言論スタジオ

日中間に横たわる安全保障上の課題とは

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2016年9月20日(火)
出演者:
香田洋二(ジャパンマリンユナイテッド株式会社艦船事業本部顧問、元自衛艦隊司令官(海将))
松田康博(東京大学東洋文化研究所教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第2話:北朝鮮問題の解決に向けて、中国との協力は可能か

2016-09-25-(2).jpg工藤:先程、日露の海上事故防止協定話がありました。言論NPOでは、人民解放軍の関係者を交えながら、秘密会議や非公開会議で議論を重ねてきました。そこには、自衛隊のOBの方々に参加してもらっているのですが、その中で、日中双方から、「現状は現場の自制で持っていて非常に危ない」「何とか海上連絡網なり、ホットラインを含めたルールをつくる必要がある」など、ちょっとした事故から紛争になってしまうのではないか、ということが指摘されていました。自衛隊や人民解放軍など、当事者となっている現場の人たちは、現状を何とかしたいと思っているのですが、そこに主権を争う外交という問題が入ってしまうと、政府外交のジレンマに陥り、本当の火種を解決できなくなってしまう。こうした状況は、ここ数年、変わっていません。今回の対話でもこうしたことが議論になると思うのですが、こうした事態を変えるために、何かヒントになることはありませんか。

危機回避のため、無機的な部分だけ領有問題から切り離すことは可能か

2016-09-25-(3).jpg松田:何かヒントがあればいいのですが、現状ではないというのが本音です。日中関係だけではなく、中国と解決不能に近い原則的な矛盾を抱えた国や地域、特に台湾との関係については、永遠に解決できないに等しいと思います。解決することが必要だといいながら、解決できないことを、永遠と何年も何十年も抱え続けるというのが通例なのです。こうした状況下で問題が発生しないのは、どこかでどちらかが諦めたり、少し引くために、問題がフラッシュポイント(引火点)にならないというだけなのです。特に主権はゼロ・サム、白か黒しかありませんから、例え、現場で何かあれば大変だ、ということになったとしても、(中国は)「これだけ危ないのだから、日本が引きなさい」となってしまうのです。

 加えて危険防止のメカニズムをつくりたいということですが、合意に至るためには双方の思惑があって、中国側は海上連絡メカニズムをつくることによって、「日本は日中間の領土問題を認めたのだ」という第一歩にして、そこからどんどんこじ開けていきたいと考えているわけです。ですから、日本としてはそれを警戒せざるを得ないのが現状なのです。

 2011年11月に、北京でAPEC首脳会談の直前に4つの合意事項というのができました。その合意をどう読んでも、日本が領土問題を認めたとは読めないのですが、中国側は、勝手に独自の解釈をし、その解釈を英語に翻訳して世界中に日本が領土問題を認めたとアピールし、日本は屈服したのだという大宣伝をやったのです。

 ですから日本側としては、どうしても外交的には警戒せざるを得ない。ゼロ・サムか、白か黒かしかない、自分が100%負けるか、相手が100%負けるしかないというような賭場口で協力をするとなると、現場でいくら努力をして、危ないのだと思っていても、1ミリも進まないという状況になってしまうと思います。

工藤:今回の世論調査で、中国の国民に「尖閣周辺での軍事衝突の可能性があるか」と尋ねたところ、今年は6割を超える人が、数年以内、あるいは将来的には紛争が起こると考えていることが分かりました。確かに政府は主権を守り、国民国家を守るというのは当然ですが、その問題だけで議論がなされると、ナショナリズムや不安が高まり、国民感情が悪化してしまいます。そうした中で、民間や市民側の役割というものがあると思っています。世論調査の結果にあるように、紛争の危険性があるとすれば、その回避に向けて何かしなければならないのではないか、議論をもう一回整理する機会にきているのではないかと思っています。香田さん、このままいくと、中国の国民が思っているように、衝突という危険性はあり得るのでしょうか。

2016-09-25-(7).jpg香田:決してない、とは当然言えません。ただ推測ですが、北京の軍事当局も尖閣諸島、東シナ海の問題について、自ら挑戦的に、急速に事態を悪化させようということはおそらく考えていないと思います。現状は、海上保安庁と中国の海警がいて、その遥か外に両軍が遠巻きに待機している状況だろうと思います。そうした状況下で、いきなり軍が表に出てくるということは、よっぽど偶発的な事故が起きないとあり得ないと思います。ただし、その時に問題になるのは、何らかの理由でお互いが接近したときに、1000メートルまで寄るのか、30メートルまで寄るのかという点について何の規定もないということです。しかし、こうしたことが起こった時にどう対処するか、といった国と国との約束をつくることは相当難しいし、非常に時間がかかると思います。

