言論スタジオ

原子力に依存しないエネルギー政策は可能なのか

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2011年5月23(月)収録
出演者:
松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)
明日香壽川氏(東北大学 東北アジア研究センター教授)
藤野純一氏(国立環境研究所主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 5月23日、言論NPOは、言論スタジオにて松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)、明日香壽川氏(東北大学 東北アジア研究センター教授)、藤野純一氏(国立環境研究所主任研究員)をゲストにお迎えし、「原子力に依存しないエネルギー政策は可能か」をテーマに話し合いました。

第2話 日本は原発から本当に脱却できるのか

工藤:それでは引き続き議論を行っていきたいと思います。政府は2030年までに原発を14基造るというエネルギー基本計画を見直しする、と決めています。このエネルギー政策をどういう風に変えるのか、ということにいろいろみなさん、悩むことがあるわけです。その際に原子力は電力の30%を供給しているので、それがなくなると大変なことになるぞとよく言われます。それが本当なのかということをまず皆さんにお聞きしたいと思います。それから、ではどういう風にして原子力発電から脱却できるのかということが、二つ目のテーマになります。
 その議論をする前に、エネルギー基本計画というのはそもそも何で、政府がそれを見直すと言っているということはどういうことなのか、ということを藤野さんから説明していただけませんか。


エネルギー基本計画の見直しとは

藤野:エネルギー基本計画というのは、経済産業省が取りまとめている2030年までの日本のエネルギーの需要と供給のバランスをどうやっていこうかというのをシミュレーションして、有識者で決めて、最後、閣議決定されているものです。去年の6月に閣議決定されました。その中の1つとして、原子力発電所を2020年までに新たに9基、2030年までに14基建設するというところをベースにしながら、再生可能エネルギーもある程度増やしますけど、あと石油をどうやって確保していくとか、石炭をどうやって確保していくとか、そういうのを組み合わせていって、2030年の需要と供給がこういう風にバランスしますよ、という風に分析して、それを国の基本政策にしているというようなものです。

工藤:これは14基増やすということはエネルギーの比率から見れば、原子力の利用はどれぐらいの比率になるのでしょうか。

藤野:発電の中で確か50%前後占めていたと思います。

工藤:ある意味で、それくらい日本のエネルギー政策は原子力中心に大きくドライブ、舵を切ったということですね。

藤野:その時はそうでした。

工藤:だけど、これを見直すというのは、要するに、原子力発電の新規を止めるということと捉えていいのですか。

藤野:新規を全部止めるかどうかまでは分かりませんけども、2020年9基、2030年14基と建てていく、という前提についてはメスが入るという意味だと捉えています。


現状の原発抑制のままで大丈夫か

工藤:なるほど。すると、本当にエネルギーの仕組みを変えないといけないということになります。まず1番目として原子力を30%使っているのをこれから止めるとなると大変なことになっちゃうとよく言われているのですが、それについてはみなさんどう考えていますか。明日香先生どうでしょうか。


明日香:今、原子力発電所はかなり止まっているのですが、みなさんそれほど計画停電をやっていないですよね。なので、やはり脅しの部分があると思います。

工藤:脅しね。大変だぞ、大変だぞ、という。

明日香:そうですね。プロパガンダという言葉はちょっとよくないかもしれませんが、それはあると思います。結局、夏の平日の昼の2時、3時に電力消費量が極端に上がります、日本の場合は。そこの全体の電力をまかなうためには、原発も必要だというような議論になっているのですが、そのピークをちょっとずらせば、ある意味で原発がなくても大丈夫だとある程度は言えます。それが結局、省エネということになりますし、ピークは減らして他の所で消費を増やせばいいので、全体的には電力消費量が変わらなくても、ピークが下がることによって、原発ないし発電所を建てなくていいっていうことは言えます。

工藤:ということは、新規をどうするかということと、今現在ある原発をどうするのか、という問題があります。ただ、今も全ての原発が動いているわけではない。

明日香:もちろん、動いているやつもありますし、動いていないやつもあります。だから、そういう意味で今動いていないやつはなくてもいい、ということがある意味では言えるわけです。

