言論スタジオ

安倍政権4年実績評価「経済・財政政策」(2)

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2016年12月16日(金)
出演者:
内田和人(三菱東京UFJ銀行常務執行役員)
加藤出(東短リサーチ代表取締役社長、チーフエコノミスト)
田中秀明(明治大学公共政策大学院教授)
湯元健治(日本総合研究所副理事長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



第三セッション:財政再建と成長戦略の評価

c6dd8e0f38aeb31a09125418246176135ef9cb04.jpg工藤:最後に、安倍政権の第3の矢の成長戦略の話と財政再建の問題、少なくとも安倍政権はこれに取り組んでいるはずなのですが、この1年間について、どのように評価を下せばいいのでしょうか。

 財政再建の話に関しては、一応2020年のプライマリーバランス黒字化という約束は死守して、それを国民に約束しています。かなり難しいと思うのですが、こうした状況をどう見ればいいのか。

 成長戦略に関しては色々なものが出ています。働き方改革実行計画をまとめる、同一労働同一賃金の実現で正規・非正規の格差を是正する、TPPを承認する。国会承認という点ではこの前承認されたという形になります。それから国家戦略特区の更なる制度拡充、法人税改革を推進する、科学技術計画、再生医療の問題を世界に先駆けて総合的に推進する、外国人の旅行者を2020年に4000万人に、指導的地位に占める女性の割合を3割程度にする、日中韓FTAなど、地域経済連携の問題。こうした経済成長に絡めた色々な公約を次々に出してきました。実際に進めているところもありますが、ここあたりの評価と財政再建の問題を皆さんにお聞きします。まず、成長戦略について皆さんどういうふうに見ておられますか、うまく進んでいるのでしょうか。

時間がかかる政策もあるが、成長戦略については低評価

2016-12-28-(2).jpg内田:AIとかゲノム、新素材という点については、スローガンとして掲げて、我々民間についてもベンチャー企業への支援、出資を進めています。ただ、例えばフィンテック(金融デクノロジー)だと、どちらかというと民間の方が主導して政府が少し遅れているというのが現状であり、なかなか技術の評価であるとか標準化、実用化に向けたサポートが追い付いていない状況です。

 様々な成長戦略では、必ずベンチャーの育成とか産学連携という大学との研究開発というのが必要になってきます。この点、日本は極めて遅れていて、米国はベンチャー企業の約3割程度に大学の資金が入っており、それに対するブティックベンチャーのファンドが立ち上がっています。日本は、抜本的に成長戦略を支えるベンチャー企業に対し技術評価をし、金融でいうと通常の貸し出しではなく、出資に近い資金の供給といったような仕組みを早く立ち上げる必要があります。点数としては3.5点ぐらいでしょうか。

2016-12-28-(4).jpg湯元:基本的には、持続的な成長軌道に乗せて潜在成長率を上げるためには、特に民間企業のビジネス機会をいかに広げていくか、ということが一番重要なことだと思います。法人税率は確かに下げました。しかし、OECD諸国の平均値は25%ですから、29%という非常に中途半端な数字で、この先どうするのかという目標設定すら出ておらず、何も言及していない状況にあります。

 規制緩和については、国家戦略特区を1つの起爆剤として使って進めていこうということで、政策手段自体は非常に良いと思うのですが、現実にスピード感がないというが事実です。しかし徐々に拡充していて、対象地域も当初6地域だったものが10地域に上がってきていますし、規制緩和の項目数も当初18ぐらいだったものが今68項目ぐらいになって、158の具体的なプロジェクトがようやく今年に入って動き始めているので、もう少し忍耐強く待つ必要はあると思います。そういう意味では、ここのところがビジネスチャンスだと企業が感じれば、国内で投資をするという活動に結び付くことが期待される。しかし具体的にはまだそこまでいっていない状況だと思います。点数としては、内田さんと同じく3.5点ぐらいです。

