言論スタジオ

新時代を迎えた世界における日中の「責任」を明らかにする対話に ―座談会「私たちは今、中国と何を議論すべきなのか」

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2019年10月15日(火)
出演者:
明石康(元国連事務次長、「東京-北京フォーラム」日本側実行委員長)
宮本雄二(元駐中国大使、同副実行委員長)
山口廣秀(元日銀副総裁、同副実行委員長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表、同運営委員長) 


 「第15回東京-北京フォーラム」まで2週間を切った10月15日、フォーラムの日本側正副実行委員長を務める3氏が集まり、今回のフォーラムの意義や、中国と本気の議論を通して何を目指すのかを、話し合いました。

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kudo.jpg工藤:今、アメリカと中国の経済対立が非常に厳しくなって、世界経済に非常に大きな影響が出る危険が高まっています。一方で日中関係を見れば、安倍総理が12月に訪中することが検討され、そして来年には習近平主席が国賓として日本に来るという状況です。つまり、世界が歴史的な変化や困難に直面しながら、一方で日中関係が改善へ動こうとしている。私たちはこの状況の中で、アジアや世界というもっと広い視野を持った日中の協力というものをどう考えていけばいいか、本気で議論しようと思っているわけです。

 まず皆さんにお聞きしたいのは、これまでの14回の対話に比べ、今回の対話がどのような大きな意味を持っているのか、ということです。


世界の構造問題解決の第一歩にするという覚悟を持って、対話に臨む

yamaguchi.jpg明石:この1年の間だけでも、国際関係がいろいろ地殻変動に当面するようになってきています。それはアメリカと中国との関係もそうですが、世界の経済構造が全く新しい段階へ踏み切るかどうかという、緊張感があるわけです。また、中東においてもシリアやイラク、アフガニスタンの問題、特にイランの核の問題など、大きな問題があるし、北東アジアでも、最近は日本と韓国の間のいろいろな問題が噴き出してきています。中国という国家もまた、新しい段階に入っています。

 そういう意味では、この大きな世界的なドラマの主役である、中国と日本という二つの国で、民間レベルの有識者が集まることになります。我々は今までとは違い、ある意味では、お互いに腹蔵なく話しても関係を決定的に悪くすることはないであろう、という自信を持って、率直な対話を続けられる。そういう段階に来ています。政治の面、安全保障の面、経済の面、どの面を切り取っても、日中関係を占う大変重要な局面です。ある意味では期待を持っていいのですが、それだけ、我々の対話に臨む覚悟は相当しっかりしたものでないと駄目だという気がします。

miyamoto.jpg宮本:世界は大きく変わっています。私が現役の外交官だった1969年から2010年までの50年間は、世界のリーダーがいて、信奉する理念と価値観がはっきりしていて、そういう大きな枠組みの中で国際社会が運営されていたという、今考えてみれば幸せな時代でした。その全てが今、動揺し始め、100年に1回の大きな変革の時期に来ています。そういうときに、日本と中国は世界にどう向き合っていくのか。

 言論NPOもこの14年間で相手を理解し、したがって激しい議論もしたわけですが、そうした相互理解を踏まえて、今度は世界の問題をどうするのかという、工藤さんがずっと言ってきている段階に入ってきたということです。言論NPO、そして東京-北京フォーラムも新しい段階に入り、こうした世界の変化に対してどのような具体策を出すかということが、一番大きなテーマになると思います。

 安全保障分科会に関して申し上げれば、この分野でも大きな状況の変化が起きています。我々が住んでいる東アジアをとっても、非常に大きな情勢の変化が起きています。北朝鮮はもう、ほぼ事実上の核保有国になった、という全く新しい局面です。中国の軍備増強は続いていて、それに国際関係がどう向き合うのか。これも大きな問題になっています。それから、アメリカがロシアとの中距離核戦力(INF)撤廃条約から離脱した。