工藤:なるほどね。すると、今の原発の稼働の状況下でもピークを移せば何とかなるということをおっしゃっているのですか。

明日香:もちろん、それはどうやって移すかとか、安全を考えてバックアップの電源をどうするかとか技術的・制度的に解決することは考える必要はあります。ですが、不可能ということはありませんし、これから原発を14基、9基増やすことに比べると、より現実的な選択肢かと思われます。

工藤:そうですか。今の意見に対して松下先生どうでしょうか。

松下:1つは今年の夏をどうやって乗り切れるか。もし乗り切れれば、その経験を活かして今後1つの社会的なシステムとして制度化していけばよいと思います。まず第1に省エネルギー、節電ですね。今年いろいろな形の試行錯誤によって、ある程度できるということがわかれば、それを来年さらに改善し拡大し、進化させればいいということですね。それはもう現実に、いろいろな形で節電が、ボランタリーなベースも含めて始まっている。それをもう少し社会的に制度化してインセンティブを作る、とかそういうことでやっていく。節電も累積すると新たな発電所(節電発電所)を作ることと同じ効果があります。だけど、長期的にはそれに加えて、過渡的措置としてLNGを増やすとか、省エネ設備に対する投資を計画的に実施する。さらに再生可能エネルギーの拡大を支援する施策(固定価格買い取り制など)を充実させる。それから、スマートグリッドという形で消費者と電力を供給する側とが双方向でコミュニケーションして電力の需要を調整してピークをシフトしカットするシステムの導入を図る。そういうことを組み合わせていけば、エネルギーの転換はできるし、新たな産業と雇用を増やし、地域の再活性化に寄与することができるのではないかという風に思います。


新しい原発建設はなぜ必要だったのか

工藤:藤野さん、2030年までに原発を14基新設するということですが、どうしてそれを新設しなければいけなかったのですか。原発の比率をそもそも上げなければいけなかったのでしょうか。

藤野:実はエネルギーの需要自体は、確かにまだ伸びますけど、大体もう飽和状態で頭打ちです。そういう意味だと、先程の世界の事例に出ましたように、日本だってエネルギー需要が落ち着いてきています。そういう中で、原子力発電所を新しく建てる必要があるかどうかという所で議論があるのですが、石油なり天然ガスなり化石燃料への依存度をどうやって減らしていくか。それから、もう1つはCO2問題で、2030年にエネルギー基本計画で30%削減すると謳っているのですが、それを実現しようとするとやはり原子力14基に頼ることでそのかなりの部分あてにしていた、という意味で14基が想定に入っていました。

工藤:ということは、エネルギーの需要量から必要なのではなくて、その構造から、CO2を出す化石燃料への依存を変えたいというのが目的だったということなのでしょうか。

藤野:それと、需要のスタイルの変化で電気の割合が今後増えていくというような予測がありました。今、オール電化というのもありますけど、家庭内での電力化率というのですけど、電気の割合が増えているのですね。だから、需要全体はちょっと減り気味だけど、電力の消費量は上がり気味という予測があって、その中で老朽化する原子力の話もありますけど、それを原子力に頼ろうというような狙いもあります。

明日香:老朽化する火力発電所もありますので、それをどう埋めていくのか、という問題もあります。もう1つ、システムの問題として大きかったのは、電力会社の電力確保を決める時に総括原価方式と言いまして、コストがかかればかかるほど、それにある一律の割合でマージンが上乗せされるので、発電所を造れば造るほど儲かるのですね。なので、そういう意味では発電所を造るための需要も拡大しないといけない。どんどん電気を使ってくださいというのが電力会社の本音だったのです。

工藤:発電所というのは原発じゃなくてもいいのでしょ。原発の方がいいのですか。

明日香:原発は一度造ってしまうと、すごく儲かるのですよ。燃料コストがほとんどいらない、ほとんどいらないと言ったら変ですけど。

工藤:核分裂がどんどん連続していますからね。

明日香:かつ、一度造る時にはいろいろ国からのサポートもあり、壊す時にも国のサポートがありますので、やはり、原子力発電所を造るということは電力会社にも旨味があった。先程も藤野さんがおっしゃったように、地方でも旨味があった。ある意味で誰が悪い、というわけではなく、もちろん全体で過疎対策にもなりますし、電力会社の今の地域の特性を維持するような利益構造を維持するようなシステムが今までずっとあった。それを壊すのはみんなタブーだと思ってとてもできなかったけど、残念ながら今回、こういう事故があってようやく変わりつつあるのかもしれません。


