2019年参院選挙の争点とは何か ― 経済政策 ―

2019年7月16日

2019年7月11日(木)
出演者:
湯元健治(前日本総研副理事長)
早川英男(富士通総研エグゼクティブ・フェロー、元日銀理事)
加藤出(東短リサーチ株式会社代表取締役社長、同チーフ・エコノミスト)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

今回の選挙で、各党は有権者に何を説明しなければいけないのか

kudo.png工藤:今回の各党の公約を判断する時の立ち位置、考え方の基本が出そろったように思います。お話を伺って、金融財政も一回限りの短期的な政策ならいいのですが、それが長期化したために、モラルダウン、麻痺が起こってしまっている。これはかなり重大なことだと思います。

 もう一つ、私が気になっているのは、成長戦略を進めるとき、新技術に戦略的に取り組むことは重要なのですが、それに加えて、産業の新陳代謝とか労働市場の自由化とか、構造改革が問われたはずでしたが、それも中途半端になってしまったように思います。結局、労働の流動化は、非正規労働者の賃金アップとかになり、構造問題に踏み込めない状況にあります。ということは、かなり強力な政治的なリーダーシップがないと、この経済対策は動かないのではないか、という疑問です。

 そういうことを踏まえながら、各党の公約の吟味に入りたいと思います。


世界と比べても切り込みが足りない、日本の政党の公約

kato.png加藤:7党の「マニフェスト比較表」を見ると、自民党はさすが、「やってる感」はすごく出てくる。さすが政権与党だな、という感じなのですが、野党の方がスカスカでして、スタッフも足りないのか、ほとんどマニフェストに力を入れていないところが分かる状況です。これでは、そもそも選挙にならない。例えば、一番話題になった「2000万円」についても、どうするかというのを財源も含めて議論しなければいけないわけですが、そこもあまり明確ではない。2週間前、アメリカで民主党の大統領候補者の討論会がありましたが、彼らが言う、財政資金がたくさん必要なリベラルな政策を実現するには、彼らもちょっと調子のいい理屈を使っているわけですが、一応「ここから金を取ってきて」ということをそれなりに議論していますが、日本の野党はそこも甘い感じがします。野党から与党に切り込むにはそういう現実的な視点をもっと入れていただかないと、議論のしようがないということです。

工藤:ただ、野党の一部が掲げている「家計第一」、つまり、ばらまきになるのですが、消費をかなり活用して景気の浮揚を図る、ということは、一つの考え方にならないのですか。

加藤:成長を重視するか、配分を重視するか、という中で、どちらにウェイトを置くかというのは、左派と右派で違いが出てきて当然だと思いますが、ただ、とりあえず選挙用に口当たりのいい「家計第一」が前面に出やすいところは、それでは、国民の政治不信を払拭するというか、「なるほど」という腑に落ちる感じにはなりにくいですよね。ただ、残念ながら日本だけの問題ではなく、アメリカでもイギリスでも、野党側の議論にまとまりがない、パンチがない、混乱しているというのは共通現象ではあるのですが、ただ、もう少し切り込んでほしいな、というのはあります。

工藤:自民党はどうですか。

加藤:実に項目が緻密にたくさんあるのですが、ただ、先ほど来申し上げているように、6年半やってきての短期的な景気刺激にウェイトがかかっていたのは、それはそれとして、中長期的な改革というところにより力を入れないと、せっかく支持率の高い政権だったわけですから、本来は、先ほど早川さんがおっしゃったような「シュレーダー的改革」ができたはずなのに、触れないでいる。あるいは、フランスでサルコジ大統領のとき、2010年ごろに、年金の支給開始年齢を先送りして、フランス国民からものすごい反発を買っていました。私は、「もともと不人気なサルコジが次の選挙では絶対に負けるではないか、なぜそんなことをやるのだろう」と思っていましたが、フランス人に聞くと、大統領の間にある程度、構造改革をやらないと、歴史的な評価、つまり後で批判されてしまうので、不人気な策でも、まだ選挙から時間的距離があるうちに少しはやっておかないと、ということだったらしいのです。自民党はせっかく支持率が高いので、より切り込んでいいのではないかと思います。


