日本の民主主義、政党政治はこのままでいいのか

2015年2月20日

2015年2月20日(金)
出演者:
岩井奉信(日本大学法学部教授)
内山融(東京大学大学院総合文化研究科教授)
牧原出(東京大学先端科学技術研究センター教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。さて、2015年、私たちは一年をかけて日本のデモクラシーの問題を議論したいと考えています。今回はその第一回目としてお送りしたいと思います。なぜ、私たちがデモクラシーの問題を議論したいと思っているかというと、日本の民主主義が機能していないという問題意識を持っているからです。そこで、今日を境に、民主主義について様々なテーマで議論を深めたいと思っています。

 ということで、ゲストを紹介します。まずは日本大学法学部教授の岩井奉信さんです。続いて、東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出さんです。最後に、東京大学大学院総合文化研究科教授の内山融さんです。よろしくお願いいたします。

 私たちは有識者の皆さんにアンケートをして、日本のデモクラシーが十分に機能しているかについて聞いてみました。すると今現在、6割を超す人たちが十分に機能していないと回答していました。この点について皆様のお話を聞きたいのですが、皆さんは日本のデモクラシーが十分に機能しているのか、あるいは機能していないのであれば、どこに問題があるのかについてお尋ねしたいと思いますが、いかがでしょうか。


日本のデモクラシーは機能してきたといえるのか

岩井:もちろん制度上、日本は民主主義国家ですが、ただデモクラシーの運用や実態については、機能していない部分があると思います。まずどこを理想像とするかで見方が変わってくると思いますが、おそらくそれぞれの有識者が自分の理想像と、今の政治の現状や選挙の結果を見た際、理想の民主主義と相当乖離している実態を見て、「機能していない」と答えた人が多かったのだと思います。その点、機能したか、機能しなかったかというのは、ある意味相対的な問題であると言えるでしょう。世界的な視点で言えば機能していると思いますが、例えば私たちがモデルとするようなアメリカやイギリスと比べるとそのレベルまでは達していないのではないか、そういった思いが今回のアンケート結果に出てきていると思います。

牧原:戦後から現在にかけて民主主義が機能しているかを考える際に、二つの要素を考える必要があると思います。一つは「日本国憲法が十全に機能しているか」ということです。やはり国会や内閣はある程度機能していて、基本的人権も保障はされている。ただ裁判所や地方自治体について考えるとまだまだ不十分な点が見られます。ただ日本国憲法自体が十分に定着しているので、制度としての運用は円滑に進んでいるとはいえると思います。

 もう一つの要素は、「自民党をどう考えるか」です。細川政権以前の自民党長期政権時代に、民主主義は機能しているかと問えば、「機能している部分はあるが果たして政権が自民党で良いのだろうか」という答えが多かったと思います。同じ質問を小泉政権時代に問えば、おそらく「機能している」と答える人が多いのではないかと思います。ただ小泉政権後、民主党へ政権交代するまでの三代に渡る自公政権で同じ質問を問えば、「機能していない」という意見が強かったと思います。そして2009年の民主党への政権交代の際の投票率は高かったのですが、安倍さんが勝った2012年、14年の二回の総選挙を見てみると、どちらも投票率が高くありません。だから選挙結果としては自公が大きく勝利していますが、関心が高くない中で勝利しているという微妙な部分をどう考えるかが問われています。自民党の問題を始め、安倍首相は憲法改正を望んでいると思いますし、今、戦後ずっと抱えてきた問題がさまざま表出している状況だと思います。

内山:学者の悪い癖かもしれませんが、「そもそも民主主義は何だろうか」と考える必要があると思います。民主主義という言葉を聞いた時、人によって思い浮かべる意味は違うと思います。私は民主主義という概念には二項対立があると考えています。

 まず大事なのは、「『多様性』と『統合』」という軸です。つまり国民は多様な意見を持っているけれども、政策を実行に移す段階では一つにまとめなければならない。多様な意見、多様な利益をどのように統合していくのかは非常に難しいと思います。多様な意見を無視して決めるのも良くないが、最後には決断することが必要です。「『多様性』と『統合』」のバランスをいかにとっていくかが、日本で民主主義が上手く機能する基準だと考えます。

