分科会 【 中日の金融システムと通貨政策 】 議事録(会員限定)

2007年8月28日

※「議事録」は現地での速記録を基に作成したものです。
正確性を期し、後日再整備いたしますので、それまではあくまでご参考程度にお止めいただきますようお願い申し上げます。

前半は中国と日本の当面の金融の問題点中国は資産価格、マクロ政策面で困難に直面。 後半は将来の経済問題金融協力、共通通貨問題。


小島: 今回出席の五味氏は1990年に金融システム問題を処理した前金融庁長官であり、平野氏は前日銀理事、河合氏は元副財務官、清水氏は東京証券取引所の常務執行役である。

1990年代、金融収縮と持続的デフレでGDP2年分以上が失われた。


五味: 昨年まで金融庁長官をしていた。現在は金融庁顧問。
日本が金融システム問題からどのように脱却したかをご説明したい。まず、日本で銀行の破綻に至るデフレが起きたプロセスについては、1985年のプラザ合意後、不況対策として低金利政策を実施し、それによって土地、株の資産価格上昇が発生。その状況下で銀行はどういう行動をとったか?急速に融資を拡大した。融資残高は85年の290兆円から95年には515兆円にまで拡大。これは担保に基づく貸付によるものだが、その裏にあった銀行の担保価値に対する審査の甘さに問題があった。そこから貸し込みが生じた。

その後バブルが崩壊し経済は不況に陥った。1989年から公定歩合引き上げを開始、1990年からは不動産向け貸付の総量規制を開始した。これらによってバブルが崩壊した。そこから貸出の不良債権化が始まった。それ以前は担保を処分すれば貸出の回収が出来た。ところが、このときは資産の価格低下から、回収が出来なくなった。これは担保価値の低下に対する認識が遅れたことによる。加えて銀行自身も収益が悪化していたほか、銀行の保有資産の減価によって含み益も減少していた。さらに経済状態の悪化から銀行が自分で資本を調達することも困難になった。このため銀行の破綻が生じた。

1990年代には有名な銀行等が破綻。とくに1997年には山一、北拓が破綻。翌年は長銀も破綻。破綻した銀行に共通する問題点は、貸出審査の甘さ、貸付の不動産への集中、与信管理の甘さなどだった。

97年から01年までは毎年2桁の破綻が続いた。この間政府は以下のように対応した。

96年6月、住宅専門金融機関の破綻に対して預金の全額保護を可能とする立法措置を講じた。このような措置は諸外国では前例がないと思う。97年には、経営不振の金融機関への資本注入を制度化。日本銀行とともに大手銀行の集中検査も開始した。

98年10月 金融再生法が成立。破綻した金融機関を対象にブリッジバンクへの移行または国有化を定めた。同時に資本増強制度も導入。これによって7.2兆円を注入した。その後トータルで10.4兆円を注入した。

生き残った金融機関はその後どうなったか?

大口債務者の経営悪化を背景に、金融機関のリスク管理体制の甘さが問題提起された。これによって銀行の格付けが低下し、資金調達に困難が生じ始めることになり、調達金利の上昇が生じた。一方、金融機関の貸出余力が低下し、97年から98年にかけて貸し渋りが発生、とくに中小企業向け貸出の貸し渋りが深刻化した。

ここで政府は以下を実施した。

99年4月 金融検査マニュアルを導入。01年4月 小泉政権発足直後の緊急重点経済政策の中で金融システム対策を最重視した。さらに01年秋から不良債権の資産評価を政府と銀行が共同で行う特別検査を実施。本来そうした評価は銀行自身が行うものであったが、その評価基準に対する疑問が強まったためにこうした対策をとった。債券価格が急速に低下している先には臨時に検査に入り、不良債権を洗い出した。これによって2002年3月期には不良債権の区分が大きく見直された。これによって市場の不安心理にはある程度応えられたと思う。

2002年には金融再生プログラムをスタートさせた。その主な内容は、資産査定の厳格化、自己資本の充実、ガバナンスの強化などである。これによって金融機関の不良債権比率は急速に低下。とくに主要行では2002年ピーク時の8.4%から2007年3月末には1.5%まで低下。現在はほぼ正常化したと考えている。2004年以降、金融機関の経営安定化を求める行政から活力を求める行政へと転換をめざすようになった(金融改革プログラム)。

