言論スタジオ

北東アジアの平和に向け、日韓間で安全保障の共通認識を作り出すことができるか

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2016年8月23日(火)
出演者:
田中均(日本総研国際戦略研究所理事長)
徳地秀士(政策研究大学院大学シニアフェロー)
渡邊武(防衛研究所地域研究部アジア・アフリカ研究室主任研究官)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第二話 朝鮮半島における安全保障の課題

2016-08-30-(5).jpg工藤:日韓が同じ立ち位置にいて、一緒に協力できるような方向に向かってきているというような新しい前向きな兆しが見えてきている。ただ世論調査の中身を見てみると、やはりいろいろな問題がまだある。例えば、韓国は軍事的な脅威という視点で日本をみている。最大の脅威は北朝鮮ですが、日本に関してもまだ4割ぐらい軍事的な脅威だと認識している。そして、日韓間で軍事的な衝突もあるのではないかと考えている人も韓国人の4割くらいいるわけですね。それから政府間の話でいうと、確かに従軍慰安婦に関する2015年の合意に関しては韓国の中でも3割近くが評価しているなどいろいろな意見があって一方的な反対というのは少なくなってきた。しかし日本との間には温度差がある。また、首脳に対する印象をみると、日本人の朴大統領に対するイメージは少しは良くなってきたんですが、韓国人の安倍総理に対する評価は8割がマイナスイメージになっている。

 政府間関係はかなり動いてきて、国民の世論も改善傾向になったんですが、依然やはりまだ疑っているような雰囲気がある。それだけでなく、アジアや世界の将来のことを一緒に考える基盤が日韓間にあるのかということについて、国民レベルは確信を持つことができていない。韓国人に「世界でどこの国が一番大事ですか」と聞くと、中国を選んでしまう。一方、日本人で中国を選ぶ人は少ない。国民の意識の中にはまだ不安があるような気もしており、そのあたりをもう少し探ってみたいのですが、いかがでしょうか。

韓国の不安の背景には何があるのか

2016-08-30.jpg渡邊:韓国は朝鮮半島をめぐって国際政治が動いていると思っているので、自分が日本側・中国側というどちらか一方に従う立場だと思っていないのですね。朝鮮半島を中心に扇の弧のようにいくつもの国が競争している、つまり近代史の教科書の記述のようなイメージを結構強く持っているのだと思います。そうすると日本が力づくで竹島を取りに来るのではないかとかそういう類のことを想像しやすい。日本人からしてみると同じアメリカの同盟国なのに何を言っているのだと思ってしまいますが。ですから本当かどうかは別として、以前韓国政府がアメリカに対して在韓米軍を日本に対して使うための交渉をしたという報道が出たことがありました。日本だったら逆のことは推測でもあり得ないのですが、韓国ではそういう議論が成り立ちうる。自分を中心に周りが角逐して競争している近代史的なイメージがずっとある。そして、その中で国際政治を主導したいという思いが大きいのではないかと思います。

2016-08-30-(1).jpg田中:韓国の国民レベルでは、やはり日本を脅威と見做す一方で中国はそう見ないという意識がある。我々日本人から見れば、同じ民主主義国で価値を共有しているのにもかかわらずおかしいじゃないかと思うわけです。だけどよくよく考えてみれば、韓国は民主主義になってからまだ三十年という短い経験しかない。なおかつ韓国にとってみれば、北朝鮮のこともありますから戦争に対する敷居はそんなに高くないわけですよ。そういう意味で日本に対する認識も過去によって縛られる。そして、「同じ民主主義国でも、戦略的に物事を考えて国益のためになるのであれば、攻めてくることだってあり得るよ」と考えるわけです。

 知識人の方は現状の日本というのをよく知っているから「そのようなことはないよ」と考えるのですが、一般世論レベルではより強く過去の認識に縛られ、こういうギャップは常に出てきます。

工藤:田中さん、韓国の人たちは日本やアメリカが言っているような「中国包囲」の枠組みに「韓国が加わることはない」ということを国際会議でいつも言うわけですね。そうなってくると、何か包囲ではない別な形での仕組みづくりの提案があって、その中で力を合わせていくという枠組みがないとすれば、「協力しよう」といってもなかなか進まないんじゃないですか。日本の人たちは「日米側に来たな、中国側ではなくなったな」とかそのレベルでしか考えていないような感じがするのですね。

日本が主導して中国を取り込む枠組みをつくるべき

田中:おっしゃる通り、そういう枠組みがない。すなわち、囲い込むかそうでないか、相互依存関係を増やすかそうでないか、という非常に一面だけを見た議論がなされている。では、その枠組みを誰がつくるのかというと、私はその責は日本にあると思う。信頼醸成のために、この地域で中国を含めた枠組みをつくろうじゃないかとか、環境協力のために日中韓、あるいは東南アジアの国々を含めた枠組みをつくろうじゃないかということを言い出す国というのは実は日本以外にないのですよ。そういう力を持った国も日本以外にない。

 日本は中国との関係においてできるだけ抑止力を高めようとしているわけです。ある意味それを囲い込みと言われればそうかもしれない。日本は豪州、インド、東南アジアなど中国に対して共通の認識を持っているような国々との間で安保協力を強化しようとしています。中国側から見たら日本は囲い込みをしていると見える。