 もう一つ重要な二項対立は、「『民意』と『責任』」です。つまり民主主義社会は、民意という国民の意見を政治に反映することで成立します。しかしこれだけでは政治がポピュリズムに陥る危険性があります。政治家が国民を扇動してあらぬ方向に持って行ってしまう危険性もある。国民の意見を反映しているから民主主義だとも言えますが、重要なのは「責任」が伴う必要があるということです。つまり現在生きている国民に対する責任と、そして将来世代の国民に対する責任を考える必要があります。その民意の反映と責任ある政治のバランスを取るのが非常に難しい。つまり「『多様性』と『統合』」「『民意』と『責任』」について、日本に限らず全ての国の民主主義に問われていることだと考えています。

工藤:今のお話は、有識者のアンケートでも、どのように民主主義を考えていくか、ということで、たぶんみなさんの意見も違い、集約していない感じがしました。ただ今の内山先生や牧原先生、岩井先生の話を聴いて、もう少し僕たちの議論としては、焦点を定めた方がいいと思っています。私たちが考えている民主主義が機能しているかどうか、というのは、政治が課題解決をきちんとできるかということです。ただ政治が個人でやるのではなく、国民に課題解決の方法を提示し、有権者もきちんと解決を求めて、政治にプレッシャーをかけていく。そして課題解決、仕事をしていくというサイクルが動いているか、ということを考えています。では、今の日本の政治はその、課題解決に向かって動いているのか、ということを考えた時に、課題解決に向かって動いていると思っている人はあまりいないと思います。むしろ将来に対する不安が非常にある。それから、民意の中に多様な、多元的な意見がきちんと尊重されているのだろうか、という疑問もあります。一つの意見だけが出て、言いにくい雰囲気がないだろうか。それから政党間においてもいろいろな形で多様な競争があるべきですが、本当に競争があるだろうか。また、三権分立といいますが、違憲状態と言われて久しい一票の格差問題についても、それに対してなかなか解決するメカニズムが動いていかないなど、いろいろな問題があります。システムとしての民主主義は存在していますが、そのシステムを活用して課題解決に向かっていくという方向が見えていないと思っています。

 ここで、アンケート結果を見てみると、それに類するようなところに有識者の人たちも色々な形で反応しています。先ほど指摘したように、政治が課題解決に向かって動かない中で、「メディア(言論界)が権力に対する監視役を果たしていない」とメディアの責任を問う声が3割を超えていたり、「日本の社会に多様な意見が尊重されず、ONE VOICE的な雰囲気が強まっている」との声が2割を超えています。また、「自民党の1京都なり、野党に対抗する能力が弱いこと」との回答も3割を超えており、国民から見ると、政党間で競争がなく選択肢がないという問題が挙げられています。今起こっている状況の中で、そうした問題を感じている人がいるという結果でした。この辺りに絞ったらどのような見方になるのでしょうか。


政局政治から脱却できていない野党

岩井:最初に申し上げたように、民主主義は大枠ではそれなりに機能していると思います。ただ「議会制民主主義」という点に焦点を絞ると不安になります。そしてさらに、議会制民主主義の中核になる「政党政治」という点に絞り込むと、相当機能していないという議論になると思います。自民党が強すぎるというのは結果論です。再編などを繰り返す野党に能力がないからであり、システムの問題とは一概には言えません。最大の問題は、政党が政党政治を確立できていないからだと思っています。確かに1994年の政治改革で政党本位の政治を目指し、政党政治に追い込むような仕組みを作ったからこそ、マニフェストが日本政治にも取り込まれました。ただマニフェストは試行錯誤が激しかったと思っています。また自民党の一党優位の状態が続き政権交代を経験してこなかったという日本独特の政治体制を良いものへと変えるために、日本型民主主義を西欧型民主主義に近づける政治改革をやったものの、依然として試行錯誤の状態が続いています。今はまだ試行錯誤の段階なのでそれほど悲観しているわけではありません。まだ皆が慣れておらず、まだプロセスの最中だということで、日本政治が変わる可能性はまだ少しあると思います。

工藤:やはり政党政治が機能しないという話ですが、ある時期までは二大政党という形を作ろうとして、政権交代も実現しました。しかし、現在の政界を見てみると、政権交代を期待できるような日本の政党の組織、形は見えない状況になっていて、はっきり言って自民党ぐらいしかまともなところがないという状況です。こうした局面は、まだプロセスなのですか、それとも結果なのでしょうか。

