言論スタジオ

人口減少が急速に進む中、少子化対策・雇用政策は進んでいるのか

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2016年6月18日(金)
出演者:
加藤久和(明治大学政治経済学部教授)
池本美香(日本総研主任研究員)
久我尚子(ニッセイ基礎研究所准主任研究員
白河桃子(相模女子大学客員教授、ジャーナリスト)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



 7月の参議院選挙に向けた議論の第2弾として、5月25日収録の言論スタジオでは、日本総研主任研究員の池本美香氏、明治大学政治経済学部教授の加藤久和氏、ニッセイ基礎研究所准主任研究員の久我尚子氏、相模女子大学客員教授、ジャーナリストで政府の一億総活躍国民会議の委員でもある白河桃子氏をゲストにお迎えして、少子高齢化問題について議論しました。

 議論では、少子高齢化問題においては、「タイムリミット」が切迫していることや、それにもかかわらず政治の議論は近視眼的なものにとどまっていること、さらに全体像が見えにくいために、国民側もなかなか自分自身の問題として捉えられないという現状が浮き彫りとなりました。また、先日打ち出された「ニッポン一億総活躍プラン」についても、これまで踏み込んでこなかった領域にも言及するなど、政府の問題意識に進歩が見られるものの、「まだまだ踏み込み不足」との指摘が相次ぎました。

もはや時間の猶予がない少子化対策

工藤泰志 まず冒頭で、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、海外のジャーナリストには、日本の人口減少問題に関心を寄せ、この問題を日本がどうマネジメントとしていくのか注目している人が多いことや、言論NPOが行った参議院選挙に関する有識者アンケートでも、少子高齢化への対応を、国政上最大の課題だと考えている人が多いことを紹介しました。
その上で工藤は、日本の少子化問題の現状や、政府の取り組みについて各氏に尋ねました。 

 これに対し加藤氏は、様々な長期的シミュレーションを紹介しながら、将来の日本の人口減少社会の姿を描き出した上で、「この問題は、財政、社会保障、経済など様々な面で将来に影響してくるにもかかわらず、短期的な視点での議論しかなされていないのが現状だ」と20年、30年先を視野に入れた議論の必要性を指摘しました。


 日本の保育政策を研究してきた池本氏は、これまでの政策が保育所を増やすことなど「数」ばかり追求し、「質」を重視してこなかったものだったと解説した上で、「子どもの貧困」などの問題が深刻化している中では、「子どもが安心して能力を伸ばせるような環境づくりが必要だ」と主張しました。


久我氏は、少子化対策において既婚者と未婚者ではその対策が異なることをまず指摘。その上で、既婚者への対策では一定の取り組みが見られるものの、未婚者への対策、とりわけ若者の雇用対策が不十分だと解説しました。


 白河氏はまず、若者の所得水準の低さを考えると、必然的に「共働き」の世帯が増えると述べた上で、それは同時に「共育て」世帯の増加も意味すると解説しました。そして、その「共育て」を可能とするためには、保育所の整備だけでなく、男性の長時間労働など根本的な「働き方改革」が不可欠との認識を示しました。
また白河氏は、いわゆる団塊ジュニア世代の一番下の年代が今年41歳であることを踏まえ、将来の人口維持のためには、「この人口ボリュームが大きい世代が子供を産むことが大きなカギとなるが、年齢的に出産可能なのはあと2年くらい」と述べ、実は日本の人口問題のタイムリミットが間近に迫っていることを明らかにしました。

AI・ロボットと高齢化社会

 次に工藤は、高齢化問題について、「対応は可能なのか」と尋ねると、加藤氏は、「可能」とした上で、その条件として、介護労働を効率化させるAI(人工知能)やロボットの開発促進をキーポイントとして挙げるとともに、医療・年金における負担と給付の見直しを不断に進めていくことも必要と語りました。白河氏は、「晩婚・晩産化時代」においては、子育てと同時に介護に直面してしまうという現状を指摘。その対策としては、「介護の社会化」を進めるとともに、子育てと同様、ここでもやはり長時間労働の是正が大きな課題になると語りました。

