言論スタジオ

日中間に横たわる安全保障上の課題とは

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2016年9月20日(火)
出演者:
香田洋二(ジャパンマリンユナイテッド株式会社艦船事業本部顧問、元自衛艦隊司令官(海将))
松田康博(東京大学東洋文化研究所教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第1話:東シナ海の現状の背景と事故防止協定の実現に向けて

2016-09-25-(2).jpg工藤:言論NPOの工藤です。

 さて、言論NPOは9月の27・28日の2日間にわたって、都内で「東京-北京フォーラム」を開催します。これは2005年に、中国と本音の議論を行うために立ち上げたフォーラムです。

 今回のフォーラムで特に大きな焦点となっているのが、まさに北東アジアの平和構築の問題です。この地域には領土問題が存在し、7月には南沙問題をめぐる仲裁裁判の判決が出されるなど、平和というものに関する秩序がなく、その中で様々な緊張感があるような状況が続いています。私たちはこれまでの「東京-北京フォーラム」で、こうした状況をどのように解決していけばいいのか、将来的にこの地域に「平和」というものをどうつくればいいのか、ということを議論してきました。

 今回の12回目の対話には、中国から人民解放軍の将軍経験者や、日本からも自衛隊OBを含め、安全保障の専門家が約20人参加し、真剣な議論を行います。この安全保障対話は、インターネットでも中継する予定です。今日は、こうした日中間の安全保障に関する問題を議論してみたいと考えています。そこで今回はお二人のゲストをお招きしました。1人は今回の「東京-北京フォーラム」にもパネリストとしてご参加いただく自衛隊自衛官艦隊司令官を務められた香田洋二さんです。そして東京大学東洋文化研究所教授の松田康博さんです。よろしくお願いします。

中国籍の公船や漁船が8月に急増した背景とは

 さて、安全保障という面でみれば、この1年間、様々なことがありました。特に私たちが気にしていたのは南シナ海の問題です。中国が南シナ海で埋め立てを行い、軍事拠点となるような施設を作っていることに対する判決が出ました。

 一方で尖閣諸島周辺では、公船や漁船が領海侵犯を繰り返している状況が続いています。こうした問題をどのように解決すればいいのか、ということで海上連絡網を含めて、様々な動きが進んでいたはずなのですが、気が付いてみるとほとんど動いていない状況です。その結果、この地域では、偶発的な事故から紛争へ進んでしまう危険性が、今もかなり大きいということを改めて考えさせられました。こうした状況下で、日本と中国の安全保障の関係者が集まる今回の「東京-北京フォーラム」で何を議論すればいいのか、ということが今日の議論の大きなテーマとなります。

 まず、今、東シナ海で何が起こっているのでしょうか。

2016-09-25-(3).jpg松田:東シナ海では2012年以降、中国の公船に加え、あまり報道されていませんが、中国海軍の艦艇が尖閣諸島からそれほど遠くない海域に常にいるという状態があります。

 特に政府公船の方は定期的に領海に入り、尖閣諸島は自分たちの領域なのだ、見せびらかして帰っていく、という状況がずっと続いています。あまりニュースにならないので、一般の国民からすれば分かりづらい。そういう意味では、日本の主権なり実行支配がどんどん削り取られていく、ということを意識してみておく必要があります。

 最近、こうした行為が増えてきている背景として、いくつかの要因が考えられます。8月は、中国側の禁漁期が明けるのですが、中国近海ではほとんど魚は取れないために、沖合にどんどん出ていくということになります。漁船ですから、当然魚群を追ってあちこち動くわけです。その際、もし日本の海上保安庁の船に捕まえられて、ニュースになったりすると、彼らの沽券に関わるということになります。そうすると、どうしてもそれをエスコートする形で入っていく。少なくとも彼らの頭の中にそういうものがあるのだと思います。

 また、今年の8月には、日本の船舶の領海に入り、その数も増えましたので、少し行動がエスカレーションしていると感じます。かつではできない、やらないという行動が、ここまでやってもいい、というような形で、中国側のオペレーションのルールが少し変わってきている可能性はあると思います。

2016-09-25-(7).jpg香田:松田さんの意見とほとんど同じですが、2012年に海上保安庁が月別の領海侵犯のデータを公表し始めてから、多少の山谷はありますけれども水平飛行の状態が続いています。ただ、水平飛行だから安心ということではなくて。リスクは高い状況下での水平飛行ですから、非常に注意をしながらですが、それ以上特に悪くなる、急速に悪くなるという兆候はなかったというのが、今年4月ぐらいまでの総じた見方だと思います。

 しかし、8月に急遽200隻を超える漁船が一時的に尖閣諸島周辺の領海に侵入してきました。これは1979年以降、初めての事例だと思います。あるいは、これまで公船も3隻位だったものが、10~15隻に増えました。こうした出来事は、数という面で我々をびっくりするに十分な変化だと思います。

 同時に南シナ海については、中国が国際的に一番気にしていたのは7月12日の常設仲裁裁判所の裁定です。この判決が出る5月頃から中国は、相当予防線を張っていました。その中で、今回の南シナ海の問題は二カ国協議で解決するもので裁判になるものではないとか、一方的に軍事訓練をやっているが中国としては解決する意思がある、あるいは、裁定そのものが中国を縛るものではないなど、様々なキャンペーンを事前にはっていました。しかし、現実に7月12日を迎えて判決が出ると、中国が予想していた以上に厳しい判決で、中国と国際社会との間に、大きなギャップを中国も感じたはずです。