これまでの教訓は、①リスク管理の強化、②バッファーとしての自己資本の充実、③経営のガバナンスの充実の重要性である。大切なのは迅速かつ大胆に措置をとること。以前、竹中大臣は、常に「いつまでやるのか」を重視していた。


徐:  中国の金融システムも現在似たような状況に直面している。中国、建設、工商の3行の改革に690億ドルを投入した。中国も今後金融再生が必要。


張:  中国の場合、銀行システム改革の進め方は日本と良く似たものが多い。現時点では期待通りの成果を生んでいる。具体的な成果は、銀行の資産内容の改善、自己資本向上、経営効率の改善、収益の向上などである。最近は経営のガバナンス等、銀行行動そのものが変化した。しかし、まだ根本改革に至っていない。そこまでにはまだ時間がかかる。改革はまだ始まったばかりの段階である。

中国では以前、国民の中には銀行の経営を評価しない時代が長かった。98年以降は市場における銀行の評価も向上した。現在は不良債権問題の困難を脱却した。外資も中国の銀行に参入。中国の銀行は現代的な金融市場に合った銀行経営、資金市場、証券市場の改革に合わせた転換が必要。危機から脱出し、発展の段階に入ったと認識している。


徐:  八城氏に「日本を救おう」という本をもらった。ここには長銀のM&Aの過程が書かれていた。日本の銀行の貸出の緩さは一部は政府の政策に関係があったのではないか。中国では政府が国有銀行に不採算の貸出を促したことがあった。政府が経営を助けてモラルハザードに陥る面もある。政府がそういう問題に直面した時にはどういう対応をとったのか。


五味: 日本では政府が貸出を強制する仕組みは存在していない。ただ、政府が貸出が必要だと考えた場合(信用力の低い先に対する貸出など)には政府系金融機関から貸出を実行するケースはある。一方、10年前には破綻した銀行を救済するアイデアもあったが、最終的には救済しなかった。それ以前はセーフティーネットの整備が行われていなかったため、民間協力の下で救済することを政府がリードしたことがあった。


平野: 人民銀行が銀行の改善に努力していることを評価しているが、ひとつ意地悪な質問をしたい。景気がいい時は銀行の収益は高く評価も高い。日本の大銀行も以前は皆、AAAだった。今の中国の銀行もそうではないのかと思っている。今の中国経済は好景気である。バブルかもしれない。こういう状況はいつまで続くのか。中国の名目成長率は14%以上であるのに対して金利は非常に低い。今後不景気になったときにどう対処すると考えているのか。


張:  個人の考え方であるが、経済には循環サイクルがある。中国の経済は改革開放後、総じて成長率は高かった。これは以前の高度成長期の日本と同じ状況。最近の銀行のパフォーマンスの改善はこの好景気と密接に関係している。銀行の改革はまだ実施してから日が浅い。今は企業文化を変えている。そのためには根っこから職員の発想を変える必要があるが、それは一朝一夕にはいかない。本部でできても支局まで徹底することは難しい。しかし、これは銀行の発展とともに徐々に改善。今後景気が悪化したときに銀行の経営はどうなるかという仮定の質問はいい質問である。景気が悪化すれば不安定要素が出てくる。たとえば、輸入増、切り上げリスク等が不安材料。これらが経済をマイナスサイクルに陥らせるリスクがあるかを見ていくことが必要。マイナスサイクルの下で、銀行の経営がしっかりしていれば改革の成功と言える。銀行はそれに備えておくことが必要。いつかマイナスサイクルの日は来る。私も平野氏と同じ意見を持っている。


小島: 日本はプラザ合意後、2年間で100%もの急激な円高を経験。以前、1970年代にも同様のショックを回避するために景気刺激策を実施し、インフレを惹起した。また、高度成長期は銀行がお金を集めれば必ず借り手がいた。しかし、1980年代後半には、資金余剰が生じ、借り手が不足した。ここで初めて貯蓄不足の状況が変化した。これによってそれまでの制度的枠組みが適合しなくなった。これが日本のひとつの経験。


張:  日本はどのようにして経済循環サイクルを乗り越えたのか。とくにプラザ合意以降の変化について、中国には急激な円高がバブルの崩壊を生んだという見方がある。日本にとってもっと早く1970年代に、急速な円高を生じたほうがよかった、そうすればバブル崩壊を避けられたという見方もある。こうした2つの異なる見方について意見を聞かせて欲しい。


