言論スタジオ

外交・安全保障政策の評価と選挙で問われること

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2016年6月17日(金)
出演者:
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
川島真(東京大学大学院総合文化研究科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第一話:第二次安倍政権2年半の外交・安全保障政策を評価する

工藤泰志 工藤:言論NPOの工藤泰志です。さて、言論NPOは、7月に行なわれる参議院選に向けた議論を開始しています。今日は、安全保障そして外交の問題を議論したいと思います。

 私達はこの選挙を、「日本の将来」について考える貴重な機会だと思っています。日本を取り巻く世界やアジアの状況、その中で日本がこの世界、アジアの変化にどう向かい合って行けばいいのか、有権者はこの選挙を通じて、一見、非常に遠い話のように思える外交、安全保障問題についてどう考えればいいのか、という点について議論したいと思います。

 今回は、ゲストをお2人お招きしました。東京大学大学院総合文化研究科教授の川島真さん、慶應義塾大学総合政策学部准教授の神保謙さんです。よろしくお願いします。

まずは、安倍政権の外交問題、安全保障問題の評価を、いまの段階でもう一度行ないたいと思います。私達は去年の暮れに安倍政権の評価を行なって、その時の外交の点数は、5点満点で3.6点でした。韓国との従軍慰安婦問題が合意される前の状況で評価したのですが、3.6点というのは、非常に高い点数でした。今までの歴代政権の分野別評価がほとんど2点台という状況でしたが、その後も、G7をはじめ、色々な動きがありました。

 安倍政権が行なった外交、安全保障をどう考えれば良いのかというところからお話を伺いたいのですが、川島さんから、いかがでしょうか。

国際的プレゼンスは向上したが、3つの変数が心配の種



川島:まず2012年12月に安倍政権が誕生したころから考えますと、沖縄の問題は残っていますが、明らかに日米関係は安定しましたし、オバマ大統領の広島訪問も含めて、日米の和解というものが象徴的に示されたことは大きいと思います。

日中関係、日韓関係を見ても、日中関係も色々声がありますけれども、尖閣の問題で冷え切った状態よりはやや良くなったし、日韓関係については、慰安婦の問題に一定のめどがたったこともあり、かなり状況は変わってきています。

 国際的なプレゼンスを見ても、やはり安倍総理が長く総理をやっていることもあり、また非常に多くの国を訪問していることもあって、ある種国際的なプレゼンスを高めたということも確かだと思います。その集大成が、今年のサミットであり、あるいは国連安保理の議長国としてのパフォーマンスなのだろうと思います。

 しかしながら、他方で、脆弱とまでは言いませんが、変数というか、どう転ぶのか心配な点も出てきているのも確かだと思います。

 その1つが、今回のサミットでも議題に挙がった経済の問題です。その問題と今回の選挙を絡めながら、今、世界経済が危ない状態になりつつあって、何とか財政出動をしたり、あるいは消費税を先送りするための根拠を外交の現場から調達しようとしたことです。結果的に消費税を先送りにして、日本の国債含めた格付けが下がっていくことになるとすれば、日本の経済外交、その点はこれからどうなるのか、というのが大きな疑問点です。

 もう1つは、プーチン大統領の来日もありますが、日本におけるロシアという国の位置付けが、欧米、とりわけアメリカ、イギリスにおける位置づけと少し異なっていることが、どのような影響を与えるか、という点です。

 3つ目として、日中関係に対する日中両国の認識の違いです。日本の政府・官邸等における日中関係は段々と良くなっているという認識を示していますが、中国側の外交部筋から聞こえる声が、かなり食い違っているということも心配の要因だと思います。

工藤:今、川島さんがおっしゃいましたが、評価をする側から言うと、長期安定政権というのはきわめて大事で、今までは毎年政権が変わっていましたので評価にならなかったのですが、本格的な評価が可能な段階に来ていると思います。

確かに安倍政権の外交、安全保障は非常にレベルが高く、かなり戦略的に動いているということもわかりますが、川島さんが指摘したように、最後の最後に、外交を利用して国内問題を動かそうとするのが海外に見透かされたことが、ちょっと残念だったと思っています。神保先生、いかがでしょうか。

