言論スタジオ

公開フォーラム 「米中対立の行方」

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2019年6月25日(火)
出演者:
河合正弘(東京大学公共政策大学院特任教授、元アジア開発銀行研究所所長)
丸川知雄(東京大学社会科学研究所教授)
安井明彦(みずほ総研欧米調査部長)
山﨑達雄(前財務官)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 言論NPOは25日、「米中対立の行方」と題して公開フォーラムを行いました。トランプ米政権は、米中通商対立の第4弾として関税対策を用意して強硬姿勢を崩さず、今週大阪でのG20では米中首脳会談が開かれようとしています。果たして、トランプ大統領と習近平国家主席との顔合わせによって事態の転機は訪れるのか。ゲストに東京大学公共政策大学院特任教授の河合正弘氏、前財務官の山﨑達雄氏、東京大学社会科学研究所教授の丸川知雄氏、みずほ総研欧米調査部長の安井明彦氏の4氏を迎え、意見交換してもらいました。

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再協議への道

kudo.jpg まず、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、G20の米中首脳会談によって追加関税の報復合戦を避け、米中対立を食い止めることができるのか、と4氏に尋ねました。これに対し河合氏は、「首脳が会う以上は決裂はなく、なんらかの合意ができるのではないか」と期待を寄せます。「恐らくその合意というのは、もう一度、交渉を終わらせるための協議を再開しようというものになるのではないか。中国側の知的財産権、産業補助金、国有企業の改革なども含んでいた話し合いが最後になってひっくり返された理由は、中国側からすると、米側は平等でない立場で交渉に臨んでいた。米側は合意を明確にするための法改正を中国側に求め、合意が守られているかどうか米国主導でモニターし、守られていないときには米国が制裁を発動できるが中国側は報復できないというもので、中国側はそれは国家主権、メンツに関わる問題として受け入れられなかった。米側もアプローチを変えてきて、再協議になるのでは」と河合氏は予測。米側がアプローチを変えてくるのは、問題が中国の主権問題で、「対等の立場での協議のやり方でないと受け入れられない」という中国側の立場を考慮するのではないか、と推測しました。

yamazaki.png 山﨑氏は、「トランプ氏は来年11月の大統領選に、何が得になるのかを基準に判断している。中国に対して弱腰になるとトランプのコアの支持層を失うが、第四弾の最終消費財3000億ドルへの課税は米国市民と産業界の反発を買う。どこかで手を打ちたいと思っているはず。4月ぐらいまでは歩み寄って90%近く合意していたが、中国側が国内事情で撤回してしまった。G20で会談が実現するようになったのは、習近平氏からトランプ氏に電話したからで、習近平氏としては国内向けに、トランプ氏に中国の立場を伝えたことを示したい。しかし、両者が譲歩して実質妥結する可能性は少なく、他方で両首脳が会って交渉が決裂すれば先がないので、交渉を継続させ、その間は関税第四弾を先送りするというではないか」と分析しました。


中国のハイテク企業包囲網の火の粉が

marukawa.png 「中国としては3月の外商投資法など、きちんと法律を作ってきている、という思いがある」と中国の立場を説明するのは丸川氏です。中国側の報道からすると、「米国から強硬な数値目標の要求があったので認められなかったのではないか」と推測する丸川氏は、「今後の交渉で、米通商法301号にかかる関税をいっぺんに全部撤廃してもらうことは難しいが、アメリカが国防権限法や輸出管理法によって、中国のハイテク企業包囲作戦をやっていて、ファーウェイにモノを売ってはいけないとか、買っている企業は政府調達から排除して村八分にする、といった制限をしており、それをやめてもらうことが先決」と指摘。「米国の代表的なハイテク産業のクアルコムは、売上高の三分の二が中国向けなので、株価が急落してしまった。このように禁輸措置の火の粉が米中日に飛んでいるので、これをやめてもらうことが米中交渉においてプライオリティが高い」と、米中貿易摩擦の影響を詳細に説明しました。


先が見通せ過ぎるのは、気になるシナリオ

IMG_8538.png 「慎重だけれど、楽観的に見ている」と言うのは安井氏で、「関税とは別のところにある技術の面は難しいので解決されないにせよ、貿易不均衡とか関税の面では、関税引き上げは避けられるのではないか」と今後の見方を示しました。しかし、これは、「交渉継続にすぎないのであって、経済の観点から見ると、不透明さが残る。米国からすれば、中国の誰と交渉するのがいいのか、事務方と協議しても本国に持って帰ったら、それは通らなかったということは、米国でも中国でもあることで、結局、首脳がやるしかないのではないか」と話しました。さらに、「首脳会談の結果にマーケットは好感するだろうが、先は見通せないのでは」と語り、逆の視点で、「最悪の事態は避けられるだろうと、あまりにシナリオが大丈夫、と見えすぎているのがちょっと気になる」と苦笑する安井氏でした。

