言論スタジオ

COP21での合意の実現に向けて、日本は何ができるのか

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2015年12月28日(月)収録
出演者:
松下和夫(京都大学名誉教授)
藤野純一(国立環境研究所主任研究員)
小圷一久(地球環境戦略研究機関上席研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



 昨年の11月末から12月にかけてパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)にて、2020年以降の温室効果ガス排出量削減のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。これを受け、今回の言論スタジオでは、COP21開催中にパリでの関連する会議に参加した松下和夫氏(京都大学名誉教授)、藤野純一氏(国立環境研究所主任研究員)、小圷一久氏(地球環境戦略研究機関上席研究員)をお迎えして議論を行いました。

 今回の「パリ協定」は全参加国間で合意に至り、歴史的意義のある合意であるものの、合意をどのように実現していくのか、といった具体化はこれからであり、2016年は目標をどのように実現していくのか、具体的な成果を上げる年にするべきとの意見で、3人の意見が一致しました。


「パリ協定」は、温室効果ガス排出削減に関して全ての国が参加した歴史的合意

工藤泰志 まず、司会の工藤が、COP21における合意の意義と全参加国が合意した背景、そして開催期間中の現地の雰囲気がこれまでの会議とどう異なったのか、と質問しました。


 松下氏は、1997年のCOP3で採択された「京都議定書」が、先進国だけに対して温室効果ガスの排出抑制義務を課していたのに対して、COP21に採択された「パリ協定」は、途上国も含めた全参加国が温暖化対策に取り組むということで合意できたという点、そして長期的目標として平均気温の上昇を産業革命の前と比べて2℃未満にできるだけ低く抑えるという「2℃目標」と、すでに島嶼国が影響を受けていることも考慮して、1.5℃に抑える努力をしていくという長期的な目標が明確に書かれた点から歴史的な合意であると述べました。

 こうした合意の背景には、温暖化が原因と思われる様々な被害が起きていることで緊急性が高まったことに加え、議長国のフランスが、各国の意見をできるだけ取り入れ、各国が自主的に提出した約束をもとに議論を進めたこと、冒頭に各国の首脳がメッセージを出し、実務的協議を経て、閣僚級でまとめるようアレンジを行うなど周到な準備を行ったことを挙げました。

 藤野氏は、先進国、途上国など様々な当事者が歩み寄ったことでできあがった合意であるという意識を現地で強く感じたと述べた上で、日本、EU、アメリカに加え、中国、インド、ベトナムなどの途上国が自ら温暖化問題への取組みを紹介するパビリオンを開設していたことを挙げ、これまでのCOPとの違いを指摘しました。また、「2℃目標」について、先進国と途上国が自主的に計画を提出し、それがレビューされ、5年に1回改定され、改定されるプロセスで必ず上方修正がなされる「グローバル・ストックテイキング」という仕組みが出来た意義は大きいと指摘しました。


日本のプレゼンスが低下していることが明らかになったCOP21

 続いて工藤から、COP21において日本がいかなる役割を果たしたのか、との問いかけがなされました。

 これに対して藤野氏は、COP21の非公式交渉グループにおいて、日本が議長、共同議長を頼まれず、島礁国と先進国による「野心連合」にも当初誘われなかった点に触れつつ、日本側も安倍総理、丸川環境大臣が参加したものの、プレスリリースなどを通じて、積極的にメッセージを出すこともなかったことも日本の存在感低下に繋がったと指摘しました。

 小圷氏は、今回のCOPにおいて、安倍総理が途上国に年間約1兆3000億円の気候変動対策事業を行うことを表明し、また、会期中にフィリピンとの二国間クレジット制度の署名式を行うなど、日本は、非常に高い額を拠出しているものの、具体的に日本の顔が見える形で貢献しておらず、まだまだ不十分だ、と指摘しました。

 松下氏は、パリでのテロの影響のため、日本の企業プレゼンスが小さかった一方で、ビル・ゲイツが、27人の投資家と新エネルギー技術開発のために共同基金を作ったり、パリ市長と都市・気候変動担当の国連特使を務めるマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長が中心となって、世界の主要都市で温室効果ガスを削減すると約束をしたりと、政府以外の企業、自治体の動きが非常に盛り上がってきたということも今回の特徴だと指摘し、ました。


「2℃目標」を実現するためには、温室効果ガスにおける「ゼロ炭素」の実現を目指す

 続いて、今回のCOP21での合意が、地球温暖化を阻止する上でどういう意味を持つのか、そして、最終的に何を目指すのかについての議論になりました。
 
 松下氏は、「2℃目標」を実現するためには、21世紀後半に、温室効果ガスの排出量をゼロかマイナスにしなければならず、今回、各国政府が提出した2020年以降の温暖化対策に対する目標である「約束草案」を実施するだけでは、「2℃目標」達成には不十分であり、将来、出来るだけ早く、より高いレベルにした上で産業界、自治体、市民社会が取り組んでいる勢いを高めていく必要があると述べました。

