公開フォーラム「今後の日韓関係をどう考えればいいのか」

2019年6月14日

2019年6月14日(金)
出演者:
西野純也(慶應義塾大学法学部政治学科教授)
奥薗秀樹(静岡県立大学国際関係学研究科准教授)
安倍誠(ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター・東アジア研究グループ長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 6月22日の「第7回日韓未来対話」を控えた同14日、言論NPOは日韓関係に詳しい3人の識者を招き、「今後の日韓関係をどう考えればいいのか」と題して公開フォーラムを開催しました。この1年間、日本と韓国の間では1965年の国交正常化時における政府間合意のあり方を揺るがす事態が生じ、その展開によっては、日韓関係はかつてなく厳しい状況に直面する可能性が出ています。こうした局面を打開することは可能なのか。そもそも、なぜ日韓関係を改善しなければならないのか。本質に切り込む議論を通し、今回の対話の重要なポイントが見えてきました。

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1.第7回日韓共同世論調査の結果から見る日韓関係の現状と今後

kudo.jpg工藤:言論NPOの工藤泰志です。今日は、先日私たちが公表した「第7回日韓共同世論調査」をベースに、日韓関係を今後どう考えていけばいいのか、ということについて議論してみたいと思っています。私たちは6月22日に「第7回日韓未来対話」を開催します。日韓でこういう対話をやることは、今、非常に困難なのですが、何とか実現できることになりました。今日の議論は、22日の議論の参考にもさせてもらいたいと思っております。

 まず、3人のゲストをご紹介します。まず、私の隣が、慶應義塾大学法学部政治学科教授の西野純也さんです。続いて、静岡県立大学国際関係学研究科准教授の奥薗秀樹さんです。最後に、ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター・東アジア研究グループ長の安倍誠さんです。

 早速なのですが、6月12日、私たちは世論調査の結果を発表しました。これは、端的に言うと、今の状況を反映して、日韓両国の国民は、日韓関係についてかなりマイナスの評価をする人が増えている。日本側、日韓関係を「悪い」と見る人が、昨年に比べ20ポイント以上(40.6%→63.5%)増えたのです。その中のほとんどが「非常に悪い」という見方でした。特に日本の場合、日韓関係の将来に対しても、最も多い33.8%が「悪くなっていく」という答えでした。韓国側も同じように、日韓関係の現状に対する評価は悪い(66.1%)のですが、ただ、相手国に対する印象に関しては、旅行など様々な市民の交流や、主に若年層が使っている携帯アプリなど、生活感覚をベースにした情報源が非常に寄与していて、印象悪化のクッション役になっています(「良くない印象」が日本側で46.3→49.9%と増加したのに対して、韓国側は50.6%→49.9%に減少)。しかし、私は、先行きはかなり厳しいような印象を受けました。皆さんは、この世論調査を見て、今の日韓関係の現状をどのように感じたのか。西野先生からお願いします。

韓国に対する日本世論の厳しい見方をどう受け止めるか

nishino.jpg西野:今、工藤代表がおっしゃったように、とりわけ日本側の世論が、現状に対する認識と将来に対する展望について深刻かつ悲観的にとらえているというのが、よく表れた結果だったと思います。それは、やはり日本の世論が、日韓の政治・外交関係に焦点を当ててみているというのが、極めて大きいと思います。他方、韓国側の世論は、日本に対して良い印象を持っている人の割合が今回非常に高かった(31.7%)ことからも明らかなように、政治・外交関係よりは、文化・人的交流の側面をよく見ている。それが、日韓の人的交流1000万人、特に韓国側から日本への訪問者が年間750万人という数字になって表れているのだと思います。 

 したがって、日本はとりわけ、いわゆる歴史の問題について、現状認識が非常に厳しいわけですが、韓国側は、そういった歴史問題、とりわけ徴用工の判決の問題をきちんと見ることができていない。あるいは、そういった問題がどういう性質で、日韓関係にどのようなインパクトを与えているのかについては、必ずしもきちんと認識をできていない、あるいは認知できていない。その代わりに、日韓の文化交流とかそういった側面に対する関心が前面に出る形で、良い印象を持っているという結果になって表れているのかなと感じました。

工藤:私も、西野さんがおっしゃった通りで、世論調査の発表記者会見のときに言ったのは、基本的に、日本の世論がここまで厳しいというのは、最近はせっかく改善していたのがまた一気に悪化するという状況ですから、まず、この事態を両国政府はしっかり受け止めてほしい、ということでした。世論の状況がそこまで厳しいものではない、というような意見があるので、そのように言いました。奥薗さんはどうでしょうか。

