言論スタジオ

【インタビュー】外交・安保分野の課題を解決するため、各党は「構想力」を競い合え

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2017年10月2日(月)
出演者:
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



 言論NPOは、10月22日の衆議院の投票日に向けて、様々な判断材料を提供しています。
 今回は、言論NPOのマニフェスト評価委員でもある慶應義塾大学総合政策学部准教授の神保謙氏には、外交・安全保障分野において、今回の選挙で政治家は有権者に何を示さなければならないのかを、アドバイザリーボードメンバーで元駐中国大使の宮本雄二氏には、今回の選挙で政治は、北朝鮮問題について何を国民対して約束すればいいのか、インタビューしました。


kudo2.jpg工藤:神保さん、こんにちは。この度、衆議院選挙が行われることになりましたが、今、言論NPOはこの状況に関して、日本の将来を見据えて、政治がきちんとした責任を果たすべきだと思っています。そういう観点から、2、3質問をさせていただきたいと思うのですが、選挙の解散がどうかという議論はあるのですが、今回の選挙の意味、国民は何を選べばいいのかわからないような状況にありますが、神保さんは今回の選挙は何を問われる選挙だとお考えでしょうか。


日本を取り巻く環境が厳しいからこそ「構想力」が問われている

jin.jpg神保:私は外交安全保障分野が専門なので、特にその方向性からお答えしたいと思います。今、日本を取り巻く安全保障環境は着実に厳しさを増していると思います。北朝鮮の核ミサイル開発、そして中国の台頭による軍事力の近代化、そして日米同盟の観点から見ますと、トランプ政権という極めて特殊な政権の中で、日米同盟の運用をどのように強化していくかという疑問それぞれが極めて重い意味を持っています。

 その中で外交安全保障上の課題としては、この厳しい安全保障環境の中で、日本が自らの力を強化するのも当然なのですが、どのような形で最も良い国際協力の形を実現していくのかという構想力が問われるのだと思います。その中には従来の延長戦からいうと、日米同盟をしっかりと強化できるか、ということもありますが、他方でやはり台頭する国々とどう付き合っていくか、つまり日中関係をどう位置づけるのか。さらにそれを取り巻く韓国、ASEAN、インドとの関係を創造的に発展させていくことができるのか。こういったことを踏まえながらしっかりと構想力を争うような選挙になって欲しいというのが、外交安保分野から見たときの私の希望です。

工藤:ということは、日本にとって日米関係はとても重要なのですが、しかしそれだけではなく中国、韓国、そして今オーストラリアやロシアなどの関係する周辺国についても考えながら、この地域の平和をどう構想できるか。それが各政党の候補者に問われる、という理解でよろしいでしょうか。


安倍政権の外交・安全保障分野は高評価だが、
うまく行かなかった点については具体論を出して議論すべき

神保:そうですね。安倍政権の安全保障政策は言論NPOでもかなり高い評価を与えてきました。これまでの安倍政権以前の政権では、やはり外交的な継続性という点でいうと毎年選挙をやるような状況で、なかなか法的な基盤も作れなければ、外交の継続性も保つことができなかった状況を、安倍政権はかなり打開したというふうに思うわけです。したがって安倍政権をどういうふうに評価するという基準で捉えれば、極めて大きなプラスであったと言えるかと思います。他方で、安倍政権の外交・安全保障政策は万全であったかといえば、幾つか大きな課題があったと思います。例えば自民党・安倍政権がこれまで掲げてきた積極的平和主義、国際協調主義に基づく積極的平和主義ですが、確かに地球儀を俯瞰した外交という基に、様々な国を訪れ、ヨーロッパ、アジア、ラテンアメリカ、アフリカを含めて、日本の外交の裾野は広がったと思います。他方で例えば肝煎りで進められてきた国際平和協力という点においては、ついに南スーダンからPKOを撤退させて、その背景にある自衛隊のガバナンス、日報隠しなどの様々な問題も指摘されました。必ずしも日本が世界の平和や平和構築のためにプレゼンスを発揮しているという状況ではないような気がしています。jin2.jpg
 さらに言うと、ロシア、プーチン大統領との関係構築には大変努めて、昨年の12月には日露首脳会談も実現させましたが、以前からの期待値にそぐうような形で、例えば北方領土問題がが劇的に打開されたり、日露の戦略的な関係が明確に定義された形で外交が進んだかというと、必ずしもそうではないということもあります。細かく言えば幾つかあるわけですが、こうした外交でうまくいっていないところを選挙後の次の政権でどういうふうに打開していくのか、これも具体論として議論すべき時なのだと思います。

工藤:今、神保先生がおっしゃったように、安倍政権の外交に対する言論NPOの評価は確かに高くなっています。安倍政権が外交上いろいろな努力をしたことはある程度評価せざるを得ない。一方で、今、神保さんがおっしゃった話は非常に重要な論点で、外交安全保障というのはなかなか国民に十分に説明しないものだと思っていたのですが、外交の問題に関しても国民はどういうことを考えればいいのか、ということを国民の間でも議論がないと、先ほどの南スーダンのようなことが起こってしまう。しかし今までの政治はそうした外交分野のことをきちんと国民に説明をするということになかなか慣れていない。ですから、今回の選挙で争っていく政治家が考える理念を具体的に実現するために国民は何を覚悟しなければいけないか、そういうことをきちっと説明する政治家が良いということですね。

