COP17で問われる課題とは何か

2011年11月30日

2011年11月23日(水)収録
出演者:
蟹江憲史氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授)
高村ゆかり氏(名古屋大学大学院環境学研究科教授)
松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

第1部:ポスト"京都"をめぐる国際情勢の変化

 工藤:こんにちは。言論NPO代表の工藤泰志です。今日は今月(11月)の28日から南アフリカのダーバンで行われるCOP17(気候変動枠組み条約の第17回締約国会議)の問題について考えてみようと思います。さっそくゲストの紹介です。お隣が、言論NPOのマニフェスト評価でも協力いただいている京都大学大学院地球環境学堂教授の松下和夫先生です。よろしくお願いします。

 松下:よろしくお願いします。

工藤:その隣が、名古屋大学大学院環境学研究科教授の高村ゆかり先生です。よろしくお願いします。

 高村:よろしくお願いします。

工藤:その隣が、東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授の蟹江憲史先生です。よろしくお願いします。

 蟹江:よろしくお願いします。

温暖化対策は緊急課題だが、政治的な緊迫感は薄れている

工藤:早速ですが、この議論の前にアンケートをやってみました。このCOP17が11月 28日から行われることをどれぐらいの人が知っているか、をまず聞いてみました。そうすると、驚くべきか、64.9%の人が知らないということでした。このアンケートに答えていただいている人は、かなり知的な層の人たちなのです。この地球温暖化の問題、そして世界での枠組みづくりの動きというのは、日本で震災があったこともあり、私たちの記憶の外にあるような感じがしていましたが、改めてCOP17がどういう役割なのか、どういう課題があるのか、ということから皆さんと話を進めていきたいと思います。松下先生、どうでしょうか。

松下:最初に、これまで地球温暖化に関する国際交渉がどのように進められてきたかを振り返ってみたいと思います。温暖化問題自体は、20年以上前から国際的な関心が高まってきて、最初の国際的な枠組みとしては、1992年に気候変動枠組み条約ができ、これは現在でも続いています。それを各国に、具体的な温室効果ガスの義務を持たせるために、97年にCOP3という第3回締約国会議が京都で開催されて、京都議定書が採択されました。京都議定書は先進国に対して、温室効果ガスを削減することを求めていて、日本の場合は、90年と比べて2008年から2012年までの期間で6%削減するということが求められています。これを第一約束期間と言います。

問題は、まず京都議定書を達成できるかどうか、ということもありますし、最大の問題は、この京都議定書の第一約束期間が2012年で終了しますから、それから先の地球温暖化問題に関する国際的枠組みをどうつくるのか、ということで議論がされてきました。本来であれば、一昨年のCOP15ぐらいで枠組みができるはずだったのですが、非常に紛糾しまして、現在もできていません。ということで、今年の第17回会議で何とか新しい枠組みをつくっていこうとしているわけです。そうしないと、2013年以降、空白期間ができるという問題が心配されています。

工藤:高村先生には、今回決まらないとどういうことになるのか、どうしてそういう状況になっているのか、ということについて、教えていただけますか。

高村:なぜ決まらないかというと、色々な理由があるのですが、背景には国際的な政治の力学といいますか、大きな変化があるように思います。特に、中国やインドと言った新興国が台頭してきたことで、当然、中国やインドの発言力が上がると同時に、途上国の中で1つの途上国グループという形で維持ができなくなった。つまり、交渉アクターを増やした形になったわけです。ですから、中国やインドが参加したコペンハーゲンの合意にも、少数ですけれども途上国が反対をして、最終的には合意ができなかったということがありました。交渉が抱えている問題点、これは貿易交渉などでも同じような現象が出ていますが、そういう背景があると思います。

もう1つの、空白ができるとどうなるかという点ですが、京都議定書の規定によりますと、今年のダーバンの会議で京都議定書の第二約束期間の数値目標を含めた改正ができないと、2013年1月1日から国際的に法的拘束力のある目標というものが、先進国にもないという状態になります。アクロバティックな方法として、来年、もう1度再開の会合が決まるということが決まれば別ですが、そうでなければ今回のダーバンの会議が、空白ができるかできないかの非常に大きな分かれ目になると思います。


