2007.2.16開催 アジア戦略会議 / テーマ「アジア外交」
白石隆氏 発言要旨

2007年2月16日

日米グローバルパートナーシップ

白石隆氏

冷戦が終わってこの20年の間で、国際政治構造の基本的性格が変化した。日本においては、冷戦が終わったということが、まだきちんと認識されていない。かつて、アメリカの政策はソ連がどう出るかによって決まっていたが、こうした国際政治の構造的な制約が小さくなることによって、外交が国内政治の「結果」として形成されるようになっている。その中で、アメリカはOpen Doorとウィルソン主義(世界のアメリカ化こそがアメリカの安全保障の鍵)という2つの考え方に基づいた介入主義を採り、こうしたヘゲモンを持った国とどう付き合うかが課題となっている。これはアメリカとイラクの関係を考えれば、容易に理解できる。これを前提にして、日米関係を考えなければならない。

アメリカはイラクとイランにエネルギーを取られている。これがベトナムのときと違うのは、脅威の封じ込めにうまい手段はないということだ。これから、次の政権の2012年までアメリカはアジアには時間をかけることができない。アメリカのアジア政策の関心は東南アジアから北東アジアに移ったが、朝鮮半島を捨てるといった選択肢も出てくるなど、アジア政策には色々な変化が考えられる。


東アジア共同体構築

東アジアの事実上の経済統合をどう制度化するかが課題である。そこでは、日本のマーケットをどう活用して、日本にもアジアにも利益になる様々なシステムを創り、それをアジアで地域化できるかが問われる。それは例えば、日本の省エネシステムの地域化など、色々な分野で考えられるが、専門資格の地域化などもアジアゲートウェイ構想の一環として検討課題だろう。

現実に「共同体」ができるということよりも、「共同体」を大義名分として様々な地域協力を積み重ねることが重要だが、例えば鳥インフルエンザに対するインドネシアの対処能力の問題のように、それぞれの国に協力の能力があるのかどうかが問われてくる。それは日本のODAを考える上でも重要なポイントとなってくる。

中国にどう関与するか

中国は中国中心のアジアをつくるのか、それとも、中国は対外的にはディフェンシブにとどまるのかは論争の焦点である。そして、中国がますます力をつけてゲームにのってくる中で、中国に一方的行動をとらせず、どう協調的な行動を促していくか、前者はコストが大きく、後者はコストが小さいという状況をつくっていくことが重要である。中国が東アジアの経済統合に組み込まれていく過程で、それが促されていくことになる。

東アジアにおいては、米中からみると、日本がそのどちらに付くかによって勢力均衡ゲームの帰趨が決まってしまうのであり、日本が米中と並ぶ独立のアクターであると考えることはやめるべきだ。日本の外交政策としては、日米同盟をあくまで堅持して、その枠内で主体性を出し、中国に協調的な行動をとってもらうにはどうしたらいいのかを考えていくべきである。


質疑に答えて

◆ グローバルに見て、インドがどうなるのかは非常に重要な問題だが、宗教の克服というのは不可能だ。ごく少数の非常に優秀な人々をいかに使うかが、インドにとって鍵となってくる。
他方、ヨーロッパについては、アメリカのジュニア・パートナーに留まり、EUが一つの極になってバランシングを取る(フランスはそう考えているようだが)までにはいかない。
ロシアについては、社会危機が進行する中で政治が安定しているが、エネルギー市場の動向如何では再び不安定化する可能性がある。
いずれにしても、今後30年スパンで考えれば、ロシアは大きなファクターとはならない。国際政治の教科書的な話では、ヘゲモンが誕生すると周りがバランスをとろうとするが、ヘゲモンが圧倒的に強力な場合はコストが大きすぎるためバランスをとろうとしない。中国とロシアの上海協力機構も、アメリカが強力過ぎることによりコストが大きいと考えられれば、本格的なバランシングにまで至るかは疑問だ。


◆ 日本がどういう役割を果たし、どういう存在になるべきかという議論については、間違いなく言えることは、日本はうろちょろするな、我慢してじっとしているべきだということだ。
日本が米中のバランシングをしようとすると、それは大きな不安定要因になる。第2次大戦後のこの地域の政治経済的秩序をラディカルに変えることは、望ましいことではない。
中国が次第に東アジアに経済統合してく中で、中国は変化していく。その連続的変化をどうマネージしていくかが重要だ。
日本は「アジアのリーダー」ではなく、常に安定した存在、外から読める存在として、そこに日本がいて、エボリューショナルな行動を促進すべきだ。これができるのが「大国」である。周囲の変化にあまり慌てずに、今までやってきたことを粛々としてやっていけばいい。


◆ 日本の戦後のアジア外交は極めて戦略的だった。
1つは日米同盟があって、その枠内で日本ができることに制約があったことが、日本の外交を安定させてきた。
もう1つは経済協力だが、中国が国際経済システムに入れば入るほど中国は協調的になってくるのであるから、日本はそこで一緒に枠組みを作っていけばよい。


◆ 但し、これは外交政策についてであり、国内のほうはきちんとやっていくべきだ。日本がアジアに提唱、推進すべき価値は何かという議論も、日本はどういう経済と社会をつくっていきたいのかという観点から考えるべきものだ。日本は既に大国として大きな影響力を持っている。国内政策では、やはり「開かれた日本」が鍵であろう。