国分 良成氏(慶應義塾大学法学部長 教授)
慶応大学の国分良成ですが、私はこれまでのフォーラムすべてに参加してきました。「東京-北京フォーラム」は各界の有識者が自由に日中関係についていろいろ提案する場ですが安全保障対話はその中でもっとも激しい議論が行われております。それぞれの国の一流の論客が集まっており、基本的には自由な議論をしていただき、どういう問題があり、協力解決に持っていくかと言うことを議論したい。安全保障対話が最も激しいということは最も難しいということ。自由な議論・提言をしていただき、次回へつなげていただきたいともいます。安保を話すと、必ず関わるのが政治の問題であります。この話は政局にも関係してくるのであって、日本は次の総理がどうだという話ばかりしていますが、実は中国もまったく同じで、なかなか言えることではありませんけれど、政局に関わるということも考慮しながら対話と進められることも期待したいと思います。
長島昭久です。昨年に引き続き安全保障対話に参加させてもらい、ありがたく思います。私の役割は、工藤さんの言われたように「喧嘩するほど仲がいい」と言えるような議論をすることです。陳健先生のお話にもありましたが、今、日中関係は重要な転換点にきていると思います。来年中国は新体制に移行し、日本でも早ければ来週新しい体制ができます。ところで、今年は孫文の辛亥革命から100年目の年です。その孫文が90年近く前、神戸で重要な演説をしました。「大アジア主義」と言いまして、西洋には覇道、東洋には王道の文化があり、日本は今その分水嶺にあってどちらになるかは日本国民にかかっていると演説したのです。皆さんご存知のように、日本がその後大きな失敗をいたしました。いまや中国はこの言葉を胸に刻むべきであり、東洋の王道を歩んでもらいたいと思います。
私は防衛大で教鞭を執っておりますが、もともとは陸自のパイロットです。トラの話がでましたが、日本語でトラは酒飲みと言う意味があり、わたしは大トラでございます。陳先生の見解に賛成しますが、相手を仮想敵にしてはいけません。互いが不幸になり、経済、政治にとっても損になります。そのためには共通利益を求めるという方法があります。発言の揚げ足をとるわけではありませんが、アメリカの陰で日中がなにもしていないわけではありません。たとえばアデン湾です。また92年、カンボジアで自衛隊はPKOに参加しましたが、このとき人民解放軍には危険な任務で犠牲者を出しながらも尽力していただきました。非伝統的な分野での協力はできます。我々専門家は仮想敵がいけないと絶対的にわかっていますが、我々の議論の少なさがパブリックに投影されて誤解を生むのだと思います。もっと議論をすべきなのです。日本の自衛隊は世界でもっとも近代化された海軍のひとつであり、米国の第七艦隊もある、そこに中国がでてくると、場合によっては危険なことになるかもしれません。海上での危機管理の努力を進めるべきで、政治的リーダーシップに加え実務レベルでの対話も行われています。変なことで緊張が生じるのを避けるのが我々の責務です。対話の場を育てていくことが重要です。
私は防衛大の校長を務めたあと、今はシンクタンクの所長をしています。まず、中国への批判をさせてもらいたい。中国の対外政策には矛盾があります。日本は尖閣を係争地と認めていませんが、中国がいう南シナ海も同じ状況ではないですか。また、中国は戦略的互恵関係といいながら逆の行動をとりました。レアアースの問題です。さらに歴史問題が重要とおっしゃいますが、現在の中国共産党は歴史問題に嘘を伝えています。日本に勝利したのは共産党といっていますが国民党です。昨年ロシアとやった戦勝65年宣言とは滑稽にみえます。もっと色々な議論があって当然なのであり、またそうすべきなのです。いま日中で一番大きな問題は海洋のことです。一緒に何かをやっていくというのは未来に希望を与えるものですが、これまでは中国は積極的に海洋についての対話ということを言ってこなかったけれども、今回は言ってくださいました。私も賛成します。