公約はどんどん積み重なっても、やりきった、というものがない

hayakawa.png早川:自民党の公約について言うと、問題点は二点です。

 一つは、非常に盛りだくさんなのだけれど、逆に言うと、今まで数年間にわたってたくさんの目標を掲げ続けたわけです。三本の矢から始まって、地方創生、新三本の矢、女性活躍、一億総活躍、働き方改革、第4次産業革命、生産性革命、と、毎年のように新しい目標を掲げて、しかし、どれかをやり切った、というものが実はほとんどないので、公約がどんどん積み上がって、膨大な数になっている、というのが一点です。

 もう一つは先ほど言われたポイントで、私が疑っているのは、安倍さんは、実は小泉改革の失敗から学んでしまったのではないか、と思うのです。小泉改革は、まさに「痛みを伴う改革」ということでいろんなものをやった。それはそれで、生産性の向上という意味では一定の効果があったと思うけれど、しかし、「地方切り捨て」とか「格差」批判を招いて、おそらく2009年の政権交代の一因になった、と自民党では理解されているのだと思います。そうすると、結局「やってる感」を出すために目標はいっぱい並べるのだけれど、本当に痛みを伴うようなところにはほとんど手を出さないというのが、安倍政権の成長戦略の特徴であって、労働のところも、「働き方改革」というのは、労働時間の話などに終始していて、一番根っこのところになかなかいかない、というふうになっているのだと思います。地方創生にしても、昔ながらの「地方重視」に巻き戻して、公共投資もたくさんやって、という形になってしまっているのが、基本的に弱点だろうと。

 ただ、野党の公約を見ると、あまりにも中身がないので、比べてしまうと、「やってる感」だけでも、とりあえずいろいろ並んでいる方が、となってしまう。野党のように、分配の話だけに終始していたのでは、放っておいてもこの国は成長していく、という状態の経済であれば、生まれてくる富を皆で分かち合っていけばいいのですが、もはや、この国は1%成長できるか、できないか、という状態で、高齢化もどんどん進んでいく中で、分配だけではもたない。現に、老後2000万円問題は、「分配だけではもたない」ということを金融審議会が示して問題になったわけですから、この期に及んで「家計重視」はいいですが、分配だけの話をされても困ります。


痛み止めだけでは、経済の「好循環」を回す原資とはならない

工藤:早川さんにもう一つ聞きたいのですが、自民党の公約を見ると、一つの自己評価を完全に前提にしているのです。つまり、「三本の矢」は成功していて、経済の好循環が起こっているからこそ、その果実を地方に向けたり、分配されたりする。それで最低賃金も上げる、というロジックなのです。そういう好循環はそもそも成功しているのですか。

早川:成功していません。要するに、短期の政策が大いに効果を発揮したのは1年目であって、それ以降は、実は大きな効果は生まれていないので、分配するようなものもそんなにないのです。それを地方に回すなどする前に、まず根っこの成長力を上げるのが先だろう、と。結局のところに、そうやって地方に回さなかったことが、例えば、小泉政権時代の「地方切り捨て」という地方からの反発を招き、2007年の参院選での1人区の惨敗、2009年の政権交代につながった、と自民党は認識している。たぶん、安倍さんはその当事者としてそう認識しているので、逆に言うと、いわば「地方重視」「分配重視」という形になっているのではないかと思います。

加藤:確かに、「痛みを伴う政策」を避けるという点では、アベノミクスの中の超緩和策、超低金利というのが痛み止めですし、それによって生まれた円安というのも痛み止めなので、まさに「痛み止め」としては最大限効いている政策なのですが...

