言論スタジオ

財政健全化計画を評価する

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2015年7月3日(金)
出演者:
小黒一正(法政大学経済学部教授)
鈴木準(大和総研主席研究員)
田中秀明(明治大学公共政策大学院教授)
湯元健治(日本総合研究所副理事長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



経済成長に依存しすぎた計画になっている「骨太の方針」

工藤:議論の中で、安倍政権が本当に財政再建について本気で考えているのかという本質的な問いかけもあったわけですが、計画が出てきた以上、その妥当性もきちんと見てみたいと思います。先程湯元さんからも経済成長と財政再建の2つを同時に追っている計画になっているというお話がありました。そうすると、どちらに軸足を置くのかという点でも、非常にわかりにくくなっている気がします。まず、この2つをくっつけている意味をどう評価するべきでしょうか。

二兎を追うのではなく、経済成長に依存しすぎた計画になっている

鈴木:先程湯元さんから財政再建計画が骨太の方針の一部になったというお話がありました。私は、経済財政一体改革というのは、考え方としては正しいと思います。安倍政権は「経済再生をやる」と約束して登場して、今も支持を得ている政権ですから、それを前提にしないとなると、それはそれで政策の体系としておかしなことになる。もちろん、財政再建という観点からは、もっと保守的なマクロ経済環境を想定すべきだと思いますが、政策の体系としては、妥当だと思います。

 他方、骨太の方針のサブタイトルが「経済再生なくして財政健全化なし」となっています。これは小泉政権の時の「改革なくして成長なし」のパロディ的なものだと思いますが、これはちょっと違うと思います。私は経済と財政は同時に物事が起きているので、「二兎を追えるか追えないか」という話ではなくて、「両方達成できるか両方達成できないか」のどちらかだと思います。そういう意味で、今回、歳出改革の中で、公的サービスの産業化とか、インセンティブ改革、公的サービスのイノベーション、国民的取組など、そういうキーワードが見られます。政府の歳出を減らすので、その分民間の支出を拡大させる、つまり、民間の資金余剰を少し減らさなければ、政府の資金不足も閉じないわけですから、そういうことを考えた、と。これを財政再建ということに限定して考えると、ちょっとふわふわしすぎていて、本当に達成できるのかという疑問を持ちますが、日本の財政や日本の経済を考えた時に、私はそれしか解がないのかなと思っています。結局、どれくらいできるかできないか、ということがこの問題の解決のカギであって、「前提とする成長率が高すぎる」という議論もありますが、現在GDP比で3.3%のPB赤字を0にするということは成長率に関係なく実現しなければならないことですね。

 今回、財政再建の議論で失敗だったと思うのは、2月の内閣府の中長期試算を使って、「ベースラインケースだと16.4兆円の赤字が残ります。経済再生ケースだと9.4兆円残ります」と、この名目の実額ベースで議論を始めてしまったわけですね。経済再生をしたら、つまり、デフレ脱却して物価上がれば政府の歳出も当然増えます。経済再生するというのは、実質賃金が上がることですから、公務員の賃金も上がれば、医療報酬、介護報酬も上がってくるわけですね。だから、実質的に、あるいはGDPで見てどうかという議論をしなければいけませんが、どうも名目の金額で議論を始めてしまっている。今の中長期試算では、最初すごく増やすプランになっているので、「そんなに増やさなかったら何とかなるのではないか」という議論になってしまったというのが失敗です。やはり、歳出削減のルールがもっとなければならない。実際には歳出を増やさなければ財政再建できると言っていますが、増やさないということはすごく難しいことですから、やはりルールがないと難しい。だから、経済と二兎追うということは正しいと思いますが、歳出について、成長率と関係なく歳出を抑制するというルールがないところが問題だと思います。

工藤:ここでもアンケートを取っています。「今回の骨太の方針は、経済成長と財政再建の二兎を追うようなアプローチになっていますが、こうしたアプローチは日本の財政再建にとって機能すると思いますか」と尋ねたところ、「機能しないと思う」が50.5%、「機能すると思う」が17.1%でした。財政再建のために残された時間も少ない深刻な状況の中、きちんとした目標も必要なのではないかという有識者の意識が、この結果に表れているような気がしますがいかがでしょうか。

湯元:基本的に、今までは財政だけの目標を出していましたが、今回は経済成長の目標の中に含めながら財政再建を同時に実現する、というものになっている。「経済再生なくして財政健全化なし」というのは私もその通りだと思いますが、経済成長だけで財政健全化できるのかというとそうではない。社会保障のように高齢化によって明らかに経済成長を大きく上回って伸びている歳出がある以上、経済成長だけで財政健全化できないことも事実で、経済成長を上回る歳出を抑制する仕組みが、ビルトインされていなければならないと思います。しかも、社会保障分野は歳出抑制するのが政治的に難しい分野です。国民が痛みを直接感じる分野ですので、歳出抑制の議論だけでは、なかなか終わらない。追加的な社会保障の財源をどう調達するか、という点で、封印している消費税10%超への引き上げについて、いつ上げるかまでは今決定する必要はないと思いますが、議論だけはできるだけ早く開始しておかなければならない。しかし、その議論が2018年度以降に先送りされてしまっている。経済成長と財政再建の二兎を追うといっても、事実上は経済成長に依存した計画になっている、しかも、高い成長率を前提としているけれど、それが実現するかどうかということに対して疑念があるので、アンケートでもこういう結果になっているということですね。

