「2002.8.28開催 アジア戦略会議」議事録 page1

2002年9月17日

020826_01.jpg020826_02.jpg2002年8月28日
於 笹川平和財団会議室


会議出席者(敬称略)

福川伸次(電通顧問)
入山映(笹川平和財団理事長)
加藤隆俊(東京三菱銀行顧問)
国分良成(慶應義塾大学教授)
イェスパー・コール(メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)
谷口智彦(日経ビジネス編集委員)
鶴岡公二(政策研究大学院大学教授)
深川由起子(青山学院准教授)
横山禎徳(元マッキンゼーディレクター)
工藤泰志(言論NPO代表)
松田学(言論NPO理事)

工藤 言論NPOの代表をしております工藤です。きょうは初めてお目にかかる方もいらっしゃいますので、この会を設立することになった経緯を簡単にご説明してから、第1回会合の議題に入らせていただきたいと思います。

現在日本では、マスコミを含めて、議論の立て方がかなり短期的で、しかも当事者意識がない、批判のための議論を繰り返してきているということに対する反省から、当事者意識を持った、きちっと建設的な議論の舞台をつくりましょうということで、言論NPOを去年の11月に設立しました。今、各界でいろいろなことに挑戦している400人ぐらいの方が会員になってくださっているのですが、その中で、どのように日本の将来を考えていけばいいのか、また、それに向けて経済とか、政治とか、世界に対する日本の位置づけとか、そういうことをきちっと議論しようということを、今年の夏以降考えまして、その一環として、このアジア戦略会議を設立しました。アジア戦略会議だけではなくて、日本の将来を考える会議とか、地方の問題を考える会議とか、いろいろな会議を今準備をしているのですが、多分そういう会議における議論が連動して、このアジア会議にも反映され、議論がさらに発展していくような感じになると思います。

また、僕たちのメリットはウェブサイトをもっていることなので、ここでの議論を会員の人たちにインターネットで公開します。かなり(ウェブサイトに)意見が入ってくるような状況になっていますので、インターネットと連動する形で議論していく。ただ、ここでの議論を、単なる議論で終わらせるのではなくて、方向性とか提言をまとめて、その中で日本の政治にアクションを起こしたいという考えも一方であります。そのために、いろんな人たちがアジアの中における日本の役割ということをきちっと考えるような議論をもっと盛り上げたいと思っています。

8月1日に一応準備会合を行いまして、福川さんにこの会議の座長をお願いすることになりました。その準備会合のとき、今後どういう議論をすればいいのかという論点も含めてかなり議論したのですが、きょうは、その議論を踏まえて、新しくぜひ我々のメンバーに入っていただきたい方々にもおいでいただきました。本日は今後の論点の立て方、会議のスケジュールを含めて、いろいろな議論をお願いしたいと思っています。

福川 福川でございます。大変暑い中、お集まりいただいてありがとうございました。8月の上旬に準備会合という形で、少人数の方で、どういう方向がいいかというご議論をしていただきました。きょうは、そういった準備会合のこともご紹介をさせていただいて、また議論を深めていただきたいと思っております。

言論NPOというのは、私も発起人の端の方に名を連ねているわけですが、できるだけ政策論争等を活発化していこうというのが狙いでございます。いろいろな方のご意見があるので、なかなか結論は出にくいかもしれませんが、やっぱりそのプロセスも非常に大事だと思いますし、もちろん合意ができれば、さらにそれに大きく働きかけていくということにもぜひつなげていきたいということでございます。とりあえず、まずアジア戦略を考えようということで、このグループが発足し、いろいろ各方面から応援もしていただいております。また、きょうは大変有力な方々にも新たに参加をしていただくということになっております。

さらに、新しいメンバーをもう少し増やしてはどうかということがあり、例えば企業の方々にももう少しご参加をいただけないかということで、今、1~2声をかけております。あるいは防衛問題の専門家もいた方がいいかもしれないという前回のご示唆もあって、今いろいろ検討もさせていただいているところでございます。

そんなわけで、私は座長という形式には相なっておりますけれども、私が取り仕切るというより、ただ単なる幹事役ということでございます。ひとつ活発なご意見をお寄せいただいて、ここしばらくはヒアリング等々を続けていくのがよかろうかということが大体の方向になっております。それを踏まえて、来年の2月あるいは3月のシンポジウムで大きく打ち出していく、そういった礎がここでできればと思っているわけでございます。大変お忙しい皆様方でございますが、これからぜひお知恵をお借りして、日本のアジア戦略をどう構築したらいいかということでご議論を深めていただければありがたいと思います。どうぞ何分よろしくお願いいたします。

前回来ていただいた方は、自己紹介は一応していただいたのですけれども、今回、新しい方もいらっしゃいますので、ごく簡単にお名前と所属、若干の抱負等々を順にお述べいただくということから始めたいと思います。それでは松田さんから順にお願いいたします。

松田 個人的に言論NPOをずっと手伝っております財務省の松田でございます。この部会では、私、書記というか、主査というか、そういうのをやらせていただくことになりましたので、皆様の議論をできるだけ的確に整理をして、何か書く際には、できれば深川さんのご協力を得てやっていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。

加藤 東京三菱銀行の顧問をしている加藤と申します。大蔵省に34年間おりまして、その間に為替、国際金融、アジアとの関係でいろいろ担当してまいりました。今回の戦略会議のメンバーになって非常に光栄に思っており、大変楽しみにいたしております。

鶴岡 政策研究大学院の鶴岡と申します。外務省からの出向で大学の方おりまして、この5月までインドネシア・ジャカルタの日本大使館で公使をしておりました。私は、これまで外務省の経歴で申し上げますと、基本的にはアメリカ関係をやってきております。したがって、アジアは素人でありますし、よくわからないところですので、なぜ私がここでお声をおかけいただいたのか、お役に立てるかどうか自信のないところでありますけれども、まず皆様のお話をいろいろ伺わせていただいて、勉強をさせていただきたいと思っております。

