言論スタジオ

グローバリゼーションと世界秩序の今後

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2018年3月8日(木)
出演者:
長谷川閑史(武田薬品工業株式会社相談役)
古城佳子(東京大学総合文化研究科教授)
篠原尚之(東京大学政策ビジョン研究センター教授、前IMF副専務理事)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



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 言論NPOは3月10日の「東京会議」を前にして、「自由貿易の今後」、「COPでの合意を踏まえた地球環境問題」、「難民問題」を世界の課題シリーズとして議論してきました。「東京会議」直前の8日は、シリーズの最終回として、「グローバリゼーションと世界秩序の今後」について議論しました。

 ゲストには、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーで、武田薬品工業株式会社相談役の長谷川閑史氏、東京大学総合文化研究科教授の古城佳子氏、東京大学政策ビジョン研究センター教授で、IMFの副専務理事を務めた篠原尚之氏の3氏をお迎えし、司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。

IMG_3443.jpg 工藤はまず、現状認識として、「多国間主義に対して自国ファーストの風潮が強くなり、グローバルな秩序が不安定化しています。中国の台頭もあって世界は劇的に変化しているようだ」と話し、3氏に今後をどのように見ているか尋ねました。


グローバリゼーションの先行きは?


IMG_3447.jpg 長谷川氏は、今の動きが秩序を打ち壊すのか、一部を修正するのか。また、これまでの価値観や体制にどういう影響があるのか。世界にその影響を広げようとしている中国の秩序と、アメリカを筆頭としてきた自由や民主主義のそれとは相反するのか、「未だにわからない」と語りました。さらに「今年のダボス会議では、周近平国家主席が我々こそ自由貿易のチャンピオンだ、と自画自賛し、トランプ大統領は離脱すると言っていたTPPに戻るかもしれない、と話した。この二つの勢力が、世界に調和をもたらさないと、自国に否定的に働いてしまう、というのはわかっている」と述べ、今後の先行きの不透明さを指摘しました。

IMG_3461.jpg 古城氏も同じような口調で語ります。「予測は難しい。今の秩序、国内の先進民主主義への支持がなくなると、今のルールを、秩序を変えてもいいのではないかとなる。この秩序を支え続けるかどうか、ということだ。中国は党、政府次第で、その意向通りに動いていくが、そうした挑戦をどう受けるか。格差、難民対策などで、不利益を感じている人が増え、懐疑心が広まっている」と。

IMG_3470.jpg 篠原氏は、「大きい、長いトレンドの中で考えると、その最大のものは、世界は多極化にあるということだ。アメリカは弱くなり、これに代わって中国が台頭してきたが、中国一極にはならず、米、欧、中、印が競い合う多極化で、世界は不安定化の状況になる。欧米の先進既存秩序は、少しずつ崩壊していく、その過程の中にいる」と分析しました。

 続いて、「トランプ大統領が誕生して1年が経過したが、この1年をどう見ているか」と工藤が問い掛けると、長谷川氏は「選挙期間中、威勢のいいことを言っていたトランプといえども、実際には周囲の意向を聞いて軌道修正して変わった。選挙中、言ったことでその通りやっているのは、減税、雇用の創出。それとオバマ・レガシーを全て拒否し、キューバとの国交正常化合意、イランの核合意をそれぞれ見直し、TPPからは離脱した。その焦点は、再選に向けてのもので、高邁な理想というものはないのではないか。トランプを見てこれからを推測するのは難しい」と厳しい言葉を続けました。


やっぱりビジネスマンのトランプ氏

 「TPPは21世紀に向けたルールで、アメリカの利益になるはずだった。アメリカ離脱後は、日本が頑張ってTPP11を主導し正式合意した一方、トランプは、鉄鋼品、アルミニウムに関税をかけ、各国によって報復措置も取られようとしている。こうした状況をどう見ればいいのか」、工藤はさらに問いかけます。

 「トランプの動きは深読みしない方がいい。一貫しているのは、ビジネスマンであるということ。貿易赤字で攻撃を受ければ"やっつけてやる"であり、既存秩序云々の発想はないのではないか。冷静に(政治とビジネスを)分けて考えることだ」と、篠原氏は返答します。

 言論NPOの有識者アンケートでは、トランプ政権は不安定と見る人が6割を越える結果が出ました。こうした結果を紹介しながら、工藤が訪米した折、ワシントンの政界で、「トランプの次はどうなる」と聞いたところ、トランプ政権の路線を修正するというよりも、格差などに悩む弱者救済のために社会主義的なバーニー・サンダース氏の名前が挙がったり、それとは真逆に、もっと強力なトランプが出てくるのでは、という声もあったことを紹介しました。

