言論スタジオ

財政健全化計画を評価する

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2015年7月3日(金)
出演者:
小黒一正(法政大学経済学部教授)
鈴木準(大和総研主席研究員)
田中秀明(明治大学公共政策大学院教授)
湯元健治(日本総合研究所副理事長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



本質的な財政再建計画になっていない「骨太の方針」

工藤:言論NPOの工藤泰志です。今日の言論スタジオは日本の財政再建が今の計画でできるのかを議論したいと思います。安倍政権は昨年の12月に総選挙を行い、その時、日本の財政再建の計画を、今年の夏までに出すことを約束しました。そして、その約束は「骨太の方針」という形で6月30日に出ました。有権者に対して安倍さんが約束したものの答えが出されたということです。この答えに対して評価してみようということで、今日は専門家の方たちに集まっていただきました。それでは、ゲストの紹介です。まず、日本総合研究所理事長の湯元健治さん。次に、大和総研主席研究員の鈴木準さん。続いて、明治大学公共政策大学院教授の田中秀明さんです。最後に、法政大学経済学部教授の小黒一正さんです。

 昨日、言論NPOに登録している有識者の方々にアンケートを行いました。このアンケート結果を踏まえながら、議論を行います。

 まず、安倍政権は、2014年の衆議院総選挙の際の政権公約で、「2020 年(平成 32 年)度における、国・地方の基礎的財政収支の黒字化目標の達成に向けた具体的な計画を来年の夏までに策定します」という公約を掲げていましたが、今回の骨太の方針によって、その黒字化目標の達成に向けた展望が描かれたと思うかを尋ねました。

 その結果、有識者アンケートでは、41.4%が「描かれていないと思う」、17.1%が「どちらかといえば描かれていないと思う」が回答しましたので、約6割がこれでは十分ではないというかなり厳しい評価をしていることになります。その他に、「そもそも財政再建は難しい」も15.3%います。逆に、「描かれたと思う」は4.5%、「どちらかといえば描かれたと思う」は15.3%ですから、肯定的な評価は2割に満たない。有識者のアンケート結果はこうなっていますが、皆さんはどうお考えでしょうか。

財政再建に向けた政府の本気度が伝わらない「骨太の方針」

鈴木:アンケート結果で、「描かれている」は2割くらい。そして、「描かれていない」が6割超ということですが、私は描かれている部分と描かれていない部分の両方あると思います。「このままでは日本の財政は立ち行かない」という危機認識や、プライマリーバランス(PB)黒字化目標を堅持している点などは、従来通りですから、これだけでは別に前進しているとは言えない。では、今回比較的良かったと思うところはどこかと言えば、「今度は金利についても注意すべきだ」ということを明確に意識し始めたという点や、社会保障改革に関して、かなり細かな歳出削減メニューや、需要抑制のための方策が掲げられている点は評価できます。例えば、後期高齢者の医療費の窓口負担をどうするか、薬剤管理料が高すぎるのではないか、窓口の定額負担制を検討するとか、できるかできないかは別として、メニューとして書いてあることはすべて検討すると甘利明大臣もおっしゃっています。

 それから、「18年度にPB赤字幅をGDP比1.1%程度にする」という新しい数値目標が出てきました。これまで政府が示した経済再生ケースでも2%くらいだったわけですから、かなり野心的な目標と言えます。また、一般歳出の総額の実質的な増加を、これまで3年間と同水準(1.6兆円程度)に抑えるという、これも新しい数字が出ています。この辺りについてはプラスの評価ができると思います。

 ただ、改革工程をどうするか、KPIをどうするか、というような具体化はこれからするという話ですから、「GDP比1.1%程度」をどのように達成するかは見えません。また、地方財政については「国と歩調を合わせる」と書いてあるだけですが、地方財政は相当大きな問題であるにもかかわらず、そういったところでも明確な方針が示されていない。それから、「GDP比1.1%程度」という数字も「目安」という位置付けにしている。「目安」は「目標」と違うわけです。「1.1%には届かないけれど基調としてはその方向に向かっているからよいのだ」という話になってしまっては困る。「1.6兆円」も「実質的な金額」という言い方をしていて、この辺りも曖昧です。そう考えると、この骨太の方針で財政健全化が確実にできる、という状況になっていないことは確かです。まさにこれからどういう具体的な工程、監視体制を作っていくかにかかっているという意味では十分ではない。ですから、良い部分も悪い部分もある、というものになっていると思います。

湯元:我々が期待していたような財政健全化計画のイメージは、前提として、経済成長や税収のしっかりとした見通しが置かれた上で、歳出の削減規模の数値も出て、その結果、合理的に黒字化目標が達成される、というようなものでした。しかし、現実には、「骨太の方針」の中の一部として財政健全化計画が出てきた。しかも従来出していた、2023年くらいまでのシミュレーションもまだ出てきていない状況にあります。そういう意味では、こういった計画が確実に実行できるのかということが、数値で検証できないので、評価しにくい中身になっている。

