分科会 【 中日の相互理解とメディアの役割 】 議事録(会員限定)

2007年8月28日

※「議事録」は現地での速記録を基に作成したものです。
正確性を期し、後日再整備いたしますので、それまではあくまでご参考程度にお止めいただきますようお願い申し上げます。

今井義典【日本側司会】(以下、今井【日】):

今日は皆さんに、中日双方の議論をして頂きたいと思います。


劉北憲【中国側司会】(以下、劉【中】):

どうぞよろしくお願い致します。


世論調査と日中メディアの影響力

工藤泰志【日本側パネリスト】(以下、工藤【日】):

今回を含めて、これまで3回の世論調査をしていますが、日中双方は果たして互いのことをどのようにみているのでしょうか。今回、中日共同世論調査、有識者調査及び学生調査の結果を用意して参りました。

その資料を参考にいくつかの調査結果についてお話をさせて頂きたいと思います。


まず『最も利用するメディア』という質問に対し、中国と日本では、調査結果より両国が利用するメディアのツールが異なるのがよく分かります。

中国においてはインターネット、日本では新聞を利用する人が多いという結果が出ました。

また『この一年間の中日関係の変化』という調査では、「やや良くなった」と答えた人が日本では17%だったのに対し、中国では53.6%で、『中日双方や中日関係の情報源』という調査では、日本と中国は互いに「自国のメディアを利用する」という回答が多くなっています。『自国の報道の客観性』の調査では、日本側での30%の人が「基本的に客観的な報道だろう」と答えたところを、中国側では60%の人が答えるという結果が出ました。


これにはそれぞれの国に疑問点が出ました。そして、『日中両国の政治思想』の調査では、互いに相手国の事を「軍国主義」と評価した事に対してあとで議論になりました。

これら以外にも『日中双方や日中関係の情報源』、『最も利用するメディア』、『自国の報道の客観性』、『「中国」・「日本」で連想をするもの』、『知っている両国の政治家』、『日中両国に対する印象』、『この一年間における印象の変化』など、多数のテーマで世論調査を行って参りました。

様々な調査結果より、日中関係は重要だという認識が存在することが両国民の間で見られますが、日本と中国の経済関係における資源問題をめぐる問題や日本の常任理事会入りの問題、歴史問題、教科書問題など問題が多く挙げられました。

安倍総理の訪中、温家宝首相の訪日、そして今後の両国の影響力をどうみるか、私は世論調査をこういった部分で比較をして参りました。


今井【日】:

今日は掘り下げた、現実的な交流にしてはいかがでしょうか。それでは、続きまして零点研究コンサルティンググループの方よりお話を頂きたいと思います。  
呉垠 【中国側パネリスト】(以下、呉【中】:


こういう素晴らしい話題について発言をできて、大変喜んでおります。なるべく現実的な話題ということで、今回の世論調査について3つ述べさせて頂きます。前の二回と同じで、今回のフォーラムでも中日両国の有志の方々の意見が十分に述べられていると思います。

まず一つ目ですが、世論調査を見ると互いに好感をもっていることが分かると思います。外交学院の呉建民先生も、かつて氷河の時代を過ごしてきた中日両国のことを今はその氷が砕かれ零度以上になったとおっしゃっておりました。


これは政治家の皆さんのおかげだと思いますが、ご列席の皆様を含めてメディアの力も大いにあると思います。特に中国の大きなメディアが、対等的に且つ適切な報道を行っていることに変化を感じます。日本よりも改善していると言える要因はここにあると思います。日中両国、様々な困難もありますが結局は時間をかけ、そして英知が必要になります。


二つ目になりますが、このような世論調査は相手側が抱く自分たちのイメージを改善するためには、大切な役割を果たすと思います。イメージ構築にはまだまだ課題が残っていると思います。他国からみて、中国が親しみを感じられ文明のある国になるためには、そして平和的かつ落ち着きのある国であるためには、理解されることが必要であると思います。「国際協調主義」などという言葉をよく耳にしますが、中国ではまだ確立されていないイメージなのです。


このようなイメージを構築するにはまだまだ時間がかかると思うので、これから中日の有識者が時間をかけて解決していく問題になるでしょう。その際、上でも述べたようにメディアは両国関係の改善を構築するのに非常に重要な役割を果たしています。私が毎日新聞の山田さんにお会いしたときの事ですが、私は彼に「自分は日本に行ったことがあるのだけど、日本の中部アルプスのアルプスというのはヨーロッパからきているのか」と尋ね、議論しました。自国の事なのに自分たちもそれほど知らないということは有り得ることです。そこで、メディアの役割は非常に重要になります。多くの人がメディアを通して他国のことを知ります。その際、判断力と理解力が重要になってきます。