工藤:それでは、「好循環」が回っているとは言えないですよね。

加藤:「痛み止め」では回す原資がないですから。

工藤:説明が不誠実ですよね。湯元さんはどうですか。


家計重視や家計第一は、単なるキャッチフレーズ、分配を生み出せる経済成長をどう作り出すか、で競うべき

yumoto.png湯元:基本的に、アベノミクスの1年目というのは、大胆な金融緩和で、とにかく円安という状況をつくり出し、そして、世界経済の好調とも相まって企業収益を拡大させ、そこまではいったん成功したということです。この企業収益の拡大が家計の方に賃上げという形で回り、それが同時に消費の拡大という形で経済が良くなっていく。これを「経済の好循環」と呼んでいたのです。ここで問うべきことは経済の好循環そのものは生まれてはいましたが、なぜ、十分な力強さを持てなかったのか、ということです。

これはやはり、賃金上昇が思ったほど大きくない、というのが最大の理由です。

 実際、この6年間で、物価は、もちろん上がり方のパーセンテージで見れば小さいですが、一応プラスが続いてきていますので、6年間では、物価は消費税を抜いてもかなり上がっています。ところが、賃金水準をこの6年間で比較すると、物価よりもまだレベルが低いのです。つまり、実質賃金で見ると、マイナスの状態が長期化しているということであって、これで家計の消費が増えてプラスになるはずはないのです。

 そういう矛盾にようやく気がついて、これは直接家計に配分しないと、選挙民の不満が非常に高まって、政権運営が大変なことになる、ということで編み出した言葉が、「成長と分配の好循環」ということで、分配の方に軸足をシフトさせてきた。

 昨年の保育・教育の無償化などは、最大のばらまき的分配政策だと思いますし、今回の自民党のマニフェストを見ても、中小企業支援の政策が非常にオンパレードで、公明党の政策かと間違うような感じがしています。そういう意味では、実はアベノミクスの失敗を覆い隠そうとして、少しずつ軸足を分配の方にシフトさせてきています。

 ただ、それだけでは、なかなか本質的な経済成長力が高まるわけではありませんので、そう簡単には良い方向に進んでいかない。グローバル経済の状況が悪化すると、たちどころに我々の経済の状況も悪化してしまう、という構造が残ったままになっている。

 ということなので、「家計重視」とか「家計第一」というのはキャッチフレーズとしては響きがよく、どんな国民からも支持を受けるのですが、これはやはり、成長していかないと、分配の原資がありません。その成長はいろいろ頑張ってやったのですが、思ったほどの成長ではない。そういう状態にもかかわらず分配の方に力点を置き始めたので、財政とか社会保障の将来を、非常に厳しく見ていかざるを得ない状況になっている。

 安倍政権というのは、経済成長を最優先する政権。これまでは、例えば「経済成長と財政再建の両立」といったような言葉が使われていましたが、「両立」という言葉はもうあまり使わなくなって、「成長重視」という言葉になってきた。そして、先ほど早川さんからもご指摘があった通り、結局、社会保障のところにメスを入れたり、あるいは消費税をどんどん上げていったりするといったようなことは、選挙という観点から見ると大きくマイナスに響く、過去に野党に転落した経験もある、ということで、安倍政権としては、そういう、国民に痛みを強いる改革は、意識的に財政再建目標も先送りしていますし、社会保障の大改革にもまだ手をつけていないという状態ですから、全て先送りして、蓋をしている状況です。

 本当は、健全な野党が存在すれば、ここに対して「きちんとやらないと今はいいかもしれないけれど、将来世代はどうなるのか」という問いかけが野党からあってしかるべきだと思うのですが、そこが一切ない。自民党が分配中心のばらまき型に変質してきたのと同じような政策を、野党も同じように打ち出している。これでは、有権者から見て差がよく分からない。

工藤:今の話が結論だと思って聞いていました。つまり、同床異夢というか、与野党とも結果として同じことになってしまっている。選挙を通じて、ばらまきで、家計に分配する。最低賃金の水準とか時期については少し違うくらいで、成長を生み出す構造改革とか経済成長の政策で争っていない。ある意味で不毛な戦いになっている。

 それを踏まえて、100点満点でどう点数をつけますか。自民党は何点、野党は何点と言えばいいのか、ズバリ言ってください。

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答案を一応は書き込んだレベルの与党と、書き込めない野党、国民に約束する提案としては合格にも届かない

加藤:野党の方が公約はスカスカなので、どう点数をつけたらいいのか、というか、この内容では公約の比較自体ができない。あと、安倍政権の巧みなところとして、本来は保守政権なのに、リベラルな左派の政策もどんどん取り込んでしまうわけです。外国人労働者の話もそうですが。そうなると、左派の方は、だんだん対抗するものがなくなってきてしまう。しかし残念ながら、自民党の公約もどうしても視野が短期的なところにウェイトがかかっているということなので、評価ができない。

