言論スタジオ

2012年 世界の変化の中で、日本は何を考えればいいのか

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2012年1月31日(火)収録
出演者:
田中明彦氏(東京大学副総長)
深川由起子氏(早稲田大学政治経済学部教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

第1部:日本に影響が大きいと予想される内外の主要な出来事は?

アンケートで一番はEUの財政危機

工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOでは、私たち国民が考えなければいけないテーマについて、私たちもきちんと考えようということで、この言論スタジオを昨年からやっています。今回は、2012年の最初の言論スタジオになるのですが、「2012年世界の変化の中で、日本は何を考えればいいのか」と題して議論を行っていきたいと思っております。まず、ゲストのご紹介です。

 お隣が東京大学教授の田中明彦さんです。田中さん、よろしくお願いします。

田中:よろしくお願いします。


工藤:そして、そのお隣が早稲田大学政治経済学部教授の深川由起子さんです。深川さん、よろしくお願いします。

深川:よろしくお願いします。


工藤:では、早速議論を始めていきたいと思います。実を言うと、昨日遅くからアンケートをとってみました。今回は、2012年、僕たちは何を考えればいいか、ということで、かなり本格的なテーマだったのですが、色々な人たちから意見がかなり来ていまして、それも後から紹介しながら進めていければと思っています。まず、1つ目の議論ですが、今年は世界各国で大統領選が行われるとか、EUの危機とか色々なことがあるのですが、そういう風な出来事の中で、日本にとって影響のある出来事は何かということで、質問してみました。その結果、一番多かったのは「EUの財政危機」でした。これが6割ぐらいありまして、それに続いて「アメリカの大統領選挙」、「中国の権力交代」の割合が多く、少し下がるのですが、「イランのホルムズ海峡封鎖」が続くというアンケート結果でした。まず、お二方はどのようにお考えか、というところから話を進めたいのですが、田中先生はどうでしょうか。


イラン問題で困難な状況もありうる

田中:私は今回のアンケート結果の意見に、大体は同意見です。今年、一番何が大事かというと、ヨーロッパの経済のことと、アメリカの大統領選挙、それから中国の権力交代。更に、イランを中心とする中東情勢を考えるのは、非常に真っ当な数字だと思います。ただ、問題はこの4つがバラバラに存在するというよりは、今後注目しなければならいのは、それぞれがどのように関係していくか、ということが重要かなと思っています。ヨーロッパの財政危機はヨーロッパだけに留まるわけではなく、アメリカの選挙にも関係するし、中国経済にどういう風に影響を与えるか、ということは中国の権力交代にも関係すると思います。私の考えからすると、もう少しイランの状況について悲観的な観測があって、かなり今年は、イラン問題を巡って国際社会は困難な状況に陥る可能性があるかな、と思っています。

工藤:それはどういう感じですか。イランはどうなると思いますか。

田中:やはり、イランの核開発疑惑にどのように対応するか、ということで、世界各国が経済制裁をやっているわけです。この経済制裁にイランがどのように対応するか、ということは、なかなか難しい問題です。イランの大統領はアフマディネジャドですが、その対立派との対立も大きい。その中で、やや過激な行動が出てきたときに、アメリカがどこまで対応できるかということもあります。それから、もう1つ、非常に大きな事は、イランの核開発疑惑に対して、イスラエルがどのように対応するかという問題です。この辺は全て未知数ですから、どういう風に展開していくか。更に、イランだけではなく、シリアはほとんどが内戦状態ですから、イランから湾岸全体にかけての不安定化という可能性も排除できないと思います。

