言論スタジオ

【言論NPO座談会】財政再建は本当に必要なのか ~衆院選を前に改めて考える~

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2017年10月4日(水)
出演者:
鈴木準(大和総研政策調査部長)
土居丈朗(慶応大学経済学部教授)
田中弥生(大学改革支援・学位授与機構特任教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 衆議院を解散した安倍首相は、解散理由として消費税率10%への引き上げによる増収分のうち、国の借金返済に充てる分を教育無償化に回すなど、消費税収の使途の中身を変えることを解散の大義にしています。これにより、2020年度に基礎的財政収支を黒字化する目標の達成は困難だと表明しました。一方、「希望の党」の小池百合子代表は2019年の消費税引き上げの凍結を主張しています。

 こうした状況の中、政党も政治家も、もうこの問題に強い関心を持っていないのではないか、日本の財政再建は本当に可能なのか。今回の総選挙を通じて、改めて財政再建の問題について、ゲストにお迎えした大和総研政策調査部長の鈴木準氏、慶応大学経済学部教授の土居丈朗氏、そして大学改革支援・学位授与機構特任教授の田中弥生氏の三氏と考えてみたいと思います。

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どうなる財政再建への取組み

 司会を務める言論NPO代表の工藤泰志は、「財政再建は形骸化しているのではないか。安倍政権の財政再建をどう考えているか」、三氏に問いかけました。

suzuki.jpg 鈴木氏は、「民主党政権の2012年、三党合意で社会保障と税の一体改革を決めた。2015年には第二次安倍政権が経済財政計画を作って財政健全化を進めてきたが、2020年度の基礎的財政収支の黒字化は難しいのではないか、という見方が大勢を占めている」と指摘。さらに、「今回、与党は2019年10月に消費税を上げると公約したが、別のことに使うとなると、どこかで減らさない限り、財政収支としては悪化し、財政健全化は難しくなる」との見解を示し、政権選択の選挙というのであれば、今回の選挙でも財政再建の取り組みを各党に明確にしてもらう必要性を強調しました。

doi.jpg 土居氏は、「与野党とも国債の金利ゼロに胡坐をかき、金利ゼロで発行出来るのだから、そんなに急いで消費税を増税しなくてもいいのではないかというムードに野党側が乗っかった。しかし、与党は社会保障費が増えていく中で、やりたいことをやるには財源がないと出来ない、という切実な財源問題に直面していて、国債ばっかり発行していても真綿で首を絞められるような形になるので、ついに安倍総理も三度目の延期はしないと名言する形になった」と語りました。さらに土居氏は、消費税収の使途を変えなければならなかった理由として、まず、2020年度の財政健全化目標の実現は難しそうだが、それをストレートに諦めたと言ってしまうと、二度消費増税を延期した時ですら財政再建の旗は降ろさないと言ってきたことを覆すことになること、さらに、アベノミクスが失敗したのではないか、うまく景気浮揚が出来なかったから、2020年度の目標を諦めなくてはいけないのではないかと後ろ指を指されかねないから、何かいい口実はないか探していたのではないか、と語りました。

 さらに土居氏は2つめの理由として、予定されていた社会保障の充実のうち、子供子育て支援0.7兆円は、5%から8%まで増税する時に得た財源ですでに使い込んでしまっており、10%への引き上げ時に、その増収分は子供子育て支援に当てられないということがはっきりしていたことを指摘。その結果、子供子育てに対する支援や、待機児童問題をまだ解消していないにも関わらず、消費税を増税しても今のスキームでは回せなくなると、何のために増税したのかと若い世代の人たちから思われかねないということで、2020年度のPB黒字化の目標も増税分の使い道も一旦白紙に戻す形になったのではないか、との見解を示しました。


前からわかっていた2020年度PB黒字化目標の達成困難

tanaka.jpg 一方、田中氏は、「とうの昔から、この目標が達成出来ないということは、政府の出していたデータから明らかになっていたのではないか」と指摘。その具体例として、内閣府から出されている中長期試算を挙げ、経済が2%、3%成長したという大前提でも、2020年度の基礎的財政収支の黒字化は困難だと示されていたにもかかわらず、政府が明確な答えがないまま、一年以上過ごしてきたことが問題だと語りました。さらに田中氏は、土居氏の指摘が正しいのであれば、そうした事情を説明した上で目標を変えること自体を有権者に問わなければならない、と厳しい評価を行いました。

kudo2.jpg こうした意見を踏まえた上で工藤は、「なぜ、財政再建は必要なのか。財政再建を口にする人は、財政再建だけを言っているだけで、本当はそんな必要はないのではないか。そういったことを感じさせるような議論がある」と素朴な質問をストレートに投げかけました。


財政再建はなぜ必要か
――若い人たちの信頼が、まだあるから続いている社会保障制度

 これに対して、土居氏は「当然、必要だ」と即答し、「わが国の少子高齢化がさらに進む中で、社会保障の受益と負担の世代間格差が拡大しており、この拡大を一日も早く防がないといけない。財政収支が改善されれば、その分だけ、将来世代が負担する国債残高が抑制でき、将来世代の租税負担を抑制することが出来る」と財政再建の必要性を強調しました。さらに土居氏は、世代間格差の是正が重要な理由として、日本の社会保障制度が賦課方式となており、子供達が親の世代に対して仕送りをするような形で財源を賄っている現状を指摘。その上で、「若い人たちがそっぽを向くと、現在の社会保障制度は持続出来ない。若い人たちの社会保障制度に対する信頼が、まだなんとか損なわれていないから続いているのであって、信頼がなくなれば、あっという間にお金の"源"がなくなり、高齢者の人たちも、もらっている給付がもらえなくなる」と、日本の社会保障制度の仕組み上も、財政再建を行うことが重要であると説きました。
 

経済構造を改め、財政再建しないと日本は衰退?