2016-12-28-(7).jpg加藤:潜在成長率を上げていくには、企業がより生産性を高められるような規制改革なども色々と必要になります。また、生産年齢人口はどんどん減っていくだけに、高齢者や女性にもっと働いてもらうだけではやはり足りません。長い目で見れば出生率を高める対策は重要ですが、移民の問題も非常に重要なテーマです。それに関する海外の投資家の注目度も高いです。ただし、高度人材に対する政策が最近改善されたのは良かったと思います。永住権を得るためには従来5年の滞在期間が必要でしたが、今後は3年にして、特別評価される人は1年で永住権が取れるという話が今、中国ですごく話題になっています。ヨーロッパやアメリカも移民に対して非常に後ろ向きになってきているので、こういうところをうまく刺激すると優秀な人が入ってきやすい世界的な環境にあるので、タブー視しないでどんどん踏み込んでいく必要があると思います。点数としては2点です。

2016-12-28-(5).jpg田中:成長戦略については先ほど優先順位がないということを申し上げたので、1点だけ補足すると、不十分なのは人的投資や人材開発です。中長期の成長を考えると人材というのは非常に重要なわけで、それについての問題意識と具体策は足りないのではないかと思います。点数としては加藤さんと同じく2点です。

工藤:内田さん、法人税の減税を進めるという話と、安倍政権は昔から設備投資を時間と金額をベースにして目標を設定していました。そのあたりはどうでしょうか。

内田:冒頭申し上げた通り、企業収益は安倍政権による経常ベースで8兆円から10兆円増えている。これに対して設備投資は年間ベースで2兆円ぐらいしか増えていません。このギャップはやはり企業としては金利も安いですし、資本もかなり積まれているので投資もしたいということですが、新たな成長分野がないということだと思います。それが海外にどんどんM&Aのような形でシフトしているというのが現状です。そういう意味では規制緩和と新産業の育成、特にIT、AIというところについては、どの企業も投資需要は潜在的に高いですから、そこに向けてまず研究開発に減税強化をするとか、評価機関を策定して投資をしやすくする。そうしたことが十分ではないし、スピードが遅いと思います。

2016-12-28.jpg

財政再建目標は達成可能か、そのために何が必要か

工藤:では、最後に、財政の規律や再建の問題に移ります。これはきちんと国民に約束している話でもあるのですが、いつも曖昧になっていて、消費増税を延期する時も、次の夏までにはきちんとした財政計画を作るとしていたのですが、非常に目標が難しい状況になっています。このあたりをどういうふうに評価すればいいのでしょうか。

内田:国債発行額というのはピークで54兆円ぐらいあったのですが、今は40兆円を割っています。これはマイナス金利や低金利の効果であったり、税収が上がってきたということなのですが、税収が上がってくると常に新しい補正に回っていくということで、なかなか財政再建に繋がりにくい。抜本的な改革でやはり社会保障改革、これは特に海外から注目をされているポイントですが、ここになかなか踏み込めない。プライマリーバランスの2020年というのはまだ旗を降ろしていませんが、基本的に今のままではまず実現不可能だと思います。実際に可能になった場合には、国債費の前提状況を大きく変えるとか、今回も1.1%に利回りを落としましたが、そういうちょっとテクニカルなことをやれば多少改善すると思います。しかし、持続的な改善というのはやはり社会保障改革にどれだけ踏み込めるのか。これができれば相当合理化メリットが数字で出てくるので、これが1つのポイントだと思います。

湯元:プライマリー目標は、もう実現不可能だと思います。基本的に日本の財政悪化の最大の要因は、内田さんからご指摘があった社会保障費、これが経済成長率を遥かに上回って伸びてきています。過去30年ぐらいの平均で見ても、4%ぐらい伸びていて、今後も3%以上で伸びることはほぼ間違いない状況で、それに対してどういう手を打っていくのか。1つは消費税を上げて財源を確保するということが考えられますが、先送りをしてしまった。2つ目は社会保障制度の効率化とか適正化。要は伸びを抑制するという政策、年金改革法案は通りましたが、これはある意味不徹底な改革で、十分な年金抑制策になっていないと思います。医療介護制度については一部高齢者の高所得者層、金融資産を持っている方々に負担を求めるという改革はやろうとしています。しかし、サービスの方をより効率化して、合理化していくというところは、地方自治体任せの状態で、安倍政権として音頭を取って、それを改革していくという意欲には非常に乏しいと思います。そういう意味では、財政や社会保障の改革は、安倍政権の優先順位の一番下だと思います。