河合: 今の中国にとって日本の80年代の経験の意味は何か。85年春まで円安だった。当時80年代前半は米国レーガン政権の財政赤字と高金利、日本の資本自由化スタートにより米国の高い金利の影響を受けた。そこでドル高円安が生じた。これを是正するためにプラザ合意で円高を引き起こそうとした。個人的にはもっと早く円高にすればよかったと思う。85年以降の円高の中で、日本は円高恐怖症(日本の産業はこれでだめになる)の幻想に取りつかれていた。そこで政策面で過剰反応してしまった。日本はもっと早く、対外的な直接投資の増大等によって、もっと積極的に対応すべきだった。

日本のみならず、世界中のあらゆる国は金融自由化を進めればほとんど金融危機に直面する。これを前提にものを考えなければならないと思う。今の中国は経済の急速な発展に金融システムの枠組み(銀行のガバナンス、監督当局のチェックの仕組み等)が追いついていないように思っている。金融危機が生じたときに持ちこたえられる体力をつけることが大切である。


徐:  日本側からの問題提起に賛成する。過去5年間、中国は毎年10%前後の成長を持続してきている。今はマクロ経済も、企業経営も上昇サイクルにある。しかし、万一経済が悪化に転じた場合にはどうすべきかという対応を考えることが必要である。今の中国はマクロコントロールが必要である。過剰流動性の状況は、不動産価格の上昇、株価の上昇、固定資産投資の増大を招く。政府は過熱への転化を防ぐことに注力している。依然として困難な状況に直面している。実質金利は今もマイナス金利。人民銀行も長期的にはこの状況を続けることは出来ないとはっきり述べている。この問題は為替政策にも関連している。中国人民銀行も日本の経験を重視している。


【 以下、Q は記者からの質問 】


Q.過剰流動性へのアドバイス如何。今の中国では何%の金利が適当か。

平野: 中央銀行の政策の目的は通貨価値の安定の保持。流動性過剰でインフレ率が高いときは金利を上げて引締めを行い、経済を巡航速度に戻す。しかし、80年代、日本は物価が安定していた。その下で不動産価格が急上昇した。ここで中銀が何をすべきかについての答えはない。資産価格の変動を放置すると経済は混乱するので、資産価格を視野に置くことが必要である。しかし、これをターゲットにして金融政策を実施することは不可能である。

もうひとつの質問については、長期的には名目成長率と金利はだいたいイコール。したがって、今の中国では少なくとも10%以上の金利が普通であると思う。その場合、金利上昇による国内経済へのショックと資本流入の増大という問題が生じるリスクがある。


河合: 今の金融政策と為替政策は相反する状態。為替面では人民元が弱すぎるためドルが流入。不胎化も不十分。これはマクロ政策の方向に反する。これでは適切なコントロールは不可能。2年ちょっとで9%という切上げ幅はまだ適切ではないと見るべきである。ブームを抑えて金融システムに溜まるストレスを軽減するにはもっと早いテンポでの切上げが必要である。


張:  05年7月の改革以降、為替システムは管理フロートに移行した。これにともなって市場に応じたクレキシブルな変化が生じることを期待している。中国政府は成長パターンの転換に取り組んでいる。以前はハードカレンシーへの移行を目指して輸出競争力の強化を目指した。加えて直接投資の増大によってそれがさらに強化された。これは為替政策によるものではない。今は特に消費がリードする形での内需主導型経済への転換を図ろうと考えている。こうした構造的な調整が重要である。


Q.サブプライム問題の日本および中国経済への影響は?

五味: 日本の金融機関はサブプライムへの投資は限定的、小額である。かつ投資している債券の格付けは高く、期間も短い。現在直ちにリスクが表面化する可能性は小さい。しかし、世界中の全体状況を把握することは難しい。国際的な広がりの大きさを見極めるにはもう少し時間が必要である。また、住宅専門企業への影響が米国内でどのような影響を持ち、米国経済にどの程度のインパクトを持つかについても考慮することが必要であり、それによって日本の金融機関への影響も左右される。


Q.今後の日本経済、物価への影響は?

