「2002.10.21開催 アジア戦略会議」議事録 page2

2002年11月27日

〔 page1 から続く 〕

植月 APECでやっているビジネス・カードも、今度メキシコとのFTAでオーケーするんでしょうか。あれも3~4年越しでやっとという感じですよね。

深川 だから、日本はすべてが異常なまでに遅いんです。さんざん遅くて、出し渋ったあげく最後はイエスと言うのですが、そのころには既にアナウンスメント効果が全然なくなっていて、だれにも感謝されなくて、全然外交効果がないんです。だから、やるときは一気にやってインパクトがあるようにしないと、構造改革と全く同じことがFTAにも言えて、(笑)戦力の逐次投入による疲弊と消耗という、いつものパターンをやっているのです。

福川 この間、中曾根さんのやっている日韓協力委員会があって、ITの話し合いにちょっと出てくれというので出かけたのですが、韓国の人たちが日・韓FTAには非常に積極的に発言をしていましたね。そのベースの中にサイバー・スペースを入れるべきだとも、高速通信網が経済関係を一番緊密にするトリガーだとも発言していましたし、また、e-アジアを日・韓でもう少し主導的にやろうという意見も出ていました。

そのときもう1つ出ていたのが人材の問題です。日本もITの専門家がいなくて非常に困っているのだから、日韓で協力して養成する仕組みをつくりたいと非常に強く言っていました。インターナショナル・インターンシップ制度を韓国でつくるので、ついては日本もカネを出せという話になるのですが、これが日・韓あるいは日・韓・中・ASEANを含めた形になる。それを相当リーダーシップを持って、戦略的に進めたいという発想の人が非常に多かったのが印象的でした。

深川 韓国は小さい国ですから、やっぱり戦略をしっかり持っていないとだめなんですね。何でもかんでもポケットをいっぱい持っていて、これがだめならこれというふうに出せる国ではないですから、そこはよくわかっているんです。

人材に関しては、APECも含めて、いろいろやっているのですが、1つの問題は日本の中の抵抗勢力です。失業率がここまで上がってくると、例えば、技術士の資格共通化さえ反対なんですよ。中国人、韓国人は、来日して6カ月もたてば流暢に日本語をしゃべって浸透してきますから、自分の職場をとられるのではないかという抵抗感がすごく強いんです。すると、技能資格試験共通化の技能者団体から反対が出るので、法務省もできないと言うわけです。結局、自分は変わりたくないけれども、人を受け入れるのも嫌、効率は悪いけれど、みんなでだめになっていきましょうという話になってしまうんですよね。だから、本当に出口がなくなってしまう。ただ、人材の問題は基本ですから、相当深刻に考えなくてはいけないでしょう。

こんな世界一ハードが安い日本が、ITでどうしてこんなに遅れてしまったのか。韓国はラップトップでは遅れていますから、ハードが物すごく高くて、家にパソコンのない人がたくさんいます。それで、PC房というインターネット・カフェみたいなものがあって、彼らはどっとそこに行くんです。このPC房というのはIMFの産物で、大量の失業者が退職金でPC房をやっているケースが多い。要するに、パソコンを家には持っていなくても、やはりみんな使いますから、職場を含めてそれを前提にできているのです。結局それは古い考えを捨てて新しいものを取り入れていく若さがあるからできるので、ハードが安かろうが、教育水準が高かろうが、オールド・エコノミーから頭が全然外れない限りは日本は変われないんですよね。

だから、それはもう所与のものとして、やればできるとか、すぐ追いつけるとか、そういう楽観論ではなくて、もう遅れてしまったという事実からスタートするしかないです。自分でできないものは、よそにやってもらったらいいんだと思います。