三つ目は、日本の宮本大使が基調講演でおっしゃったように、この10年間の変化の中で日本はいろいろな理念の面で反省があると思います。特に東アジアで、この大国中国が成長をしていることに対して、心理的にも準備ができていなかったと思います。そこで、このような相手国の問題とか成果とかを、ありのままに理解をするということは、メディアの重要な課題になると思います。

具体的な内容に関しては、皆様の講演を聞いた後、発言をさせて頂きます。


会田弘継【日本側パネリスト】(以下、会田【日】)

日本は常に一貫して、近代以前は中国、その後はヨーロッパという二つの文化との葛藤を持っていました。そのなかで、多様な文化が生じるようになりました。


私はイメージの議論は極めて重要だと思います。

丸山真男というもっとも高名な学者は、冷戦時代のアメリカとソ連について面白いことを言っていました。アメリカには、もとからソ連に対する先入観があり、それが積み重なって、現実とイメージの境がつかなくなったということでした。


そういう中で丸山さんは、お互いに憎しみあったり協力しようとしたり、それが国際政治の姿だと述べておられました。それはメディアが発達し、イメージと現実が激しく交錯するようになった現代の問題です。


同じことをキッシンジャーも言っていました。あらゆる情報を持って、意志決定をしていくわけではなく、切迫した状況では、社会通念などの要素をもとに、時間の中で政治をしていくことがあります。そこではイメージが政治に与える力が大きいと思います。さらに今は、新しいメディアが加わることで、イメージ形成の新しい道具が生まれています。日本には多様なメディア・多様な意見がある中で、人々はそれをアラカルトに選んで、イメージ形成をしています。そこで、今年の日本の対中イメージが変わっていないことが、本当にいけないいのか、疑問を呈したいと思います。あまり急激に代わる世論は、逆に怖いのではないでしょうか。日本の一度できあがったイメージは、極めて長く続きます。


日本にとって嫌なことが起きても、日米間には、波はあるにせよ変わらない世論があります。アメリカ人を好ましく思うという数値は、常に70%でほとんど変わりません。

一方で、対中イメージが比較的変化しやすいのは、どういうことなのでしょうか?変わったらどうということではなく、別の意見が必要かと思います。


今井【日】:

違ったことは、違ったこととして認めていくことの重要性の指摘でした。では、チャイナデイリーの方どうぞ。


高岸明【中国側パネリスト】(以下、高岸【中】):

世論調査につきましては、中日双方のイメージが変わったことは、もちろんいいことです。しかしなぜそうなったのか。背景を考えてみることが必要です。政治の条件や、メディアも重要な役割を果たしたでしょう。メディアが相互理解のツールであり、お互いの理解により相互のイメージが変わってくることに関し、メディアは客観的でなかった可能性があります。つまり急速に発展する中国と、日本の間で、無限の誇張というギャップが存在しています。

また、中日相互に中日関係を改善しようという試みがある一方、中国ではナショナリスト、日本では右翼分子など認識ギャップがあります。民意が、極端なギャップにハイジャックされたのではないかと思います。


その一つの原因は、新聞の商業化が進みすぎたことです。日本の一部のメディアは、民間の問題について誇張した報道を行う可能性があります。私はメディアの管理を、20数年続けてきました。またこの5年間日本におりまして、その間に印象深い二つの状況がありました。

一つは瀋陽大使館の問題です。いろんなメディアがこのことを繰り返し報道しました。
もう一つは、デモの問題です。これも繰り返し報道されました。この二つは、中国の個々の問題を、非常に殺傷力が高い問題にしてしまいました。


そこで、私は「メディアは中日の友好関係を誘導する働きをするべきでしょうか?それとも民間問題を客観的に報道すべきでしょうか?」と問題提起したいと思います。前者のほうがよいのは明らかです。しかし、それでも、こうしたセンセーショナルな出来事は、商業的に扱われがちです。

私の経歴からしましても、日本から中国を見て、中国から日本を見て、また相手の側あるいは違う側から、こうした問題を見てみることが重要だとも考えています。個々のメディアは各々力を入れているようですが、社会に反することもあります。それに立ち返って、日中関係の未来にとって責任ある態度をとっていただきたいと思います。