 こうした新しい局面の中で、我々としては、こういう問題にどう対応し、結果としてはどういう東アジアをつくったらいいのか、ということについて、有識者の間で活発な議論をしていきたいと思います。一つでも二つでも新しい展望を開くことができれば、今回の東京-北京フォーラムは大きな成功と言っていいのではないでしょうか。

yamaguchi.jpg山口:確かに今、世界はこれまで経験したことのない局面を迎えていると思います。政治的にも経済的にも見ても、構造問題にぶつかっているのではないでしょうか。経済については、中国も、日本も、アメリカもヨーロッパも、いわば循環的、構造的な問題にぶち当たり、それをどう克服していったらいいか、まだ見えないというのが現状です。米中の対立はそれ自体が大きな問題ですが、同時に、それが全てではなく、もっと大きな問題も他にたくさんあるというのが、今の世界経済の置かれた環境だと思います。

 そういったものに対して、少しでも我々が切り口を提供し、解決の道筋を見つけることができれば、それは世界に対して非常に大きな貢献だと思います。今回の東京‐北京フォーラムでは、単に日本、中国が抱えている構造問題の解決だけでなく、世界全体が抱えている構造問題の解決の第一歩にするのだ、という気持ちを持って、議論を進めていければと思っています。

工藤:今回の東京‐北京フォーラムに先立ち、私たちは15回目の日中共同世論調査を実施しています。正式な発表は10月24日になるのですが、昨日まで集計したデータを見て気になっていることがあります。それは、日本の世論で、中国への印象や日中関係の現状に対して厳しい評価が続いているということです。現在の日中関係があまりよくない、という人が非常に増えています。

 私は、世界が大きく変化するこの局面の中で、日本の役割が大事になっていると考えていますが、この大きな状況変化の中において、どうしたらいいのか、先が見えない状況もあります。


漂流する世論に突破口を示すのは、民間有識者の率直な対話

明石:日本の社会に閉塞感が強まっていることは間違いない事実で、その明確な答えは得られていないというのが大方の見方だと思います。加えて、日本の世論では日中関係の様々な問題に対して「わからない」という回答が圧倒的に多い。だからこそ、私たちが新しい突破口を発見する必要があります。国内問題についてもそうですし、国際問題、外交問題についても、今までのような考え方ではいけないのではないか、という見方が強まりつつある。これは結局、政府間の話し合いが必要なのですが、その環境をつくるのは、民間有識者の率直な意見交換です。

 そういう意味では、我々は一つの覚悟を持つべきです。例えば民主主義の将来とか、核戦力の拡散といった問題にも、一生懸命、答えを探さなくてはいけない。そういう意味では、アメリカにとっても中国にとっても、また日本という非核の路線をとってきた国にとっても、今までのようなやり方ではいけないのではないかという印象は皆が持っていますが、答えが見えてこない。そういう問題は、もはや日本だけで答えを出すことができません、中国にも、アメリカに次ぐ第二の経済大国としての役割と責任があるはずです。我々の考えをぶつけ、中国の考えも虚心坦懐に聞いた上で、答えを探すということがどうしても必要になっていると感じます。

工藤:世論の不安定さというのは、アメリカと同盟関係を有し、そして隣にいる巨大な中国が台頭している中で、この世界史的な変革の時期に日本がどういう役割を果たすかということで、多くの人たちが模索を始めているという意味だと思います。
 宮本さんはどうお考えでしょうか。

宮本:一つは、我々が日本国民の中国に対する認識が、果たしてどれだけ等身大の中国に近づいているのか、という問題だと思います。中国自身が変化の過程にあって、中国が今のままの方向を進むと、我々にとって心配事が出てくるのですが、そうならない可能性も同時にあるわけです。そういう、バランスの取れた見方を市民ができるような材料を提供するのが必要かな、という感じがします。

 日本の位置づけに関して言えば、安全保障において、中国が強くなってきたために中国との関係がますます大変になっている、ということは事実です。同時に、アメリカの相対的な国力、影響力が落ちているのも事実です。そうなってくると、我々に求められているのは、日本として主体的に「こういう環境、条件の中でどういうふうにして生き抜くことが日本の平和であり、繁栄なのか」を固めることです。そうすればおのずから道ができます。そして、その結論は、単純に「中国を選ぶ」とか「アメリカを選ぶ」という簡単な方程式ではなく、もっと複雑です。しかし、「こうしたらいい」という道は必ず出てくると思います。