医療や環境の分野は、日本が多分トップをいける可能性のある数少ないセグメントされたセクターのはずです。韓国も中国も今後急激に高齢化していきますし、環境は悪化していくんです。そうしたら、日本が世界一老人に幸せな医療サービスを効率よく提供する国になって、アジアのお金持ちに治療に来ていただく。そういう方々はおカネを積めばちゃんと移民として受け入れ、病院に入れてあげる。結局どんなにアジアが発展しても、愛情ときれいな空気は買えないんです。だから、彼らはその環境を買うぐらいのことはしますから、直接投資してもらったらいいと思いますし、そういう人を受け入れていけば、観光だって、医療サービスだって生き延びるはずなのです。

福川 日本は2005年に光ファイバー1000万世帯だとか、ADSL3000万世帯だとか言っているけれども、韓国は2005年に全家庭に光ファイバーを引くという計画でやっているので、ハードだけでも日本は相当遅れている感じですね。

深川 1つは、韓国にはNTT問題みたいなのがないですから、多少の競争は確保されていますし、そこからの突き上げが強いですから、韓国通信は絶対サボれないです。あと、そういう分野にはまとまって投資するので、金額的に非常に思い切ってやります。そのかわり地方のインフラとかはめちゃくちゃですよね。本当にひどい。だから、韓国内には、光ファイバー網だけやって台風が来るたびに洪水になってるのでは、といった議論がもちろんあります。でも、プライオリティーとしては、国全体の成長を引っ張っていくのは先端分野であって土建ではないということになっているので、そっちに傾斜していくということです。

別に韓国自体にものすごいビジネス・モデルがあるとか、IT技術者が非常にたくさんいるというわけではないのですが、全国民を使うことで、そのノウハウたるや今や日本の何年も先にいってしまっているということです。日本は高齢者がついてきませんから、プラットフォームとしては携帯電話が精いっぱいですよね。だから、韓国のケースをそのままやろうとしても難しいものがあります。

ただ、韓国のIT業者たちは、ユーザー・フレンドリーという普通のことが日本よりずっとできているんです。日本は技術があり過ぎて、自分の難しい技術を自慢したいために物をつくっていたりする側面が結構ありますから、素人にはついていけないんです。分厚いマニュアルとか素人には読めないし。(笑)韓国は、そこのところは、それまで何でもコピーしていた日本が間違っていることに気がついて、きのうまでITに1回もさわったことがないような人でも、とにかく誰でもとりあえず動かせるようなものをつくっています。それから、技術サポートもみんな24時間体制です。日本のコンピュータ屋さんみたいに、電話してもいつも話し中でといったバックアップ体制ではないんです。

ITが普通の人にとって使うのが難しいのは韓国人だって同じなんです。でも、これでもかというぐらい便利にやっていくから、みんな使うようになっていくんです。それは総がかりでやらなくてはいけない話なので、日本みたいにばらばらやっていってもだめなんでしょうね。(笑)

加藤 日本・メキシコの間は、日本の財界が応援団になって進めていますが、同じように、日・韓とか日・中とか、日・ASEANのFTAにも、財界がもう少し前向きになって旗を振っもらえるようにするためには、どういうことが考えられるでしょうか。

深川 財界は、表面的ではありますが、とりあえず日・韓のFTAに対しては積極的にやっていることになっているんです。既に日・韓の財界は同じような組織を持っていて、経団連と全経連とべったりの関係にありますし、表面的には、いい話じゃないか、やりましょうというのでほぼ一致しています。問題は長年アジアの空白地帯だったので、直接投資もない、提携もほとんどない、果てもなく競争しかしてこなかったということですね。

加藤 韓国脅威論がすごかったですからね。

深川 今はそれはないのですが、アイデアが湧いてこないというのはすごく不幸なところですね。ただ、アンケートをとると、皆さん一様にやっぱり韓国が一番先とおっしゃるので、プライオリティーはあるのだと思います。日・韓の場合、FTA自体のハードコアは日本・ASEANと同じですが、それに積んでいく金融やITのクロスボーダーのM&Aなど、プラス・アルファ部分は、全く日本・ASEANとは関係ないですから、ちょっと違う相手であるということもわかっているし、それなりに考えてはいらっしゃると思うのです。