ポスト京都は、新しい枠組みまでの延長が新しい提案

工藤:蟹江さん、今回の会議で各国は、何としても決めようという意気込みを感じていますか。

蟹江:正直、ないと思います。
工藤:ないですか。では、決まらないかもしれませんね。

蟹江:建前上はあるということなのだと思いますが、実際のところは、ヨーロッパも不景気ですし、日本も震災対応で四苦八苦です。また、世界の大都市でも不景気の波が押し寄せていますので、どちらかというとそちらの方に目がいってしまっている状況だと思います。我々関係者は、温暖化というと長期的な課題というよりも、直近の課題だと思っていますけど、多くの人にとってみれば、長期的な課題だから、ある程度先送りしても大丈夫だ、という認識があると思います。そういった中で、政治的な緊迫感というのは、残念ながらないと思います。

工藤:COPの議論って、会議の途中から何か急にまとめようというエネルギーが出てきたりするじゃないですか。今、そういう可能性はありませんか。各国はどういう形でまとまることを目指しているのでしょうか。

高村:今、蟹江さんがおっしゃったように、確かに、非常に難しい状況ですけれども、今年の半ばに入ってから、新しい動きが出ています。きっかけになったのはオーストラリアとノルウェーの提案です。京都議定書の第二約束期間をどうするか、京都議定書の延長をどうするかという点と合わせて、日本も主張をしていた全ての主要国が入った1つの枠組み、その交渉を始める合意をしようという内容です。特にEUに関して言いますと、京都議定書の延長として第二約束期間を自分達はやってもいいけど、そうした新しい1つの枠組み、議定書をつくっていく、という条件を出してきていて、その2つの問題が今、結び付いています。ですから、途上国の中でも、とりわけ温暖化の悪影響に悩んでいる国は、アメリカや中国、インドも入った新しい1つの枠組みの交渉を始めてもいいのではないか、と主張しています。ただし、その場合は、京都議定書が続くということが条件だと言っています。

しかし、EUにしてみると京都議定書の延長は当座の数年間のつなぎにすぎない。最終的には1つの枠組みになるという形で、ある意味でオーストラリアやノルウェー、EUが1つの妥協案を出してきているというのが、大きな動きだと思います。

工藤:今の話、色々な国が排出削減義務を負う協定をまとめる交渉をしましょうという提案が出てきていて、その交渉が決まるまでは京都議定書を延ばそうという動きがある、という理解でいいでしょうか。

高村:その通りです。ですから、期限をつけて新しい議定書の交渉を終えて、そちらに移行していきましょうという提案です。


世界は、このポスト京都をどう判断しているのか

松下:少し補足をします。少し戻りますが、今から2年前のCOP15、コペンハーゲンで会議が開かれましたが、その時には合意への期待が高まりました。日本からも当時の鳩山首相が、アメリカからはオバマ大統領、中国からは温家宝首相などの首脳級が集まって議論した。しかしながら、最終的にはコペンハーゲン合意が決議できず、それに留意するという形で、会議を終えてしまいました。そういうことで、せっかく政治的には合意への盛り上がりがあったのですが、首脳クラスが協議してもうまくいかないということで、国際社会は落胆したのですね。その後、去年は建て直しを図るために、メキシコがホストとしてCOP16を開き、各方面の意見を丁寧に聞いて、コペンハーゲン合意で留意されたことを1つの決議としてきちんと決め、多国間の交渉を修復しました。まだ結果は出ていませんが、交渉をきちんとやろうという雰囲気は出てきました。それで、今高村さんが言われた新しい枠組みに向けた足がかりをつくっていこうという段階だと思います。

工藤:蟹江さん、それに関しては、アメリカも京都議定書に乗ってもいいと思っているのでしょうか。

蟹江:アメリカは京都議定書にはとにかく乗りたくない、と。なので、アメリカを含めた枠組みを全体でどうつくれるか、ということが1つの課題です。それから、先程おっしゃっていたように、温暖化の問題は時々盛り上がってくるというのはまさにその通りだと思います。ただ、そのためにはいつ盛り上げるのか、という約束を事前にしているのですね。なぜ2年前に盛り上がったかというと、その2年前にバリで会合があった時に、2年後までに決めましょう、ということを決めていたからです。なぜCOP3で決まったかというと、その2年前にCOP3で決めましょうという事前の合意がありました。なので、今回は、いつまでに何を決めるかということを決めることができれば、そこに向けて交渉がスタートしていくということだと思います。

工藤:お二人のどちらでもいいので教えてほしいのですが、国際政治の地図で、この温暖化の合意づくりで主要なプレイヤーはどういう役割をしようとし、その中で日本はどういう主張をしようとしているのでしょうか。COP17の参加メンバーのおおまかな全体像を教えてもらいたいのですが。まず、高村さんからお話しいただいて、補足をしてもらうということでお願いできませんか。