谷口 日経ビジネスの谷口です。ほとんどの方は取材の上で尊敬する方たち、お話を伺ってきた方たち、また意外に友達として広がる中で、私もここにひっかかっているという感じだと思いますが、大変エキサイティングな会議だと思います。これからもいろいろと私なりに貢献できることがあればしていきたいと思っております。

入山 笹川平和財団の入山と申します。限りなくオブザーバーに近いメンバーということで(笑)。私ども、まだできて間もない財団ですが、この十数年の間、やっぱりアジアの問題というのは我々の軸足でありましたので、この戦略会議の結論に対しては大変関心と期待を持っております。よろしく。

深川 青山学院大学の深川でございます。私は、だらだらと朝鮮半島――韓国の経済を中心にやってきて、ここ5年間はずっと構造改革とか通貨危機対応だったのですけれども、ここしばらくは日韓FTA、日本ASEAN・FTA、日韓中経済緊密化協定というFTAの関連の仕事が大変多くなってきております。実は私の父が日経グループに長年いたのですけれども、言論NPOには松田さんのお友達という全然関係ないところから組み込まれております。先ほど突然に副主査という名の多分書記を意味していると思いますが(笑)、それをやれというご指名がございましたので、どうぞよろしくお願いします。

国分 慶応大学の国分でございます。見かけからは若く見られるのですけれども、もう既に学生時代からしますと中国研究を30年やっております。できるだけ中から外を見ていくという思考でもってやってまいりました。できるだけ地域研究と国際関係の接点のような形で――私自身は地域研究の出発ですから。最近は何をやっても中国ということになりまして、どこを開いても中国ということですので、空洞化の問題があれば中国、エネルギーの問題があれば中国、FTAの問題があれば中国、国際交流の問題があれば中国と。あるいは犯罪の問題も。ということで、ありとあらゆることが中国になってしまいまして、これもおかしいなという感じで見ておりまして、もう少しクールな立場で見ようとしております。

最近、中国の言論をたくさん見てみますと、中国研究者はほとんど語っていないのですね。中国研究者に需要がいかないのか、あるいはチャイナスクールというふうに思われて、ほとんど意味はなさないと思われているのか、大体中国以外の方が多いのですね。中国研究の世界では、みんな中国語でやってきていますので、日本の新聞を見ていても大分違和感があるわけですね。間もなく中国の農村、都市の住民選挙とか、コミュニティーの研究とか、そういうところで小さな国際会議があるのですが、そこには中国研究者が関心を持ちます。つまり、研究の中心が今、世界的にはそこら辺にあるのですね。じゃ、その人たちにとって、今起こっているこの議論はどうなのだというと、ほとんど関心がない。そんな議論はほとんど意味ないじゃないかということになってしまう。中国研究の世界と外の中国論とが無関係に動いているなという感じがあります。どういうふうに、より政策的な側面にも関与できるか、あるいは言論界にどういう形で敷衍できるか――、この辺は、確かに中国研究そのものが、文革時代から考えてみると地雷源を歩いているような研究ですから、これを踏んで一瞬にして吹き飛んだ研究者というのは幾らでもいるわけですね。そういう点でいきますと、非常に楽しみながら、緊張感を持ちながら研究をやらせていただいているがゆえに若干若く見えるのかなという感じもしております。

コール イェスパー・コールです、初めまして。今、メリルリンチに勤めているのですけれども、昭和60年から日本に参りました。ドイツ人ですが、米国で育って、日本担当エコノミストということで仕事をしています。今、実業界において、ヨーロッパあるいはアメリカの企業家とか、アントレプレナーとか、投資家とかに対して、日本の将来について議論しようとする場合、どうしても日本のことだけ考えていると余り議論にならないのですね。どうしてもアジアの中の日本、日本の中のアジア、そういうふうになっているんです。だから、これから日本の国内政策だけではなくて、国を超える政策がどうやってつくれるか、どこに希望があるか、どこに問題があるか、そういうことについては積極的に勉強と研究と政策提言を出さないといけないのだと思います。私はドイツ人として、ヨーロッパ、特にドイツとフランスを原点にしたヨーロッパ統合は非常にうまくいっていると思うのです。これと比較して見ると、日本とアジア、日本と中国とかも、同じように何とかできるのではないかという考え方もあると思います。

横山 横山でございます。私は、この6月までマッキンゼーというところに27年間おりまして、アジアに関してはとりわけの見識を持っているわけではございません。仕事の関係でアジア絡みのことを過去やったことがあるという程度です。この金、土、日と上海にいましたけれども、それも17年ぶりに行ったということで、じゃ、何があるかというと、ああ言えばこう言うというのは大変得意なので、皆さんが何を言われても、こう言われればああ言うということで、議論を盛り立てることはできるだろう。それから知ったかぶりもしますので、そういう意味では話をどこかへ持っていくかもしれない。専門家がおられるときには、役割分担だから、そういうのもいてもいいかなと思います。

もともとは建築家なものですから、上海へ行っても見てきたのはビジネスでも何でもなくて、なぜ上海にああいう建物が建っているのか。それから見たのは高級マンションのユニットを見てきたのですが、うーんという感じで、なぜああいう表現主義的なものがたくさん建っているかというと、建築法規が日本ほど厳しくないということもあるんだけれども、ちょうどバッとみんなが建て始めた時期が、建築デザインのトレンドが一種の何をやってもいいという表現主義の時代にたまたまぶち当たったというだけでしかない。だから華やかに見えるけれども、実際はやらなくてもいいことがやってあるという建物が結構多いですね。散歩していましたら、私がニューヨークで1970年代に設計したのと同じビルがあるので、ああ、こういう感じなのだなというのを感じましたね。エネルギーはあるけれども、ディシプリンがないというのが建築の世界でした。それは、ほかのことに関係あるのかどうかはよくわかりませんけれども。それを牽強付会的にほかにも敷衍してしゃべるかもしれませんが......。そういうのが直近の印象です。