平野: 従来に比べて下ぶれリスクが増大しているように見える。物価はゼロ近傍。長期的には徐々に上昇する方向であるとは思うが、景気回復のスピードは余り速くはならない。加えて企業は値上げに慎重。したがって物価の上昇速度はきわめてマイルドなものとなろう。以上を前提とすれば、向こう何年かは低金利政策が続く可能性が高いと見ている。


清水: (バブル崩壊後の株価下落の影響について)1980年代後半、サッチャーは株式市場の開放を要求したが、それが改革の方向ではなかった。バブル崩壊後の10年間で、手数料の自由化等制度変更が行われ、これが改革につながった。失われた10年の間の変化は大きかった。


小島: 次は通貨問題に移る。アジア通貨危機はインドネシアから韓国に波及、世界の市場に影響した。それから10年。今はもう回復を遂げている。アジアにおいてモノの協力は進んでいるが、金融面での協力が不足している。この間アジアでは、金融危機が発生した後、アジアの諸国間で支え合う仕組みを構築する努力が始まっている。アジアの貯蓄をアジアに必要な資金として活用しようとしている。また、共通の通貨単位を考える方向も探られ始めている。


Q.日中でアジアの経済統合・協力のために何が出来るのか?

河合: まず、中国は外準運用に注力中である。1.3兆ドルは過剰。適切な外準はいくらかを考えると、50%は余剰と考えられる。中国がこれから外準を運用する時に、どういうことを考えればいいのか?ひとつは投資ファンドへの投資、また、テマセックやGICのように直接投資をする方法もある。しかし、後者は外国から警戒される可能性が高い。前者のような間接的な方法が現実的であると思う。私は個人的にアジアの経済発展に使って欲しいと考えている。たとえば、チェンマイイニシアティブの多国化のためのプール用資金として提供するのが一つの方法である。第2に、アジアにおけるインフラ投資への運用。今後10年間に1年間で3000億ドルが必要といわれている。ここに投資するインフラファンドを設けてここに投資する方法もあると思う。

次は、グローバルインバランスとアジアへの資本流入の問題である。今のサブプライム問題がドルの信認にどのような影響を及ぼすかを見ていかなければならない。経常収支の不均衡に対して保護主義的な動きが高まる惧れがあるほか、ドルの下落リスクもある。これを回避するためには、アジアに投資してアジアの域内需要の拡大に貢献する方法がある。中国では環境改善、省エネ、ソーシャルセーフティーネット強化等への投資が求められている。その一方でアメリカに対して貯蓄増大努力を求めていくことも必要である。

すでに資本流入が始まっている。去年10月、タイは資本移動規制を課したが、直後に緩めざるを得なかった。資本流入をとめるのは今後ますます難しくなっていく。こうした状況に対して、ドルに対して柔軟な為替レートをもつことが必要。ドルに対しては切上げ、アジア通貨間では相互に安定的なレートを保つ仕組みが望ましい。アジアが一体となってドルに対して切り上げ、相互間では安定を保つ仕組みが必要。その際、どの通貨がアンカーになるかが重要な問題。やはり日本円か人民元。円は国際化がなかなか進まないという問題がある。人民元には国際化する可能性があるが、現状では交換性が不十分。そこで通貨価値を多国のバスケット構成するアジア通貨単位を作って、ひとつの指針とすることが必要であると思う。


張:  個人的な考え方を述べる。外準については、中国の外準急増は政策の本意ではない。中国が輸出主導型外貨政策をとったことが原因である。外準の使途を現在模索中であるが、これは国によって異なる。中国では準備中であるが、その仕組みについては今も議論をしている段階である。

アジアにおける通貨協力については河合氏の意見に基本的に賛成である。1国の金融政策はすぐに隣国に影響するので、通貨協力の枠組みも必要。現在CMIの多角化を検討中。アジアにおける証券市場の相互協力、通貨問題等に関する議論も進行中である。これらはアジアの金融の一体化を進めるもので、中国国内でももっと深まった議論をしていきたいと考えている。CMIの相互交換も進んでいる。


平野: 河合さんの意見の大きな方向感には同意する。しかし、総論賛成、各論反対が多い。具体的には税制、為替制度等について痛みを伴う改正が必要。それを覚悟してまで推進しようという動きは遅い。そのためには政府がコミットすることが必要。たとえば、中国で外国企業が起債できないという問題がある。理由もはっきり説明してもらえない。

アジア通貨単位についてはそれを実施する意義がわからない。また、計算方法についてもわからない。


徐:  アジア通貨危機の教訓は、動揺が生じたときに関係国が一致協力すればリスクの抑制が可能であるということである。アジア通貨危機の時にはそういう枠組みがなかった。当時のIMFの政策はマイナス効果を増大することになった。アジア諸国が協力して危機対応を探る仕組みが重要である。

