言論スタジオ

日本の防衛白書と中国の国防白書から、両国の相違が浮き彫りに

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出演者:
松田康博(東京大学東洋文化研究所教授)
小原凡司(東京財団研究員・政策プロデューサー)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



 7月に日本政府が防衛白書を、5月に中国政府が国防白書をそれぞれ公表したことを受けて、今回の言論スタジオでは、「日本の防衛白書と中国の国防白書を読み解く」と題して、松田康博氏(東京大学東洋文化研究所教授)、小原凡司氏(東京財団研究員・政策プロデューサー)の両氏をゲストにお迎えして議論を行いました。


透明性が後退している中国の国防白書

 まず冒頭で、両氏から日本の防衛白書と中国の国防白書についての基本的な説明がなされ、その中で「軍事的な透明性確保」という視点からは中国の国防白書が年々後退していっている現状が浮き彫りとなりました。

 小原氏が「サブタイトルが『中国の軍事戦略』となっているように、(透明性を明らかにする)白書というよりはアメリカの国家軍事戦略のような性格を持っている」と指摘すると、松田氏は、これまで出された国防白書の現物を手にしながら、「最初は一定のボリュームがあったが、今年のものはA4で数ページのペーパーに過ぎない」「元々、中国の国防白書は、軍事的な透明性を求める国際的な圧力によって出されたものだった。しかし、中国がどのような思想に基づいて軍を作ろうとしているのか、ということに関して周辺国は今も疑心暗鬼になっている。周辺国を安心させるためにも中国が『正直に言う』ということは重要だ」と述べました。


「好戦的」でなくても関与を止められない中国

 次に、国防白書の中身に議論が移ると、中国は現段階では積極的に打って出て、アメリカ等にチャレンジしようとしているわけではなく、まずは軍事力の整備を進めている段階である、という指摘が相次ぎました。

 小原氏が、白書からは中国が大国としての自信を深めている様子も垣間見えるとしつつも、「『軍事闘争の準備』や、『実戦化』というキーワードからは、(人民解放軍が)まだ実戦には適していない、戦えるための体制を整えることが先決であるという問題意識が表れている。『闘争』とは言っているものの、これは『好戦的』ということを意味しない」と述べると、松田氏も「人民解放軍幹部の腐敗などの問題もあったので、『このままでは戦えない』という内部に対する檄のような意味合いもある」と分析しました。

工藤泰志 これを受けて工藤が、「そうであるならば、南シナ海への関与を止めて、今は力を蓄えることを優先すべきではないのか」と問いかけると、松田氏は、「中国には南シナ海も東シナ海も台湾も『本来は自分のものなのに、周辺諸国がアメリカまで味方に引き込んで挑戦してきている結果、自分のものになっていない。(関与は)そうした挑戦に対する自衛なのだ』という被害妄想的な論理が根強くある。そうした中で、強い対応をしないと軍の存在意義が問われることになる」と解説しました。


戦後70年、中国が真に目指していることは、国際社会の規範形成の主体となること

 続いて、議論では、戦後70年という節目の年に、中国が国際社会における自国のポジションを調整しようとしている姿が、浮き彫りになりました。

 これに関して小原氏はまず、「中国には戦勝国であるにもかかわらず、長い間国際規範の形成に関与できなかったという不満がある。だから、戦後70年という節目の年に、記念行事などを通じて戦勝国であることをアピールして、国際的なルール作りを主導したいという意図がある。アメリカとの『新型大国関係』もその文脈の延長線上にある」と述べました。続けて小原氏は、「そうした中国の台頭そのものよりも、国際社会が『力による現状変更』もルールの範囲内のことと許容してしまうような状況になりつつあることが問題だ」と警鐘を鳴らしました。

 これを受けて松田氏も、「中国は海洋に関しては一切妥協しない。東シナ海に関しては日本が現状変更しなければ静観を続けるかもしれないが、南シナ海では敵が多く、それぞれが現状変更に踏み出しているため、対応を急ぐだろう」と懸念を示しました。


互いにしっかり説明し合うことが不可欠

 日中両国の白書からは、両国ともにお互いの安全保障政策に懸念と対立を深めている姿が浮かび上がっています。言論NPOが10月末に北京で行う安全保障対話では、両国の関係者が、こうした安全保障の展開について議論を行うことになっていますが、そこでどのような対話を行うべきか、をアンケートで有識者に尋ねました。その結果、「まず、お互いがなぜこうした政策を取ったのか、その原因や政策の中身を、相手国が理解できるように説明しあうこと」(42.7%)と、「お互いが東アジアの平和をどのように構築するのか、そのための協力策を話し合う」(36.3%)の2つが4割前後で並びかけました。さらに、「お互いの政策に不信がある以上、議論を行う余地は少ない」は4.8%に過ぎなかった、という結果が工藤から紹介されると、両氏からも両国間で継続した対話を行うことの重要性を指摘する声が相次ぎました。

 松田氏が、「実は、実務担当者には『議論の余地はない』という考え方の人は多い。しかし、そういう人でも実際に相手国へ行って現状を自分の目で確かめると印象が変わったと言う。だから、そうした継続的な交流が必要だ」と述べると、小原氏も「中国も日本の安保法制に強い関心があり、日本の本音を聞きたいと思っている。日本の安保法制は複雑なので、中国のみをターゲットにしているものではない、ということをしっかり説明する必要がある。その上で、中国に「あなた方も国際社会の一員なのだから、『力による現状変更』をルール化するようなことはしないですよね」と対話を通じて念押ししていくべきだ」と語りました。

 これを受けて工藤は、「議論を通じて、北東アジアにおける平和で安定的な秩序づくりのための世論作りに取り組んでいきたい」と述べて、「第11回東京―北京フォーラム」における議論の展開に意欲を示し、白熱した議論を締めくくりました。


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