 小圷氏は、「パリ協定」が「緩和」と「適応」という表現を用いて、温室効果ガスの排出を削減(「緩和」)するとともに、温暖化によって生じた被害を抑制(「適応」)していくという2つの目標を達成するために、技術、資金、能力構築を通じて、支援していくと定めており、どう実行していくかが今後問われていくと指摘しました。

 藤野氏は、「排出量取引」を始めとする国際的な協力は更なる削減に向け、現在も有効であるが、工場から排出されるCO2を取り除いて、地中や海に埋める炭素隔離貯留技術やCO2を吸収するバイオマス・エネルギーを組み合わせることで、世界全体で「ゼロ炭素」の実現を目指していると述べました。


温室効果ガス排出対策と同時に、地球温暖化を前提とした社会の構築も必要

 さらに、議論は地球温暖化の進行具合について、すでにかなり重要な局面に入っていて、その問題と併存しながら対策を立てなければならないと追い込まれているのか、それとも将来、解決できる可能性を持っている局面なのかという点に及びました。

 松下氏は、世界各国でこれまで経験したことのない洪水、高温、高潮などの被害が発生している現状を踏まえ、大事なことは、出来る限り温暖化の原因となる温室効果ガスを減らすことに加え、現実に進行している温暖化に対する適応の両方を同時に行う必要があるとして、日本政府は昨年10月に適応計画を出しているが、「パリ協定」を受けて、これから国としてきちんとした緩和対策、温室効果ガスを減らす計画を作っていくことが重要と述べました。

 藤野氏は、本来、長期的な傾向で見えるはずの温暖化が、異常気象として短期的にも顕現していることは問題であり、既に温暖化というトラックに乗ってしまっており、そのトラックの既定路線からどう外していくか、という段階なのだと指摘しました。

 小圷氏も、「世の中も温暖化を前提として社会を作らなければならず、ある意味、すべての国が認識し始めたということが現実的なところなのだと思う。ただ、日々の生活と温暖化が、直接繋がらないところが難しい点だが、やはり、大きな視点で考えると、我々はすでに温暖化の世の中で、温暖化を前提に生きていかなければならない状況だ」と述べました。


日本は、化石燃料からの転換をはかる世界の動向を意識した議論を

 続いて工藤は、日本が温暖化に真剣に向き合う上で、原発の問題にも向き合わなければならないことを指摘しました。そして、昨年6月、日本政府から出された2030年のエネルギーのベストミックスで、原発を再稼働させ20~22%程度にすること、それを若干上回る22~24%程度の再生可能エネルギーを示したものの、多くの電力を石炭火力に頼っていることが、世界が考えている方向性の中で、エネルギー供給体制を作っているのではないかと問題提起しました。

 これに対して松下氏は、アメリカを含め、世界的な傾向としては、石炭火力は、徐々に廃止されていく傾向にあり、中国でも石炭の消費量は減少している。加えて、世界銀行など公的な開発援助機関は、石炭火力に対する援助を縮小する方向にあり、世界の投資家達は、石炭に対する投資を引き上げる動きが出ていていることから考えると、日本の現在の、石炭火力の国内における増設だとか、海外援助で石炭火力を推進するのは、世界の動向とやや異なっていると思うと指摘しました。

 藤野氏は、COP21において、日本の「約束草案」が関心を呼ばなかったことを紹介した上で、日本におけるエネルギーのベストミックスの決定についての決定プロセスについて、温暖化についても十分考慮して、というわけではなく、安全保障の観点が強く、経済力をもとに資源を購入することでエネルギーを維持するという安全保障の議論がいつまで有効なのかという議論も見られないと指摘しました。

 小圷氏も、COP21の開催中に、「温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比マイナス26%」という日本の約束草案に対して、世界的には日本の製品は非常に省エネが進んでいるという印象を持っており、「日本は省エネ技術を持っており、もっと野心を向上させるべきではないか」と指摘を受けたと語りました。


歴史的な「パリ協定」の合意を実行に移し、具体的な成果を上げる年に

 最後に工藤から、2016年において環境がグローバルな課題においてどのような位置付けにあるかとの問いに対して小圷氏は、「国家を超えて、非国家主体、要するに我々自身に何が出来るのか、何を行えば環境問題に対する取り組みとなるのか、ということを意識し、行動することが非常に重要だ」と語りました。

 藤野氏は、これまで2050年までの長期目標を議論してきたが、これまでの仕組みを大事にしながら、さらに先の2100年を見据えて、全ての仕組みを振り向けていく新しいステージに入る年になる、と指摘しました。

 松下氏は、2015年は地球環境問題についてCOP21において「パリ協定」が、国連では「持続可能な開発目標」がそれぞれ採択された歴史的な年であり、2016年は設定された目標に向け、実行し、具体的な成果を上げていく年だと述べました。

 最後に、工藤は、世界が課題をベースに動き始めており、日本にいる私達も色々なことを考えていかなければならない段階に来ており、今日のような世界的課題についての議論を続けていきたいと決意を述べ、議論を締めくくりました。

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