工藤:〇△×だとどうですか。

加藤:自民党は、そうはいっても「やってる感」もある程度は必要ですから、△として、本来は、そこを鋭く批判する野党に〇がほしい、そこで民主主義のバランスが取れるところなのですが、残念ながら野党の多くが×ということなのでしょう。

早川:試験の答案にしても、いちいち問題はあるにしてもちゃんと埋めているし、何か書かないと点数はもらえないわけであって、自民党は一応、答案は埋めている。私は60点くらいからが合格だと思いますが、そうなると40点か50点か分かりませんが、そういうレベルかな、と思います。一方、野党の方は、残念ながら20点か30点であって、これでは追試もさせてもらえないくらいかな、と。40点、50点なら追試くらいはありますが。

湯元:言論NPOはこれまで選挙のたびに与野党のマニフェストを採点してきたわけですが、一番充実した情報を載せることができる与党である、自民党、公明党は、確かに中身もしっかりしていて、具体性もある、ということで、相対的に見れば一番点数が高いという状態が、過去もそうでしたし、現在もそうだと思います。ただ、点数のレベルとしては、本来あるべき理想のマニフェスト、つまり、「こういう政策をやるのであれば、いくらの財源が必要となって、その財源をどのように調達してくるのか。あるいは、いつまでにこれをやっていきます」、自民党の場合、骨太の方針や成長戦略の中で、そういった達成期限、数値目標も入れているので、そういう意味では、政府の政策として見れば非常に完成度の高いものだと思います。ところが、選挙になった途端、自民党としてはそういう細かい話は全部意図的に落として、口当たりのいい話を羅列して、点数を稼ごうとしている。マニフェストの完成度という意味で見ると、40点あるかないかという得点にならざるを得ないと思います。

 そして、野党の方は、全て同列に論じるのが適切かどうかは分かりませんが、相対的に見たところ、国民民主党は一応、一時政権を取った政党の名残がある、経験があるというだけあって、具体性という意味では、他の野党と比べるとやや良いであろう、と。それから、明らかに自民党の政策に対してアンチテーゼを提示していて、それに対して「我々はこういうことをやる」と、具体性はまだ欠ける部分がありますが、そういう意識を明確に打ち出しているのは、国民民主党くらいかなと思います。

 その他の野党は、申し訳ないですが、ばらまき的、あるいは弱者保護的な政策で埋め尽くされていて、公約の量も格段に少ない、という状態になっていて、自民党に対する明確な対抗軸を打ち出すに至っていない。正直に言って、10~20点程度かなと思います。

工藤:では、最後に有権者は今回の選挙で、経済について何を考えて投票すべきなのでしょうか。


将来の「逃げられない課題」を国民に正直に説明する、候補者を見抜くべき

加藤:このままだと、投票率が相当下がってしまいますね。でも、本来であれば議論のきっかけになったはずの「2000万円問題」は今後どうするのだ、という、その観点から有権者側の関心が必要かなと思います。本当は、皆さん、そこに関心がとてもあって、それゆえ、足元で少々給料が増えてもなかなか消費に回らないのは、おおもとの将来不安があるということでしょうから、そこの議論を封印せず、将来の社会保障制度および高齢化、人口減少の問題をどう取り組んでいくのか、というところに焦点を当てたディベートがあればいい、と思いますが。

早川:皆が本当に知りたいのは、とにかく、アベノミクスを6年半やってきて、与党の方はとりあえず「アベノミクスはうまくいった」と言っているわけであり、野党の方は「うまくいっていない」と。だったら、「アベノミクスの先」という話を本当は聞きたかった。つまり、「ここから先、どうするのか」ということを、与党の立場、野党の立場から聞きたかったわけですが、それは、あまりにも、どこにも書いていないわけです。

 そういう意味では、冒頭に申し上げたように、「老後2000万円問題」というのは、ある種、具体的な話で、しかも、選択肢もそんなにたくさんないので、「自分たちはこのポジションだ」というのを明確に打ち出して議論するには、本当にいい話題だったと思うのですが、結局、封印してしまって、しかも、政府が封印しただけでなく、野党の方もまともな議論になっていないので...

