで、受け付けてはいけないことになっています。でも、災害復興とか、人命救助の時にそんな余裕はありません。やはり困ったことが起きれば、担当の事務のところから上げたらいいのです。その道を開けて欲しいと復興構想会議で申し上げました。

増田:そうですね。しかもその上げる先が20くらいあって、どこに上げたらいいのか分からない。

石原:政治家に言ってくれと言われても、どの政治家に言えばいいのか分からない。結局、被災地の人は色々な具体的な悩み事を訴えるところが無いのです。視察に来た時に話を聞いてもらうしかない。しかし、増田さんもおっしゃったように、視察に来た人に訴えても、それがいつ、どこで、どのように実行されるのかわからない。

増田:フォローされていないですね。私は、直接そういう声を聞きました。

工藤:ようやく菅首相もお盆までに仮設住宅を作るとか、瓦礫の撤去を行うとか言いましたが、それだって目処がついていない。

石原:それは目標というだけ。一種の願望に近い目標。

工藤:それでは議論が盛り上がってきましたが、一度休憩を入れます。

報告・動画 第1部 第2部 第3部

 5月13日、言論スタジオにて、石原信雄氏(地方自治研究機構会長、元内閣官房副長官)、武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)、増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)が、「政府の復興計画を点検する」をテーマに議論を行いました。

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