今井【中】:

やはり両国では、政治に対する関わり方、メディアに対する関わり方に根本的な違いがあるように思われますね。


木村伊量【日本側パネリスト】(以下、木村【日】):

メディアも非常に多様化し、フォーラムの日本側の参加も多様化しています。隣に座っている浅海氏は読売新聞で、靖国問題などでは歩調を合わせるにせよ、ずいぶん違います。多様な意見を、どう公的に伝えていくかというのが大きな役割になると思います。


朱英璜【中国側パネリスト】(以下、朱【中】):

客観的な報道ということですが、それはやはり必要であり目標です。しかし毎回、それに到達できるわけではありません。ですから、一般の方が客観的な報道に懐疑的なこともありえます。しかし私は、中国の日本側に対する報道は、かなり客観的だと思います。

中国では、政府とメディアは、非常にうまく一般世論をリードしてきており、首脳が中日関係の重要性を認識し、そのコンセンサスのもとに報道を行っています。経済的なセンセーションや、偏狭なナショナリズム、社会的な責任の欠落もありますが、大方のジャーナリズムは健全です。

例えば、投石や反日デモについて、中国政府はよくないものと認識しています。呉建民さんも大学に行き、日中関係について学生対象に講演をされておりました。

ですから、日本に対する印象の上昇幅が大きいのには、メディアの役割があると思います。朝日新聞は今年の七・七事件について、日本のほとんどのメディアがこれを問題にしていないにもかかわらず、かなり客観的な社説を書いていました。

日本人は、中国人の大らかさをよく理解していません。また日本では一部の人が、「愛国教育」ということで、反中をけしかけるようなことをしています。しかし中国は、歴史問題について子孫に教えないことはおかしいと思います。これは欧米のメディアが調査していることです。

日本における中国の好感度が低い、ということについてはメディアの影響があると思います。世間・民間での感情は政府の外交に影響を与えます。中日関係を改善し、問題について知るためには、中国にとっても日本にとっても、メディアが重要です。


それではメディアはいかにして多様化・客観化し、社会的責任を負うべきでしょうか。小林さんがおっしゃったように、双方がいかに親近感を持てるようにするか、ということかと思います。また宮本大使がお話されたように、日本はこのように中国が発展することに準備ができていなかったのではないでしょうか。

逆に中国は、日本の新しい価値観に対して、心構えができているのでしょうか。全ての報道が客観的だとは言えません。しかし中国のメディアは、そうした報道にも慎重に対応してきました。問題提起をするよりも、日本側の意見を拝聴して、親近感を深めたいと思います。


劉【中】:

日本側からも、発言をよろしくお願いします。


山田孝男【日本側コメンテーター】(以下、山田【日】):

様々な論点が出ましたが、瀋陽の件については、何度か触れられていたようです。しかしこれは反中ではなく、そのときそのとき面白いものを消費していく、極めて資本主義的な報道なのだと思います。このことは、日本のメディア、アメリカにも近いですが、重要な問題です。

ですが、面白いからといって、繰り返し報道して良いのでしょうか。多様な意見でバランスさせることが重要ですが、同じことがメディアの多様化が急速に進む中国にも言えるのではないでしょうか。政治の誘導と、メディアの報道が重要という話ですが、日本では多様化がありますが、バランスのさせかたが難しいのです。

やはり政治は重要です。1972年の日中平和友好条約やパンダが送られてきたとき、中国の人気は急速に高まりました。パンダが来た日と同じ日に、三遊亭圓生が亡くなったにも関わらずパンダの報道の方が大きかったのです。

ですから、政治的な振幅が大きく、いろいろな報道がなされ、感情が増幅されてしまうことを、なされるがままにしてはいけません。そこにはジャーナリズムの自覚を培っていかなければならないと思います。


王敏【中国側コメンテーター】(以下、王【中】):

私は80年代に、日本に留学していました。そのとき日本人は、中国人は刺繍がついた服を着ているのではないかと思っていました。日本人は命を賭して、遣隋使・遣唐使として中国に勉強にきていました。明治維新以降、その基盤に大きな変動が起こり、非常に深い関係にあった文化が、日本の教育・教養システムに欧米の軸が加えられ、それが敗戦後に新たな軸が加わり多くの変化がおこりました。


