言論スタジオ

北東アジアの平和秩序を考える上で、台湾総統選をどう読むか

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2016年1月25日(月)収録
出演者:
松田康博(東京大学東洋文化研究所教授)
伊藤信悟(みずほ総合研究所アジア調査部中国室室長)
若林正丈(早稲田大学政治経済学術院教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



 言論NPOでは、2016年の「北東アジアの平和的秩序」を考える議論の第2弾として、松田康博氏(東京大学東洋文化研究所教授)、伊藤信悟氏(みずほ総合研究所アジア調査部中国室室長)、若林正丈氏(早稲田大学政治経済学術院教授)をお迎えし、1月16日の台湾総統選の結果がこの地域の今後にどのような影響をもたらすかを議論しました。

 議論では、台湾の「ナショナリズム」を背景に誕生した蔡英文政権下で、中台関係が緊張化するとの予測が示される一方、経済的な依存関係に配慮し、対立の激化を防ぐため双方が妥協を模索するのではないかとの見解も出されました。また、日本を含めた地域の秩序構成に関連して、中国とも合意形成を図りつつ台湾を地域の経済連携に組み込んでいくべきだという意見と、日台関係に対する中国の牽制に注意し、主権をめぐる問題でも周辺国が連携して中国に物申していくべきだという意見の両方が語られました。


馬政権の対中傾斜と、社会公正への不満がもたらした蔡氏の大勝

 まず、民進党の蔡英文氏が大勝した今回の選挙結果の背景について、若林氏は、馬英九政権下が「対中改善」を掲げて政策実行を急ぐあまり、民主的な手続きの軽視や社会公正といった面で問題が表面化したことを指摘。その不満から盛り上がった「第二次民主化運動」ともいうべき社会運動が、蔡氏という新しいタイプのリーダーのもとで再建を図った民進党を後押しした、と振り返りました。伊藤氏は経済の観点から、馬政権が進めた中国との通商面での規制緩和の恩恵が社会全体に行き渡っていない、という批判が出るとともに、中国経済の減速により対中連携を優先する路線が支持を失った、と分析しました。

 一方、蔡氏の主張のポイントについて松田氏は、経済政策では「分配の正義」を打ち出して所得分配への不満に応えたこと、対中関係では、台湾経済に占める中国の存在感に配慮し、民進党の本来の主張である「独立」には触れずに「現状維持」という慎重な立場を取ったこと、を挙げました。若林氏は、馬政権下で生じた様々な民生問題に対し、「正義」を訴えて社会団体の支持を取り付けたことを強調。また、伊藤氏は蔡氏の経済政策の特徴として、「イノベーション」の重視や、中国だけでなくインドや東南アジアとも関係を強化する「全方位」の経済連携、若者の失業や少子高齢化といった課題に対する「安心・安全」というキーワードを説明しました。


中台関係は緊張の基調に。しかし、両国ともに「落としどころ」を探るはず

 続いて、総統選をめぐる中国の対応について松田氏は、蔡氏が独立に言及しない代わりに、中国も選挙結果に干渉しない、といった形で双方が対立を深まらないよう「落としどころ」を探っているのではないか、との見方を示し、伊藤氏はその背景として、中国が自国の経済運営や安全保障で問題を抱える中、さらに中台関係という火種が生じるのは避けたいのではないか、と分析しました。

 一方、若林氏は、蔡政権下での中台関係の方向性に関連して、民主的な選挙制度の中で、「自分は台湾人だ」という意識が年々強まっていることを指摘。そうした中、「一つの中国」を認めない「台湾ナショナリズム」の政党である民進党が政権を獲得したことで、「中国は台湾の一部である」という立場を崩していない中国との関係が「緊張の基調に入った」と語りました。

 これに対し松田氏は、中台とも経済面での相互依存が進んでいることから、決定的な対立は避けたいと述べ、双方が互いの内部で都合の良い解釈ができる内容の合意をする「不同意の同意」が図られるのではないか、という見通しを示しました。


中国に物申しつつ、中国の同意も得ながら日台の連携を進めていくべき

 アジアの秩序構造が変化する中で今回の選挙が持つ意味について、若林氏は、中国の拡張主義的な行動に対して、周辺国で反発が起こっているという新しい波の象徴だ、と指摘。これを受けて伊藤氏は、中国が今後も経済大国としてプレゼンスを拡大することが確実となる中、ソフトパワーを強化して地域の安定を図り、尊敬される大国となれるかどうか、中国自身も試されていると語りました。

 中国と周辺国との関係のあり方に関し、松田氏は、どんな政治共同体であっても自らの主権への挑戦には強い反応に出ざるを得ず、中国もそれに全く無関心ではいられない、と述べ、周辺国が連携して、介入の限度について中国に要求していくことが必要だと述べました。

 日台関係の今後について伊藤氏は、日本でG7、中国でG20が行われる今年、日中が世界の安定に向けて協力する機運がある中で日台関係を前に進めていくことは日本にとっても重要だと強調。日台FTAや台湾のTPP参加を進め、その環境づくりのため中国とも合意形成を図ることを提言しました。一方、若林氏は、日台関係に対する中国の監視は今後厳しくなっていくとの予測を示し、連携にあたって中国の動きを注意深く見ていくべきだと語りました。

 最後に、司会を務めた言論NPO代表の工藤は、「アジアや世界が大きく変化する中で、日本の立ち位置を戦略的に考えるタイミングに来ている。私たちもこれをベースにいろいろな議論に挑みたい」と述べ、議論を締めくくりました。

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