加藤:どうも2019年10月の消費税10%への引き上げは、このままだとまた見送りになってしまうのかなという感じがします。2020年代後半から団塊の世代が後期高齢者になり、医療費が増大していくので、一歩一歩着実に対策をとっていかないといけない。一方で今年、グローバルにはポピュリズムが台頭しましたが、日本はそうでもない原因の1つとして、日本はあまり厳しい財政再建をやっていないということもあるのかと思います。イギリスがああいう形になった1つの要因は、キャメロン政権の非常に厳しい財政緊縮策で、補助金などが減っている人たちが、改めて低賃金の移民の人たちとの競争の苦しさを意識してしまったということもあるようです。日本の場合はそういうことがないような、生ぬるい茹で蛙状態ゆえに、あまり明確なポピュリズムが台頭していないという面があるかと思います。しかし一方で、国民は長い目で見れば不安も感じているわけで、繰り返しですが潜在成長率を上げていくような対応も示しつつ、中長期的に財政は破綻しませんよという視点を示していかないといけません。

工藤:日銀が今、直接的なファンディングをしているわけではないのですが、結果として限りなくそれに近い形で国債の発行を肩代わりするという状況に近づいています。財政破綻、あるいは財政再建がうまく進まないことと、日銀の対策の持続可能性の問題はどのようにご覧になっていますか。

加藤:例えば第2次大戦中の米国では、FRBが長期国債の金利を2.5%にするという国債買い支え政策をやって、政府の軍事費の調達を支援したということがあります。戦後の1951年、FRBは、相当政府と揉めてそこから離脱したのですが、アメリカの国債市場は暴落することなくハードランディングにならずに正常化にシフトできました。なぜかというと戦争が終わって政府の支出が劇的に減ったため、プライマリーバランスが黒字化して、新規国債発行が激減し、FRBが買い支えなくても出口にいけたというわけです。

 ただ我々の場合ここから先、突然プライマリーバランスが改善するイベントがあるかというとそうではなく、高齢化によりむしろ深刻な悪化が予想されます。今のように日銀が国債を買い支え続けると、しばらくは問題を先送りできますが、いずれ国債に対する信任が低下し、それがどこかで目に見えるようになってくる恐れがあるのではないでしょうか。

田中:注意しなければならないことは、財政再建が最終目的ではないことです。当面の目的は世界に類を見ないスピードで進行している少子高齢化を乗り切ることであり、そのために何が必要かと言えば、財政や社会保障の中身の改革です。中身について重要なことは、社会保障を効率化しつつ、安心を与える仕組みです。財政を効率化しつつ、財源を教育、積極的な雇用政策など、将来の成長に繋がるような分野にお金を回していくことです。安倍政権は選挙対策で相変わらずの公共事業やばらまき的な施策にお金を使っており、残念ながら未来への投資は十分とは言えません。

工藤:今それに向けて動いていないという評価ですね。今日は経済政策の面から、日本の民主主義とか政党政治の状況、政府の政策ガバナンスという問題についてアプローチをしました。先ほど加藤さんがおっしゃったポピュリズムの問題ですが、今年8月に公表した私たちの世論調査によると、国民の6割が日本の将来に不安を感じ、政党政治に課題解決能力がない、と有識者ではなく一般の国民が思っています。ということは、その不安を利用する人たちが現れる傾向があるのではないか、と私は危惧しており、だからこそ市民が強くならなければいけないということで、今日の議論を締めさせていただきます。

 皆さん、ありがとうございました。

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