 そこで、暫定処置として、日本と中国の航空機が相互に近寄る場合には、日露の合意を準用する。正確に日露の合意がどのように規定しているかは分かりませんが、おそらく2000メートルぐらいだと思います。そうした合意を準用して、それ以上は近寄らない。あるいは軍艦同士の場合では、500メートルぐらい、あるいは海上保安庁と海警の船だと200メートルなど、既に日露間で運用していて、これまで危険な状態に陥っていない実績を準用する。そして、錯誤によってパイロットが距離を読み誤ったということは時にあり得ますが、そうした時には外交交渉で解決していく。仮に協定のような形で合意が難しいのであれば、危機回避のためにも、既にある無機的な部分だけは準用することが必要だと思います。こうした根本的な癌の原因の治療ではありませんが、少なくとも現場の症状だけについていえば、緩和をするような措置、用法というものが合意できるかどうかです。
 
 これは、お互いに主権に関しては一切譲歩しないという前提ですが、外交とか政策という、国の有機的な、あるいは意図が入らない無機的な部分だけ切り離すことはできるのかな、と感じています。

工藤:松田さん、今、香田さんが言われたような例は、これまでにないのでしょうか。

松田:そうした取り決めを準用するとして、その際の取り決めに、それぞれの国の主権的な立場になんら影響を与えないということが入っていればいいのですが、そうしたことを入れること自体、中国では大変なミスとなります。中国では、尖閣諸島の周辺では、パトロールを常に行い、自分たちが管轄権を行使していて、それに対して日本がたまに挑戦しに来る、というような形で国内報道を行っています。そうした状況下で、中国側の指導部が非常に強いリーダーシップを発揮し、そういった雑音を抑え込むことができない限り、そういったリスクを背負うというのは非常に難しいと思います。

中国側の対日基本戦略・政策が根本的に変わらなければ何も変わらない

工藤:もう1つの問題があって、確かに今の偶発的な事故を回避しなければいけないのですが、元々、対立している構造を、将来はどうしたらよいのだろうか、という本質的な大きな問題に対して、現状、日中間では何の議論もないわけです。

 こうした問題は何かの形で協議することは不可能なんでしょうか。領土問題でない形で、例えば全体の秩序をどうするかとか、戦争できない、しないための原理・原則をどうするか、というような形で持っていくというのは不可能なのでしょうか。

松田:それ自体はできるのですが、どうしても問題が起こってしまいます。その原因について、両国が相手国にあるといった議論を延々とやることになってしまいます。要するに、こうしたことがいったん問題化すると、(関係全体と)切り離すことが難しいのが現状です。

香田:例えば、2000年代でも、私が海上幕僚幹部の防衛部長をしていた頃、つまり、尖閣がここまで先鋭化する前、私は部長レベルで、様々なルートで中国に話しかけました。その時は少なくともアプローチはまったく拒否されませんでした。1990年前後にソ連が崩壊して、10年ちょっと東西の大きな緊張緩和の流れの延長線上で、中国と交渉ができた最後の時期だったと思います。中国側の少将クラスが別の名目で訪日したのですが、お互いにやりたいことにちては一致していましたが、北京当局が検討した結果、駄目ということになりました。ただ、中国側も決して逃げているというわけではありません。しかし、中国側の対日の基本戦略・政策というものが根本的に変わらないと、結局、我々のような現場の人間が動いても何も変わりません。緑の葉っぱを黄色にするといっても変わらないのと同じです。

 その時に一番強く感じたことは、中国共産党というのは、只者ではないなということ、我々の考えが通じない団体・組織かもしれないということでした。その後そういう目でみると、今まで起きたことはある意味合理的に説明できるだろうと感じています。

北朝鮮の核問題に関する中国側の本音と、韓国に対する中国人の感情

工藤:尖閣問題は必ず僕たちの対話で、もうちょっと考えていかなければいけないと考えています。一方で、北朝鮮の問題はかなり大きな、新しい展開になっていて、この問題は日本も中国も無視するということはあり得ないと思います。そこに共通利益があると思うのですが、この問題を日中が話し合う意味がどういうところにあると思いますか。

松田:北朝鮮の核開発問題というのは、この地域の問題でもありますし、国際秩序をどう維持するかという問題ですが、この2点において日本と中国は、おそらく共通の利益があると思います。そうした共通の利益を再確認していくということは非常に重要だと思います。中国がいろいろな外交努力をして、ようやく韓国やアメリカとの関係、日本との関係の距離を少し縮められたなと思った瞬間に、北朝鮮が中国にとってマイナスの行動を行う。中国が最も嫌がるタイミングを狙いすまして、なおかつ、それでも中国は北朝鮮を決して切れないだろうと足元を見たやり方を取っているのです。