 4氏から、交渉の先行きを予測してもらった工藤は、ルールベースの面から、米中摩擦で自由貿易のあり方は改善の方向に向かっているのか、と質問しました。

kawai.png 河合氏は、「トランプ氏がWTOの原則を破る形で、国内法に基づいて関税引き上げをしているのは、深刻な問題だ。しかし、中国がWTOに加盟した時の約束の実行、知的財産権の保護も不十分で、産業補助金もある。さらに、国有企業で競争を疎外しているなどの問題がWTOの中で十分に取り入れられていないのは問題だ」と指摘。米中でこうした問題で合意できれば、合意されたものに基づいて、仮にWTOの改革を進めることができれば、今回の通商紛争もWTO改革に向けた一つの重要なテコになる可能性はある。だからこそ、米中の交渉だけにまかせないで、日本やEUも米中の協議に基づいて、それをWTOの改革に反映させる形で動かしていくことが大事だ、と日本やEUへの期待を寄せました。


G20で、日本はWTOの新たなルール作りを

 一方、山﨑氏は、中国はWTOに入っておきながら、補助金をWTOに通報しない、技術は強制的に移転させるなど、米国からしてみればWTOが機能しないからこそ301条を使わざるを得ないと指摘します。さらに、「米中が先に合意したと言われる中には、中国が補助金を一定程度抑える内容も含まれるといわれているが、、これを更にマルチなものとしていくのが世界経済のメンバーである日本としては重要」と指摘。今週末に開かれる大阪のG20では、WTOの改革を日本がうまくリードしていくこと、さらにデジタル商取引という今までWTOになかった部分のルール作りを、せめて日本を含めた有志国で始めてWTOの改革協議につなげていってもらいたい、と期待する山﨑氏でした。

 「中国はルールベースに向けた経済の構造改革をするのか、それとも米国に対抗していくのか」。工藤は丸川氏に質問しました。「米中貿易戦争で中国は、最初からWTOルールに則らない対抗手段を取ってきて、今度はレアアースの輸出制限と言いだしてきた。この輸出制限はかつてWTOのパネルでダメとなったはずなので、これを持ち出すと大顰蹙を買うと思う。それがまだ行われていないのは、国内に理性的な声があると思う」と丸川氏は話しました。


国有資産を投資ファンドへ

 続けて、「国有企業の問題は、少数ながらこの外圧を利用して国有企業改革を進めようという声もあるので、私たちにとって好ましい傾向がないわけではない」と中国側の変化を取り上げ、「膨大な国有資産を国有投資ファンドとして、補助金としてではなく、投資にする動きが出てきている。それ位は認めてあげて、補助金はやめよう、という方向に誘導してあげたらいいのでは」と提案する丸川氏でした。

 工藤は、率直に尋ねました。「習近平氏は、構造改革しようとしているのか」。丸川氏は、「習近平氏ら主流派が改革推進勢力かどうか、疑問符がつく」と簡潔に答えます。その理由として、「国内の国有企業という膨大な勢力は改革の障害になっているし、ネットワークのセキュリティ会社が安全保障への配慮から国有化される、という逆の流れも出てきている。習近平氏に過度の期待を持つことはできない」と語る丸川氏。米中交渉役の劉鶴副首相については、「国家計画委員会の出身で、国有企業や産業政策のマイナス面を経験しているので、改革推進の方にいると思うが、押し切る政治力はないのでは」との見方を示しました。


トランプがもたらした米国の変化

 ここまでのそれぞれの意見を総括する形で、安井氏は、「WTO、もしくは世界のコミュニティが、どう変われるかだと思う。米国がやっていることはルール違反かもしれないが、米国はなぜ、米中貿易摩擦に取り組んでいるのか」と問い掛けました。「トランプ氏は、WTOに楯突いたり、自国第一主義の通商政策を主張して大統領選挙に勝ち、そういう国に米国はなってきた。その理由には、米国はWTOを通じてやってきたけれども、その結果がこれか、という疑問があり、中国が変わっていくことをWTOは後押しできるのか」と、安井氏の口調は熱くなっていきます。また、「米国内で反グローバリズムが起こってきた背景にある、エリート批判や忘れられた人々など米国内の事情を理解した上で、国際社会はどう答えていくのか」と、米中貿易摩擦を俯瞰する視線を提示するのでした。