共通通貨の形成は容易なことではない。日本側でも二つに意見が分かれている。ひとつの地域で共通通貨を導入するには経済と政治の両面のバリアが存在する。まずは政治家が歩み寄らなければ実現は不可能である。アジア諸国の発展にはばらつきは大きい。

金融は市場経済の核心であると鄧小平は述べた。金融の安定は経済の安定成長にとって不可欠の条件である。中国の金融市場も制約が大きい。私は企業債を発行することを担当するセクションで働いているが、今、国際機関が中国で起債するにはどうするかを考えている段階である。外資企業の起債も検討する方向である。今後私のところに相談に来て欲しい。


馮: 域内における金融協力についてであるが、各国の歴史的要因に左右されるものが多い。たとえば欧州に比べてアジアでの各国の立場は大きく異なる。アジアでは日本と中国が共通認識をもっていない中で、通貨協力はできるものではない。中国との金融協力の必要性について日本政府にも認識して欲しい。2002年の人民銀行での会議において、欧州の通貨について議論した。欧州各国ではユーロという共通通貨を作ろうということに関する共通認識があったが、アジアにはそうした共通認識がない。アメリカはアジア諸国がドル通貨圏に入って欲しいと思っているが、ドルの先行きはあまり期待できない。アジア諸国の中では共通通貨について議論しようとするコンセンサスがない。

日本は通貨協力を議論するうえで不可欠の相手国であるが、共通認識をもつことができていないというのが現状である。

アジア投資ファンドについてであるが、金融協力の最初の例として進めていくべきである。中国と日本はそれぞれ努力すべきであり、1国ではできない。どの国の通貨を基軸通貨にすべきかという問題を議論する段階には達していない。
 
今後中国が金融危機に巻き込まれる恐れはないと考えている。

徐:  中国は今まで高い成長率を続けてきた。ただし経済に変動が生じた場合、私たちの直面している状況を理解しなければならない。現在はお金が余るとどこに使うかという問題。政府が厳しいマクロコントロールをとらなければならないとされている。

しかしマクロコントロールは困難な状況である。長期的にはマイナス金利は支持できないというのが政府の考え方。マイナス金利の効果を観察していかなければならない。先ほどお話にありました、日本の経験は中国に役に立つと考え重視している。


インフレの過剰流動性に関する質問に対しては?


平野: インフレの過剰流動性についてですが、政府は金利を上げて、インフレ圧力を収める。当時物価は上がっていませんでしたが、銀行貸し出しが伸びており、不動産価格が上昇していた。中央銀行がどう対応するかについてはきちんとした答えがない。

長期的に見ると名目成長率が14パーセントであるならば名目金利は10パーセントでなければならないと思う。金利を大きく上げると外国から資本が入っていき、政府は思い切った政策が取れないのではないかと思う。


河合: 金利を引き上げても加熱状況は収まらない。理由は外貨準備の急速な増大。金融引き締めと為替政策が反する状況になっている。それは人民元が過小評価されているからではないか。こういう状況では適切なマクロ管理はできないのではないか?

人民元は2年間で9パーセント引き上げられているが、このペースはまだ適切ではない。
金利を引き上げるだけでなく、通貨の引き上げも重要である。


張:  これについて私見を述べますと、人民元は管理されたバンドの中にあると思う。マーケットに敏感に反応できるものであればよいと思う。為替というのは潜在的な変動量だと考える。

また、長い間中国は外貨不足に悩んで来た。大量の投資や効率アップによって、輸出業界の能力は上がってきた。今は内需拡大にシフトすることが重要である。消費による内需拡大が重要だ。

これをクリアするためには、人民元の引き上げが役に立つのだろうか、議論がある。


アメリカのサブプライムローンは日本の金融機関にどういうダメージがあるか?


五味: サブプライムローンに関連して日本の金融機関にどういうダメージがあるかについてだが、日本では限定的なダメージにとどまっている。

現在の状況で金融機関に障害があるとは思いません。ただリスクが成果の中に分散した場合の予測は難しい。アメリカでサブプライムローンに端を発した雇用縮小は、実体経済に影響があるのか?実体経済に影響があった場合、日本の金融機関にも影響があると思う。


小島: 日本の低金利政策はどこまで続くのか?