全体会議で深い感銘を覚えました。「ひとつの山に2匹のトラは住めない」ということには反対です。世界の情勢、たとえば独仏の和解を見ても歴史的にはWin-Winが大事だということです。私は両国関係に悲観的ではありません。今も係争はありますが、2005の時には3大問題がありもっと対立していました。1つは歴史問題です。小泉首相時代、関係は氷点下になりました。2つめは両岸問題です。日米同盟の介入が心配されました。3つめは領土・海洋の問題ですが、これは最近表面化しているけれども改善しています。中国は日本を軍国主義と見て、日本は中国を脅威とみていました。これはまちがいです。戦後日本の平和的発展を評価しますし、中国の日本判断は冷静になっていますが、日本は中国への懸念が高まっています。経済脅威論は消えましたが軍事脅威論はまだ高まるおそれもあります。それでも2006年以降関係は改善してきました。去年後退はありましたが、歴史は螺旋状の階段ですから、よい方向になっていくでしょう。海洋の問題では危機管理のメカニズムが重要です。首脳訪問など活用し、軍事協議は前進してはいますが、時間が足りません。多層的交流で危機を未然に防ぐのです。境界画定にあたってはEEZの重なるところもありますが、対話を通じて解決しなければなりません。チャンス管理ということも言いたいと思います。共通利益はたくさんあるのですから、協力のチャンスをつかんで両国の食い違いをうまく解決していくべきだと思います。
今日は皆さんから非常に冷静で分析的な発言を聞き参考になっています。二匹のトラの話ですが、できればトラの牙は抜いたほうがいいでしょう。一匹のトラは核兵器も持っており大変な通常戦力も持っています。小さなトラが大きな牙を持つよりは、大きなトラに期待するということのほうがむしろよいのかもしれません。中国の平和的意図を疑うものではありませんが、意図というのは歴史や指導者の交代に影響されるものですから、能力の側面も無視はできません。国際政治には理念と現実の問題があります。オバマ大統領はプラハとオスロで全然違う演説をしました。我々は矛盾の中で生きているのであり、理想を求めつつ現実の中で解決策を探っています。果たして平和的方向に進んでいるのか、検証していく必要があるでしょう。今回も、危機管理メカニズムと信頼醸成の方法論が語られたことをありがたく思います。
私はこれまでメディア対話に参加してきましたが、メディアと安保は必然的に関係があります。メディアにおいて安全保障はいつもホットな問題として取り上げられています。2てん。釣魚島は歴史的問題であり、アメリカが関わる要素もあります。これは時限爆弾であり、いつもアメリカがあれこれ言います。周総理も鄧小平さんも問題を棚上げして共同開発をするという理念を表明しました。領海は相互信頼の上に達成されるべきものであり、国内法の適用は大きな影響を与えます。慎重に対処しなければなりません。「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」の理屈を適用しましょう。相手を敵とみてはいけません。順調に解決のできない問題もありますが、自分の目で相手をみてしまう傾向があるようです。民主主義じゃないとか、軍事の透明性がないとか、矛盾があるとか色々いいますが、危機には一致結束して対応しなければなりません。
私が防衛庁にいたとき、ちょうど冷戦が終わって、日米同盟をどうするかさまざまな議論が行われていました。結局「再確認」ということばを使い、実際には強化するという方向付けなのですが、そのとき中国からいわれたのは「冷戦は終わったんでしょ、なんで強化するのですか」ということです。日本防衛のために同盟は重要ですが、軍国主義復活ではないのかと言われました。日本の防衛費は1990年代からほぼ横ばいですが、その間中国のそれがどれだけ増えたのかはみなさんおわかりでしょう。中国の国防部の人が今日本にいたら何で冷戦は終わったのにということを言うでしょう。軍国主義とか覇権とはいいませんが、活動をなぜ拡大するのか意図を説明してもらいたい。この伸び率がこれからも続くかはわからないですが、経済が順調に発展すれば伸びるのでしょう。20年後は表面的にはアメリカに並ぶでしょう。なぜ国防費増やすのか、国境を接する国が多いからか、人口が多いからか。あと、私にいわせれば仮想敵のことは余り意味のない議論だといえます。どの国の軍も機関も自分の国が攻められることを考えて防衛政策を決めます。仮想敵という話は成り立ちません。最後に、今後中国国防費の増大はどういう結末を迎えるでしょうか。囚人のジレンマに陥ると思います。今防衛省は潜水艦を増やそうとしています。中国への対応です。内容が変わるだけなので防衛費はふえませんが、中国が今のままなら、米国は必ず国防費の増大に移るでしょう。日本は今お金がないですが、消費増税ということになれば防衛費増大に移っていかざるをえなくなるでしょう。