対立は長引くのか

 工藤は続いて、米中双方が相手国に対する対抗姿勢を鮮明にする中、この対立の行方について尋ねました。

 河合氏は、これまで米国の四半期ベースの対中赤字は対前年同期比で拡大し続けていたが、今年の第一四半期では初めて赤字が減少したことから、数字上はトランプ氏の攻撃(追加関税)が功を奏していることになると指摘。では、そのまま攻撃を続けるのかというと、それは米国にとっても経済的なダメージが出てくるためできれば避けたいはずだ、と分析しました。もっとも、デジタル技術覇権の観点からはやはり中国を止めたいとの考えは変わっていないとも指摘。すでに東南アジアや南アジアへの企業・工場の移転など中国が「世界の工場」としての地位を奪われつつある中で、今後も対立構造は続くとの見通しを示しました。

 山﨑氏は、トランプ氏は相手が譲歩しても「その直後にゴールポストを後ろにずらをしてくるため、中国側は不信感を持っている」一方で、米国内でもトランプ氏はZTEに対する制裁さえも交渉次第で解除してしまうために対中強硬派からも危惧されていると説明。デジタル覇権に関しても現時点のトランプ氏にとっては交渉材料の一つにすぎないとし、したがって対立の行方もトランプ氏次第になるとの見方を示しました。もっとも山﨑氏は、このようなトランプ氏が独断専行しないために、米国議会は法制定によってトランプ氏の手足を縛ろうとしているとも解説しました。

 工藤から中国側の方向性について問われた丸川氏は、米国製品不買運動などは今のところ目立ったものはなく、かつての対日、対韓のような世論の過熱は起こっていないと語りました。その一方で丸川氏は、5Gの特許では中国が米国を大きくリードしているために、デジタル覇権の行方については「中国の台頭を抑えようとしても、もはや手遅れではないか」と指摘。米国側としてもどこかで着地点を探るしかないとの見方を示しました。

 安井氏は米国側の視点として、技術上においても安全保障上においてもここ数年間、対中警戒論が高まり続けていたところに「すべて中国が悪いと思い込んでいる」トランプ氏が登場したために、さらに"反中"に火が付き、それは政界、産業界問わず幅広く、根深いものになっていると指摘。加えて、2020年の大統領選に向けての選挙パフォーマンスの側面もあるため、対中強硬姿勢は当面続くとの見方を示しました。


米中の狭間で日本は何をすべきか

 工藤は最後に、こうした米中対立の中で日本がとるべき立ち位置について質問しました。

 安井氏は、米中どちらか一方のみを選択することはできないため、日本の対米姿勢としては「米国一国で対抗するよりも、国際協調の枠組みで対応した方が中国の行動を変えられる可能性が高い」というロジックで説得すべきだとしました。

 丸川氏は、5月にパナソニックがファーウェイとの取引を停止するとのニュースが流れたその日のうちに、パナソニック中国子会社が報道を否定したことに言及し、「米中の板挟みにされている日本企業のジレンマが表れている」とこの一件を評しました。丸川氏はその上で、中国という国には孤立主義的な傾向も見られるが、実際には多くの外国企業とのかかわりなくしては立ち行かない以上、日本としても「中国も国際分業の中にいてこそ発展する」ということを折に触れて説得するべきだと述べました。

 山﨑氏は、5Gの世界では中国が優位に立つため、米国は情報の安全性から安全保障上のリスクに至るまで様々な懸念を抱えることになるが、その一因としては「ビッグデータ分野に関する国際ルールがない」ことがあると指摘。したがって、このルールが確立されれば米中共存の世界も実現可能性があるとしました。その上で山﨑氏は、今週から始まるG20大阪サミットで、日本政府はまさにこのデータに関するルール整備を主要な議題としていることを紹介しつつ、「この議論には時間がかかるが、それでもやるしかない」とし、日本の継続的な貢献を求めました。あわせて、米が発動しようとしてる輸出管理改革法による先端技術移転制限は、武器禁輸と違って、安全保障上脅威となる技術の範囲特定が困難で、対象が広範になると世界のサプライチェーンを分断して世界経済に重大な影響が出かねないので、日本の官民も早い段階から規制の議論に参加すべきだ、と指摘しました。

 河合氏は、中国の専門家の間ではTPP参加論が増えていることをまず紹介。TPPに参加するとなると構造改革の進展が不可欠であるため、「TPPの参加を通じて中国がこちら側(自由主義陣営)に来れば、米国も中国に対抗するインセンティブが小さくなる」と主張。日本としてはこのTPPを足掛かりとして、中国を引き込む努力をすべきとしました。また河合氏は、5GとIoTについては製造業とITの連携が大きな役割を果たすため、製造業が弱い米国にとっては分が悪いとした上で、逆に製造業に強みを持つ日独などが米国と連携してその力を発揮するチャンスはあるとしました。

 議論を受けて最後に工藤は、「日本はルールベースの秩序を擁護するために何をすべきか、今後も考え続けていく。米中対立をめぐっては事態の変化が激しいために機を見てまたこのテーマを取り上げる」とし、今後も議論を継続していく方針を示し、議論を締めくくりました。

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