 その判決後、次に控えていたのが9月4、5日に中国・杭州で開催されるG20でした。おそらく中国の国家命題として、G20では南シナ海の問題をテーブルの遡上にさえ上げたくないということで、ある意味、国際社会の関心を南シナ海から反らすための1つの手段して南シナ海から東シナ海に活動拠点を一時的に移しました。その1つの根拠として、G20を過ぎたあたりから、東シナ海の状況は相当沈静化していて、200隻という漁船もいなくなり、公船についても少なくなっています。

 中国政府からすれば、南シナ海と東シナ海については上手くバランスを取っている。逆に言うと、この南シナ海と東シナ海の取り扱いについては、非常に苦慮をしているということだと思います。日本政府からすれば、高止まりであるものの、8月の約1か月間、従来なかったような急激な漁船数の増加についての意図をどうしても訝ってしまう。あるいはこの先どれぐらいエスカレートしていくのか、心配せざるをえません。こうした中国の行動は、ある意味国際的な常識からすれば、大きく逸脱した行為であり、日本としては強く非難をして当たり前だ、というような活動を行っています。

工藤:香田さんの話に合った通り、どのような意図があるのかというのは確かに分かりかねますが、結果からみると、異常な数の船が尖閣周辺を訪れているという状況は、これまでになかった出来事です。

 一方で、メディアでは、中国が尖閣諸島を取りにきたとの報道もありますが、そこまでは行き過ぎだと思っています。ただ、中国側で何かの変化があるような気もするのですが、いかがでしょうか。

松田:香田さんが指摘されたように、意図的な危険行為は、だいたい2013年から14年ぐらいで、段階的に終わっています。今回も船をぶつけてくるような危険行為はないです。そういう意味で、主権や管轄権に対して挑戦している状態は続いているのですが、一触即発で何が起こるか分からない、というリスクはないと思います。しかしながら、2年ぐらい前にも魚を追ってきた漁船が多数、尖閣周辺に来たことがありましたが、その際にも、政府の公船は今回のように来ていたわけではありませんから、より多くの中国籍の公船が領海に入ってくるという意味では、まさに日本政府がいうように、一方的なエスカレーション行為だと思います。

 一方で、海上保安庁の方で公表されていますが、今回の8月は編成が結構急ごしらえで、様々な場所から船を動員しています。ですから、中国政府も万全の準備をして、意図的に主権を明らかにするために入ってきたのかというと、なかなかそう断定することもできない。中国の政策決定や執行体制についてはブラックボックスで、様々な角度から調べていく必要があり、現段階では、はっきりしないことが多いのが現状です。

工藤:中国の漁船が尖閣諸島周辺海域で貨物船に衝突し、日本の海上保安庁に助けられた際、中国のインターネットなどでは日本に対する「ありがとう」と同時に、「中国政府は何をしているのか」といった意見が数多く発信されたと報道されていました。そうした状況を見ていると、中国が攻めてくるというよりも、中国国内の何かの混乱の中で、統率が取れていないような気もしています。ただこの問題を深く考えてみると、尖閣周辺の危機管理メカニズムについては、何年も前から議論がされていたのですが、気が付いてみると、いつの間にか話題にならなくなり、多くの人たちは解決しているのではないかと思っている人が多くいるのですが、何も解決しておらず議論も始まっていません。逆にいえば、今回の出来事が、この状況を解決するためのきっかけになった気もしています。

 今まで上手くいかなかったことを、次に繋げるきっかけになりえるのかという問題について、香田さんはどのようにお考えでしょうか。

2016-09-25-(10).jpg

中国と海上事故防止協定を結ぶため、日露の協定合意の経験を参考にすべき

香田:これまで、いろいろな約束を日本から行いました。これは政府間の合意や高いレベルの合意も含めてです。こうした合意は、長いもので半年、1年は履行されても、その先は基本的には無いに等しい扱いを受ける、ということが結構多くありました。今回については、扱いを間違えば武力紛争に発展しかねない問題なので、早くやるべきです。ただし、中国側にそうした合意を早くやる意図があるかどうか、という点については疑問です。

 25年前、私は日ソの海上事故防止協定の立ち上がりの部分を実際に担当しました。当時は、アメリカではレーガン政権の一番好機、ソ連ではレオニード・ブレジネフが一番ピークの時で、米ソ間で対立が存在していましたが、ワルシャワ・ソ連・NATO・アメリカ・日本が海上事故防止協定を結ぶことによる実質的なメリットというのを物凄く感じました。そういう意味で先鋭的な対立というのは、ずっとありましたが、結果的に合意に至り、それをきちんと守ってきました。こうした協定の存在が、冷戦後20年、米ロ間で比較的、協調体制が保たれた1つの理由だと思います。こうした経験を日本側は知っています。しかし中国は地域の大国であり、ある意味で自分の思い通りになってしまっていることが多々ある。だから、こうした協定を結ぶことによって、中国の国益に対して貢献できるか、ということを実感できるかどうか、ということが合意に至る1つの鍵だと思いますが、今のところまだ実感していないのが現状だと思います。やはり、日本側の攻め口としては、尖閣の領有権という対立は別にして、こうした協定を結ぶことで得られるメリットが、中国にとって非常に大きいということを認識させることが重要です。

 日ソ・日露の場合も北方領土の対立はありましたが、大きな枠組みとしての日露の海上事故防止協定というのが成立し、その後、ある意味で日ロの戦略防衛対話まで発展していくための種になったわけです。そういうことを今後、繰り返し中国に投げかけていくことが必要だと思っています。 

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