日韓関係の「構造的な危機」

okuzono.jpg奥薗:今の日韓関係というのは、これまでとちょっと違う危機に瀕している側面が、ある意味であると思います。それは、例えば特定の政治家が暴言を吐いたとか、あるいは教科書の問題とか、靖国神社参拝とか、そういった特定のイシューで両国関係がギクシャクしている、というようなことではなく、1965年の日韓国交正常化のときの大きな枠組みそのものが問われるような、構造的な問題になっているというところで、非常に深刻だと思うのですが、ただ、今回の調査結果を見ると、例えば、相手国に対する印象が、日本は「良い」が2013年の調査開始以来、過去最低(20.0%)なのですが、韓国は「良くない」印象が過去最低(49.9%)で、「良い」が過去最高(31.7%)になっている。あるいは、日韓関係の重要性でも、日本は「重要だ」が過去最低(50.9%)で、「重要でない」が過去最高(21.3%)になっている。ただ、韓国は「重要だ」が8割を超えている。今後の日韓関係についても、先ほど西野先生もおっしゃいましたが、日本も非常に悲観的なのですが、韓国は「悪くなる」が増えている(13.5%→18.7%)一方、「良くなる」も2割以上を維持している。そういったようなことで、日本に比べると非常に楽観的だという印象がすごくあるのです。

 そのように見たときに、逆に、日韓関係が非常に大きな危機を迎えているという危機感のようなものを、韓国世論の動向を見たときに、あまり共有できていないのかな、と日本側はすごく深刻に受け止めているのですが、韓国側は、必ずしも今の日韓関係を、そういう、ある意味で本当に危機に瀕しているのだというような危機意識を共有できていないのかな、という印象を受けて、逆にそのことが問題だな、と感じたところです。

工藤:今の話は後からまた進めたいのですが、非常に重要なポイントを突いていただきました。安倍さんはどうですか。

abe.jpg安倍:基本的な感想は、西野先生、奥薗先生と同じです。私自身は世論調査が専門ではありませんので、雑駁な感想になってしまいますが、韓国の方は、日本に対する比較的良いイメージが非常に強くなってきていることは事実で、これに日本とのギャップがある、と。ただ、韓国側は割と日本に対する感情が良くなっている一方で、やはり歴史問題等に関しては「重要である」というところも実際に示されています(「日韓関係改善のためにすべきこと」で「歴史認識問題の解決」が最多の84.5%。また、日韓関係と歴史問題との関係を巡り、「歴史認識問題が解決しなければ、両国関係は発展しない」が最多の39.1%で、昨年の33.5%から増加)。

 したがって、ひとたび韓国側で歴史問題に火がついた場合、一気に反転する可能性もあるのではないかと。先ほどご指摘があったように、あくまでも文化的な部分などで日本に対する良いイメージが出てきていますので、ひとたびまた歴史問題が何かしら争点化したときには、一気に韓国の世論が沸騰してまた悪くなるということは十分考えられる、という意味で、日本側のイメージがうまく伝えられていないということと、韓国側の雰囲気も決して全ての問題を踏まえた上でのものではないということに関しては、楽観はできないなと思っています。

政治・外交問題とは切り離されて進む若者らの文化交流

工藤:3人の方に、世論調査結果に対する感想を述べていただいたのですが、これから私の方で何点か聞くことになります。

 まず、韓国では、確かに若者をはじめとした文化交流が、日本に対する感情悪化のクッション役になっている、ということです。これはどのようにとらえればいいのか。つまり、今はクッション役になっているけれど、今後、日韓間の政治・外交問題が悪化していけば、これが覆っていく危険性を持つと考えればいいのか。それとも、政治と文化は別で、お互いの政府がどうであろうと国民は関心がなく、ただ交流とかショッピングとか観光が楽しいという形になっているのか。今まさに、奥薗さんがおっしゃったような政治・外交の本質的な課題というものと、一般世論との関係をどのようにとらえればいいのか、ということについて述べていただきたいのですが、西野さんからどうでしょうか。

西野:今回の言論NPOの調査も含めて、日韓の間での様々な世論調査を見ると、共通している傾向は、やはり、日韓とも20代で、相手国に対する親近感を感じる割合が非常に高くて、高齢層になるほどそれが減少していく、ということです。したがって、世代がどんどん交代していけば日韓の未来は明るいのではないか、という意見がよく出ますが、別のデータを見ると、必ずしもそうはなっていない。すなわち、とりわけ韓国の世論に、歴史の問題について「日本はさらに謝るべきか」とかいう設問をすると、実は、若年層でも非常に高い割合で「日本はさらに謝罪すべきだ」という回答が出る。つまり、文化的な観点から見ている、日常的に接する日本に対しては親しみを感じるけれども、歴史問題は歴史問題として、日本にもっと歴史を直視するように求める、というのが基本的な韓国の世論です。こういった二つの考え方が、実はあまり交わっていない。