神保:そうですね。やはり大事なことは我々が厳しい安全保障環境や創造的外交の重要性ということを客観的な状況として捉えるのであれば、その問題を解決するためにどのような構想が大事なのかという構想力を競うことが大事だと思います。その中には例えば国防を強化しなければいけない、防衛費を増やさなければいけないという考え方があるかもしれないし、場合によってはそうではなくてより外交を強化して、より多くの国々との外交基盤を強化していくという方向もあるかもしれない。さらには、国際機関を強化してより多角的な外交こそ日本が進むべき道なのだという場合もあるかもしれない。いずれにしても、それぞれの選択肢の優先順位の幅というのはあると思います。各党の中でよりリアルな保守的な政策を進めるものと、よりリベラルで積極的な外交を目指す層というこういった争点が誕生すれば、国民の中でやはり日本の歴史とそして今の法制度と理念を外交の中で実現するためには、実はこういう選択肢の幅があるということ自体は非常に歓迎するべきではないかと思います。

工藤:おっしゃる通りです。そうした選択幅を選挙戦で各党が展開していく、我々は15年間、こうした評価を行いながらずっと期待してきたことなのですが、なかなか選挙ではそういうきちっとした構想力の競争が起こらないという問題があります。一つだけ、分かりやすい事例で、我々の世論調査で日本の国民の「将来の不安」の中に、人口減少と高齢化問題とほぼ並ぶ問題として、北東アジアの平和、いわゆる北朝鮮問題に対する不安が国民の中で強まっています。そうした中では、北朝鮮問題の解決ということがどうしても求められるのですが、譲れない目標として、北朝鮮を核保有国として認めるのか認めないのか。解決を実現するために、そこはどうなのかというところをやはり政党は国民に説明した方がいいと思うのですが、その辺はどうお考えでしょうか。


国民が不安視している北朝鮮問題についての見通し

神保:北朝鮮に関して簡単な解決策はないと思います。解決策として1つは、軍事的なオプションを含む強硬な圧力で北朝鮮の方向性を変えてしまうこと、2つ目には厳しい経済制裁を科して徐々に相手を締め上げて、外交プロセスに乗せていく、そして3つ目は外交政策そのものを最初から提示して、北朝鮮が自らの体制誇示に基づく発展を目指したいのなら、その実現を外交で目指していきましょうという方向性もあると思います。しかし、そのいずれも我々のリスクを無視したかたちで実現するのは極めて難しいと思います。例えば今おっしゃったように、北朝鮮を核保有国だと外交で認めれば、問題はおさまるのかというと、まず北朝鮮が核保有国であるという現実と長期的に我々は共存しますという選択をするということになります。それはなかなか厳しい話になるとおもいます。

 北朝鮮の安定性をどう捉えるかという問題もありますし、北朝鮮が果たして核保有国であるという状況だけに満足するのかという話もあります。もしかすると、さらに北朝鮮は在韓米軍や在日米軍の削減や撤退を求めてきたり、北主導の統一を目指すような軍事的な行動をとったりする場合もあり得る。そうした場合、北朝鮮を核保有国として認めるという手段が本当に正しかったのか。歴史的にはどう判断するのかというのは実際分かりません。

 するとやはり今北朝鮮と 対話・外交していくのにはなかなか厳しいタイミングだと判断せざるを得ず、結果としてやはり長期的に北朝鮮を封じ込めていけるだけの圧力の継続に耐えるということを選択せざるを得ない、というのが今のところの判断じゃないかと思いますね。

工藤:やはり今の外交目標である北東アジアの平和というものを実現していくためにも、国民も人任せにしないである程度真剣に考えなければいけない局面に来たということですし、今回の選挙は、そうした時に行われる重要な選挙だということです。


本当の意味での政策競争、構想力の競争ができる環境づくりのための選挙に

 最後の非常に重要な設問になるのですが、そういう選挙でありながら、各党を見ていると、十分な政策論争が行われない可能性があります。そうなった時に、民主主義を考えると、我々は非常に困ってしまう。そこで言論NPOは考えたのですが、我々有権者は「政治に白紙委任はしない」といって有権者がもっと賢く、強くあるべきだと考えています。そうしたプレッシャーを政治家にぶつけることによって、本当の意味での政策競争そして構想力の競争ができる環境をもう一回作り直さなけれいけないのではないかと私は思っているのですが、神保先生はどうお考えですか。

神保:賛同いたします。やはり外交・安全保障分野においても、国民がどのような日本を望むのか、どのような世界秩序を望むのかという議論で、初めてアメリカとの日米同盟を評価し、あるいはその周辺国との関係を改善するという選択が選び取られるべきだと思います。つまり外部的な状況に依存して対応していく外交ではなく、日本自らがどのような地域の安定や世界の秩序を考えていくのかということを発信して初めて信用できる、世界の秩序をリードできる国家になるということだと思います。そうした選択肢を各党が政策競争として競い合い、そして国民が選び取るということで、そうしたことができた時、初めて政権の政策に対する信頼というものが生まれるのではないかと思います。ですから、各党はマニフェストで外交安全保障をしっかりと議論して欲しいと思いますし、それを参考に国民は投票に臨むという流れをぜひ作って欲しいと思っています。

工藤:そう意味では日本の将来や民主主義にとって非常に重要な選挙であると思います。これからも神保さん、御協力を宜しくお願いします。

神保:こちらこそ宜しくお願い致します。

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