高村:京都議定書の延長と、先程言いました新しい主要国が入った枠組みという、この2つの点について、各国、それぞれ意見が違っています。最終的に2020年頃に出来上がる、京都議定書を引き継ぐ新しい枠組みについて、途上国は京都議定書が残ることを非常に強く求めています。新しい枠組みは先進国、日本だけではなく、アメリカ、ヨーロッパが望んでいるものです。ただし、この移行の過程については、いろいろな考え方がある状況です。日本の場合は1つの包括的な枠組みを強く押しており、EUなどは、きちんと引き継がれる保証があれば京都議定書を当座続けても良いという立場で、途上国の特に脆弱な国も同じ立場です。しかし一番問題なのは、中国、インドといった主要排出国が、自らに国際的な拘束力がある約束はしたくないと強く思っていることです。主要新興国は包括的な1つの枠組みをつくることに対して消極的な立場にあります。

工藤:なるほど。中国とかインドは新しい枠組みに入り、規制されることが嫌なのですね。
高村:少なくとも公式の交渉の中では強く反対しています。特にインドがそうですね。


日本は京都議定書の継続に反対だけでアイデアなし

工藤:蟹江さん、今の話なのですが、日本は移行の間に京都議定書が続くことは嫌なのでしょうか。

蟹江:日本はそうですね。
工藤:嫌ってことは、日本はどういうことをイメージしているのですか。

蟹江:日本が一番懸念して主張しているのは、今の京都議定書でそのままいくと、アメリカは何の義務も負わない、あと日本の貿易相手国の1つは中国ですが、中国にも義務がない、日本ばかり損してしまうじゃないか、ということだと思います。なので、アメリカも中国も含めた大きな枠組みを作りたいのです。その前提があるので、京都議定書の延長をすると、結局、日本だけが1人損をしてしまうので、そのことには反対だ、ということです。

工藤:新しい枠組みができるということは、日本にとっては良いことなのですね。
蟹江:そうですね。全部が含まれるのでしたら。
工藤:だけど移行期間の隙間を埋めるために、京都議定書を使うのは嫌だと。
蟹江:それが既成事実化していくことを恐れているのだと思います。
工藤:それはどういうことなのでしょうか。
松下:一番困ることは、日本が京都議定書単純延長は絶対反対だと主張し続けた結果として、これまで作ってきた国際的なレジームがすべて崩壊してしまうことです。これまでの、例えば植林を促進する仕組み等が、がらがらぽんになってしまう。やはり日本が国際的なレジームを壊してしまった、ということはしたくないですね。ですからソフトランディングして、新しいレジームにどうやって移っていくかというところで、日本政府も知恵を出していく必要があります。

工藤:日本はあまり主張をしないで、流れの中でやるという感じになっているのですか。

松下:現状では、今、蟹江さんが言われたように、単純延長することは日本にとって非常に問題があるということを強く主張しています。

工藤:ただ、高村さんの話をうかがうと、EUの主張する新しい枠組みの意見の方がすっきりしているように見えたのですが。つまり新しい枠組みを作りましょう、それができるまでの期間については京都議定書を延長しようと。その方が松下さんが言われた,日本が国際的なレジームを壊したくない、という話にも繋がると思いますが。

高村:松下先生もおっしゃいましたけれど、やはり移行期間をどうするかというのは、10月にCOP17の事前の閣僚級の会合があって、そこで日本は意思表明をしているのですが、やはり移行期間も地球温暖化対策の歩みは止めない、ということを国際的に覚悟する必要があるとはおっしゃっています。

工藤:腰がすわっていない、感じですね。
高村:ただ、どうやって、というはっきりアイデアは出されていません。
工藤:蟹江さんは日本の動きは正しい方向だと思いますか?


EUの対応のほうが論理的にもすっきりしている

蟹江:正しい方向ではないと思います。私もEUの対応の方がすっきりしているし、論理的にも正しいと思っています。

工藤:今の政権は何故このような主張をしているのでしょうか。

松下:民主党政権に代わって、中期目標に向けて非常に野心的な動きを示していましたが、それを裏付ける国内対策が出来ていない。国内対策ができないと、対外的にもきちんとした交渉ができない、そういう悪循環に陥っていると思います。
工藤:わかりました。ここでひとまず休憩をはさみます。

報告   

放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。
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