私は、日・韓の間には1つパイロット・プロジェクトみたいなのがあるといいと思っています。例えば構造調整のシンボルとしては、新日鐵と浦項製鉄は株の交換もしていて、事実上統合していく方向に行っているんですね。鉄はわりと大人の業界なのでそういうふうになっているのですが、それがもう少しほかの業界にも広まっていくといいということです。結局、日本がいくら構造調整をしても、また韓国で設備投資をしてしまうと価格が崩れてしまうんですよ。

安斎 それは過去のことですよ。過去にはそういうこともあったけれど、これからはできないですよ。

深川 過渡期ですね。でも容易ではないはずです。向こうの頭を抑えるように、IMFのときでもM&Aしてしまって抑えるとかをしてきた。もしくは、こちらの立場としては、崩れるなら崩れてしまえばいいわけですが、やはり崩れるのはかわいそうだから支えなければいけない。かといって、M&Aもできない。やがて相手はまた盛り返してきて自分を圧迫してくるというすごい堂々めぐりが続いていて、これは突破口を開かないといけない。それを受け入れていただくしかないということですね。特に石油化学は日本の関税率も高いですから、日本といえども大変です。

安斎 今まではカネが湯水の如くどんどんついていましたが、そのシステムがなくなってしまって、資本と借り入れを明確に区分けしながらやるような金融システムができてしまったから、韓国企業が日本と同じように規模だけ拡張していくというのは、もうできないです。

深川 ただ、韓国はできなくても、今度は中国がやりますから、結局、困ったものなんですよ。

安斎 いや、それは中国の民間銀行はできないですね。

深川 中国は社会主義国なので、国にやられたらそれでおしまいじゃないですか。

安斎 だけど、不良債権を抱えていて国有企業はほとんどだめですよ。それで、国有企業のいい部分を外資との直接投資でやろうとしているんです。ここに国内の貯蓄がどんどん入っていくということにはできないんです。

深川 多分そういう方向に行こうとするでしょうね。要は反対勢力なんかない国ですから、国策としてやればできないことはない。

安斎 今までそれで大失敗して、全部不良資産になってしまったんですよ。

深川 だから、国営企業というのはまさに不良資産の固まりですよね。技術的に国営企業ではできないところ、競争力がないところは結局外資とくっつけるしかないのですが、そこはもう強引にくっつけてでもやると言えば、結局キャパシティーとしてはできてしまうのではないでしょうか。アジア全体の規模で調整していくメカニズムがない限りは、一番先にやった外資は損ですよね。特に設備に技術が一体化しているものは、新しい設備更新をした方が勝ちですから。人件費は向こうの方が安いわけだし、為替も多分中国の場合は過小評価されているし。

安斎 日本の企業はそうなっている。

深川 日本は自分に不利なゲームのルールをこのままだとずうっと維持して、すごい血を流しながら構造改革しなければいけないのか。もう少しクロスボーダーで考えないと、ゲームは終わらないですよね。

安斎 要するに、国内に投資するようになっていないからですよ。直接投資ですら歓迎しない国に、どうして日本の企業が投資するのでしょうか。

福川 日本の投資環境が悪いからです。魅力がないんですよね。

安斎 深川さん、だけど、高速道路は日本でも崩れたものがありますよ。何も韓国だけがお粗末な高速道路を造っているんじゃなくて。

深川 韓国では毎年崩れています。(笑)

福川 さて、そろそろ時間ですので、それでは皆様お忙しいところ、ありがとうございました。


以上

深川 だから、日本はすべてが異常なまでに遅いんです。さんざん遅くて、出し渋ったあげく最後はイエスと言うのですが、そのころには既にアナウンスメント効果が全然なくなっていて、だれにも感謝されなくて、全然外交効果がないんです。だから、やるときは一気に