 だけど、本当は抑止力は高めるけれどそれだけでは駄目なわけです。なぜなら、中国なくして日本の繁栄はない。これも明らかなのですね。だから、中国を中に取り組んだ協力の枠組みをつくっていく必要がある。それを日本がやった時、「日本は囲い込みをやっているわけではない。共存共栄、win-winの関係をつくろうとしているのか」と中国は考える。そういう日本の姿を見た韓国も、「やはり日本と協力していかなくてはいけないのではないか」ということになる。私はこの地域の将来を考えた場合、日本・中国・韓国ほど重要な三角関係はないと思います。

工藤:德地さん、例えば、世論調査でも自国内の米軍の役割について聞いてみたところ、日本人と韓国人では米軍に対する意識が違うんですね。日本人は中国に対する対抗もあるのですが、東アジア地域の平和維持とかいろいろなことを求めている人が多い。他方、韓国人は朝鮮半島情勢の安定という自分たちの問題が中心で、それ以外に広げるということをあまり考えていない。そういうギャップがあるとなると、今後の日韓の新しい平和の枠組みを考えた場合、最終的にどうなっていくのだろうか。本当に協力していくことができるのかと悩むことがあるのですが、いかがでしょうか。

平和統一後の朝鮮半島の安全保障のあり方とは

2016-08-30-(2).jpg德地:そこのところは確かに悩ましい問題だから、明確な答えがあるわけではないと思います。まず、今アジア大陸の中でアメリカのプレゼンスがあるところは韓国しかないのです。そういう意味でこれは非常に重要な重しになっていると言えると思います。確かに今の米韓の安保条約、それから韓国におけるアメリカのプレゼンスは北朝鮮の脅威にいかに対応するかということを主題にしていることは間違いないのですけれども、他方において米韓同盟関係はその性質においてグローバルになりつつある。これはアメリカは前からそう言っているし、韓国もそれをある程度認めているように思います。したがって、仮に平和的に統一されることがあった時、韓国にとってもアメリカにとってもそれから日本にとっても、地域の安定のためには韓国における米軍のプレゼンスというのは引き続き非常に重要なものになると思うのです。日本としてもそういうふうに考えるべきではないかと思います。

2016-08-30-(3).jpg

田中:私は韓国に対してもアメリカに対しても、朝鮮半島統一後、新たな安全保障条約を締結した上で、在韓米軍を残して欲しいということを言っています。それはなぜかというと、朝鮮半島統一後、米軍が撤退していき、米韓相互防衛条約を切るということになると、韓国は著しい安全保障上の不安を持つと思うんです。というのも核兵器がないからです。そこでふと見た途端に、統一朝鮮は核兵器をもった中国とロシアと国境を接するわけですから不安になる。そこで安全保障の脅威認識からして、どこかの国と組まないといけない。そこで、価値観や統治体制の違う中国と組んで核のコミットメント得るとなった場合、日本にとってどういったことになるかというと、中国の脅威がますます大きなものになるわけです。アメリカにとっても世界全体から見ても脅威です。

 もっとも、中国から見ても米軍が退いて著しく不安定になる朝鮮半島というのは望ましくない。ですから、中国は在韓米軍が引き上げることを100%望んでいるわけではないと思います。中国が最も嫌うのは戦略的不安定なのですね。もし在韓米軍が朝鮮半島からいなくなれば、必然的に出てくるのは日本の国防力の強化ですよ。場合によっては日本が核兵器を持つような選択もあり得る。果たしてそれを中国が望むのか。そんなことはない。だから、やはり現状を維持しておくことがベストです。今の米国と韓国の防衛条約、今の在韓米軍というのはあくまでも北朝鮮の脅威に対してのものです。だけど、統一後の朝鮮半島の安全保障のあり方というのは、これまでとは違う角度から考えなければならない。要するに韓国が守るべきものと米国が守るべきものが一致する世界になるように、そしてそれは日本が守るべきものとも同じだと思います。そこで韓国、中国、米国も納得させるのは日本の役割だと思いますよ。「日本は関係ないよ」というわけにはいかないわけです。

工藤:本当に北東アジアの平和環境・秩序をつくるということの作業はかなり大変なものだと感じました。だから逆に言えば、朝鮮半島がある程度対立してある現状が、今のところそういう将来の課題をきちんと考えなくてもいいような言い訳になっているような感じもしてしまいます。渡邊さんは、日韓が今後協力していくためにどのような課題があると思われますか。

渡邊:日本が韓国とそういう意味での協力関係をつくるならば、この統一のプロセスにおいては結局のところ、北朝鮮の一党体制と韓国の自由民主主義体制の間の相克という問題が出てきますから、日本としては自由民主主義体制として先程田中先生がおっしゃったところでもありますけれども、韓国との価値の共有というところをよく認識した上で、そこを基盤にした関係構築というものをしていく必要があります。その上で統一後に協力していくことが重要なのではないかと思います。

工藤:田中さん、ロシアはこの朝鮮半島問題をどういうふうに考えているのでしょうか。

田中:ロシアは一時、北朝鮮との関係を強化しようとして動き出していました。これは経済的なことを考慮していたわけですけれども、今は必ずしもそうではない。中国との連携を強くしようという動きがあるし、ロシアの問題は今後もっと難しくなります。明らかにプーチン大統領は大国ロシアの復活ということを最大の戦略的目標としている。そのプロセスにおいては、アメリカとの対立を積極的に望みはしませんが、厭うこともしない。朝鮮半島もその一つの舞台になる可能性があると思います。ですから、ロシアのことはよく注意しておかないいけない。日本としても北方領土問題さえ解決すればそれでいいという話ではないだろうと思います。

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