原発の電力供給自体を止められるのか

工藤:基本的な質問に話を戻しますと、今現在の原子力発電をベースにした形、まあ、さっきのピークをどう平準化するのか、という話もあったのですが、その原子力で作った電気が供給されているわけですよね。それがなくなると、普通の足し算と引き算で考えると、その30%分を他の所で埋めないと足りなくなると普通考えるのですね。それについてはどうでしょう。

藤野:さっき明日香さんもおっしゃったのですけど、電気の使用量が減っていますよね。確かに、経済活動も若干落ちているのかもしれませんけども、それ以上に電気を使わなくても何とか生活できるということがわかった。省エネがまず最初なのですが、省エネ、省電力というところで夏になると冷房需要が発生しますのでまだまだ厳しい所もありますけど、まずはその2020年、2030年に向けて先程そのエネルギー需要がフラットだと言いましたけど、もうちょっと下げていける余地があるかもしれません。

工藤:それは経済活動を落とすということを前提にしていないのですか。

藤野:していないです。

工藤:普通の今までの日本の経済活動をベースにして、例えば、製造業も車があっても、なだらかに下げることが可能だって話なのですか。

藤野:そうですね。やはり、効率をいかに上げられるかですね。経済活動を上げながらも、例えば、スウェーデンとかで起こっている例というのは、GDPが相当増えていてもCO2は減っています。

松下:スウェーデンとかデンマークですよね。

工藤:つまり、経済活動を活発にしながら、CO2とかエネルギーの消費量を減らしている。そういうモデルもあるわけですね。

藤野:あります。

工藤:すると、今、よく議論になっているのは、原発が大変なので、早く火力発電に移さないといけないとか、いろいろ議論されていますよね。それはほとんど意味がない議論なのですか。

藤野:いや、意味がないわけではなくて、今すぐに変われるものと変われないものがあって、省エネとかまたは電球をLEDにして白熱灯からエネルギーを10分の1で済むようなものに替えるとか、そういうことは今すぐやることが大事です。産業活動でそのスウェーデン・デンマーク型というのはかなり第3次産業など、知識的な産業で都市の計画を作ったりすることでお金を作り出しているのですけど、やはり、第2次産業というかエネルギー投下型の産業というのを、今後、どこまで日本の中に残していくのか。やはり、中国とか韓国とかまたは東南アジアとかでそういうものがどんどん発達していっていますよね。その中でどうやって競争力を持たせるか。今では第2次産業でも、かなり世界の中でも省エネが進んできていますけど、元がやはりエネルギーをたくさん使いますから、最終的にはそこも変わっていく。それは、でも、10年、20年のサイクルかもしれません。

工藤:今の話は凄く本質的な議論なので、確かに日本の産業構造はエネルギー投下型から新しい構造、社会の仕組みに変えなければいけないということは、考えないといけないのですが、その話はちょっと置いておいて、今の話を聞いて驚いていたのですが、原子力発電が仮になくても、省エネとか何かの組み合わせの中で、十分、今の状況を維持していくことは可能だという理解でいいのですか。

藤野:完全に可能かどうかということはありますけど、まず省エネで減らしますよね。その後、3年、5年または10年かけて再生可能エネルギーがそれを埋め合わせていくというようなことを今、徹底的にやるしかない。

工藤:やっていけばできるっていうことですか。

明日香:火力発電所の中で、例えば、今まで使っていなかった火力発電も使い始めていますので、そういう意味では...。

工藤:使っていないやつを使うってどういうこと。もう一回火をいれて動かすということですか。

藤野:止めていたのを動かすだけです。
工藤:それは可能ですか。
藤野:可能です。今、それはやっています。
松下:自家発電のようなものなので。
藤野:それをやっているから今、大丈夫なのです。
工藤:ああ、そうなのですか。