平野: 消費者物価の方はインフレもデフレもないのだが、金利が上がるとどうなるかということだと思う。金利は少しずつ上がってくると思うが、緩やかな上昇であろうと思う。たとえば2パーセントを低金利だとすれば、むこう何年か続くと思います。


清水: バブル崩壊について、証券市場から見ると改革をする絶好の機会が到来したといえる。手数料の自由化など国際的に活性化しようという改革が起きた。


小島: 次の議論に入ります。アジア金融危機から10年経ったが、アジアには色々な協力関係が生まれた。相互依存が高まっている。しかし金融面では相互依存は遅れている。


アジアでの通貨基金を作るべきではないかという議論もあるが、具体的にどういうことをやるべきかについて議論したいと思う。


河合: 日中でアジア経済統合のために何ができるのかというお話をしたいと思う。

中国は、たまった外貨準備をアジアの周辺での投資に運用しようとしている。
しかし、これは中国に対する軋轢を生むのではないかと考えている。中国が外貨準備を使って買いあさるという印象を与えてしまう。

チェンマイ・イニシアチブというものがあるが、

1、余剰の外貨準備のうちの5%か6%を出せば域内全体で1500億ドルほどのお金ができる。これを将来のアジアにおける危機のためにプールしておくという使い方

2、アジアにおけるインフラ整備。1年間で3000億ドルのインフラ資金需要。インフラ投資のファンドを作っていく、そこには中国だけではなくお金を出して、アジアに必要な投資を行ってそこから収益を得ていく

こういう使い方もあるのではないか。


グローバル・インバランス、アジアへの資本流入、また、欧米におけるサブプライム問題などがドルに対してどういう悪影響が出るかはこれからの問題となる。


また、保護主義的な考え方が特にアメリカにおいて高まってくる。

アジアにおける経常収支は黒字であるのだから、インフラに投資することなどはグローバル・インバランスを是正する対策となる。

伝統的な投資、過大な投資というよりは、環境、エネルギー効率化、医療、保健のための投資という方がより望ましい。アメリカに対してもっと貯蓄を増やすべきだということも訴えていく。

しかし、こういったプロセスには時間がかかる。

資本流入はすでに始まっていてこれを止めるのは難しくなる。ドルに対してより柔軟な為替レート制度を中国も含めて持っているということが必要になっている。

各国の通貨がばらばらに動くのはあまり生産的ではない。

将来のドル安に備えて、アジア全体がドルに対して通貨を切り上げていくことが必要。

円は国際化がなかなか進まないという状況にある。


小島: アジア全体の将来のために何ができるかを考えることがテーマになる。

中国中央銀行の外貨準備高が急激に成長している。これは政策本位でできてきたものではない。昔と違う立場に立って考える必要がある。資金を使う際の合理性、有効性、また外貨準備を部分的に管理できる政府部門を作るという準備をしている。

その方法についてはまだ議論の段階。今までの投資方式とは異なる投資方式を想定している。

アジアにおける各国間の通貨協力に関しては河合先生に同意している。金融政策だけではなくて通貨政策が隣国にすぐに影響を与えるという時代に来ているため、有効な協力体制が必要である。CIMも現在中国においても検討されている。アジアにおける証券市場の相互促進、強調できる通貨政策作り。

アジア全体の金融システムの一体化につながる動きを中国政府も推し進めていくべきである。学者も深く議論していくべきである。 


平野: アジアにおける金融協力については、大きな方向はまったく同意する。しかしアジアの債券市場の育成を例にとると、総論賛成だが各論は反対している人が多い。

痛みを伴うような税制改革を行っていかなければならない。各国当局がもっと具体的に提案をする時代が来た。総論で議論する時代は終わった。

将来どうなるのかという青写真を示してもらえるとビジネスの観点からはありがたい。

また、共通通貨単位に関してはよく分からない。何のために行うのか。昔から立場が異なる。


徐:  統合については、アジア通貨危機が残した教訓の一つは、金融の動揺が起きたときに、枠組みがあれば一致行動して金融のスプレッドを抑制できる、いち早く行動できるということである。