岩井:自民党は長い政権での経験があり、特に高齢層の有権者を中心に信頼性を確立してきました。そして民主党が2009年の選挙時に大勝利をおさめて政権交代を達成しますが、実際に政権を任せるとその結果が燦々たるものでした。この民主党の失敗が、有権者の持つ野党イメージの崩壊につながった側面は大きいと思います。これは民主党自体の問題が引き起こしたと思っています。日本政治はここまで政局政治だったのだろうかと思わされました。安倍さんが政権について様々な政策を出していますが、これにきちんと対抗できる政党やグループがまだ確立されていない。まだ野党は政局政治から脱却できていないと感じます。


課題を先送りし、玉虫色の決着を図る政治からの脱却ができていない

工藤:岩井さんのお話では、議会制民主主義と政党政治に対して、あまりうまくいっていないというお話だったのですが、牧原さんはいかがでしょうか。

牧原:今回のアンケートの質問、「日本で民主主義が機能していると思いますか」という質問について、回答した有識者は「現在の日本で機能している民主主義らしきものに満足していますか」と受け取ったと思います。機能していても満足できない、あるいは機能していないから満足できないという様々な見方があると思います。そしてこれが次の設問に表れていると思います。

 言論NPOとの付き合いもあるのかもしれませんが、「メディア(言論界)が権力に対する監視役を果たしていない」ということを挙げる人が多くいるのは特徴的です。2009年に政権交代を経験しました。当時は、与党と野党が大同団結的に二つに集約されていると思っていたら、相変わらず自民党くらいしか意見を集約できておらず、民主党は集約さえしていなかったと多くの有権者が気付いたという状況だと思います。では、かつての自民党も集約していたかというと、そういうわけではありません。やはり田中、竹下、池田、宮沢政権は、ふわっとした合意で政治を動かしていた。現在はこれまでのやり方を改め、特に官邸主導で政策を動かそうとしたときに、付いていけない人たちが出てくるのは当然だと思います。しかし、違う意見の人たちをどうするか、ということは課題です。多様な意見を一つにまとめることは単純ではありません。内山先生がおっしゃったように、そこには複雑なプロセスがあるので、これをどう考えるかが大きな問題だと思います。

内山:先程、工藤さんが、民主主義はいかにして課題解決ができるかが重要だとおっしゃいました。たとえば具体的な課題について考えると、今回の選挙でも問われたように、将来世代に対する責任という意味でも「財政の持続可能性の問題」は重要だと思います。2015年度にプライマリーバランスの赤字を半減することはできそうだとはいえ、2020年度のプライマリーバランスの黒字化まではまだ目処が立っていません。誰かが決断してやる必要がありますが、今の政党政治では誰も火中の栗を拾おうとしない。日本の政治、そして日本の民主主義の難しい問題がここにもあると思います。

工藤:後からもう少し具体的に言いますが、昨年の選挙の時に自民党と野党のマニフェストを全部評価したのですが、あまりにもひどくて、100点満点で最高点の自民党ですら24点で、10点台が3党、残りの4党は1桁代という結果でした。特に野党ですが、政策を日常的に作っていないのが現状なのです。

岩井:牧原さんがおっしゃったことは非常に重要で、昔の自民党政治では玉虫色とか先送りというあいまいな手法で物事が済んでいました。しかし現在では、財政や経済の問題という数量的な問題を考慮する必要があるため、曖昧にはできません。あるいは先送りをしてきた外交や憲法などの問題に結論を出さなければならなくなってきている。そうするとこれまで自民党がやっていたような玉虫色の決着の在り方が立ち行かなくなってきている。そうした状況の中では、政党が自分の立ち位置をしっかりと持たなければならず、そこが上手くいっていないために混乱が起こっているのかもしれません。そして自民党の中でも、安倍さん以外に対抗馬がいない。小泉元総理の改革でこれまでのような派閥が崩壊しているので、自民党は今止まっているように見えます。その状況の中で、今選びうる選択肢が自民党だけしかないというのは一つの結果なのかなと感じます。野党はそこを相当にあいまいにしていたつけがいま回ってきたという感じがします。



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