言論スタジオ

今、中国経済に何が起こっているのか

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2015年9月24日(木)
出演者:
河合正弘(東京大学公共政策大学院特任教授、アジア開発銀行研究所所長)
田中修(日中産学官交流機構特別研究員)
三浦有史(日本総合研究所主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



 中国経済の現状や先行きに厳しい見方が広がる中、9月24日収録の言論スタジオでは、東京大学公共政策大学院特任教授で、アジア開発銀行研究所所長も務められた河合正弘氏、日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏、日本総合研究所主任研究員の三浦有史氏の各氏をゲストにお迎えして、「今、中国経済に何が起こっているのか」と題して議論が行われました。

 議論では、市場が考えているほど中国経済の現状は悪くないものの、これまでの過剰投資主導の経済から、消費主導の経済への移行を目指すための構造改革に苦慮している現状が浮き彫りとなりました。今後の課題としては、「成長」と「構造改革」を、うまくバランスを取りながら同時に進めていくことが重要であるとの認識で、各氏の見解は一致しました。


中国経済への疑心暗鬼からややナーバスに反応している世界の市場

 まず、中国経済の現状認識として、河合氏は、いわゆる「李克強指数」など、各種の経済指標が、総じて悪いことを背景に、「(習政権が掲げる7%程度の成長率目標よりも)実際の成長率はもっと悪いのではないか、という疑念が市場にはある」と述べました。
さらに河合氏は、これまで中国経済を牽引してきた製造業が、過剰生産、過剰設備などの問題を抱え、かなり深刻な状況であることを指摘した上で、今後の中国経済のポイントとして、「GDPの50%以上になっているサービス産業が、高い成長率を維持すること」「製造業も、平均で6%台から7%の成長率を維持すること」を挙げました。


 これを受けて田中氏は、中国経済に対する疑心暗鬼が市場に広がっているのは、「中国の四半期のGDPの計算方法が、先進国のそれとは全く異なる、ということを忘れて判断した結果」と指摘しました。

 田中氏は、「先進国の四半期のGDPというのは、3カ月前との比較で計算しているが、中国の場合は、1年前と比較する計算方法になっている。したがって、去年の状況によって大きく左右されてしまう。そこで例えば、昨年の10~12月期を前期比で計算してみると、GDP成長率は7%を割っていたが、今年の4~6月期では7%になっている。つまり、3カ月比較で見ると、実は少し戻してきている」と解説し、市場が実態とは異なるにもかかわらず、過剰に反応してしまっているとの見方を示しました。

 三浦氏も、日本側の視点として、「(中国経済が)いつかは落ちてくる」と危惧していたところに、各種経済指標の悪化のニュースが飛び込んできたので、「市場がナーバスになりすぎているのではないか」と指摘しました。

 その上で、中国経済を病気に例えながら、「集中治療室(ICU)に入って緊急手術を受けなければならないほどは悪くない。しかし、投資効率の悪さなど、この30年で積み重ねてきた色々な疲労みたいなものが経済の中に溜まっている。そこで、人間ドックに入って検査をして、生活習慣病のような経済発展の非効率なスタイルを、抜本的に見直す時期に来ているが、それがなかなか進まないがゆえに、中国を見ている人々の不安も増幅されている、という状況だ」と分析しました。

 この病気の比喩を受けて、河合氏も、「2008年に行った4兆元(約80兆円)の景気対策以降、さらに拡大した過剰な債務、過剰な設備、過剰な投資を上手く減らしていって、安定的な経済成長にソフトランディングさせていかないと、いずれICUに入ってしまう可能性がある」と述べました。

 そのソフトランディングの方向性について、田中氏は、今の中国経済が、「高度成長から中成長へのギアチェンジの時期」「構造調整の時期」「4兆元対策の後遺症をどう解消していくのか、という消化の時期」という3つの時期が、すべて同時期に重なっているので、非常に難しい状況であるとの認識を示しました。


「小康社会」実現のためには、構造改革が不可欠であるが、難しい舵取りを迫られている

 続いて、議論は、中国が2020年に目指している「全面的小康社会」実現に向けた構造改革の可能性に移りました。

 田中氏はまず、今の中国は「身の丈を合わせた経済成長のために調整をしている段階であり、その中である程度経済状況が悪化してしまうのは仕方がない」と述べた上で、「問題なのは、悪い経済状況に耐えきれずに、再び大きな景気対策をしてしまうことだ。実際、そういう圧力はある。しかし、それをやってしまうと、4兆元対策の焼き直しになり、また構造調整を迫られ、構造問題がより深刻化する。そうなれば、2020年目標の達成も難しくなる」と指摘しました。

 次に地方債務の問題について田中氏は、「抜本的に中央財政と地方再生の財源配分を見直す。例えば、地方税を充実させるとか、日本でいうところの交付税を強化するとか、かなり大きな見直しをしないと抜本的な解決にはならない」と指摘しました。

 続いて、過剰設備の問題については、「国有企業改革とセット」とした上で、「大規模なリストラや再編を伴う、つまり、人員整理に踏み切らなければならないが、『雇用は守る』と言ってきた李克強首相にとっては、雇用状態を悪化させずに、国有企業を再編していく、という難しい舵取りを迫られることになる」と解説しました。

 三浦氏は、国有企業改革について、「腹が据わったものになっていない」との見方を示しました。三浦氏はその理由として、2013 年 11 月の第 18 期中央委員会第3回全体会議(三中全会)の時から、「ここまでは国有企業がやる。ここから先は民間がやる」という「ネガティブリスト」を出すと言っていたにもかかわらず、それが一向に出てこないことを挙げ、「最初のステップである線引きができないところに、政府のリーダーシップの弱さを感じる」と語りました。それと同時に、現在進められている国有企業の大規模合併についても、「改革の原点を見失ったものだ」と疑問視しました。