工藤:ありがとうございました。深川先生はどのように思っていらっしゃいますか。


先進国が仕切る世界秩序への挑戦も

深川:やはり、それぞれが単独で動いていくのではなくて、政治も経済も非常にグローバル化しているので、各国が共鳴するルートをみつけ、シナリオが描き切れていないということが、一番の不安定要因だと思います。やはり、新興国の台頭、要するに先進国の経済は総崩れなので、色々な意味で、新興国が台頭してくるのですが、ただ、新興国は歴史的に見ると、西洋及び先進国が勝手に決めてきた陸地、領土に対して、また世界秩序もそうですが、納得がいかないということもあると思います。今、イランの話が出ているわけですが、先進国は核を持っていてもいいが、他はダメだ、と。イスラエルももしかしたら...、おそらく、核を持っているであろう。なのに、なぜ我が国はダメなのか、というようなことが、何となく全般にあると思います。それは、先進国が仕切ってきた世界秩序への挑戦ということです。もちろん、核の拡散ということは、中国も望まないし、おそらくロシアもインドなども、自分が持ってしまった国は望まないと思います。ただ、持たない人たちはそうは思わない、ということです。

 先進国は割と、幸福の過程はみんな同じようなもので価値観は似ていますから、髪の毛が金髪でも黒髪でも仲はいいですが、途上国はみんな不幸さが違うので、団結はできないのですね。お互いに足を引っ張りあっているのですが、唯一まとまれるとすれば、先進国がつくってきた都合のいい秩序をもう許さないぞ、ということが、鮮明に出てくるという風な気がしています。

工藤:今、言われた先進国がつくってきた色々なルールに対する挑戦みたいなものですが、イランの問題もその1つなのでしょうか。

田中:イランの問題もその1つではあります。ただ、かなり過激な方の部類だと思います。


イランの核をめぐる国際社会の動向

工藤:これは、どういう風に収束することになるのでしょか。そもそも、収束はできるのでしょうか。

田中:北朝鮮に関しては、国際社会は核兵器開発を諦めさせることはできなかったわけです。だから、その段階でアメリカは朝鮮半島で戦争を起こす気はない、ということで今の状態が続いているわけです。

 アメリカは、中東でイラク戦争の経験がありますから、中東に大規模な地上軍を派遣してまで問題解決をやるという意図は、非常に少ないと思います。ただ、だからと言って、それではイランが堂々と核開発に向かうという動きを見せたときに、特に、今年はアメリカ大統領の選挙の年ですから、どういう対応をとれるかというのは限られていて非常に難しい。もう1つは、朝鮮半島と違うのはやはりイスラエルの存在です。イスラエルにとれば、イランが核を保有するということは、当然、自らの国家の存亡にかかわるという懸念を持ちますし、それからイスラエルは既にそういうことをやろうとした国に対する先制攻撃で、破壊してしまうということをやっているわけです。

 そうすると、アメリカだけという変数ではなくて、色々なものが絡んでくるので、なかなか見通しにくくなっています。ですから、望ましくは今、行っている経済制裁によって、イラン国内で核開発を無理矢理にでも進めるという勢力に対する批判がそれなりに強まって、少なくとも核開発をある程度遅らせるというような勢力が出てくるということが、一番穏健なシナリオだと思います。

工藤:実際的にイスラエルの問題があるのですが、ホルムズ海峡の封鎖とか、そういった局面になっていくのでしょうか。

田中:ですから、封鎖と言ったときに何をするかということですよね。機雷をバラ撒いて動けなくするという話ですよね。それは、可能性としてないわけではない。それがどこまでエスカレートしていくかということは、なかなか判断が難しいところです。ですから、機雷除去をある程度やって、その機雷を撒いた基地にだけ限定的な攻撃を行うということは、十分にあり得ます。

工藤:そうなったら、日本に対しては決定的な問題になりますよね。
田中:石油の問題について日本はどうするのか、ということは常に起こると思います。
工藤:そういう議論は出てきますよね。

深川:実は、機雷の掃海演習ということで、自衛隊はこっそり行ったのですね。ですから、一応の微かな備えはあるのではないかと思います。あまり宣伝はしたくなかったみたいですが。

工藤:しかし、そうなったら、また騒然となりますよね。

田中:ですから、私が「イランのホルムズ海峡封鎖」が少ないなと思ったのは、本当に事態が悪化していったときに、多くの人の関心を引きつける度合いの大きさからすると、今の段階では、まだそれ程大きな危機にはならないかな、と思っている人が多いのかな、という風に思います。