アジアの一部の国々は国際通貨基金による厳しい条件に妥協せざるを得なかった。


それは危機によるマイナスの効果を増大することになってしまった。

アジア諸国がじっくりと共同で行動を取れる枠組みを作ることはきわめて重要である。

将来の金融分野をどのような枠組みでとらえるべきかということでは、いろいろな議論がある。しかし、異なる国同士で意見が異なることは当たり前。


統合化するアジア経済という発展の枠組みの中で、共通の通貨を必要とするならば、経済と政治という二つのアプローチから検討していくべきだと思う。

しかし、枠組みが形成される前に経済と政治の壁に直面すると思う。政策的な判断をするときに政治家たちが合意しなければ彼岸に到達することはできない。

故人となった鄧小平は「金融は近代経済の革新である」と言っていた。


馮:  アジアにおける統合に各国の歴史を振り返ってみると、歴史的要因に左右されていることが多いことがわかる。

他の分科会に出席していないので、他の分野ではアジアの協力のベースがないかも知れない。最も大きな経済体である中国と日本の間で通貨の協力ができるとは思えない。

中国との金融協力も必要であるということが国家間の関係の発展にもつながることを日本は認識してもらいたい。

ヨーロッパでは、共通通貨を作る土台があるという認識があるが、しかしアジアにはない。これは必ず解決しなければならない問題だと思うから提起させてもらった。

アジア地域は団結できていない。議論できても執行の段階で困難になる。一歩一歩着実に進み、目標に近づければいい。

中国の政府でも、このような政策は一国ではできない

共通認識がなければ金融協力もできないというのが厳しいが現実であると思う。


アジア投資ファンドを創るという点。このようなケースを想定して議論していくべきだと思う。もちろん中国と日本はそれぞれ努力しなければならない。一国だけではこのような役割を果たすことはできない。どの国の通貨が基軸通貨になるのかという議論にはまだ至っていない。

中国は何度も金融リスクを回避してきた。一つはアジア通貨危機。強力なコントロール措置をとってリスクを回避できた経験がある。現在の中国の金融状況はそれほど望ましくないが悪くもない。中国が金融危機に巻き込まれることは考えていない。


清水: 中国と日本。マルチではなく、バイのつながりを多くの国が持つことでゆるやかな合意ができるのではないかと考えている。


馮:  証券市場の統合化については、中国の証券市場はまだ若い。もちろん日本の証券市場とは比べ物にはならないが、発展のスピードは速い。貨幣市場での日中の協力がないままに、証券市場の開放、協力をするのはまだ早い。一歩一歩進んでいかなければならない。


清水: 東証にはマザーズがある。中国の新しい企業は上場しやすいのではないかと思う。証券市場は信頼性が第一。質を低下させて、上場企業の数を競うということにはならない。


小島: しかし上場企業の数は、ある時期から比べて激減してしまったのではないか。国内にもそういう懸念もあるがどうか。


清水: 東証の評価が落ち込んでいる中で、中国のような資金ニーズのある企業が登場した。


小島: 日本のビッグバン政策についてはいかがですか。


五味: 橋本内閣のビッグバン政策が行われているまさにそのとき、金融危機がおこった。日本のプレイヤーには余裕がなかった。新たなリスクをとるということはできなかった。制度の枠組みはできたが使う人がいない。根源にあったのは日本の銀行の不良債権問題である。

現在は貯蓄から投資へという流れがあり、貯蓄は5割に減っている。もっと市場性のある商品の方に投資を促す。これから期待して欲しい。


黄徽: たくさんの専門家の先生の前で恐れ入りますが大変光栄。アメリカのヘッジファンドで働いている。あまりマクロ政策に関する理解はないが、昨日パネリストに選ばれた。

アメリカで働いた経験では、ヘッジファンドの影響力がますます高まってきた。それはなぜか。ふだん嫌われているヘッジファンドだが、こういう役目も社会には必要なのだと思う。

また、一番若い業界なので、若い人の考え方を代表できるという理由によるのではないか。

日中の戦略的互恵関係とアジアの未来については、中国の企業が東京市場でなかなか上場できない現状がある。中国の証券取引所との合併もありうるのではないかと思う。

また、アジア共通通貨の実現は利益をもたらすと思う。


馮:  日本人が中国人に対して信頼感を持っていないと思っている。信頼がなければ協力もできない。利益があってそれが見えてきても協力ができないのが中日である。協力できる自信がない。双方お互いに不信感を持っている 何回このようなフォーラムを開いても意味がない。これは戦争があったからという理由だけではない。

これは日本の方が考えて欲しい。日本人は中国人をあまり信頼していないと私は思っている。

このような状況が続く限り、深い相互信任が実現することは不可能である。


徐:  私は悲観していない。中日関係は、草の根レベルも政府レベルでも、良好の方向にむかっていると実感している。友好協力の土台をさらに積み上げていくべきだと考えている。


<了 >