福川 ありがとうございました。一渡り自己紹介をしていただきました。このアジア戦略会議については、先ほどオブザーバーとおっしゃいました入山さんのところで大変応援をいただいておるわけです。

あと、もう少し企業の方に参加していただきたいという宿題をこの前いただいたのですが、企業が夏休みでうまく連絡がとれませんでした。今、人選を、商社と自動車関係とでとりあえずお願いをしております。あと電機・電子関係も1社入った方がいいだろうということなので、それで考えさせていただいております。また防衛問題も、この前ご示唆もいただきましたので、今、検討をさせていただいているところでございます。

それでは、前回の準備会合で議論をしましたことを松田さんに整理をしていただきましたので、ご紹介いただきたいと思います。

松田 お手元に「準備会合における論点」というペーパーがあると思います。余りうまくまとまってはいないのですが、前回、多種多様な議論が出ましたので幾つかに分けて整理いたしております。前回出られた方は思い出していただくということで見ていただければと思いますが、最初に、この会議自体の目的、意義、運営のあり方について出た議論をまとめました。

議論の行い方について、シンポジウムに向けてどういうことをやっていくか、それからどういう人をメンバーとして加えていくかという議論が行われました。

また、議論の進め方ですが、これはインターネットとつながって、同時並行的に進めていく。いろんな人が参加型の議論を展開していくということが1つの特徴だろうということが出ました。

また、ゲストスピーカーを呼んでいろんな観点から議論に参加していただくということに加えて、別途日本の将来像をどう描いていくかという議論の場がありますので、その両者を連動させながら議論していくという形を考えてはどうか。大体こんなふうに整理しております。

「何を目指して議論をするか」についてですが、このフォーラム自体の意義について、いろいろな日本とアジアの将来予測に基づいて、多様な観点からユニークな問題提起につなげてはどうか、という指摘がありました。

あるいは先ほど福川座長もおっしゃっていましたが、そもそもの政策論争、言論活動をもっと活発化させるということ自体に大変意義があるのではないか。どういう選択肢がいいかをみんなで考える。結論が一本にならなくても、論拠を明確に提供していく、思考の材料を出していくということに意義があるのではないか、との話もでました。

あるいはこの議論は、線香花火といったものではなく、光源として常に光っている。それもサステーナブルな光を世の中に出していく。およそ政策を考えるほどの人が必ず参照しなければならない質の高い議論にしていく。政策当事者を巻き込んでいくのがいいのではないかという話も出ました。

また、政治との関係では、いろんな議論が出ましたが、議論がおもしろければ政治家は寄ってくるのではないか。また、寄ってくるような議論でなければ意味がないのではないかという話も出てきました。

次に、「議論に当たって踏まえるべき視点」ということですが、経済戦略については、基本的にWin-Winということしかあり得ない。ただ、Win-Winというのはかなり理想的な姿で、現実的な議論もする必要があるのではないか、という話が出ました。

3つ目に挙げた「日本の生産性に対しての相当悲観的な予測を前提とすると、経済運営の基本は中長期的な生産性の向上であり、そのためには需要、供給両面からの政策が必要。その鍵となるのがイノベーションである」という点は、国分先生、深川先生にもご参加いただいて財務省の私が担当しておりました研究会で出た議論でございまして、いわゆるイノベーションのイメージということの中にアジアをどう取り込んで、あるいは市場として生かしていくかという視点です。

また、次の4つ目の点も同じ研究会での議論ですが、Win-Winを実現していくに当たっては、熾烈な調整過程が伴う。メッセージが必要であろうということで、そこで出た3つばかりのメッセージ、すなわち、「知と匠の国づくり」「物留から物流へ」「アジアとの共生」が書いてあります。

5点目では、経済学と政治学、これは別個のものとしてとらえるのではなくて、相互連動しながら考えるという視野が重要であるということを指摘してます。アメリカで出した「Asia 2025」というペーパーのようなものが参考になるのではないか。セキュリティーとセキュリティーズという話が出ておりました。

(2)として、経済だけでなくて、「より総合的な戦略の視点」ということで、アジア問題は、結局、対中国問題で、対中国問題は、しょせんはアメリカとの関係という日米中の三角関係の中で日本がどう考えていくかということが出ておりました。

また、日本と中国だけでなくて、全体的な外交戦略、経済戦略の話も出ました。

それから日本のアジア戦略、これもフリーハンドということでなくて、これは例えばアメリカの戦略の関数として、日本の対中国、アジア政策があるのではないかという視点が出ております。

それから、日本が戦略を考えると、どうしてもこれまでは得意分野が経済ということで、そちらの方にばかり目が行きがちなのですが、例えばアメリカの視点というのは非常に幅広い。日本は、それに比べて視野偏狭の状態ではなかろうか。アメリカが世界をどう見ているかということを見ながら考えていくことが大切という話も出ておりました。

それから「軍事的な視点について」をまとめましたが、日本の不得意分野として軍事がある。軍事にまつわる情報については、日本はそれを見る力がない。この隘路をどう克服していくかという話が出ました。

それから、対アジア戦略ですが、やはり安全保障、軍事力を抜きにして日本のアジア戦略も語れないのではないかという議論がありました。

これに対して、戦略というのは差別化であり、強さ・弱さを考えると、(日本の強さは軍事には全然ないのだから)軍事ということは(そこで闘っても)仕方ないのではないかという話も出ておりました。