私は、次のように提案したいです。共同で勉強できる機会を設けるのはいかがでしょうか。中国も、積極的に世界とのドッキングを図っており、中国国内にいると喜ばしく思います。これからもメディアが学び合う機会を増やしていくべきです。


例えば、保守主義という言葉についても、日本と中国、アメリカでは理解が異なるのではないかと思います。相手が考えていることと、自分が考えていることの関係の問題です。同じことも、角度を変えることで、違った理解がありうると思います。一つの側面を重視するばかり、他の側面を見落としてしまうこともありえます。日本と中国では、いろいろと違うわけです、それぞれの発展段階も違いますから。

ですから、それぞれのマイナスの影響を、指摘せざるをえないと思います。いろいろと議論が起こったとき、発展段階の違いということで、お互いの違いがよりよく理解できるのではないかと思います。


浅海伸夫【日本側パネリスト】(以下、浅海【日】):

同じ手法で、継続的に調査を重ねるということが重要です。そのときだけの数字で判断するのは、危険なことです。それにより日中関係が、どういうふうに推移しているか、トレンドがわかります。ですからこうした調査は、ぜひ今後も続けていただきたいと思います。

今回の目玉は、多少なりとも日中関係が改善に向かったということだと思います。今年温家宝首相が来日され、3日間も日本に滞在したこと、そして国会での演説が中国国内で生放送されたことに関心を持っています。そこで首相が「日本が繰り返し謝罪をしてきたことを、中国は評価している」と伝えたことが、日本からは好感をもって受け止められました。

午前から提出されているのは、メディアと政治と世論の関係だと思います。日中関係は険悪な状況で、民意を背景に友好に向かうべきとの意見もありました。

今井【日】:

手元にあるアンケートをご提出下さい。中日関係がよりよくなるように多くの方に発表をして頂きたいと思います。

では皆さん、村上春樹の「ノルウェーの森」という作品はいつ発表されたか、日本の方ご存知ですか。


会田【日】:

86-89年だと思います。


劉【中】:

その本が今中国で読まれています。どういうことかご存知ですか。日本の代表者の方が安倍総理になってから、日本に対する中国の認識が変わり、好感度が高くなったのです。両国の国交正常化以来、認識はだんだん高くなっております。氷河期にあったときは、つまり中国の人々の心を傷つけたときは、好感度が下がりました。

今の両国の間にある氷を溶かした原因は、政権がかわり、両国の代表が相互訪問をしたことにあるわけではない。これが両国の温度を回復したわけではないという意見に関し、日本の方に意見を伺ってみたいと思います。


今井【日】:

私が思うに、大事なことはお互いの違いを認識し、受け入れることだと思います。我々は政治の動きをできるだけ正確に伝えようとしており、これまでできるだけ差を埋めてきたつもりであります。

それでは、まだ発言をされてない方にご意見を伺いたいと思います。


呉【中】:

では、発言をさせて頂きます。まず初めに、中国、日本は、お互いに、それほどはっきりしたイメージを持っていないと思います。それも、良いイメージを持っていないと思います。中国は日本と事情が異なるのを分かって頂きたいと思います。発展途上国である中国は、データばかりではなく、報道のゆがみをみることができます。

第二に、問題の深刻性ですが、特に注意をすべきであるのは、結局このような報道が現れた場合、全般的には変はお互いに協力しなければならないと思います。

三つ目に、総理がどういうふうな発言をしているかということと、優先度の問題が存在します。その国の影響力、それは定性的そして量的な問題があると思います。日本では核問題やセキュリティの問題でしょうが。

では、この問題がなぜ日本で注目されるか、もちろん歴史的要因もあると思います。結局、調査された方々のその国の経済レベルが絡み、両国が、省エネとか環境とかそういった問題で中国と日本では相互があると思います。

影響の度合いですが、中国では変化があるのに対して、日本ではそれが見られません。期待意識や期待感というものは、日本の方で期待感が多いと思います。

なるべく簡潔に申し上げますが、中国の認識問題ですが、メディアにつきましては、資本主義において、商業主義の影響があると思います。中国のメディアにもその傾向があると思います。おそらく、金融関係の討論の場合は、ユーロとかアジアドルとか人民元とか、不況やレートなどがテーマに設定されがちです。

それから、NHKの番組「対支21ヵ条要求の真相」はマイナスな宣伝だと思います。目先の利益としましては、いろんな意見もおそらくあり、100年後に、毎日新聞や朝日新聞の記事を見るとまた違った見方ができると思います。