田中:この二兎追うこと自体はよいと思いますが、注意しなければならない点があります。ほぼ同じことをやっている、イギリスのお話をしたいと思います。イギリスはまさに政府のアジェンダとして、二兎を追っています。

 まず、予算制度についての法的な改革をやっている。イギリスで財政赤字が大きくなった一つの理由は、景気循環を考慮しないで、成長率の予測が楽観的であったことがありました。そこで、財務省から、予測部分を切り離して、予算責任局を作って、専門委員が推計するという仕組みにしました。日本の場合、これまで財政再建の試みが幾度となく行われていますが、楽観的な成長率を見積もった結果、景気悪化のショックを受けてできなくなったというパターンの連続です。楽観的な成長率を見積もっている国ほど赤字が大きいということは統計的に立証されていて、残念ながら日本は失敗の歴史を学んでいない。

 次に、医療等を除く歳出を25%削減するという非常にドラスティックな改革をやりました。ただし、弱者に対する配慮も入れてメリハリをつけながらやりました。

 さらに、財政再建はデフレ効果をもたらすため、日本と同じように、金融緩和と成長戦略をやりました。ただ、日本とは雲泥の差があるのは、イギリスの成長戦略は財務省が作っている点です。財務省が作っていますので、予算の数字が入った、必要かつ実行できる範囲の政策が盛り込まれている。日本の場合は、各省が「こういう政策をやりたい」という、いわばウィッシュリストが入っていて、優先順位がない。しかも例えば、科学研究費の間接経費を30%にするとか、セキュリティー対策をするとか、それ自体は否定しませんが、成長との因果関係がないものが多いわけですね。

 イギリスは財政悪化した時、日本よりも財政赤字が大きかった。経済もほぼ同じくらい悪かったのですが、今年に至っては、実質成長率が2%になっていて、主要国先進国の中ではトップランク。財政赤字も2019年には0になる。イギリスは最初は苦しかったものの、あっという間に改革を行って、この二兎を達成しつつある。日本とイギリスがいかに違うかということがお分かりいただけるかと思います。

小黒:まず、認識しなければいけないのは、二兎追う時の時間軸です。経済成長率も今の経済成長率なのか、それともしばらく後、つまり4、5年経った後の経済成長をターゲットにしているのかでは全然話が違う。今の日本銀行がやっている異次元緩和。それから、ちょっと前に安倍政権が最初にやった財政拡張による景気刺激策。いずれもマクロ政策というのは、ファインチューニングしかできなくて、根本的な経済の規模を変えていくというのはできないわけです。そう考えると、一番重要になってくるのは、財政の改革をどうするか。その場合に日本銀行が今、やっている金融政策の限界を十分認識する必要があると思います。一説では、国債発行残高が800兆円くらいある中で、日本銀行は約200兆円の国債を保有している。日本銀行は昨年の10月に追加緩和をしましたが、80兆円ずつ増やしているわけです。他方で、新しい国債は30兆円くらい出ているわけですが、そうすると民間の銀行や生命保険会社からネットで80引く30で、50兆円ずつ自分の方へ吸収するわけです。今、日本銀行以外の金融機関がだいたい600兆円くらい持っているとすると、これを12年間続けると、全ての国債を日本銀行が保有することになる。そこまで行きつけるかというと、そうではなくて、マーケットの関係者に話を聞いたりすると、3年くらいで枯渇するような話になってくる、と。そうすると、今の政府が考えているような時間軸、つまり、「2020年」という話の中で、金融政策が支援できる期限は限られているわけですね。それと同時に財政の限界もあって、10%に上げたとしても、それだけでは足りなくて、最終的にはどこかでラディカルな社会保障の改革に踏み込まなければならない。政府債務(対GDP)を発散(無限に膨張)させないために、消費税率を100%に上げざるを得なくなる限界の年を推計した人がいますが、これは2030年頃になるという計算もあります。1997年4月の消費増税実施(3%→5%)から、2014年4月の増税(5%→8%)が決まるまで17年もの時間がかかっているわけで、社会保障改革もしていくことを考えると、かなり時間的に差し迫っている。こういう状況の中で今、全く痛みを伴わない経済成長メインによって、財政再建できるのかというときわめて難しい。経済成長率のタイムレンジを今ではなくて、もう少し先の経済成長率を引き上げるということを前提としながら、同時に社会保障と財政改革をしていかないと、時間がなくて間に合わなくなってしまい、日本がギリシャみたいになる可能性があります。

工藤:具体的な目標数値がないと、議論する意味がないというお話もありましたが、今回の計画の中で、「2018年度のプライマリーバランスの赤字幅を国内総生産(GDP)比で1%程度にする」、「一般歳出の総額の実質的な増加を、これまで3年間と同水準(1.6兆円程度)に抑える」という2018年までの中間目標(目安)が出されています。

 アンケートでは、この目安を達成できるかを質問したところ、「両方とも達成できないと思う」が55.9%で、「両方とも達成できると思う」は6.3%しかありませんでした。骨太の方針で示されている計画に対して疑問がここまで高いことについて、どう思われますか。

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