IMG_3460.jpg 古城氏は、「アメリカは所得格差やジェンダー(社会的性差)など、いろいろなレベルで分断しており、これらをうまく調整出来るところにアメリカの強さがあった。その意味で、サンダース支援はまだあるのではないか」と指摘。一方で、古城氏は「トランプへの一番の批判は、分断を深刻化することで敵を作り、自分への支持をとりつけることだ」とし、調整より、亀裂を深めているアメリカの現状について触れ、「指導者の大事な役割は調整だ」と、手厳しい言葉を並べます。


必然の流れのグローバリゼーション ―虐げられた人々への処方箋は

 グローバリゼーションへの危機感からか、G20では、多くを取り込む包括的な仕組みが唱えられています。そこで「グローバリゼーションの共通利益はないのか」と工藤が問いかけると、篠原氏は「グローバリゼーションは、必然の流れだ。日本人が縄文、弥生と流れ、交流が増え、経済発展からIT、AIと続く流れを止めようとするのは無理な話だ。グローバリゼーションから生まれた所得格差などへの処方箋を、どうやって見つけてくるのかは難しい問題。政治の世界では、貧しい人たちを、どこまで、どうやって救うのか、コンセンサスが必要だ」と語りました。

 続けて古城氏は、「グローバリゼーションは止まらず、規制出来る状況ではない。綻びが出ているところにはルールが必要で、綻びが大きくならないようにルールを作り、努力している姿を見せ、政治家は国内の人たちを説得しなければいけない」と言います。しかし、どうやって改善していくのか。「何をすれば、と言われても、非常に難しい。自分が我慢することも必要で、分担することで人を説得し、どこまで適度な福利厚生を作っていくか、そうした努力が重要だ」と、古城氏は話します。

IMG_3452.jpg 一方、長谷川氏は、「グローバリゼーションは止めようとしても、止まらない。一昔前はモノのグローバリゼーションだったが、今はITの進歩。ウーバー(配車アプリ)とか、そんなもの止めようとしたって簡単にはいかない。要は、グローバリゼーションから虐げられた人たちをどうするか、ダメージ受けた人たちを、どうやって社会保障的なもので助けるか。こうしたことをやっている国は北欧で、アメリカはほったらかし、日本もそれに近い。フィンランドはベーシックインカム(最低限所得保障)で、収入のない人に20万とか30万を払っている。こういった弱者にどう対応したらいいのか、いろんな試みをしているが、どう定着させていくかが重要だ。今年のダボス会議では、カナダの首相が、"今は、ものすごいスピードで変化しているけど、将来は、さらに加速し、今ほど遅くはない"と話していた」と語り、グローバリゼーション時代に突入してしまった私たちに同情するかのように説明するのでした。

 もう止められないグローバリゼーションの問題をどうするか。「何が共通利益か、認識が一致していない。自国が一番の中で、ルール作りが進まず、難しい。各国政府の認識が一致すればいいが、どこがリーダーシップを取るのか、それも今は見当たらない」という古城氏です。この他、「テクノロジーが全てを解決出来る、と思っている。将来は、100億人をピークに、これを支えるだけの地球環境になっているのでは」と、楽観主義者の長谷川氏が言えば、「1980年代の世界経済の成長を今は望めず、世界経済の成長率も潜在成長率も落ちてきている。グローバリゼーションが成長には結びつかないことに、慣れて考えてもらいたい。富への感覚とサスティナブル(持続可能)社会をどうするか、そこにはズレがある」(篠原氏)という声が挙がりました。


 最後の第3セッションでは、グローバリゼーションが動揺する現状の中で、急速に台頭する中国の存在をどう考えるか、そして、日本が何をすべきなのか、ということについて議論が展開されました。


中国を巻き込んだ新たなシステムは実現可能か

 工藤は、これまでアメリカが主導して構築してきた様々な世界の秩序やシステムについて、当のアメリカが牽引し続けることに対する意欲を失っている中、台頭を続ける中国をどう考えるのか、中国を巻き込んだ形で新しいシステムを構築していくことができるのか、と尋ねました。

IMG_3466.jpg これに対し篠原氏は、アメリカはトランプ政権になったが故に牽引役から手を引こうとしているのではなく、「そもそも、やろうと思ってもできなくなっている」と意志ではなく力そのものが退潮していると指摘。対照的に中国は、「黙っていても皆が周りに寄ってくる状態であり、それに伴ってどんどん影響力が高まっている」、欧州は「米中の間に挟まって、その中でうまく泳ごうとしている」と評し、そうした各様の状況では不安定化状況も続くため、新しい秩序やシステムの形成に向かうことは当面期待できないと語りました。