(4)として「アジアをどう捉えるか」ということでまとめておりますが、アジアという概念は、多分ひと括りにできる概念ではないだろう。非常に多様な地域であるということで、アジアという概念以外に、いろんなレイヤーといいますか、ネットワークであるとか、リージョンというか、さまざまなとらえ方が必要なのではないか、という指摘がありました。

こうしたアジアに対するリーダーシップというのは、ソート・リーダーシップという言葉も出ておりましたが、オープン・プラットフォームの経済圏の設計に日本は協力すべきである。そこにはリージョン、プロビンス、さまざまなレイヤー構造で複合的に考えた方がいいのではないかという議論が出ておりました。

ただ、「アジア」という言葉は、アッシリア語で「日出る国」という意味でもあるように、最近のいろんな地域経済協力の例、あるいは地域経済圏の話が進んでいる中で、文化的には多様であっても、文明的には共通の要素もあるのではないかという議論も出ておりました。

(5)は「日本の特性について」ということで、日本の対外交渉における特性や、組織論や人事は好きだが、中身をどうするかの議論がないという日本の国民性が指摘されました。そういう状況下では、日本は今やっとアジア戦略について基本的な問題を考えるスタートラインに立ったところではなかろうかという話が出ました。

「アジアにおける日本のリーダーシップとは何なのか」については、アメリカや中国が持っているような覇権主義というのは、日本は持ち得ないのではないか。別の形での、(先ほど言いました)ソート・リーダーシップといったものを考えるというのが日本の生き方ではないかという議論になりました。

それから、日本の国益が一体何であるかということをよく考えて、どういう形でアジアとのかかわりを持ち、リーダーシップをとるとすれば、その中でどういうリーダーになるのかを考えるべきという議論も出ておりました。

大きな3つ目として、アジアの議論をすると、当然日本みずからの将来像についての議論は避けて通れなくなる。この面についてもいろいろな議論が出ておりました。1つは、議論の方法論として、将来に向けてのシナリオ・ライティングという話です。先ほども出ましたが、「Asia 2025」の中で(アメリカが行った手法で)、ハード・エビデンスで25年先まで何が言えるかということを先に固めて、そこで人口の推移ということを予想しながら、いろいろな変化をどう類推していくかという手法がとられましたが、こういった議論の手法もあるのではないか、という指摘がなされました。

これに対して、シナリオ・ライティングというのは、どうしても不連続を読み切れないという欠点もある、あるいは、政策的な要因でシナリオは変わってくる、という議論もなされました。

いずれにしても、これから将来5年ぐらいをにらんでの戦略を考えるべきということで、議論に当たっては、これから10年先、20年先ぐらいのアジアや世界の状況を今の時点で予想して、そこから演繹して、5年先の日本の戦略がどういうアプローチになるかという議論をしてはどうかということが話し合われました。

(2)として「魅力ある日本への変革に向けて」ととりあえずまとめましたが、移民政策というよりは、むしろ日本にベスティド・インタレストを持つような仕組みをつくるということの方が大事なのではないか、という内容です。

そこではいろいろな観点から議論が出ましたが、なぜ日本に人が入ってこないのか、留学生が来ないのか、あるいはなぜ日本の企業でアジアの人が働こうとしないのかといったような指摘に対して、日本のさまざまな社会システム、たとえば企業の人事や評価などにおける問題点が幾つか指摘されておりました。

ただ、日本も、時間はかかるものの、次第に変化しているのではないか、その移行過程にあるのではないかという意見が出ました。しかし、絶望的なのは、何年たっても日本は物の考え方が、明治維新のときと変わっていないということで、マッカーサーのときに変わる(最初の絶好の)チャンスを失ってしまったという指摘もございました。

また一方で、アメリカは外から受け入れることによって変わっている。したがって、日本も、その受け入れる仕組みをつくることが重要ではないかと指摘されましたが、その仕組みづくりには、かなり時間がかかるのではないかとの意見も出されました。

さらにドイツの例として、国籍法を出生地主義にするということも紹介されましたが、そういった議論の前に、そもそも女性の能力さえ活用できない国が、外国人に枠を広げてうまくいくのかどうか。女性と高齢者の労働力の再活性化が本当にできる国にすることがまず大事ではないか、という発言もありました。

また、ヨーロッパでは、ユーロを地域通貨化させないためにどうすればいいかといった議論を行うに際して、最初から文化に入っていく。日本のように、ただお金をつけるのでなくて、文化政策ということをまず考えていくという話が出ました。

こういった基本的な議論をしないままで、いきなりアジアの議論をしても議論にはならないのではないかということでした。

私の方から以上でございます。

福川 ありがとうございました。ご議論の前に、前回出席された方で、自分が言ったこととは違うところがあったら、まずおっしゃってみていただければと思いますが、大体こんなことでよろしゅうございますか。加藤さん、よろしいですか。

加藤 はい。

福川 谷口さん、いいですか。

谷口 結構です。

福川 それでは議論に入りますが、その前に、工藤さん、将来像をどう描いていくかという、もう1つのグループの進捗状況、考え方をちょっと紹介してください。

工藤 まず、将来、20年とか30年後の人口の問題から議論しようとしたのですね。そうすると、日本のシステム設計自体を大幅に考えなきゃいけないのではないかという議論がとっかかりになって、そこを目指しながら、今つくられているいろんな政策を見直そうと......。それは移動の問題とか、公共投資の問題とか、いろんな問題が出てきますけれども、そういう形の議論に入っていきたいと思っています。

そうした中で、言論NPOのアドバイザーの1人である三重県の北川知事から、地方の問題でもう1つ部会をつくりたいという話がありまして、来週、知事を集めた1回目の会議が始まります。だから、そこあたりでぽつぽつやっていって、どこかでそういう方たちにも、ここでゲストスピーカーとして話してもらったりとかいう感じを考えたいと思っています。