午前中のお話の中で、アジアで中国はドイツを上回るかもしれないと、宮本大使がお話しされていましたが、こういうデータはあまりに大げさだと思います。

我々は今、オリンピックに向けて『人文、緑、科学技術』を目指していますので我々が報道し、相互理解を深めるためには、実際の仕事の中では、相手側の長所を学ぶべきだと思います。


工藤【日】:

では、僕だったらどういうことに関心があるか、議論するかをお話します。世論調査では、同時にすなわち中国世論・中国学生・日本世論・日本有識者の4つの調査を比較できると思います。基本的に、有職者と学生の認識の改善度合いは中国の改善の度合いの方が高いです。

メディアは別に誘導をしているわけではないと思います。現実をきちんとして報道しているか、していないかの話だと思います。今日のようなフォーラムにも、価値を感じて来て下さるメディアもあれば、そうでないところもあります。

しかし世論調査において、ひとつ疑問に思っているのは、日本において日中関係はこの一年間でだいぶ改善したと考える人が多いのに、中国に対する印象は変わっていないと思う人が多く、また中国において日本に対する印象は改善したと考える人が多いのに、日本は軍国主義だと思う人が依然として多いということです。この事実にメディアは疑問を持たないのでしょうか。

これは何とかしてくれないだろうか、という気持ちになります。


劉【中】:

工藤先生から良い問題提起を頂きました。回答する方はいらっしゃいませんか。いないようであれば、私がお話させて頂きます。


中国のマスメディアは自分たちの報道を通して、世論に影響を与えたい、または誘導したいと考えます。これは昔からの伝統であります。価値判断というのは、例えばこの間日本では中国の食品の安全性が問われました。安全性が問われたのは、コストを下げるために、自分の国のブラックリストに載っている会社から購入をしていたことです。 


中国の野菜の安全性試験の合格率は日本より高く、中国から日本へ売られている野菜は安全なのです。魚一匹に報道が過熱し、客観性が欠けていると思います。これでは、中日両国の貿易を妨げると思います。

報道をする際、中日関係のどのような側面を報道するのかが重要です。

中国という民族は、日本の友人とどう付き合っていいか模索をしているのです。中日のマスメディアが良くなるよう、模索しているのです。


今井【日】:

私は食品の安全性については、価値判断の問題だと思います。

日本がアメリカから牛肉の輸入を2年間ストップしていたのをご存知ですか。それだけ、日本人は安全な食品を求めているのです。メディアはどこに安全な食品があるか、求め、報道するべきだと考えます。


会田【日】:

メディアの社会的役割は政府を批判することだと思います。そういうことが日本の社会をよくすることだと思います。私はそういうことを考えてマスコミの仕事についております。メディアが中日間を悪くしているという人がいますが、それは違います。そういう立場にメディアを立たせてしまう政府が悪いのであります。

それから、世論調査ですが、聞き方によって答えもだいぶ変わってくると思います。「アメリカが好きか」と「アメリカのイラク政策はどうか」という質問ではおそらく異なる答えが出てくると思います。というのは、おそらくアメリカの政策が嫌という意見が出るはずですので。

瀋陽で起きた問題についても問われていますが、日本政府がとった行動は、中国人が嫌いだということではなく、むしろ同情をしているのです。力を持っている人たちに国民がどうやって向き合うのか、これが重要になってくると思います。


劉【中】:

一言よろしいでしょうか。私は先ほど表現を誤りました。私も日本全体を批判しているわけではなく、日本政府に問題があると思います。


呉【中】:

調査の結果について、追跡調査をしても構わないと思いますよ。軍国主義と叫ばれていることについて、論議が必要だと思います。


木村【日】

軍国主義と言って、お互いにレッテルを貼ることはやめましょう。それから「中国は~だ」や、「日本は~だ」など、そういう言い方をやめましょう。

また、食の安全はひとつのキーワードになってきます。アメリカでの「チャイナ・フリー(中国産を含まないという表示)」も良い例ですね。前半の議論でもあったように、ダンボール肉まんが大きく影響してしまっているのではないでしょうか。


劉【中】:

それは既に偽の報道だと言われています。

木村【日】:

分かっています。しかし、ある時点でそうした報道があまり行き過ぎると中国の国家のイメージを損なうのではないかと私は懸念をしています。

中国が悪いとか、日本が正しいとか、そういう事ではありません。公益、国益に関しては日本では整理がついており、日本では公益を優先しています。

また、もし何か誤解があれば教えて頂きたいと思います。


黄星原【中国側パネリスト】(以下、黄【中】):