山口:中国の立ち位置、そして日本の立ち位置をそれぞれ考えたときに、中国が言う「自由な貿易体制」あるいは「WTOの改革」に、実は自国第一主義が見え隠れしてしまっているというところが、他国から見ると非常に大きな懸念材料になっていると思います。そういうことからすれば、中国が自身の経済力あるいは政治力に見合ったような形で、自らを律していかないといけない。そういう意味で、今回の経済分科会で議論になるであろうテーマとしては、例えば、第三国における経済協力において、自国の利益を優先するだけではなくて、他国の利益をも尊重するような形でどれだけしっかりとした議論ができるか、それから議論だけではなく、実践ができていくか、ということを、中国が日本に対しても見せていく、という努力が必要なのではないでしょうか。


四つの政治文書で約束した「責任」を実行する段階に

工藤:最後の質問になります。今回のフォーラムの全体テーマは、「世界の繁栄とアジアの平和で日中が背負うべき責任」という明確なものです。これは、日中平和友好条約など、国交正常化以降の「四つの政治文書」の中にもうたわれている精神なのですが、その「責任」に関して、この大きな変革期において日中が何を協力できるか、覚悟を持って本気で問わなければいけない。私たちはその一歩を踏み出そうということで北京に行くのですが、皆さんは今回の対話の成果として、何を実現すべきだとお考えでしょうか。

明石:アメリカに次ぐ第二の大国になった中国にも当然、大きな責務がありますが、核を持たず、経済的、文化的な役割を自覚しながら、現在まで成長してきた日本にも、責任はあります。日本の場合、今までのように、大国アメリカの同盟国として日本の役割を果たしていく、という方向で行けばいいかというと、そう単純ではありません。日本を守ってくれているアメリカも、非常に特異な大統領のもと、自国主義が色濃くなっています。

 平和というものについて、例えば日本はヒロシマ・ナガサキという特別な経験を踏まえ、ときにはユニークな役割を果たしてきました。ところが、現在、NPT体制が動揺し、「核による平和」が破られつつある現在、北朝鮮やイランを見ればわかるように、核抑止体制の外にある、新しい核を持った国との関係によって、平和や安全が脅かされ、自由な経済体制も続けることができるかどうかわからない、という状況です。

 今回のフォーラムは、危険な将来と可能性のある将来の両方をお互いに見つめながら、新しい世界に当面する上でのお互いの役割を再確認、また発見する場にしていきたいと思います。北京での日本と中国の有識者の率直な議論を通じて、何か生まれてくるだろうという期待感を私は強く持っています。

宮本:日本人と中国人は同じ語彙を使っていますが、言葉の中身については、まだ違う、場合によっては相当違う、という状況だと思います。例えば、今おっしゃった「責任」は具体的に何を意味するのか。この一つをとっても違いうるわけです。とりわけアジア的な価値観という観点からすれば、世界を支配したいという意欲を持った人が立派な指導者だ、と書いた中国の古典は一冊もありません。中国では、皆を引っ張っていく人には徳がなければいけないのです。ですから、そういう形で中国がどう「責任」を果たすか、というのは大いに議論したらいいと思います。

 いずれにしても、我々が新時代に入っているという考えのもと、「責任」を果たさなくてはいけない。安全保障、経済、あるいはそれ以外の分野でも、どういう形で責任を果たしていけばいいのか。その取っ掛かりが見え始めた分野もあります。そうした分野ではさらに議論を深め、責任を見出してない分野ではそれを見出す。そうすることで、今回の東京‐北京フォーラムは大きな成果を上げることができるのではないでしょうか。

山口:世界が構造問題を抱えているというのは、もう間違いないと言っていいと思います。それに対応するため、日中はもちろん知恵を出さなければいけないし、そうなっていくのだろうと思います。ただ、そのときに、日本も中国も共にアジア、世界を見据えて、それぞれが抱える構造問題に対する解決の道を探っていく。この構えが非常に重要だなという気がしています。今回は、この点を今まで以上に意識しながら議論を進めたいと思います。それを聞く世界の人々から、「極めて意義深い議論が行われた」と感じてもらえれば本当に素晴らしいなと思っていますし、そうなければいけないと思います。

工藤:私たちの北京での対話は10月26日から本格的に始まります。これは単なる建前の議論ではなく、本気の議論です。言論NPOでは議論の内容をウェブサイトで公開します。この議論を見て、日本やアジア、そして世界の未来に我々はどう臨んでいくのか、それを考えるきっかけにしていただきたいと思います。これから頑張っていきますので、よろしくお願いします。

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