 ですから、中国は北朝鮮に対して、はらわたが煮えくり返るぐらい怒っていると思います。しかしながら、北朝鮮が崩壊して大混乱に陥ったら、一番損をするのは中国だから、(北朝鮮の思惑通り)切れないという状態にあります。

 先ほど香田さんが言われたように、今まで中国は、私達と全く別世界の論理の中で生きているのですが、その論理を続けていくのか、もしくは、1センチでも10センチでも国際社会の主流のほうに来るのかという状況の中で、北朝鮮問題というのは、日中間で話をしていれば、中国をよりこちら側に引き寄せることができる話題ではあると思います。

工藤:先ほどの世論調査を見ていると、明らかに北朝鮮、韓国という問題について、中国が韓国に近づきつつあった動きが、壊れてきているような感じがします。

 例えば、軍事的な脅威ということでは、中国人は北朝鮮をあまり脅威だと思っていない一方で、韓国を脅威だと思う人が、10ポイントくらい増えています。

 韓国国内では核武装の議論が起きていますし、米韓など、韓国のいろいろな行動が違う方向に動いているのですが、大きな何かが流動化している、迷走している状況があって、これを何とか1つの共通利益をベースにした形にもっていくことを誰かがやっていかなければならないような気がしています。

2016-09-25-(10).jpg

香田:なぜ北朝鮮が中国の足元を見るのかということですが、中国の大戦略として、おそらく、朝鮮半島が仮に統一されると、アメリカ主導、民主主義主導、韓国主導の朝鮮半島になるでしょうが、中国はそれを容認できないことは明白です。ですから、中国の大戦略としては、北朝鮮をほぼ現体制のままで維持せざるを得ないだろうと。そうした事情から、自分たち(北朝鮮)は切られないという自信があり、北朝鮮はある意味やりたい放題なのです。中国からすれば、大戦略は北朝鮮維持ですが、核開発については拡散の問題、さらには将来どこかの国が同じような状況で中国には向かうことまで考えると、北朝鮮を抑えにかかりたい、というのが本音です。また、アメリカを中心とする国際社会が中国に対して「北朝鮮を制御せよ」といいますが、中国の大戦略が変わらないことにはどうしようもない。北京当局としては、自分たちの国益は北朝鮮をつぶすことではない、ということは明確ですから、そこまで中国は踏み込まないだろうというのが大方の予想です。

 それから、六カ国協議というのをある時期長くやってきましたが、これも、言い方、見方によっては、米朝間の単独取引は許さないぞということで、北朝鮮に関しては、全部、言い方は悪いですが、「仁義を切って」という場が六カ国協議だったと思います。

 ということは、拉致問題は別にして、アメリカあるいは日本にとって北朝鮮問題を前に進めるためには、基本的に六カ国協議にすべて諮ってやらざるを得ないということは、理論上も国際社会の北朝鮮に対する様々な働きかけを機能不全にしてしまう側面があります。そういう意味からすると、中国は核問題とミサイル開発について「非常に遺憾」としながらも、アメリカとか日本が期待するような行動を中国がするかというと、非常に望みは薄いということを前提で、私たちは考えていく必要があるのだと思います。

松田:中国のそうした戦略は基本的に変わらないと思います。ところが、それに対して、韓国はある時は日本に期待をかけたり、中国に期待をかけたりしています。特に、今の朴槿恵政権は中国にいろいろ期待をかけて接近しましたが、中国はそれを少し勘違いしたと思います。もう韓国は自分のかなり影響下にあって、言いなりになるだろうと思っていたらそうではなかった。昨年あたりから、韓国外交の軸足がアメリカ、日本に少し戻ってきて、昨年末には慰安婦問題も合意できました。そうした状況下で、北朝鮮が核実験を行った結果、中国から離れかかっていた韓国を突き放して、アメリカと日本の側に押しやってしまうという、中国にとって一番嫌なタイミングだったと思います。

 そして、韓国はTHAAD(高高度弾頭ミサイル撃墜システム)の配備を決め、開城工業団地からの撤退という2枚のカードを一気に切った。中国は「THAADの配備を何でやるのか」との反対キャンペーンを延々と何カ月もやり続けていましたので、THAAD配備を決定したことで、韓国は中国に対して敵対的な国ではないか、ということが国民のなかに少しずつ刷り込まれていった。それが、今回の世論調査において、中国人の韓国へのイメージが悪化した原因ではないかと思います。中国のニュースを見ていると、尋常ではない形の韓国たたきをここ数か月やっています。中国にしてみると、南シナ海問題だけではなく、まさに朝鮮半島の問題に関しても、上手くいっていないのが現状だと思います。

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