明日香:ある意味で発電所はたくさんあって、おおざっぱなのですけど、2割~4割ぐらいは動いていないのですよ。

工藤:私も他の人の議論とか本とか読んだのですが、発電の設備容量というのですか、それベースで見れば別に原発がなくてもエネルギーの需給が見合っていたという、線を描いている図がよくあるのですが、あれは本当なのですか。そういう風に見ていいのですか。

明日香:まあ、ギリギリくらいだと思います。だから、ある程度安全マージンを取っておく必要はあると思います。ですが、結局、計画停電はなかったですし、これから省電をどうするかにもよるのですが、ある意味では、原子力発電所がなくても今、止まっていた火力発電所を稼働させることによって、供給はキープできると。

工藤:今のお話を聞いていると頭の構造を変えなければいけないのですが、原発にこだわる理由がわかりませんよね。

藤野:やはり、安いのですよ。動いているやつをそのまま動かすことは。

松下:電力会社にとっては他の発電方式と比べ収益性が非常に高い。ただし原発の社会的なコストは別問題です。それから、原発の場合は24時間フル稼働しており、止めることはできません、そのため夜間も余剰電力を使うことを奨励しているのです。

工藤:使わないといけない。

松下:それで、オール電化の家を造るとか、夜間電力で揚水発電といって夜の間に水をダムの上に上げておいて、昼間また落とす。すごくロスが多いのですが、原子力発電は揚水発電とセットにしないと、電力需要の調整に対して対応できない。そういう弱点があります。


今動いている原発を全て止めても本当に大丈夫か

藤野:ただ、話を元に戻すかもしれないですけど、今、停まっているものとまだ動いているものは区別して考えなければいけなくて、今動いているものをある程度まで動かし続けるか、それともそれも止めるかどうか、というところは考えないといけませんし、そこまで止めてしまうと僕は相当厳しいと思いますね。

工藤:つまり、今、動いている原発っていうのはそもそも何基あるのですか。

藤野:54基。
工藤:そのうち、今、動いているとなると。
明日香:半分くらい。
藤野:今、定期点検とかに入っているのもあるので、半分くらいでしょうか。
工藤:じゃあ、半分は動いているのですね。

藤野:ただ、今は電力需要が季節的には一番低い時です。最近暑くなってきたので需要が上がりつつありますし、地震の時も暖房需要が必要だったので、その時に計画停電のようなことが起こって不幸だったのですが、その後はずっと計画停電がないというのは季節がよくて、エネルギーをあまり使わなくていい季節だった。

工藤:ちょっと涼しいですからね。

藤野:それが暑くなって30度とか越えてくるとやっぱり暑いですし、今、早い段階で暑くなっているのでちょっとそこは心配です。

工藤:なるほど。原発の稼働が今のままであっても、夏になるとピークの時は厳しいので、それはさっき明日香先生が言ったようにピークをちょっと移動したり、色々な形でできるのではないかと。しかし、今、動いているところも止めるという話になるとちょっと厳しいのではないかということですか。

明日香:もちろん、色々な人がいるのですけど、今、動いている原子力も全て止めるべきだ、という人はそんなに多くないと思います。

藤野:まあ、それも議論すべきだと思います。

工藤:議論はどんどんしていきたいのですが、今、動いているものを止めるということになるとどうなるのですか。

藤野:今、動いているものを止めるとなると、それぞれの所で、今、東京電力管内の所だけで節電のトライアルをしていますけど、今度は中部電力でもそういう話があります。中部の方は浜岡だけなのでまだ関東ほどは深刻ではありませんが、それぞれでそういうことが起こっていきます。

明日香:日本の場合、もう1つのシステムなんですけど、地域独占で1つの電力会社が地域ごとに固まっているのですね。中部電力というのは、原発への依存度は多分1割くらいです。省エネをすればある程度できるのですが、他は難しい所もある。場所によって違います。そこで融通できないというまた別の問題があります。

工藤:ありますよね、周波数の問題が。ということは、今のところを変えるとなると色々な問題があるかもしれない、ということが少しわかったけども、それに対していろいろな対応策が考えられるということなのでしょう。じゃあ、ちょっともう一回休息します。

報告・動画 第1部 第2部 第3部

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