言論スタジオ

北朝鮮非核化の出口シナリオを考える

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2018年7月30日
出演者:
澤田克己(毎日新聞外信部部長)
添谷芳秀(慶應義塾大学法学部教授)
西野純也(慶應義塾大学法学部教授)
渡邊武(防衛研究所地域研究部アジア・アフリカ研究室主任研究官)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


⇒ 有識者アンケート「北朝鮮非核化の出口シナリオを考える」

 6月12日のトランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による歴史的な米朝首脳会談から1カ月以上が経過。両首脳が署名した共同声明には「完全な非核化に向けて努力」との文言が入っているが、その進捗が進まない背景には何があるのか。進めるためには何が必要なのか。そして、日本は何をすべきなのか。今回の言論スタジオでは、朝鮮半島の北東アジアの将来を見据えながら、専門家4氏による議論が展開された。

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金正恩氏に非核化の意思はあるのか

kudo.png 冒頭、工藤は今回の議論に先立って実施された有識者調査の結果を紹介。その中で、金正恩氏に非核化の意思があると思うかを尋ねた設問で、「あると思う」が30.3%、「ないと思う」31%、「初めからなかったと思う」25.4%となった結果を受けて、添谷氏は、「私自身は金正恩氏に非核化の意思はあると思う」との見方を提示。その背景には、北朝鮮の経済的な苦境があるとし、アメリカを牽制する程度の核は持つことができたので、「これ以上の核能力向上は必要ない。これからは経済だ」という発想になっていると分析。その上で、「この意思を利用して非核化プロセスを進めるという長期的な戦略が必要だ」と主張しました。もっとも、非核化プロセスが成功するかどうかは現段階では不透明であるとし、挫折した場合にも備えておく必要があるとも語りました。

IMG_5855.png 西野氏も同様の視点から、「これ以上の核開発はしないが、現有の核を完全に放棄するということについては、まだ完全な決断には至っていない」との認識を示しました。そして、「完全な決断」に至るか否かは、「関係国との相互作用で決まってくる」と指摘。さらに、北朝鮮側からは体制保証、軍事的脅威の除去、経済建設のための環境整備など、すでに条件は提示されているため、これに日米韓などがどう対応するかが課題となるが、プロセスはまだ入り口に入った段階にすぎないために、いまだ予断を許さない状況であると語りました。

IMG_5828.png 一方、渡邊氏は、金正恩氏の基本的な考え方に変化はないとの見方を提示。その理由としては、4月の朝鮮労働党中央委員会総会で「核ドクトリン」を再確認していることを挙げ、非核化の意思というのも「世界的な核軍縮の流れには賛成する」という意味合いだと分析しました。ただ、それは北朝鮮との交渉が無意味であるということを意味するのではなく、「これ以上の核能力増強がなくなるという点では意味がある」とも語りました。

sawa.png 澤田氏は、金正恩氏の本音としては、「核を捨てたいと積極的に思っているわけではない」としつつ、「核はアメリカとのディール(取引)の材料には使えるので、『良い条件を引き出せるのであれば捨ててもよい』という意味での覚悟はある」と分析。したがって、核放棄の成否も、結局はディールの相手であるトランプ大統領次第ということになるとの見通しを示しました。


トランプ大統領と金正恩氏の"奇妙な一致"

 そのトランプ大統領が、米韓合同軍事演習の中止したことなどを踏まえて、工藤が「アメリカ側の譲歩が大きいように見える」と指摘したことに対して、渡邊氏は、トランプ大統領の志向として、「外国との共同軍事演習などコストが大きいコミットメントは避けたいというのが本音」とした上で、「アメリカ側が一切妥協せずに強引に非核化プロセスを進めたとしたら、情勢は一気に悪化し、それは結局、アメリカのコミットメントの増大を招くために、それは避けたいと考えているのだろう」と分析しました。

soe.png この渡邊氏の発言に補足するように添谷氏は、「核を完全放棄して朝鮮半島が平和になれば、在韓米軍も駐留する必要性がなくなり、撤退する」という最終的なゴールに関しては、「トランプ大統領と金正恩氏の間に奇妙な一致がある」と指摘しました。


米中対立の不都合

 次に工藤は、"米中貿易戦争"が勃発し、米中対立が先鋭化している現状においては、「金正恩氏は、核放棄を急がなくてもいいという発想になるのではないか」との疑問を西野氏に対してぶつけました。

 これに対し西野氏は、「適度な米中対立は北朝鮮にとって確かに好都合」とする一方で、現在のような過度の対立は「北朝鮮にとっても不都合」と回答。西野氏は、北朝鮮は朝鮮戦争の終戦宣言を望んでいるが、中国がそれに加わることを望んでいるために、北朝鮮としては中国抜きでは終戦宣言へ進めないという問題を指摘。しかし、米中対立がこのまま深刻化すれば、本来朝鮮半島情勢とは全く関係のない米中貿易のために終戦宣言が進まなくなってしまうために、それは「北朝鮮にとっても不都合」と語りました。