福川 それから何か補足することはございますか。

工藤 僕たちがやろうとしているのは、さっきの将来像と今の構造改革の議論を結びつけるという議論ですね。

福川 ということでございまして、ごらんをいただきましたように、大きく言うと、この我々のグループの運営のあり方をどう考えるかということと、議論に当たって踏まえるべき視点ということになっております。1の運営のあり方をどう考えるかというのは、ページがございませんが、最後の「本部会の当面の運営」ということとダブっておりますが、これが1つの論点でございます。こういう議論の進め方でいいかという点が1つ。2番目の議論は、視点の問題でして、経済戦略、軍事的な視点、あるいは総合的な視点、いわゆる物の見方、考え方をどういうふうにするかという問題です。3つ目がアジアというものをどうとらえるかという問題。4つ目が日本というものをどう見るかという、その4つぐらいが大きな点です。日本の点で言えば、日本を魅力のあるものに変えていくにはどういうふうにするか。主として、ここに整理していただいたのは4つぐらいの視点になっているのではないかと思います。特に議論を制約することもございませんが、もしできれば、主査の便宜のためで言えば、まず議論の行い方、それから当面の運営というあたりについてご疑問なりご意見なりがあれば、うかがいたいと思います。

大体12月ぐらいにかけて、論点を整理する意味で、ゲストスピーカーを呼んで、しかも、それも焦点をかなり絞った形で議論を深めていくということにまずしたいということでございます。その過程で、視点の問題、あるいはアジアのとらえ方、あるいは日本の見方というのはきっと出てくると思いますが、とりあえず進め方としては、当面、月2回ぐらいのテンポで、12月までゲストスピーカーを呼んで、個別のテーマ、視点ごとで議論をしていくということでございます。総括的なことですが、こんなおまとめでよろしいでしょうか、何かご意見が......。

横山 よろしいのですが、経済同友会で委員会をやっているパターンに多少似ているなと思いまして......。私は、あれは改良の余地があると思っているのですが、その最大のものというのはスピーカーに対するチャレンジを余りしない。皆さん非常に洗練された方が多くて、「大変示唆に富んだご意見を伺い」とおっしゃるのですが、大して示唆に富んでいないものがたくさんあるのですね(笑)。だから、ゲストスピーカーにチャレンジというか、議論をちゃんとするような時間配分をしないと、聞いただけになる。その部分だけは同友会のやり方とは変えていただいた方がいいかなと思いますので。福川さんもよくご存じの同友会のやり方(笑)。

福川 そうですね。同友会の方は、これも言論NPOに関係している方がやっていらっしゃるのですが、まず最初に国益というのを詰めたいという議論をしているようですね。日本の国益とは何だということの議論をしていくということです。それからもちろん安全保障とか政治とか、広くとは言っているけれども、ビジネスマンの集まりだから、あっちはやっぱり経済的な側面が重点になるというふうに思います。もちろん議論を明確にする、それから今おっしゃったようにチャレンジするというので......。

横山  つまらないことをおっしゃったら、やっぱりつまらないと言うべきで(笑)、率直に議論した方がいいのではないかということです。

福川 それは貴重なご意見です。

工藤 それから、会議での議事録をなるべく公開したいと思っています。そのために、議事録を皆さんにお渡しします。だから、かなり議論がされていた方がいいわけです。ああ、こういう議論があるのだと。それに対して、いろんな人たちが、意見を外部から載せてくるという形をとってみたいなと思っています。

谷口 1つ質問させていただいてよろしければ、締め切りという概念をはっきりさせておいた方がやはり励みになりますね。ですから、2、3月にシンポジウムを開くということなのであれば、それはいつなのかということと、最終的なアウトプットのイメージは、従来型で言えば、シンポジウムなり、本なりにするとかいうことだと思うんですけれども、そういうイメージで今回もやるのかどうか。最終的なアウトプットのイメージですね。

それから、12月といってもすぐですし、2月、3月までのシンポジウムといっても、もう大して回数がないですから、どこで何を議論して、どういうふうに進むというある程度の時間割りもあった方がいい。

福川 アクションプログラム。

工藤 そうですね。

コール アウトプットとして政策提言を目標でやるのでしょう。

工藤 そうです。それで、どこかとその政策提言について議論してみるとか、そういうこともやります。ただ、発表の場はシンポジウムなので、そこまでのスケジュールを全部出します。それから皆さんの予定も聞きながら、早急に。いつ、どこで、どうするかということですよね。

福川 きょういろいろ検討テーマをご議論いただいて、抽出していただいて、今度それを松田さんと深川先生のところで大体アクションプログラムにして、大体いつにはどのテーマをという格好で......。それでまたいろんなインターアクションが起こるわけですから、それが明確な議論の動きになっていくように......。

それから、今回の1つの特色ですけれども、いろいろ提案をするときに、思考過程をなるべくはっきりさせてはどうかと。幾つか複数の選択肢というのは当然考え得るでしょうから、その複数の選択肢がそれぞれの論理的な根拠があって、しかし、それで我々としてはこちらの選択をした、あるいはまた選択ができなかった、だから、ここはもっと議論をしたいということになるか。できるだけその論理の組み立てが明確になって、それをあっちこっちで議論するように。そして、もしできるならば、もちろん日本語でも出しますが、要約を英語にもして、外国と論争できるようにできればありがたいと思います。

工藤 それはできますね。

福川 加藤さん、何かありますか。

加藤 ゲストスピーカーにお話を伺うというのは、どういうイメージを考えているのですか。

工藤 テーマですか。

加藤 そうです。

工藤 この前の会議で出たのは、まず人口の問題がありましたよね。あとアメリカと中国、それぞれのアジアに対する戦略です。

加藤 そうすると、人口問題ですと、例えば日本の人口推計をとるとこんな感じです、だから、今こういうことをやっています、ということをお話しいただいて、我々が、それでは不十分で、こうすべきだということをいろいろ言うというイメージでしょうか。