皆さんが色々質問を提起されましたが、中国海軍は第一列島線内を内海にするのではないかなどいわれても、それは事実にかなわない。国民は中国の軍隊に積極的に働いてほしいという期待をもっています。南に行けば東南アジアと対立するといわれ、西に行けばインド掌握を狙っていると言われ、それでは中国を何だと思っているのですか。どこへ行けばいいのですか。逆にどこへ向かえば脅威といわれないのですか。われわれは、アメリカが中国のEEZの中で偵察をおこなうことには反対です。とても友好的行動とは思えません。これは戦争の準備とみなしてよいと思います。敵意ある行動には断固反対しております。自由航行の安全を確保することは東南アジアや日本や韓国の利益になるのですよ。航行が阻害されているわけではありません。空母の問題ですが、我々はソ連制の空母を改造し、研究や訓練に使います。なぜ空母を持つのかと聞かれますが、中国の憲法と法律が国土の安全を求めるからです。海外における国益を守り、グローバルな大国となることは期待されていますし、中国の意欲もあります。中国の軍隊が強くなるのを見たいと民衆は必然的に思っています。「四つの近代化」においては国防は最後の優先順位であり、平和的手段、平和的発展の政策は変わりません。中国の政策を疑ってはいけません。世界に空母を持っている国はたくさんあるのに、なぜ中国は持ってはいけないのですか。横須賀にあるアメリカの空母が中国にとってどういうものか、考えたことがありますか。
私は防衛庁長官をしていましたが、仮想敵国について、なぜ中国は日本の国連安保理常任理事国入りに賛成してくれないのですか。もう一息のところまできており、中国以外の常任理事国は賛成しておりましたが、中国が協力してくれなかったから実現しませんでした。GDPも負担金も日本は各国をリードしていたのであり、もはや大戦の戦勝国がということは意味がありません。拒否権も民主的ではありません。中国がこれを支持してくれれば国民の敵という意識はなくなるでしょう。大臣訪問も佐官級の交流もなくなってしまいました。やはりもっと大人の成熟した付き合いにしていかなければなりません。日本は1円の領収書までオープンにしているのに、中国は隠しています。些細なことで信頼を失うことになったのが尖閣の事件です。日本の取り締まりに対し衝突してきた漁船を逮捕したわけですが、どちらが悪いのかはビデオを見ればわかるのに大げさにしたのは中国です。二度と起こらないようにしなければなりませんが、あのときの中国は大人の対応ではありませんでした。NATOのような東アジア安保のテーブル、枠組みをつくって、国連の場でも対等であることが必要です。専守防衛と中国が言うなら、空母も戦闘機も必要ないでしょう。
わたしは西原先生の後継として防衛大の校長をやっていますが、もともとは外交史の学者であります。いままで激しいやりとりがありましたが、歴史家の好奇心から中国文明はどういう道をたどるかという話をしたいと思います。世界で大きく躍進する国が出るとき、軍事力を持たなければ刃にかかるというのが世界史でした。なんとか国力を増大して軍事力で国を守りたいというのは当然の流れであります、しかし、持って使わないということは歴史的にはあまりありませんでした。力を持っていても使いすぎないと言うのは常識であったようです。「驕る平家は久しからず」という言葉もあります。ビスマルクのドイツは達成したことをあまり表にだしませんでした。平和外交でフランスを封じ込めたのです。もしカイゼルがビスマルクを罷免しなかったら20世紀の歴史はどうかわったのでしょうか。国力を持てば軍事力も持ち、持てば使うというのが流れです。ドイツ以上に勃興しているのは鄧小平以降の中国です。しかしドイツとは体格が違います。秋山先生がおっしゃったような質問を以前中国の方にしたことがありますが、理由としては遅れた近代化を直すためか、台湾に対する優位性を保つためか、アメリカに対抗するためか、3つが考えられます。3つ目は強く否定されました。今もし中国の軍拡についてこういう質問をすれば、地域的な優位というのがひとつの説明でしょうか。中国の国益はグローバルに広がって、シーレーンの確保ということもいえますが、しかしそれを自らの軍事力でやる必要はありません。自由航行さえできればよいのではないですか。日本はかつて自存自衛ということを言いましたが、今は必ずしも賢明な考え方だとは思えません。軍備拡大は必ずしもシーレーンに結びつくものではありません。国内的には、とりあえず拡大策はどこでも熱狂的に支持されるものです。そういう中で中国が戦略と言うことをどう考えているか、非常に興味があります。中国は鄧小平以来自由競争のためには平和がいいということで、そのような経験は和諧のもとにもなっています。いまやパワー・ポリティクスはそんなに普遍的なことではありません。中国10数億の国民のためお金をどう使うかということは非常に大事ですから、アメリカが持っているから中国も持つとか、そういう生き方を果たして中国は選ばれるのでしょうか。