これはですね、中国側が貼ったレッテルではございません。このような誤解が生じる理由は、例を挙げると、前科がある人だと疑われると、更に反省をしないと疑われるということになります。日本自体は反省したと思いますが、政府の一部が誤った放言をしていますよね。内政問題だが表面的にこの処理を誤ると大きな影響が出ることになります。

例えば、価値観同盟というものがありますが、これをやり過ぎると誤解が生じます。そこで、いかに相互理解を深めるかが大事なのです。そして、報道面で、正しいシグナルを送る事が必要になるわけです。


今井【日】:

皆様、本日の分科会を17:30まで延長致します。日本側で黄さんの発言に対して何か意見はございますか。


山田【日】:

軍国主義についていくつかお話させて頂きます。現在の日本における憲法第9条ですが、改正問題の主流はどこにあるかというと、アメリカの占領軍に選定されたものだからというところにあります。軍隊を持たないと決めましたが、まもなく冷戦時代に入り、建前上では軍隊ではないと書いておきながら、あるというのは不道徳なことです。実際には軍隊がありますから。

日本はそれまで経済主義でその部分には目をつむってきましたが、90年に湾岸戦争が起き、憲法改正は世論支持を受けています。根本にはその意見があるのです。

中国の人々がそれをどれほど理解しているのか伺いたいです。


黄【中】:

日本の平和憲法に関しては、任意調査では、日本の平和発展の道として中国人はかなり理解できない点があります。特に被害国として、そう思います。そして、日本のこのようなところに軍国主義の可能性があると思います


呉【中】:

軍国主義の概念については、やはり前の戦争についての影響があるのではないのでしょうか。平和憲法に記されているように、自衛するための軍隊を持ってはならないのです。

しかし、普通の国に戻りたいという点とそれについて侵略されたくないという点からみれば、その前提が分からなければ憲法改正が理解できません。

また、1945年までの軍国主義については理解できるが、それ以降の日本に関してはあまり詳しくないのが事実です。逆に中国に関しては、落差があります。マスメディアの内容に伝達の違いがあったのではないでしょうか。


工藤【日】:

先ほどの軍国主義についてですが、日本は将来、軍事大国になる恐れがあると思われています。


浅海【日】:

日本が侵略戦争した歴史は確かにあります。


劉【中】:

それは、日本の皆さんの見方ですね。


高【中】

中日は漢字と言う同じ文字を使っていても、理解が違うと思います。中国と日本、相手をどう位置づけるかによって、変わります。

2005年の反日デモですが、中日関係にあまり詳しくない若い人たちがなぜ参加したのか。中国の有識者はこういうことには参加していません。反社会的な心理やうっぷん晴らしをしたいだけなのです。

特別なことを報道するには、レベルの高い編集やマクロ的な立場と視点が必要になります。そして大局の立場にたつべきなのです。

中日両国はお互いの心理を知らないことが問題だと思います。マスコミは自国の国民に対して相互の記事を使うのはどうでしょうか。双方の新聞で相互信頼の蓄積ができるはずです。


劉【中】:

具体的な実務に関する、素晴らしい発言だと思います。スタートに、まずチャイナデイリーが行うそうです。


呉【中】

補足があります。反日デモに関する日本の見方ですが、あのようなデモは中国の外交手段で政府が黙認しているという表現もあるようですね。

日本でも若者が過激な行動に出ることがあるように、参加者はほとんど若者でしたよ。


劉【中】

それでは、日本のマスメディアのトップニュースで国際報道をする際の基準についてお尋ねしたいと思います。その反日デモの報道を踏まえてお答えください。


木村【日】:

そのときそのときの政治事情で、かなり相対的に話題を探しています。日中関係よりテロなどの大きな問題を優先しています。誰かの指導を受けて変えるわけではなく、相談をしているわけでもなく、相対的な価値判断をし、それが全ての会社で同じだったこともあります。

どんなニュースがトップ記事になるか、予想はつくけど誘導とかはないです。それに初めから一面トップであるというのは定まっていません。


山田【日】:

紙面審査委員会で問題になったことをお話させて頂きます。国務院の温家宝氏が国会で演説をした日、その記事をトップに持っていかず、大衆人気に煽られて、(野球の)松坂選手の話題を載せたことがあり、問題になりました。