 三浦氏は、それ以外の構造改革については、社会保障改革に言及しながら、「こういうところで、抜本策として、ちゃんと手を入れて解決していく、というのが、中国経済安定のための王道である。株価対策とか国有企業の大規模合併というのは、アドホックな政策にすぎない、場当たり的なものだ」と苦言を呈しました。

 これらの議論を受けて、工藤が構造改革を進めていく上での成長率の意味合いについて尋ねると、河合氏は、「ある程度の成長率がないと、雇用を維持していくことができない。また、これから色々な『過剰』を処理していくためには、成長率がどんどん下がっていく中では非常にやりづらい」と成長率は依然として重要であるとの見方を示しました。

 特に、国有企業再編の問題に関連して、「これは急速な過剰設備の削減につながるが、あまりにも速いスピードで行うと、成長減速が起きてしまう。だから、『7%』に固執するかどうかは別として、少なくとも6%台の成長を保ちつつ、色々な過剰問題を解決していく、ということが、究極的な課題になる」と語りました。


改革の第一段階に入っているが、そこに大きなジレンマがある

 最後のセッションでは、言論NPOが中国の13人の経済学者、エコノミストに対して実施したアンケート結果を基に議論が行われました。

 まず、「中国経済が、投資主導型から消費主導型の安定的な中成長に移行できるか」という設問で、中国側に「現時点では判断できない」という人が6人いた結果を受け、三浦氏も現段階では明確なことは言えないとの認識を示しました。

 その上で三浦氏は、これを占う一つのポイントとして、今年9月の党中央委員会で決定され、来年3月の全国人民代表大会(全人代)で発表される「2020年までの次期5か年計画の目標成長率」を挙げました。その中で三浦氏は、「これが6%くらいであれば、景気減速をある程度容認しながら改革を進めていくのだ、という意思表示だと見ることができるが、6.5%とか7%に設定すると、その成長を支えるだけの投資がまた必要になり、中国経済はまたじり貧に陥りかねない」と警鐘を鳴らしました。

 河合氏は、「消費主導型」に早く移行することを期待すると述べた上で、今は投資のGDP比率が40%後半にまで達しているが、これを急激に引き下げるとGDPが下がってしまう。だから、長い時間が必要だ。ただ、あまり長い時間をかけすぎると、高い投資率をずっと維持していくことになるので、これも危険だ。そのバランスをこれからどう取っていくのかという、非常に難しい局面にこれから何年かは入っていくのだろう」との見通しを示しました。

 その上で河合氏は、「個人消費のGDP比率は35%強と、まだ低い。これを、他国並みの60%くらいの水準に徐々に近づけていくことが必要だが、これも徐々にやっていくしかない」と語りました。

 田中氏は、「中国の人民元切り下げは現状程度(3%)で終わると思うか」という設問に関し、アメリカとの関係を考えると、「大幅な切り下げはない」との見通しを示しました。ただそれと同時に、「7~9月期のGDPの数値が悪いと、市場から強い切り下げ圧力がかかる可能性がある。そうすると、介入に追い込まれるかもしれない」と留保を付けました。さらに、今後も介入を続けられるかどうかは、9月25日の米中首脳会談の結果によると述べ、この人民元をめぐる問題が、米中首脳会談の裏の大きな争点になるとの認識を示しました。
次に、「構造問題に対して中国政府がコントロールできるか」という設問において、中国側に楽観視する回答が多かったことに対し、田中氏はやや異なる見解を示しました。まず、「国有企業改革が進まないのは既得権益層の抵抗があるからなので、そこを『反腐敗』で徹底的に叩いて、改革に反対できないようにしている。これが改革の第一段階だ」と説明した上で、「これは当局のマクロコントロールの能力を逆に下げる可能性がある。中央が色々な指示をしたときに、昔であれば上意下達ですぐに物事が動いていたが、最近は下手なことをやると、反腐敗で訴えられて自分が失脚するのではないかという恐怖感が、末端にまで満ち満ちていて、その結果として中央の政策がすぐに執行されない状況だ。こういう問題が、今、マクロコントロールの効果がなかなか現れない一つの原因になっている」と解説しました。


世界は中国をどう見守るべきなのか

 最後に、今後、世界は中国経済をどのように見守っていけばいいのか、について話が及ぶと、三浦氏は、9月5日に閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明で示されたように、「構造改革と景気の二兎を追う、つまり、成長率を一定水準に保ちながら、同時に改革を進めていく、というのが、中国の進む道として皆が望んでいるところだ」と述べた上で、「国有企業改革以外にも重要な構造改革はある。個人消費の伸びに関わるものとしては、格差や社会保障、戸籍などに手を入れていくことが重要で、その進捗状況を見守っていく必要がある」と語りました。

 田中氏は、特に構造改革が重要との見方から、G20の議論が、かつての「日独機関車論」のように、中国に景気を拡大させて世界経済のリード役となるべきである、と過大な期待を押し付けることなく、「きちんと構造改革をやれ」と注文を付けたことは、中国にとっても構造改革を進めるきっかけになったので、非常に良かったと評価しました。

 河合氏は、両氏の味方に賛同しつつ、もう一つのポイントとして、今後、アメリカ連邦準備理事会(FRB)による利上げが予想される中、それが中国の景気を減速させず、しっかりと構造改革を進めてもらうためには、どうすればいいのか、ということが重要な課題となるとの見方を示しました。

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