工藤:どちらも準備が足りないのではないでしょうか。

早川:本当は、それこそ、選挙戦できちんと議論してほしいですね。

湯元:本来、対立軸が二つあるべきで、短期的な経済成長を引き上げる、あるいはそれを持続的なものにする成長戦略、あるいは経済政策全般ですね。これは、早川さんがおっしゃった通り、「与党は本当に成功しているのか」というところを、野党が厳しく国民に訴え、ただ批判するだけでなく、それにとって代わる対案をしっかりと出していく。「我々の方がしっかりとした経済成長をできる案を持っているし、同時に将来の不安もなくすような案を持っているのだ」ということを提示していく必要があると思います。

 もう一つは、先ほど加藤さんが言われた通り、与党も野党も、財政の問題や社会保障の問題で厳しく改革をしていくという話には蓋をしてしまっているわけですが、それこそ、国民にきちんと知らせて、どういうふうに対応すべきか、ということを、本来、選挙の争点として議論していかないといけない問題です。

 日本ではなぜそれが行われないかというと、与党が「消費税を上げる」と言うと野党が大反対するとか、逆のことを言うと選挙に勝てると思い込んでいるふしがあるのですが、そうではなくて、真実を冷静に見極めて、仮に野党が選挙に勝って与党になった場合、やはり消費税はどうするのか、社会保障を効率化していかないといけないのをどうするのか、といった問題に直面するはずなのです。

 ヨーロッパの例を見ると、誰が政権を取ってもやらなくてはいけない改革というのは、選挙の争点にして争うのではなく、改革の良さ、洗練された改革をできるかどうか、というところで選挙の争点として争っているのですが、そういうところが日本は全くないというのは、日本の民主主義は他の国と比べて成熟度が低いと言われる最大の原因になっています。

 例えば、消費税を10%にしようとするとき、当時の野田政権は三党合意をして、やはり、社会保障や財政の問題を考えると、少なくとも当面10%までは上げないといけないですよね、ということで、与野党で方向感を同じにして、政策決定したわけです。だから、消費税の問題も、これから先10%で済む保証はないわけで、これから先どうするのか、という話とか、社会保障をどう効率化していくのか、とか、財政をどう健全化していくのか、という問題は、与野党が対立するのではなく、その改善策を競い合う。それを国民の前に正直に出して、どの党の策が一番優れているのか、というのをきちんと専門家なども解説して、それで判断していく。

 そういう選挙戦にしていかなければいけないので、マニフェストの、与野党ともに欠落しているのは、その部分をどこの党も書いていないということです。ウィッシュ・リストばかり並べて、「うちの方がいいだろう」と見せているだけで、国民も馬鹿ではないので、「そんなにいいことばかりあるわけないでしょ」というのは分かっていて、冷めた、淡々とした気分にどうしてもなってしまって、投票率もおそらくかなり下がってしまう恐れがある、ということだと思います。

工藤:皆さん、かなり本質をついて、しかも皆さん非常に礼儀正しく話をしていただいたのですが、私は、有権者を「馬鹿にするな」というような感じの怒りが、本当はあります。ただ、投票の際には、今でたような話を参考に是非、考えて頂きたいと思いますし、日本の民主主義がこのままでいいのか、ということを考えるきっかけになればと考えています。今日は皆さん、どうもありがとうございました。

⇒ 2019年参院選挙の争点とは何か 社会保障政策 / 経済政策 / 財政政策
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 政権発足から6年半、アベノミクスはデフレの脱却と生産性の向上を掲げ、様々な目標を掲げました。その大部分は達成が難しくなっているだけではなく、「異次元」と称される金融政策や財政政策の「副作用」に対する懸念も強まっています。

 これに対して、与党も野党も公約ではしっかりとした提案がなされず、選挙を意識した分配を競う形になっています。各党の選挙公約がこれまでになく、形骸化する中で、有権者は何を考えるべきなのか、3氏からは、日本の政治に厳しい注文が飛び出しました。
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