言論スタジオ

「第12回日中共同世論調査結果」をどう読み解くか

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2016年9月23日(金)
出演者:
加藤青延(NHK解説委員)
園田茂人(東京大学大学院情報学環教授)
高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



⇒ 「第12回日中共同世論調査」結果はこちら


 9月23日、「第12回日中共同世論調査」結果発表の記者会見後、NHK解説委員の加藤青延氏、東京大学東洋文化研究所教授の園田茂人氏、東京大学大学院法学政治学研究科教授の高原明生氏をゲストにお迎えして、「第12回日中共同世論調査をどう読み解くか」と題して言論スタジオが行われました。

日中関係の現状評価はなぜ改善しないのか

2016-09-22-(5).jpg まず冒頭で司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、今回の調査結果について「日中首脳会談が行われているなど政府間関係が進んでいるにもかかわらず、日中関係の現状に対する評価が改善していないのはなぜか」と問いかけました。


2016-09-22-(4).jpg これに対し園田氏が、国民の認識形成に政府間関係の動きはあまり影響しないと指摘すると、加藤氏も日本人は政府間の動きよりも南シナ海・東シナ海の展開を見ている人が多いのではないかと語りました。また、高原氏も日本とアメリカが南シナ海において連携して中国を包囲するかのような動きを見せていることが中国国内で盛んに報道されていると紹介し、そのような中では中国人の日中関係の現状評価はどうしても悪くなると解説しました。

日中関係の先行きに閉塞感を抱く両国民

 続いて工藤が、両国民が今後の日中関係の見通しについても明るい見通しを持つことができていないという結果を紹介すると、園田氏は「日中関係の発展を妨げるもの」として、両国で「領土」を挙げる人が多いことを引用しつつ、「このようなwin-win関係になれない、ゼロサムゲームになってしまうような出口のない課題が多いから、閉塞感が広がっているのではないか」と分析しました。加藤氏は、中国の軍拡に対して日本が安保法制の整備などで対応すると、中国もさらに対応するといういたちごっこが続いているため、両国民の間に先行き不透明感が広がっていると解説。さらに、「両国政府もこうした問題を認識しているが、だからといって対応を止めることができないだろう」とジレンマがあることを指摘しました。

この状況を打開する鍵は「民間対話」

 次に工藤が、中国人の訪日経験者では58.8%が日本に「良い印象」持っている一方で、日本人の訪中経験者では中国に「良い印象」を持っている人は13.4%しかいないというクロス集計結果を紹介すると、園田氏は、自身がこれまで携わってきた各種調査結果も交えながら、中国では1980年代から「政府・体制」と「個人」を切り離して考える人が多いと解説。民間交流が増えていけばさらに個人レベルでの対日印象は良くなっていくのではないかと語りました。これを受けて加藤氏も、日中両国の国民性の違いとして、「中国人は嫌いなところがあっても好きなところはきちんと評価していくことができるが、日本人はそういう割り切りがなかなかできないのではないか」と述べました。

 さらに工藤は、「両国民の7割が悪化する国民感情の現状を懸念しているが、改善の道筋が見えていない。その中で「民間対話」にこの状況打開を期待する声が多いがこの背景には何があるのか」と問いかけました。

2016-09-22-(11).jpg 高原氏は、日中関係の問題点は国家・政府同士の衝突に原因があることから、「首脳間の対話だけでは限界があると感じ、そこを民間の展開で補うことを期待している人が多いのではないか」と語りました。加藤氏は、両国の現政権は相手国に対して容易に妥協しないものの、世論の動向は気にしているため、「そこにこの状況を民間が打開できる可能性がある」と期待を寄せました。

南シナ海まで広げると日中衝突の懸念はある

 続いて、話題は安全保障に関する認識に移りました。工藤が、今回の調査では6割の中国人が日中間の軍事紛争が「起こる」と答えた結果を紹介すると、園田氏はCCTV(中国中央電視台)の報道では海洋をめぐる問題に関して、「緊迫感を煽るようなものが多く、それが作用している」と分析。高原氏も「領土問題の解決方法」の結果にも見られるように「強硬な姿勢の人が確かに増えている」と述べました。

2016-09-22-(7).jpg さらに、加藤氏が「日本やアメリカと衝突をしてもかまわない」という自信の裏返しかもしれないと語ると、高原、園田の両氏は尖閣周辺に限らず、南シナ海まで広げて考えた場合、アメリカの「航行の自由」作戦に日本も参加するなど、より積極的な行動に出たらそこで衝突が起こり得るとの認識を示しました。

これまで強硬だった中国の姿勢には変化も見られる

 最後のセッションではまず、日中関係の行方について議論が行われました。工藤は8月の日中外相会談の際、中国の王毅外相の表情がこれまでの会談時よりもわずかながら柔和になっていたことを指摘しつつ、「世論調査結果は依然悪いが、日中関係全体の流れは変わってきたのではないか」と尋ねました。

 これに対し加藤氏は、6月に行われた中国共産党の指導部が長老らと重要事項を話し合う非公式の会議である「北戴河会議」以降、ASEANと海洋をめぐる「行動規範」をめぐる議論を進めたり、日本に対しても「一歩も引かない」という強硬な姿勢ではなく、柔軟な対応が見られるようになってきたと解説しました。
これを受けて高原氏は、国内経済の苦境を考えると「外国とけんかしている余裕などなくなっているのだろう」と指摘。さらに、中国国内では今後、これまでのような力で相手をねじ伏せる「行動第一主義」を掲げる人たちと、周辺国と対話し調和を保っていこうと考える人たちとの間で「論争が始まっていくのではないか」と予想しました。

 園田氏は、これまで自身が携わってきた中国の学生調査では、アメリカを重視したり、今の中国の行動を既存の国際秩序に対する挑戦と捉えるなど冷静な見方も多いことを紹介。一般世論はまだそういう認識には至っていないとしつつも、今後に向けた明るい兆候も見られると語りました。

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 次に、工藤は今後、世論を改善するための手がかりは何かを尋ねました。
これに対し加藤氏が「民間交流に尽きる」と語ると、園田氏も集団間の偏見や差別は相手集団に対する無知から生まれるので、集団間の接触回数を増やせば偏見はなくなるという「接触仮説」を紹介し、民間交流の展開に期待を寄せました。
高原氏は、中国のテレビ報道では日本批判が依然多いものの、今回の調査では「日本や日中関係に関する情報源」でテレビを挙げる中国が大幅に減少したことや、日本訪問者の増加などから、「『実際の日本はテレビ報道と全然違う』という意識が出始めている」とここでも中国側に前向きな兆しがあると語りました。

日中間での協力発展にも前向きな兆候が見られる

 最後に、工藤が、中国人の若い世代が日本に対してポジティブな印象を持っていることや、日中間でアジアや世界の課題解決で協力していくことについては両国民の認識は一致しているという調査結果を示すと、園田氏は中国人学生は日本人学生よりも社会課題に取り組むボランティア活動に熱心であることに言及し、「そうしたモビリティのある若い世代がこれからの日中関係を変える可能性がある」と語りました。

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