工藤:このイランの問題というのは、最終的にどうなっていくのでしょうか。ずっとズルズルといくのでしょうか。イスラエルが攻撃するというのであれば、全面的な戦争になってしまう可能性もあるのですが。

田中:わからないですね。

深川:でも、アメリカの大統領選の足下を見ながらやっているというところがあると思います。それは恐ろしくて、お互いに足下を見て、計算してやっていたのですが、いつの間にか、ボタンがどんどん掛け違えてしまって、という恐ろしさは警戒していかないといけませんね。

工藤:深川先生、EUの危機については、どのように見ていますか。


非常に深刻なEUの危機

深川:EUの危機は、非常に深刻だと思います。色々なルートで日本に波及してくると思います。やはり、中国、韓国の輸出が急速に落ちてきています。ということは、日本からの輸出も落ちてきます。既に、日本の貿易収支は赤字です。油はホルムズ海峡封鎖があれば、上がるかもしれない。だけど、輸出は落ちるわけですから、また貿易赤字は増えます。つまり、今は、まだ所得収支が大きいからいいですが、貿易赤字が持続していくということは、いずれ経常収支が赤字に転じて、いよいよ日本の財政の問題に王手がかかるわけです。マーケットは既に、それを意識し始めています。ヨーロッパの話というのは、そういうルートでくるのがまず1つ。

 邦銀が直接ヨーロッパの不良債権を抱えている、という状況ではないので、円高になっているわけです。ですから、金融ルートで直接影響を受けるというわけではない。ただ、アメリカとヨーロッパの間は、ボールが行ったり来たりしているわけです。元々、ヨーロッパが今の状態になった発端というのは、リーマンショックです。そのボールがヨーロッパ側に行っているということなので、欧米の間を行ったり来たりしている間に、熱いホットポテトが、どんどん大きくなってくるというのはあり得ますね。

工藤:基本的に、まだ何も解決していませんよね。一方で、ドルの供給の問題から始まって、最終的にはどのようになっていくのでしょうか。

深川:多分、アメリカはどこかの段階で、QE3(第3次量的金融緩和策)をやるのでしょう。それから、ヨーロッパに相当圧力をかけて、非常手段を講じて何とかしろ、という風に言っていくのだと思います。だけど、言ったところで簡単にできれば、ヨーロッパだってやっているわけです。あまりにも問題が深刻なのです。そこは、民主主義と似ているのかもしれませんが、中国や他の新興国に比べて、マーケットを全部開けているから、毎日、取り引きがあり、毎日反応していくわけです。しかし、政府の介入余地というのは凄く限られていますから、本当に政治が解決していかなければいけない問題への対応がどうしても遅くなりがちです。どの国も民主化しているわけですから、やはり選挙を意識して動いていきます。ドイツだって、納税者が納得しないうちに、「はいはい」と言って約束はできませんよね。一方で、マーケットは開いているから、どんどん責められてしまうわけですね。対応は遅いですから、その間に、マーケットの暴走が始まれば、より深刻な事態になっていくと思います。時限爆弾のように国債の満期というのは来るわけですから、ずうっとこれを抱えながら行くことになる。