危機管理体制の向上と歴史問題を日本の国家観として捉え直す点で評価できる

 神保:年末の評価では3.6点という評価でしたが、実際はもっと高くてもいいくらいの政権ではないかと思います。既に川島先生がおっしゃいましたが、外交は戦略性と継続性が大事であって、その点からすると、2012年12月から政権が継続しているという重みは、非常に大きいと思います。

 おそらく、日本外交にとって非常に重要なポイントは、まず目の前で生じた危機にうまく対応できたのか,というのが非常に重要な点です。発足当初は、例えばアルジェリアにおけるガスプラント襲撃事件、あるいは日本人のイスラム国による拉致など、いろいろな案件で足下が揺さぶられたことがありましたが、その後の危機管理対応というのはしっかりしていて、例えば、国内の災害、国際的な災害に対する緊急展開もそうですし、海上でいろいろな事件が起こったときも、比較的しっかりと落ち着いて対応ができるという体制が整ったという危機管理体制の向上というのは、非常に大きかったと思います。

 それから、目の前のことだけではなく、これまでの長い歴史をどう捉えるかということにおいても、例えば、安倍首相のオーストリアやアメリカにおける議会演説の中で、歴史にしっかりと取り組むと発言しています。また、韓国との間でも、慰安婦の問題について、外務省の言葉曰く、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」したと。さらに様々なところで歴史問題についても、政権としての立場を振り返って、昨年8月の戦後70年談話、これには川島先生も深く関わられた案件ではありますが、長い時間をかけて日本の中でコンセンサスを作り出すために相当尽力した政権だったのではないかと思います。

 そうした点から考えると、反射神経としての危機対応の外交、そして長い年月をかけて、歴史問題を日本の国家観として捉え直すといった、双方において相当の業績を残した政権だと評価できるのではないかと思います。

工藤:今の神保先生の発言を、なるほどなと思って聞いていました。確かに危機対応という問題と歴史問題という2つがあって、考えてみると、安倍政権は、本当にいろいろなことをやってきました。

歴史問題については、2015年が戦後70年ということで、安倍首相がどのような見解を示すかということが、大きな外交上の意味を持つ1つのシューだったと思います。安倍首相自らの信念もあったと思いますが、結果としてみると、成功したということでしょうか。

 川島:成功か失敗かというラインをどこに引くかによりますが、堤防が決壊するように、問題が噴出することは防ぐことができた、というのは確かだと思います。

 それは2015年というよりは2014年ぐらいから始まっていた、様々な場における首相の歴史を巡る発言の蓄積の中で、結果的に安倍首相談話が出てきたというふうに思います。それは、ひとつには政府関係者、首相周辺のいろいろな努力の積み重ねでできたのだと思っています。

工藤:確かに、封じ込めたという感じだったと思います。その際に出てきた理念を今後、どのように具体化するという問題がさらに問われていると思います。ここで、安倍外交の正体というか、本質をえぐれないかと思います。

世界ではパワーバランスが大きく変化してきており、ある政治指導者に権力が集中したり、権威主義体制が出てきて、民主主義の後退というような状況も出てきました。

世界が大きく変化する中で、安倍政権、日本政府は、何を日本外交の理念と決め、それを実現しようとしているのか、ということを伺いたいのですが、神保先生からいかがでしょうか。

価値の目標は共有しつつ、入口を閉ざさず出口への伴走が、安倍外交の本質

神保:第一次安倍政権を振り返ってみると、かなりイデオロギーを前面に押し出している傾向があったと思います。麻生外務大臣とともに「自由と繁栄の孤」を主張したり、価値を押し出す外交を進めて、それによって外交をしていく第1レイヤー、第2レイヤーというような序列を作って、相手と付き合うようなことを志向した外交で、必ずしもうまく成功しなかったと思います。もちろん、一年で終わってしまったということも理由です。