 それから、従来の財政健全化計画と比較して今回のものが全く違う点があります。財政健全化計画を出すと言いながら、計画の名前が「経済財政運営と改革の基本方針」になっている。つまり、財政だけのものではなくて、経済を一緒に組み合わせたわけです。当然、経済は生き物ですので、景気が悪化してしまうと、いくら歳出抑制をしても財政健全化できない。経済成長を進めるということと、財政健全化を一体的に進めて行くという方向性を打ち出した、その認識自体は間違っていないと思います。ただ、非常に高い経済成長を前提としている節がある。「名目3%以上」は安倍政権が掲げている目標ですが、それよりも高い経済成長が前提になっている。さらに、税収増を見込んでいますが、安倍政権の成長戦略をすべてうまく実行して、経済再生ケースに至って、そこからさらに税収の上積みがあるという計算をしています。これはまだ数値も出していないので、具体的にはわかりませんが、歳出削減と追加的な税収増を合わせてこの目標を達成していく、ということにしています。では、この「追加的な税収増」は一体どこから出てくるのかというと、色々な説明は書いてありまして、例えば、新しいベンチャー企業が出てきて、起業が増えて、企業の収益が全体として増えていくとか、個人の所得が増えていくとか、そういう形で税収増が増えるということが書いてあります。ただ、理屈の上ではそういう可能性はあり得ると思いますが、現実に2020年までという短い期間の中で、そのように著しく経済構造が変わっていくということにどこまで期待できるのかという点については、懐疑的に見ざるを得ないところがあると思います。

工藤:きちんとした期待された計画が出てきていない、という結果になっているわけですね。「2020年の目標は堅持します」と言っているわけですが、これは昔から堅持しているものであり、今回の計画ではそれをどう具体化するかがまさに問われていると思うのですが、なぜこのような計画になったのでしょうか。

田中:2020年の目標は、さすがにその達成の可能性は低いと考えたわけですね。一方、2018年の目標(目安)は、成長率を高めに見積もったり、歳出のメニューをいくつか並べれば、何とかできるかもしれない。もっともらしい絵が描ける、ということで目標のすり替えをした、ということだと思いますね。

工藤:田中さんからみると、財政再建への政府の本気度は伝わってきますか。

田中:今回の骨太の方針2015を一言で評価しますと、本質的な改革を先送りして、細かいメニューの分量で勝負している、ということでしょうね。歳出の大枠をはめるという財政再建における本質的なことをやらないで、その代わり細かいメニューをたくさん入れて、ボリュームで勝負しているわけです。経済財政諮問会議では、これまでのようなトップダウンのやり方では駄目だ、各省の細かい政策の積み上げをやるべきである、という議論が行われていました。しかし、よく考えてみてください。例えば、倒産しそうな会社が各部署の意見をいちいち聞きながら、それを積み上げて再建するでしょうか。違いますよね。会社にしろ、政府にしても倒産しそうな場合、あるいは倒産した場合は、まずトップダウンで大枠を決めていく。細かい点は各部署に任せるかもしれませんが、トップダウンで大枠を決めて選択と集中をやるのが再建の王道だと思います。しかし、残念ながら今回の骨太の方針はそうではない。それはまさに、この政権が財政再建についてやる気がないということの証左だと思います。

工藤:小黒さんは実証的に分析をされていると思いますが、具体的な数字がないと、何が目標なのか、それが達成できたのかということを判定できないわけですよね。今回の骨太の方針をどのように見ていますか。

小黒:例えば、数字に関して言えば、「1.6兆円」については、「安倍内閣のこれまでの3年間の取組では一般歳出の総額の実質的な増加が 1.6兆円程度となっている」というその基調を「2018年度(平成 30年度)まで継続させていくこととする」と言っているわけですから、一般歳出は2018年までにだいたい1.6兆円伸びるわけです。先程田中先生からもお話がありましたように、歳出に大枠をはめているかというと、実ははめていないわけです。財政再建の中では社会保障費が一番重要ですが、2018年までにどうしているかというと、一般歳出で1.6兆円程度実質的に伸びるというのは、高齢化の増による部分だけです。消費税を2017年4月に10%に引き上げた場合、社会保障の充実をすると言っていますが、それは別枠になっています。これが1.5兆円という形で上乗せされる。そうすると、2018年までに実は3兆円伸びるわけです。年度平均でならすと、大体年間で1兆円伸びるという形になりますが、国の社会保障関係費としては、実はそれほど厳しい計画ではない。先程田中先生から、本当に財政再建をするのであれば、もう少し上からキャップをしなければならないというお話がありましたが、そういう姿勢は見られない。ですから、一言で言うと、今回の骨太方針、財政健全化計画は、「やる」というような方向性を打ち出しつつも、若干パフォーマンス的な感じになっているという印象です。

加えて言うならば、先程湯元先生からもお話がありましたが、経済成長率の見通しが非常に甘い。この骨太の方針にも、だいたい実質2%以上の成長率を想定すると書いてありますが、では、現実の日本経済の成長率はどうかというと、実質で1%くらいですね。これは経済再生ケースに相当しますが、その経路ではおそらく行かなくて、どちらかと言うとベースラインシナリオのケースですね。こちらの方のケースで行く可能性がある。そうすると、もともと考えている財政再建の経路が、かなり下振れするということが現実的ですから、もう少し踏み込みをするべきでしたが、それを避けるという形で、2018年の目安を出しているのだと思います。もし、本気で踏み込むとなると、やはり政治的に大きな調整が必要ですが、それは2016年に参議院選挙があるので、その影響を考えて少し曖昧にしているというのが現実だと思います。

工藤:なぜ、こんなに曖昧にしたのですか。やはり選挙を意識しているのですか。

湯元:2020年までの黒字化目標は、現実問題として非常に困難になっていますが、その最大の理由は10%を超えた先の消費税の引き上げが、政治的に封印されているということですね。政治的決断を全然していない。そういう中で20年までの黒字化目標を達成できるような姿を描こうと思っても、現実には数字できちっと描くことは非常に難しい。仮に数字を出した瞬間、非現実的であるという批判をあちこちから浴びることとなりますので、大枠もなかなか出せませんし、細かい数字もなかなか出せません。そこで、考え方を整理してまとめたというのが、今回の骨太の方針の中身だということです。

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