不安を解消するためにも、将来の「見える化」が不可欠

 さらに白河氏が、こういった問題が将来への不安を生み、結婚への不安にもつながっていると指摘すると、加藤氏は、「そのように将来像が見えないことが人々の不安の背景にある」とし、政治は『見える化』をしていくべきと語りました。久我氏も、「目の前の仕事や子育てのことで精一杯で将来のことはなかなか考えにくいというのが若い世代の実感ではないか」と語り、そういった生活感覚と結びついた問題意識でシステムや制度の見直しを進めていく必要があるとの認識を示しました。これを受けて加藤氏は、安倍政権が「新・三本の矢」や、今月閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」において、「希望出生率1.8」を目標として掲げ、「これを実現できなければ日本の将来は大変だということを『見える化』したことは評価できる」としつつも、「しかし、見せただけで財源の確保など具体策はまだまだこれからだ」と語りました。

これまで触れてこなかった問題を取り上げたものの、まだまだ踏み込み不足な「プラン」

 この加藤氏の発言を受けて、工藤は「ニッポン一億総活躍プラン」の評価を尋ねました。

 池本氏は、女性や子どもの問題を数多く取り上げたこと自体は評価しつつも、「大きな議論ばかりで財源をどう確保するか、そして、それをどう使うのかといった細部の詰めはなされていない」と指摘。長時間労働に関する問題提起を続けている白河氏は、「プラン」において、これまで働き放題を可能にしていた36協定における時間外労働のあり方について、「再検討を開始する」と明記されたり、労働基準法再検討の工程表が盛り込まれたことは評価したものの、「これまでそういった規制強化には経済界とのコンセンサスが必要だったため及び腰だったが、今回は本当に実行できるのか」、「そもそも社会の中にも『仕事が第一』といった『マッチョ思想』があるが、こうした風潮をどう変えるのか」などと述べ、まだまだ超えるべきハードルは多いことを示唆しました。久我氏は、「プラン」の中で保育士の処遇改善を打ち出していることについて、都市部では待機児童が多いが、地方ではかなり空きがあるなど、地域によって保育事情が異なる中で、一律に給料を上げることへの疑問を呈し、財源投下の「優先順位」を考えるべきと主張しました。

政治は今、何を語るべきか

 最後に、工藤は今夏の参院選において、政治は有権者に対して何を語るべきなのか尋ねました。

 加藤氏は、「負担の議論から逃げるべきではない。消費増税をしないとどういうことになるのか、そのシミュレーションを示しながら選択肢を提示すべき」と語りました。これを受けて池本氏も、「子育てを取り巻く環境にリスクが多すぎると多くの人が感じている」とした上で、そのリスクを取り除くためにどのような政策展開が求められるのか、その全体像を示すべきと主張しました。久我氏もこれに同意し、「雇用から老後に至るまで、若い世代が明るい将来のイメージを描けるようにすべきだ」と述べました。白河氏は、与党も同一労働同一賃金などリベラル的な政策を打ち出し、野党との違いがなくなった結果、選挙の争点もなくなっていると指摘。その状況の中では、各党は何に重点を置くのか、優先順位を示すことで独自色を出していくべきと述べました。一方、有権者、とりわけ選挙離れの目立つ若い世代に対しては、「保育園落ちたブログ」騒動から始まった署名活動のうねりなどを例に挙げながら、「若い世代にも力はある。一票を投じることで改めてその力を示してほしい」と呼びかけました。

 今回の議論を振り返った工藤は、「人口問題の難しさを改めて感じた」と述べた上で、「課題が存在していることを目の前の問題に対して自分で考えていくという流れが始まれば、政治は課題解決から逃げられなくなるのではないか」と指摘し、議論を締めくくりました。

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