工藤:田中さんは、EUの経済危機についていかがですか。


国際的な秩序を誰がどうやって形成するのかが不明に

田中:EUの経済危機自体は、今、深川先生がおっしゃったように、政府の対応、政府・民間協調というものが速やかにできないということが、マーケットに色々な思惑を呼んで、それが更に色々な問題を生む、という危険はあると思います。先程、深川さんがおっしゃった、新興国の台頭と、こういう危機の中で、国際的な秩序を、誰がどうやってマネージしていくか、ということがここ数年、益々わからなくなりつつある、という難しい問題に直面していると思います。従来ですと、こういうものはG8サミットという枠組みでやるのです、ということでした。今年は、G8サミットのホスト国はアメリカで、5月の半ばにG8サミットがあるわけです。しかし、G8だけでは、もはやうまくいかない。新興国が台頭したということで、G20という枠組みをつくらなければいけないということで、やってきたわけです。しかし、G20というのは、先程、これも深川さんがおっしゃいましたけど、新興国は新興しているという面では一致していますが、だからといって、この国々が何かを協調して、何かを解決してやりましょう、ということでまとまるかと言えば、まとまりません。だから、G20に参加している国々が重要であることは間違い無いのですが、G20という会合をシカゴの後にメキシコでやったら、これでもって全てが解決するか、というと、そういう見通しは全くつかない、というところが、今の非常に難しいところですね。

工藤:国際的な色々な問題について、それをきちんと管理したり、何かをしたりするメカニズムが、かなり弱くなってしまっている、という問題ですよね。

深川:でも、歴史的なショックというのは、大体そういう時に起きるのですね。やはり、大恐慌だって、イギリスが力を落としている中で、アメリカが台頭していく過程で、トランジションがあったのですが、初期の段階では、アメリカは何も積極的に関与しなかったのですね。その結果、マーケットが過剰に反応したということでした。今回も、中国は全然、積極的に出てきません。国内も色々あるし、むしろ出られないのですね。そういう意味で、仕切る国がいなくて空白になってしまっているから、そういう危なさというのは、非常に深いと思います。

工藤:田中先生も歴史的な空白、大きな困難が表面化するような事態だという風に見ていますか。


危機を通じてリーダーシップが生まれるという面も

田中:まさに、そういう事態になりつつあるという状況だと思います。依然として、私は、色々な世界の国際秩序を仕切る能力において、アメリカに勝る国はないと思いますけど、そのアメリカは、イラクの経験もあるし、リーマンショックの経験もあるし、自らアメリカの最後に残ったパワーリソースを全部投げ出して、世界の問題を解決するかというと、そういう意欲は、全くないのですね。オバマさんという人は、もちろん頭のいい人ですが、頭のいい人だから、そうやって世界の問題を解決していくのではなくて、協調して解決しましょう、というロジックで登場した人です。つまり、協調して解決するということは、他の人がやってくれる、という話になります。では、誰がやってくれるのかと言うと、そういう人が今はいない状況です。そういうトランジションの時期になっていますね。

 ただ、そこから先はやや無責任な言い方をすると、新しい秩序というものは、どちらかというと、そういうものから起こる危機を通して初めて出てくるという面があるのですね。ですから、戦後のアメリカのパックスアメリカーナの体制というのは、やはりその前の1930年代と、第二次世界大戦というとてつもない危機から生まれたという面があります。もちろん、私たちは、これから世界大戦が起きるのがいいのだ、とは言えませんけど、ある程度の危機を通して初めて、リーダーシップが生まれるという面はあると思います。

工藤:深川さん、今の大きな変化の次の展開の担い手はいないということですかね。


米国には世界の警察官をやる余力はない

深川:やはり、アメリカが、オバマさんが言っている協調的なアプローチですが、彼は頭がいいし、インターナショナルな背景があるから、そう思うのですが、アメリカの有権者のほとんどの人が、そうは思っていないということです。つまり、彼のやり方だと、アメリカはone of themになって、みんなと一緒にやろうということになりますが、他の方々は一国主義を決して忘れてはいないのです。そして、みんな一票を持っていて、数的にはその人たちのほうが多いかもしれない。一方で、ティーパーティーのような人たちも残っていて、非常にファンダメンタルな考え方、原理主義的な人たちが台頭してきています。アメリカは元々、国内がグローバルなのですね。その矛盾が、実はアメリカというものの中に抱き込まれてしまい、アメリカ自身もアイデンティティを激しく揺さぶられている、という状態なので、とてもではないけれど、他の人のあらゆる見解に介入して、世界の警察官をやれるような余力は色々な意味でないと思います。

工藤:ありがとうございました。一度休息を挟んで、この話を続けたいと思います。

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