劉【中】:
  
予定では、会議が17時まででしたので、他のアポイントメントがありましてこちらを失礼しなければなりません。お許しください。私の引継ぎとして、司会を胡さんにやって頂きます。宜しくお願い致します。


今井【日】:

反日デモについてですが、2005年のデモの際、デモ後に警官が「皆さんご苦労様でした」と呼びかけをしていました。こういった行為からは、政府による黙認と思われても仕方がないのではないでしょうか?そして、歴史問題の解決とは何をもって解決と言えるのか、伺いたいです。


朱【中】:

事件そのものに対しては、若者たちの気持ちを冷ますように対応していました。政府が黙認をしたわけではないです。

ひとつはっきりさせたいですが、もし今後どこかの都市でデモが発生し、投石事件が起きた場合、日本はその事件をトップニュースにしますか。

私はそうするべきだと思います。ただ、どのように報道するかが問題となります。政府がどのような態度をとっているか、報道するべきだと思います。そして、中国人が何を思っているかも報道すべきであると考えます。私が言いたいのは、中国のマイナス面を報道するなと言っているのではないのです。客観的に報道し、読者に判断させるような報道をしてほしいのです。

マスメディアで報道している人は、メディアに影響力があると考えているはずで、これは回避できないことであり、メディアには社会の責任もあるのです。常にそういうことを考えればいいと思います。でないと、現実離れし自己満足になってしまう恐れがあります。

置かれた場所を変えて考えれば、中日の歴史の問題に関していうと、事の発端は日本に責任があると思います。日本では政治家の失言があります。その舞台がもしドイツだとしたら罰が5年も下るのです。

日本人は正直ですが、他の民族に大きな苦しみをもたらしました。我々も歴史問題がネックになることを期待していません。政府がごまかしていると歴史問題は解決されません。


胡俊【中国側パネリスト】(以下、胡【中】):

歴史問題のディスカッションは古いので、他のテーマについて討論しましょう。デモについてですが、日本では瀋陽領事館の事件を何度も報道しておりましたよね。日本は小さなことを大きく取り上げる傾向があると思います。

私はまだ両国のメディアの相互理解ができていないと思います。ニュースを中心に、社会的責任感がないわけではなく、価値観が違うのだと思います。トップニュースの選定も、価値観の影響があるのでしょうか。

それでは、もっと範囲を広げたらどうでしょうか。中国の地方メディアは多いので、メディアの多様化はいかがですか。というのも北京や上海のメディアだけじゃつまらないと思うのです。私は今年の5月にロシアに行き、会議を開いて参りました。中国はロシアに対して、地方メディアの参加を提案致しました。主要メディアだけでは、真の交流にならないという思いからです。


 メディアの現実のあり方について


今井【日】:

これから残りの時間は、これから先のメディアの現実の在り方について討論しましょう。


会田【日】:

先ほど批判がありましたが、デモに関しては日本でも大きく報道しています。政府の黙認により行われていたのではないかという、オフレコベースの話も伺っております。では、そういった場合に、中国では政府を批判するのでしょうか。我々はそれを期待しております。

では、こうしたらどうでしょう。それぞれ記者交流で編集の場を一ヶ月見てみたいと思います。また相互研修を行い、互いにどうやって活動をしているのか中国で日々どうやってニュースができているか、見てみたいですね。


黄【中】:

日中では、文化のギャップとプロセス、そして注目点も違います。歴史問題に関しては、他人の傷に塩をすりこまないよう、論議をしていくべきだと思います。また、日本の資本主義ジャーナリズムの価値観に原因があるので、中日発展のためには相互理解を深めるべきだと思います。


王【中】:

中日メディアはこれまで互いに努力をして参りました。提案ですが、これからは番組作成の際、中国人の内面世界の変化も報道すべきではないでしょうか。双方のテレビ番組を交換するのでもよいですし。


木村【日】:

このフォーラムには、今回で3回目の参加になりました。計12時間くらいは話したでしょうか。両国の事は、分かりそうで分からず、分からなそうで分かる部分があり、両国間の溝を埋めるにはまだまだ時間が必要だと思いました。率直な意見ですが、あと100時間位はやらないとだめですね。


また、今回の討論で、国情そして国土の違いを改めて感じました。南京問題から70年、共同の作業がスタートしています。同じ認識を共有するのは難しいですが、互いが互いをどう報道したか、事例研究をしたいですね。