 したがって、我々が考えなければいけない問題は、日韓の若者世代で、とりわけ友好的な感覚で見ている両国に対するイメージを、いかに政治・外交的な摩擦の部分に良い影響を与える形で接点をつくっていくか、ということなのではないかと思います。それから、日本は政治・外交問題に過度にフォーカスしていて、裾野の部分が十分に見えていない、あるいは報じられていない。韓国の世論やメディアを見ると、日韓の政治・外交問題がいかに深刻な状況なのかということについては、奥薗先生がおっしゃったように十分に認識をしていない、あるいは楽観的に見ている。この認識のギャップを緩めていく、これが今回の対話の一つの重要なポイントになるのではないか、と考えています。

奥薗:最近、私はこの件がちょっと気になっています。どういう意味かと申しますと、「日韓関係が史上最悪だ」というようなことが盛んに言われるわけですが、その一方で、まさに若者を中心とした社会・文化・人的交流は、政治あるいは外交面での関係がこれだけギクシャクしているにもかかわらず、非常に順調に定着していっている。そのことをもって、「どこが史上最悪なのか、日韓関係は大丈夫だ」というような、本当にお先真っ暗の中で何か光を求めたい、という意識が働くのかもしれませんが、若者などの人的・社会的・文化的交流が良いということをもって、何か、政治・外交の極度に悪化した両国関係を「放置していてもいいのだ」といったような方向に議論が行ってしまうのは非常に良くない。

 だから、そういう若者を中心とした人的・文化的交流がこれだけ幅広く展開されていて、ほぼ定着しているというのは、民間次元において、両国関係が非常に成熟していることの証であるということで、非常に望ましいことだとは思うのですが、おそらく今後も、そうでありながらも、歴史が絡む形で、両国の間の軋轢とか摩擦、葛藤というのは、なくならないと思うべきですし、おそらくなくならないだろうと、私はその意味では悲観的なのです。だとすると、そういう軋轢が起きても、若者を中心とした人的・文化的交流が影響を受けないような、地道な交流はずっと続けていきながらも、政治・外交における危機管理のようなものを同時にやっていく必要があるのだろうと思います。

経済面から日韓関係を立て直そうという動きはないのか

工藤:そこは非常に弱いですよね。安倍さん、文化とか生活面と、政治・外交・安全保障面との関係という話をしたのですが、実をいうと、若者の感覚の中で、経済、つまりお互いの雇用や、商品が魅力的だとか、ある意味で経済的な顧客としての交流を含めた形での関係があるのですが、それに反応しているのは韓国側なのです。つまり、世論調査で、「日韓の経済協力が自国の将来にとって必要か」と問うと、韓国では何と8割を超える人が「必要だ」というのですが、日本はそれが4割にとどまっているのです。至るところで、韓国側は経済が大事、でも、日本側は、日韓関係の中で経済の重要性を強調する人がいない。場合によっては、今回の徴用工問題で「報復しろ」とか「断交しろ」という議論まで出るわけです。この問題は今、どのような状況になってきているのでしょうか。

安倍:例えば日本において、韓国に対する経済協力の重要性を認識している割合があまり高くないというのは、ある意味で、特に、割と昔のフレームで、上から目線で韓国を見ているところもあるのかなと。もともと、日本にとって経済協力は韓国に対して「してあげるもの」であって、自分たちがしてもらうものではない、というところがあります。さらには、もともと経済規模は日本の方がはるかに大きいではないか、だから韓国は取るに足らない存在である、という認識が、基本的に、特に日本の割と古い世代を中心にまだ強いのかな、という印象があります。ただ、実際は、韓国は経済規模からいってもGDPが日本の3分の1くらいありますし、以前に比べるとはるかに大きい存在です。日本の輸出を見ても、だいたい6~7%くらいのシェアを占めている、大きいお得意さんでもあるわけです。その辺の認識が、日本側はなかなか出てきていないのかなと思います。

 逆に、韓国側も、一つは、やはり最近の経済状況があまり良くない中で、「経済協力」という質問をされると、様々な形で協力を受けた方がいいな、という発想が働くというところもあると思いますし、また、これは後で議論になるかもしれませんが、今、韓国が日本を求めるというのは、若干、今の政権に対する批判も込めて、特に、マスコミの中でも、日本との関係が悪いことに対する保守系からの批判が強まっています。今日の新聞などでも、「徴用工判決以降、日本との経済関係はこんなに悪くなっている。まずいのではないか」というのがかなり出ていますので、それに対する反応というか、割と保守層の共感を反映しているのかもしれないと思っています。

工藤:実際にはどうなのですか。経済関係は、今かなり厳しいのですが、「もういいよ」という感じなのですか。それとも「何とかしよう」という動きが日韓の間で実際にあるのですか。

安倍:日韓の間では特に聞こえていません。韓国の中で、例えば通貨スワップを日本との間でもう一度結ぶべきだ、というのは、例えば韓国銀行の総裁も実際に述べていることですし、あとは、今、米中のはざまにいる中で、米中以外の選択肢としてTPPに加盟すべきである、という意見が今でもたくさんあります。政府の中でも、引き続き検討していると言っています。ただ、日本との政治的な関係もある中で、なかなか踏み出せていないというのが、今の韓国の状況だと思います。

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