福川 私の理想でいえば、ランドコーポレーションなどがよくやるやり方で、人口推計を世界のパワー構造に展開をするわけですね。それぞれにもちろんいろんな要素を入れていくわけですが。そうすると、将来、仮に2020年とか2030年とか2050年とかいうことで、これはもちろん当たるも八卦、当たらぬも八卦のところがありますが、まずビジネス・アズ・ユージュアルのトレンドで言うとどういうふうになるかということを考えてみて、そうしたときに、もちろんそれに技術要素や何かも加えて、どういう国力の構造に大体なりそうだと......。多分そうすれば日本は落ちて、ヨーロッパも落ちて、ということになるかもしれませんけれども、そういう感じがする。

もう1つ、人口の与えるインパクトというのは実はいろんなところにあって、これはCSISが3年かけてグローバル・エイジング・イニシアティブという作業をやったのですけれども、それで見ると、アメリカ人は安全保障の議論がお好きなものですから、例えば高齢化が進んだときに、アメリカの中でも予算配分というか、資源配分がどうしても高齢者向きになる。そういう中で社会保障に予算をとられてしまうと軍事費が減ってしまうとか、アメリカでもある程度高齢化が進みますから今度若い人が減ってしまう。アジアとか別の国は若い人が非常に増えてくる。安全保障がどうかという議論が1つある。

それからもう1つ、CSISで大きな議論になったのは、これから年金を積み立てていったときに、金融とか証券とか、そういうものの構造が非常に変わる。あっちも団塊の世代がありますから、ある時期からそういうのがわっと出てくると、金利はどうそれに反応するかとか、あるいは株式市場はどうなるかとか、いろんなところの議論があるわけです。もちろんそれぞれの国で財政事情がどうなるだとか、一般に成長率が下がるとか、いろんなところもありますけれども、多分人口の構成が与えるインパクトというのは実は非常に大きい。これも50年ぐらいで見ますと変わるのではないかという気がするので、もし理想を言えば、そういったすそ野の広がりのある議論をしてくれる方を見つけたい。ただ厚生労働省の人口問題研究所で合計特殊出生率が1.6に戻ります、だから人口が幾らになりますというよりは、もうちょっとすそ野のある議論をしていただけるような人を見つけたいなと思うんです。欲張りかもしれないですけれども。

工藤 あと、この前出たのはドイツの話でしたね。皆さんドイツのことを知りたいと言っていましたよね。

福川 そうでしたね。

コール これはできますよ。やっぱり両面見た方がいいかもしれないのですけれども。というのは、もちろん日本の中では、例えば学会とかなんとかは余り動いていないのですけれども、日本人でドイツあるいはヨーロッパ統合を研究した、だれか優秀な人はいるでしょう。だから、逆としては、経済界の方から、あるいは大使館の方から、そのテーマに対してレクチャーしてくれる人は紹介しますよ。これはできますよ。そのレクチャーのために、5つ6つの質問についてちゃんと答えてくださいという宿題はできると思いますけれども。そうすると、これはおもしろくなると思いますよ。

福川 横山さん、やっぱり講師をお願いするときに、ただ大きいテーマをぼんと与えて話してというのではなくて、これとこれはと注文をつけた方がいいのですかね。

横山 それはそうでね。

コール これもすぐできますよ。じゃ、この日にちではどうですかと。もう準備しますよ。

横山  しゃべる人も大変だと思う。(聴く側が)どこからどこまでわかっていて、どこからわかっていないのかというのがわからないまましゃべるというのは、非常につらいものがあると思うんですね。わかっていることを得々と言ってもしょうがないし。だから、ここまではわかっていて、ここがわかりません、それはこれとこれとこれですということまで言ってあげるのが親切だと思いますよね。

コール だから、具体的にはアジアのことについて考えていくということで、順番としては、1つはヨーロッパ統合からの勉強。このテーマはやっぱりドイツということで、これは軍事のこと、あるいは経済のこと、社会のこと、文化のことで、これは1つのセッションでやるでしょう。2番目のセッションは、じゃ、米国とアジアは何を考えているということですね。3番目は、もしかしたら例えば人口どうのこうのということで、もう1つは......。

工藤 中国。

福川 その中では中国の位置が大きい。

コール そうそう。だから、この順番で決めれば、もうすぐスタート。

工藤 そうですね。いろいろ皆さんと打ち合わせして、もうゲストスピーカーの人選に入って、どんどん予定を入れちゃいます。

福川 それでは、そんなことで、ヒアリングの仕方が活発になるように......。

加藤 例えば今回ですと、次回はどういうテーマで、それはどういうことを注文するかということを決めて、それで渡すようにしたらいかがですかね。

福川 そういうことですよね。

国分 正直まだつかんでいないのですけれども......。今、アジア論とか物すごい数が出て、中国論も消費しているという感じがします。私は余り積極的にはやっていないのですけれども、眺めている方がおもしろいというところがあるのですけれどもね。どういうふうなステップでもってどういう議論を展開し、最後に持っていくか、この積み上げだと思うんです。そこをどうするかということを考えないと、やっぱり消費で終わっちゃうかなという感じがしていまして。そうすると、私なんかが見ていて非常に浅いなというか、おもしろくないなというのは、やっぱり歴史がないというのが1つあるんですよね。つまり歴史性を持っていない。つまり、アジア戦略というのは、まず日本にとってあったのかないのか。その辺が基本だと思うんです。何だったのか。それこそ20世紀の世界、あるいは近代、19世紀以来、明治維新以来の世界にとって、日本にとってのアジアというのは、繰り返し議論されているけれども、実は今に立ったときに、過去の日本にとってのアジアというのは一体何だったのかという、この辺の整理は余りないのですよね。研究はいいのもちょっと出てきていますけれども。これが1つ。