 金融政策面から語るのは鈴木氏です。「デフレ脱却というのは本当に重要で必要なことであり、そのために金融政策をやっている。しかし、今の金融政策は財政健全化とセットでないと機能しない。加えて、最終的には、債務残高がGDP比で上昇し続けるという状況を止めないといけない。そうでないと、社会保障制度が持続出来なくなる可能性が極めて高くなる。もう一つ、民間はお金が余っていて、政府だけがお金を使っている。政府は生産性を上げる主体ではないから、民間が、もっとお金を使えるような状況にならないといけないし、今の我々の大事な貯蓄というのが、全部国に対する債権になってしまっている。この経済構造を改めないと、長期的に日本はどんどん衰退してしまう」と語り、財政再建が必要な理由を指摘しました。

 次に工藤は、社会保障の中身を問題にしました。安倍政権が考えている社会保障、例えば、子育て、大学などの奨学金、つまり所得のない人でも十分に大学にアクセス出来るようにするというのは、ある意味理解出来るが、これまでの社会保障における支出の中身を変えなければならない段階に来ているのか、との問いかけには大学行政に関わってきた田中氏が答えます。


給食費が生活費に  ――社会保障の仕組みの精査を

 田中氏は「大学の無償化には反対で、多分それは、今の大学セクターを悪化させる方向に働く」と指摘しました。一方で、小中学校や幼児の無償化に関しては、具体的な例として、現状、給食費の補助については家庭に支払っているが、低所得の家庭というのは、給食費としてもらったとしても、それを生活費に使ってしまい、実態として給食費を払えない状態になっていることを紹介。そうした仕組みが機能しているのか、きちんと精査、評価する必要があると語りました。

 土居氏も無償化には注文をつけます。例えば、幼児教育の中で3~5歳児に所得制限なしで、中高所得層にも授業料の無償化のためにお金を配ることになっているが、そうしたお金があるならば、幼児教育の中でも、もっと有効なお金の使い方がある、と指摘。しかし、そうした専門家にしかわからない細かい話をしても、選挙で受けないと思われた可能性もあり、選挙が終わった後の見直しに期待を寄せました。


なんとなく無償化?

 鈴木氏が続きます。「どこに政策を当てなければならないかを考える中で、全世代型にするのであれば、お金がないので高齢者給付を少なくとも増やさない。出来れば少し抑制する。それから、女性が活躍出来るように育児と就業の両立をしやすくするとか、格差の問題があるので教育についてもっと目配りを細かくしていくという問題がある。就学前教育で言えば、幼稚園教育があり、そこを無償化して、どれくらいの効果が出るのかということを、もう少し数字なり他政策と比較考慮しないといけない。大学高等教育の無償化という議論もあるが、教育の問題なので、なんとなく無償がよさそうと考え、効果があるのかわからないままに、そこにプラスアルファ政策的に政府の財源を注ぐというのは、科学としての政策とは言えない」と語るのでした。

 最後は政治への疑問です。「希望の党」への民進党の合流時の、"踏み絵"の中に、消費税を上げないという項目があったことについて、工藤から「2012年の三党合意では、消費増税と財政再建の合意があったのに、政治の世界はもうそれを忘れてしまったのか」と疑問が投げかけられました。

 これに対して土居氏は、「安倍さんは、三党合意に拘束されたくないと内心思っている。だから8%までは消費税を上げたが、10%までは上げたくないということが透けて見える。今回は違った展開になったが、三党合意ないし社会保障と税の一体改革の使途の枠組みを変えてしまうのは、安倍さんにとっては何の躊躇もない」と断言口調で答えました。

 鈴木氏は、「野党は、景気回復の実感がないから消費税は上げられないというが、それでは実感とは何かを明らかにすべき。一方で、与党も10%引き上げ時に配分を変えるならば、その具体的な内容と、どのようなよいことがあるのかを明らかにすべき。加えて、財政健全化の旗を降ろさないのであれば、いつまでに財政黒字化するのかといったことを明らかにしないと改革はすすまない」と政治に注文を投げかけました。

 田中氏は「増税は必要と言う国民。適正な情報が入れば、国民は理解出来る。国であっても倒産、デフォルト(債務不履行)ということがある、という危機感を今の政党は全然感じていない」と、三者三様に、政治への注文を口にしました。


 最後に工藤は、今回の選挙で、候補者に1つ聞くとしたら何を聞けばいいのか、と問いかけると、「構造的な日本の財政赤字の原因は社会保障費だが、社会保障費について2018年までは既定路線でやることになっているが、19年度以降どうしていくかという歳出の目途はまだない。その明確なビジョンを示してほしい」(鈴木氏)、「財政再建に関して、手段としては消費税しかない。そうであるならば、消費増税について賛成・反対を聞いた上で、反対であるならば消費税にかわる財政再建のロードマップを描いて欲しい」(田中氏)、「財政再建を議論する上で、政治家に与えられている政策手段は、増減税をするか歳出を増やすか減らすかという二つしかない。そこで、社会保障費に限定し、あなたたちに与えられている手段の中で、問題を解決するとしたらどうしたらいいかということを政治家に問いたい」(土居氏)と3氏が意見を表明し、議論を締めくくりました。

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