 現在の日本外交については、所信表明演説にも出ているし、外交青書にも出ていますが、第一次政権と同じく価値を大事にしています。その価値とは民主主義であり、法の支配であり、ガバナンスを重視するという姿勢ですが、これが必ずしも、入り口を閉ざす外交ではなく、中に入って出口へ導いていくような発想が随分出てきているというのが、私の見方です。どういうことかというと、2014年、東南アジアのタイでクーデターが起きました。アメリカの場合、国内法でクーデターや軍事政権に対して、対外的な軍事取引、軍事的な援助はできないということになりますが、日本はアメリカの方針と若干異なり、プラユット新政権と深く付き合い、商工会議所と大使館は徹底的に関与して、そして訪日を招請しました。つまり、軍事政権であろうともで中に入って、そして早期の民主化を促すということをやっているわけです。これは、川島先生も述べられたロシアにも当てはまる気がしていて、クリミア併合、東ウクライナの支援、シリア空爆、どれも欧米社会からみると、門を閉ざしていいということに相当するような案件ですが、そこへ来て、日本はプーチン大統領との対話の扉を閉ざさず、むしろ訪日の機会を探っていって、その中でロシアの対外態度を必ずしも隔離せず、条件をつけてロシアを国際社会に招き入れて、お互いの利益を探るという外交をしています。

 こうした外交に対して、ワシントンはもちろんいろいろな批判はあるかもしれませんけが、ワシントンの方針と矛盾するわけではないというところに導こうとしているわけです。そう考えると、一言でいうと、価値の捉え方が違うのだと、価値の目標は共有するけれども、入口を閉ざさず、出口に手を携えて伴走していくような発想の外交をしているのが、安倍政権の外交の本質だと私は思っています。

工藤:今の神保先生のお話は、非常に興味深い話でした。続けて川島先生にも伺いたいのですが、表から見ると、安倍外交は中国に対する力のバランス、力の均衡を取るために安保法制を作り、そして、中国に対する抑止を効かせ、そこの中に西側の価値をベースにしたと見えてしまうのですが、いかがでしょうか。

世界秩序が変化する中、地政学的な考慮を入れた日本独自の外交を展開

川島:神保先生がおっしゃったように、背景には世界の大きな動きというのがあります。中国もそうですが、他にも新しく出てきた新興の国々によって、新しい秩序が作られるとは限らないけれども、秩序が変更あるいは調整される時期に入っている時期にあるのは確かです。そうすると日本は、明らかにアメリカ、ヨーロッパの側に立ちながらも、その調整に一定程度の対応しようという姿勢を見せているわけです。そこで、安倍首相のインドへの外交、ロシアへの外交が位置付けられます。

 それから、いわゆる、「地球儀を俯瞰する」という言葉がありましたが、これまでの政権と比べて、地政学的な考慮が入ったという点があります。とりわけ、オバマ政権になってアメリカの外交が対話路線になった時に、どうしてもワシントンから一番遠い空間であるユーラシア大陸の東側がやや手薄になる。そうした中で、安倍首相が、神保さんがおっしゃるような、ある種のサブシステムを担い、アメリカの方針からずれないように日本独自の外交というのを展開してきている。それが、対オーストラリア、インド、東南アジア外交、あるいは、中央アジアを含めた外交の現場から姿が見えてくるかもしれません。

 最後の、中国包囲云々というのは、これまた難しい話ですが、要はアメリカ自身がリバランスにせよ、ピボットにせよ、安全保障の政策を調整する中で、また、財政の問題がある中で、日本を含めた同盟国全体に対して負担増とそれからスポークス同士の関係を求めてきたわけです。その中で、この新しい局面にどう対応するかということは、必ずしも中国包囲網だけで説明できるわけではなく、アメリカからの要請にいかに応えるかという範囲で、日本としてすべきことを行う、ということをやっているわけです。かつそれをオーストラリア等と共有しながら、太平洋に新しい大きな安全保障上の三角形を作るということを行っているわけです。中国からすれば、それはもう中国包囲網に見えるのでしょうが、中国包囲網だけでは、説明が付かないほどの変化が起きつつあるというふうに思っていいと思います。

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