それから2つ目は、やはりアジアの地域研究だと思うんですね。アジアといっても広いですから。先ほども中国という話が出たり、あるいは朝鮮半島もあれば、朝鮮半島といっても2つあるわけですから。台湾もあれば、あるいはもう少し南に下ればたくさんあるわけですね。インドネシアはもちろん重要ですし、インドもありますし。それをどういうふうに確定していくか。その地域の情勢をきちんと分析していかなくてはいけない。その共通項みたいなものを見出していく。あるいは異質性とか。そういう地域研究の比較性が必要なのだろうと思うんです。恐らくそれを全部やっているわけにいかないでしょうから、それをどういうふうに普通化していくかということ。

それから3つ目は、日本とアジアのかかわりといっても、二国間関係の問題と多国間関係の問題があるわけです。多国間といった場合には、ヨーロッパなんかをむしろひっくるめた形で、あるいはアメリカとか、全体の中でどういうふうに考えていくかという大きな作業になるわけです。二国間になってくると、それはまたもう少し別の作業が起こってくるわけです。その二国間と多国間というのは、実はこれまではかなり溝があって、分離があって、日中関係でいいますと、日本は、ほとんど中国のことは二国間関係でしか見ていないわけですよ。世界戦略の中で中国をどういうふうに展開して使っていくかとか、こんな発想はないわけです。ある意味では、中国は逆なわけですよ。それが非常に強いわけですね。その辺のずれみたいなものもありますし。ですから、日本にとって一体どういうふうにその辺を使い分けて考えるか。

4つ目は、やっぱりグローバルなイシューだと思うんです。先ほどの人口ですとか環境ですとか、グローバルな問題がいろんなところに起こってきていて、これは別に国という単位で考えられないわけですから、そういう問題を比較の視点を持ちながらどういうふうに扱っていくか。多分そういうのはヨーロッパの経験なんかは大きいところがありますけれども。

最後に、5番目に必ずやらなくてはいけない問題は、すべてやっていくと、我々地域研究者のいつも悩みなんですけれども、日本を知らないということです。じゃ、日本って何なのということになるわけですね。ここがないというのが、私の反省も含めて、地域研究の中にあるわけです。

ですから、日中関係でいきますと必ず非常に大きな矛盾が起こって、大体日本語をしゃべれる中国人と、中国語をしゃべれるような日本人がやっている。そうすると、何が起こるかというと、日本人の中国研究者が日本のことを説明する。中国のことを中国の日本研究者がやってくれる。ある意味では全然知らないことをやっているわけですよね。そうすると、議論が非常に抽象的な、あるいは一般的な、非常に表層的な、せいぜい新聞に出ているような、その辺で終わっちゃうとか、そういう矛盾があるわけです。

以上のことをふまえて、日本というものがアジアの中で何を意味しているのか、どうなのかという、そこの立脚点だと思うんですね。限られた回数の中で、そのような問題の中にどういうふうに設定していくのか。最後に恐らく政策提言に持っていくのでしょうけれども。

福川 大変いいご示唆をいただいて、ありがとうございました。

深川先生、何かご感想なり......。

深川 どなたかお先の方があればどうぞ。意見がまとまらない。

横山 要するに、さっきおっしゃった締め切りがあって、回数も考えると、時間的な回数の制約って極めて厳しいと思うので、扱えるものはすごく限られている。だから、極端かもしれないけれども、1つに絞り込んだ方がいいぐらいと。1つじゃ嫌だったら3つは超えない。それで、少しバランスは欠いていても、そこは集中的に議論されている。そういう分野で何かやっている人が聞けば、それなりの反応があって、ベクトルがそっちの方へちょっとでも向けばいいのではないかと。要するに、専門家が専門的な議論をしているわけではないので、そういう限界を逆手にとった方がいい。だから、私は1つのことを議論した方がいいような気がします。

谷口 それを裏から言うと、このグループに1つの集合的な意思みたいなものが考えられるのかということですね。最後に打ち出す、これを日本の戦略にしてほしいというところである程度の合意があって、それに必要な材料を集めていくという方法にした方が、恐らく最終的なメッセージの訴える力は強くなるのですね。ただ、そういうプロセスでいいのかどうかわかりませんが。

福川 ある程度仮説的なものをやればいいのだけど、きょう、またその仮説をここでするといっても......。

横山  12月になっても結局は第一仮説なのでしょう。それがシンポジウムになり、次の仮説に移っていくのだから。

福川 だから、これから仮に9、10、11、12と4カ月あって、月2回やれば8回やるわけですね。最後、12月は2回できるかどうかわかりませんけれども、7回か8回やる。そして、多分中間で仮説的な議論を1回してみて第一仮説、それから第二仮説が12月か1月にある。そして、まとめていくというくらいになるのだろうと思いますが。ですから、議論できるのがテーマから言うと大体6つ。大きいものでは1つなのだけれども、富士山に臨むのに吉田口とか何とか口とかとあるような入り口は、せいぜい5つか6かということなんじゃないですかね。

深川 でも、今出ているものだけでもかなり大きいので、これのサブテーマを仮に2つとか3つにすると、3×3で既に9ですよね。1つの人口問題とか米中とかドイツとかいったって、それ1個のテーマは大きいので、3人ぐらいの方から割と短いプレゼンを聞く方がいいのか。多分その方がこなせるとは思うんですけれども。私たちに議論が集約していけるような共通の認識とか問題の視点というのを与えてくれるという意味で講師から聞くのであれば、ある程度人数は多い方がいいですよね。つまり、1人1時間しゃべるとこなせないから、1人40分とか30分ぐらいで3テーマやって、そうすると、24回聞けるから、24人の専門家から聞けば、大体輪郭ぐらいはという気はしますけれども。