 古城氏は、これまでWTOで見られたように、中国は自国の利益になるのであれば、既存のルールにも則って行動すると振り返りつつ、現在は「既存のものに従いつつ、それを中国が影響力を発揮しやすいものに改変しようとしている段階」であるとの見方を示しました。

 しかしその一方で、現在は単独でゼロから新しいものを作ろうとしても、西側からの反発が大きいから既存のシステム改変という手法を使っているが、今後影響力がさらに高まっていった場合、「どのようなルールを作ろうとするのか、それを予測するのは難しい」と不透明感を口にしました。

 篠原氏も中国の将来的な動きは予測できないとしつつ、現在から見える傾向としては、「アジア地域には目配りをしていくつもりはあるが、グローバルプレーヤーとして動くことにはあまり関心がない。世界を積極的にリードしていくことにまだあまりメリットを感じていない」と評しました。その一方で、「穿った見方」と前置きしつつ、「中国は今はまだグローバルな世界では欧州、アメリカの壁が厚いので、あの連中(欧米)が弱ってくるのをもう少し待ってみようということかもしれない」とも語りました。

 長谷川氏は、発展途上の段階では一党独裁の方がより効率的な発展を望めるために、当面中国は変わらないとしつつ、その一方で、中国は自国とアメリカとの経済的、軍事的な差がまだ大きく、影響力を拡大していこうとしても限界があることをよく認識しているため、「何がベストの戦略になるのか、考えている最中だろう」と分析しました。

 さらに長谷川氏は、国連安保理やG20など既存のガバナンスの仕組みには、執行力がないなどその実効性が乏しい中、「中国も満足し、欧米、日本も満足するような、そういうインターナショナルなストラクチャー」を作る必要があるとしながらも、「それは言うは易し行うは難しなので、結論としては現状維持で行けるところまで行く、ということになるのだろう」と語りました。

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日本が果たすべき役割とは

 続いて工藤は、そうした混沌とした、先を見通すことができない状況の中で、日本が果たすべき役割について尋ねました。

 これに対し篠原氏は、日本は企業も社会もあらゆる面が「ガラパゴス」になっているとした上で、そうした中では、「グローバルなアーキテクチャー作りにどう貢献するか、ということよりもまず自分のことを考え、これからどうするかという方向性を見つけないといずれ誰も話を聞いてくれなくなる」と国際社会における存在感や発言力を危惧。その上で、「ここは思い切って色々なコストを覚悟しつつもグローバリゼーションの波に一生懸命に乗っていくのか。それとももう一回鎖国に戻るのか。極端な話だが、それくらいの状況になってきている」と日本が今まさに岐路に立たされていることを強調しました。

 古城氏は、国政政治学者の視点として、「世界最大の大国であるアメリカが鉄鋼輸入制限など保護主義的政策を打ち出すと、他の国々も同じような政策を取り始め、報復が連鎖していく。そうするとみんなバラバラになってしまって、国際協力などどこかに行ってしまう」とし、その連鎖を止めるために「日本は保護主義的な政策を取らないということを、アメリカに対して訴えていくということが重要になる」と主張しました。

 長谷川氏は、「政党がこの国の将来のビジョンを打ち立てて、それを国民に対して信を問うということができていない。今後30年後、50年後、人口減少や世界の環境の変化も踏まえ、さらに、日本の限られた資源の中で何ができるのか、ということを示す必要がある」とし、政治がビジョンを示すことの重要性を説きました。その際重要になるのは選択と集中の発想であるとし、「例えば、SDGsの中ではユニバーサル・ヘルス・カバレッジに関しては日本がリードしていく、というように特定の強みを持つ。それがないと焦点がぼやけて、中途半端なサイズで、中途半端な経済的な豊かさを持つ国という状態になり、何もイニシアティブも取れない国となってしまう」と語り、そうして目標をしっかり定めて、国際社会を強く牽引する日本を実現すれば、「特に若い世代にとってはモチベーションも上がるだろう」として、ビジョンから始まる好循環に期待を寄せました。

 議論を受けて最後に工藤は、「今回の有識者調査では、民主主義の危機を乗り越えるためには何が必要かという質問があるが、去年の結果と違うのは、市民、有権者側の姿勢を問う傾向が非常に強くなっている。今の危機的なこの状況を日本が変え、世界の中で大きなリーダーシップを発揮するためには、そろそろ有権者も考えなければならない段階に来たと思う」と語り、明日から始まる東京会議への強い意欲を示しつつ、議論を締めくくりました。

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