そして、「火事は5分で消火」ともいうようにメディアは冷静に判断するべきでしょう。メディア陣がぱっと集まる機会を設け、メーリングリストを作成し、お互いは今どんな報道をしているのか意見交換をして共有し合い、できるだけ早いうちに消火する事がこの先できそうなのが見えてきたと思います。

来年の第4回目のフォーラム、楽しみにしております。


呉【中】:

中日友好の面ですが、日本の企業の方にスポンサーになって頂き、現在の日本を知る上でもドラマを紹介してほしいですね。私たちも今後掘り下げて、いろいろと討論の余地があるようにし、深みがある発言をしてもよいのではないかと思います。

今日はどうもありがとうございました。


浅海【日】:

私は、歴史問題の処理が難しいと実感致しました。これからの若い世代に期待をしております。


王【中】:

機会があれば、中国の若手の記者の交流をやってみるのはいかがですか。


呉【中】:

歴史問題ですが、解決し難いことになっていましたが、相互理解をするべきです。


今井【日】

では、まとめに入りましょうか。


山田【日】:

今後の会議のあり方についてお話致します。これまでフォーラムを3回やっていますが、集約しにくいものがあるが、具体的な問題を絞るべきだと思います。

例えば、「世論を誘導する」という、おそらく中国では良い意味だが、日本では悪い意味である言葉があります。こういった認識の違いは客観的な報道をゆがめると思います。

私は、日本のジャーナリズムのなかで、高度な解説をつけられるのは新聞だと思っています。

互いにキーワードを吟味し、議論を積み重ねましょう。


工藤【日】:

来年の東京開催のフォーラムに向けて、会そのもののやり方を変えたいと考えています。
メディアのやり方が一般の人に支持されているのかを知るため、インターネット管理システムの導入なども考えています。

私は自分に言い聞かせていますが、諦めず徹底的に頑張ろうと思います。


木村【日】:

私は、人として自分を振り返る鏡を一枚ずつ持つべきだと思います。そして、更に世界の中で日中が見られているという、もう一枚の鏡も意識してほしいと考えます。日中が国際社会へ進出していくために、メディアの役割は大事であります。

次の次元へ移れたらいいですね。


浅海【日】:

どうしてもメディアの対話になってしまうので、何か新しいやり方を考えましょう。


会田【日】:

村上春樹をめぐる国際会議が開かれておりますが、そういうものを含めて、またはそれとは別にメディアを大きく文化としてとらえる必要性があります。


高【中】:

現在中国は科学的発展により、調和社会を建設しようとしています。より健康的に発展するために、相互理解を深め、中日の間も調和のとれた関係を目指しましょう。


王【中】:

中国人作家の本が日本で多く読まれていたり、少林寺がショーやブームになっていたりしますが、両国の良き関係は、我々が、心ある人たちが、みんなで構築するべきだと考えております。


呉【中】:

今回は、日本のマスコミの皆さんと交流ができ、とても良かったと思います。中日関係はまだ始まったばかりであり、互いにあまり好きではないという意見もありましたが、文化的背景からみると、互いに漢字も使用しているし、私が日本に行ったときには外国に来たという感じがしないくらいでした。

人種的にも近い、中国国内のチベット族よりも近いと言えるかもしれないですね。


高【中】:

今回の分科会は実り多きものになりました。メディアにおけるステレオタイプの考えを変えていきたいと思います。工藤先生のお話であったように、この次のフォーラムはもっと絞り込み、もっと具体的な討論を行いたいと思います。我々は有識者のなかの有識者ですから。


劉【中】:

昨年フォーラムの資料を読みました、このフォーラムを通して、中日関係が少しずつ前へ進んでいけたらと思います。

心を平常心にして問題を解決し、交流を強めれば、理解も深まるはずです。すべての立場を全く同じにするのは全く不可能ですが、現段階より発展させなければならないのは確かです。


今井【日】:

ひとつは、前向きな交流をもっと盛んに行い、違いを知って寛容性を持つことだと思います。メディアの基本的な役割は、不都合な事実を読者に提供することです。我々がもし伝えなかったら、人々は知らないままになってしまうので。人々に知ってもらうためにも伝えなければならないのです。

もうひとつは人々に、『人をもって、人となす』という言葉通り、人々のために我々が存在しているということをメディアの伝える一員として改めて心得ておくべきだと思います。

いろんな論点が出ましたが、これには皆さん賛成ですよね。

<了 >

文責:王里佳