鶴岡 成果物に何を求めるのかということについて、今、政策提言というお話がありましたけれども、アジア戦略に対する政策提言を半年、7~8回の議論でつくるのだとすれば、まずその回数で誰も読まないでしょうね。日本がこれからアジア全体に対するどういう戦略を持って臨むべきかということを8×3時間としても30時間ぐらいで、しかも、ここへ来たときだけ議論するような状況で出すというのですと、新聞の社説に少し毛が生えるという程度かなというような最終産物のイメージがまずできてしまう。そうすれば、それに向けた作業をするということになって、結局、こういう場に忙しい方が集まって、どの程度の投資をするかというところの落としどころというのが、そこのあたりから決まってくるのではないかと思うんですね。

だから、どれが先にあるかということが次の設問になるわけですけれども、来年2月なり3月なりに何がしかの花火を上げなければならんという事情がもし不動のものとしてあるのであれば、その時間の中で何をするかということになるでしょうね。先ほどお話の中で、インターネットを通じて数百人の会員の方からも意見をいただくというお話と、仮にその中で1つの流れができてきた場合に、それが政策を動かすような力になっていく可能性があるということがあったのではないかと思うんです。そうであるとすれば、そういう流れが出てくるような問題提起を、必ずしも玄人でない、しかし、いろいろ物事を考える意欲のある人たちが乗れるような形で、この場の議論を整理して伝えるということを同時並行で行うことによって、1つの課題であれば、1カ月後に戻って、会員の方からどういう意見があったかということをもう1度この場で整理して議論した上で、それをまとめたものが提言になるのか、あくまでも問題提起としてとどまるのかは、やっぱりそこで議論の熟し方によるのではないかと思いますね。

それからもう1つは、対象がそもそもアジアって物すごく広いですから。それから、さっき何人かの方もおっしゃっていますけれども、もともとアジアだけ切り取って議論するというのは物すごく無理があるわけです。外交全般の問題がそもそもあるわけですね。

それから、もっと申し上げれば、もともと日本自身が何を望むのかということが原点にあるわけで、客体たるアジアを幾ら研究しても、そこから出てくるのは客観的な分析にすぎないのであって、日本自身の主体的な意思として何を望んでいくかというところを積み上げていく議論というのが本当は一番最初に必要なんですね。それがあった上で、アジアに対してどう対応するか。それはアジアがこうだからだというのは、逆に言えば、おのれを知って相手を知り、その上でどう出るかという段階なのだろうと思うんですね。

そうすると、回数からいうと、よほど参加し、議論する人たちの専門なり焦点を絞って整理していきませんと、総合月刊誌みたいなものになるのかなと。

横山  1つと言っているのはこういう意味なんです。コンサルタント的に申し上げると、ソルーションを出すのではなくて、ソルーション・スペースを定義するというのが1つと言っているわけですね。ということは、比喩的に言うと、ソルーション・スペースはこのテーブルです、だから、(テーブルから外れる)あれは答えではありません、あれも答えではありません、これも答えではありません、もう捨てなさいと。議論する意味がない。ここ(テーブルの上)にあるものが答えなんです。我々は(テーブルの上の)これがいいと思うけれども、これがいいと思う人だっている。この横軸と縦軸は何かということをきちっと定義する。それが1つということなんですね。たくさんあるのだから3つ以上は議論できない。1つであればソルーション・スペースを定義する。ソルーションなんて幾らでも出るわけですよ。私が言っている留学生を20万にしましょうなんていうのは簡単に出るわけですよね。でも、それがどういうソルーション・スペースの上にあるのかということの方が大事なんですよ。それを定義する。

それから、ここで言っているのは戦略ですから、戦略には戦略立案の方法論というのがあって、極めて明快です。戦略というのは、世の中の流れを見きわめて、自分の強さ、弱さと見比べてみて、世の中の流れに合った自分の強さを最大限に活用して競争相手に差別化し、永続しながら優位に立つということだから、それを全部やればいいのですよね、戦略をつくるのであれば。だから、当然自分のことも知るわけですよ。自分の強さ、弱さ、軍事的にはだめだけれども、これはいいと。だから、世の中の流れは何ですかという議論をし、自分の強さは何ですか、自分の弱さは何ですかと。そうすると、世の中の流れに合った自分の強さを最大限利用できる話って何ですかということをやればいいのですよね。それは永続性のある差別化優位なんですねということを確認して、そのためのソルーション・スペースはn次元なんですよ。その軸は何ですかと決めればいい。答えは幾らでもあるんです。そういう方法論でやっていきまして、そのときにこういうものを聞きたいというのであれば、一応結論は出ます。

加藤 鶴岡さんが極めて重要なことを指摘されたので、もう少し議論したいと思いますけれども、これだけの人数が集まって、30時間かけて議論をして方向性を出すということは、それなりの意味はあると思うし、工藤さんが始めたのも、総合月刊誌かもしれないけれども、今まで余り議論していないような視点も含めた総合月刊誌的なものをやっていこうよということがあるんじゃないかと。だから、それは、もちろんアメリカの「Asia 2025」には及びませんけれども、日本でこれだけまとまって時間をかけて議論して何かやるということは、それだけの意味があるんじゃないかと私自身は思います。

それからもう1つ、この議論のプロセスを公開して、この議論をインバイトして、それで流れをつくっていけば、それの方が意味があるんじゃないかということ。それをやってみて、これからやり方次第だと思うんですけれども、400人の会員がおられても、皆さんお忙しいので、どこまで真剣に参加してくれるかということもちょっと疑問があるので、そっちの方だけに軸足を置いて会議を進めるというのもちょっとリスクがあるのかなという気がしますけれどもね。

〔 「第1回 言論NPO アジア戦略会議」議事録 page2 〕 に続く

工藤 言論NPOの代表をしております工藤です。きょうは初めてお目にかかる方もいらっしゃいますので、この会を設立することになった経緯を簡単にご説明してから、第1回会合の議題に入らせていただきたいと思います。