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体制保証とは何を意味するのか

 続いて工藤は、金正恩氏が言うところの「体制保証」とは何を意味するのか、各氏に尋ねました。

 これに対し澤田氏は、金氏の一族が支配する体制が続くことを確約するものではなく、単に米軍が北朝鮮を攻撃しないという「安全の保証」を意味するにすぎないと説明。西野氏も、同様の視点から「安心供与」と表現。さらに、その"安心"を得るためには、米朝関係正常化、米韓軍事演習中止、在韓米軍縮小のみならず、経済制裁の緩和・解除、経済支援や世界銀行やIMF等国際機関への加入支援が必要であり、「金正恩氏は、これらと非核化はギブアンドテイクの関係にあると考えている」と解説しました。


「非核化」が先か、「平和プロセス」のせめぎ合い

 有識者アンケート結果に関連して、工藤は、「非核化」と「平和プロセス」の関係について、日本の有識者は「非核化が平和プロセスの前提であるべき」と考える人が多いが、例えば、ロシアで様々な識者の話を聞いたところ、平和プロセスを先行させるべきと考えている人が多かったことを紹介。その上で、「非核化と平和プロセスのどちらを先行させるべきか」と問いかけました。

 これに対し西野氏は、双方の「せめぎ合い」が展開されているのが現状だとしつつ、金正恩氏の考えとしては、「まず信頼構築であり、トランプ大統領に誠意を見せてほしいと考えているのだろう」と分析しました。

 この「せめぎ合い」について、添谷氏はより具体的に、日米の「入り口論(非核化)」、韓中露の「出口論(平和プロセス)」がせめぎ合っていると表現。その折り合いをつけることが大きな課題であるとした上で、その解決のカギを握るのが韓国であると指摘。文在寅大統領が「計画的ではなく、なし崩し的にグレーな状況を作っていけるかどうか」が成否を分けると語りました。


日本に求められる対応

 最後の質問として工藤は、日本が今後なすべきことを各氏に尋ねました。

 澤田氏は、プロセス全体に対しては日本がリードできる局面はほとんどないために、「プロセスの後押しが日本の役割となる」と回答。日本にとってより大きな課題は、日朝の二国間交渉であるとし、2002年の「日朝平壌宣言」では、経済協力が盛り込まれているため、「ここでどう知恵を絞れるか」と問題提起。16年前とは日本の経済力が相対的に落ちている現状では、経済協力というカードの切り札としての力も弱まっているため、北朝鮮に経済協力を魅力的に見せるための創意工夫が不可欠であると主張しました。

 渡邊氏も、経済協力については澤田氏の意見に同意。一方、安全保障面での課題としては、抑止力の強化継続を提示。非核化と平和プロセスを停滞させないためにも、「こういう抑止力があるということを示し続ける必要がある」と牽制の必要性を強調しました。

 西野氏は、短期・中期・長期の課題を提示。まず、短期的な課題としては、抑止力、防衛力の強化と同時に経済制裁の継続を提示。中期的には、プロセスの進行とともに、朝鮮半島の秩序が変わっていくことが予想されるために、その変化にどう備えるかが課題になるとし、そこでは日米韓の連携が不可欠としました。そして長期的は、秩序づくりに積極関与が求められるとし、特に経済再生プロセスに関しては、「参加するか否かではなく、参加しなければならない」としました。同時に、「文大統領は、北東アジアの安全保障メカニズムを構想しているようだが、そうしたことも"頭の体操"として今から考えておく必要がある」と語りました。

 添谷氏も、朝鮮半島情勢の変化に伴い、北東アジア戦略も根底から変化が求められる可能性があるため、それに対する備えが不可欠と指摘。その上で、重要になるのが日韓関係の再構築であると主張。言論NPOが実施している「日韓共同世論調査」結果が示す通り、日韓関係の現状は芳しいものではないことを、「果たしてこのままでいいのか」と問題提起しつつ、「日韓関係は単なる二国間関係にとどまらない、北東アジア戦略を構築する上で不可欠な関係だ」と強く主張しました。とりわけ、今年は「日韓共同宣言」から20周年にあたることに触れ、当時の小渕首相と金大中大統領は日韓の将来にビジョンを持っていたと振り返りながら、「節目の年である今年、改めて宣言の意味を考える必要がある」と語りました。

 添谷氏は同時に、「日朝平壌宣言」についても、その意味を考えながら北朝鮮に対するアプローチを考えていくべきと強調しました。

 その後、会場からの質疑応答を経て最後に工藤は、日本社会全体としても、朝鮮半島と北東アジアの将来に向けた「大きな絵」を考えていかなければならず、それがないと予測不能な事態に対応できないとコメント。その上で、改めてこの北朝鮮問題について議論を継続していく必要性があると語り、今回のセッションを締めくくりました。

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