アジアの将来と日中問題/中川秀直氏

2006年9月08日

第1話:「21世紀のアジアに盟主はいらない」

 「アジア」の語源をさかのぼりますと、ヨーロッパの語源とともに古代のアッシリアにたどり着くそうです。アジアとヨーロッパは、日の出イコール東を意味する「アス」という言葉と、日の入り、西を意味する「エレブ」という言葉がその語源であると言われております。このことからも明らかなように、アジアを地理的にとらえることには本質的意味は余りないのではないか、むしろヨーロッパとの対比の中で重要な意味を持つのではないか、そんなふうに私は思っております。

 そして近代に入りまして、アジアはヨーロッパの知識人からアジア的停滞とか、あるいはまた、アジア的専制などと、負のイメージでレッテルを張られるようになりました。しかし、21世紀のアジアは成長するアジアであり、また、自由化、民主化に向かうアジアでもあろうと存じます。特に都市部においては世界的に均質な中間層の皆さんが出現をし、東アジアの特徴的な状況であった大家族主義的な価値観も核家族化、少子化が進む中で変化が始まっていると考えます。それでもなお、今日のアジアをヨーロッパの対比の中で見ることには意味があろうかと思います。

 今日のアジアの特徴を一言で言うならば、ヨーロッパと接触をしてから近代化したということであります。すなわち国家として存続するためにアジア的停滞やアジア的専制からの脱却を図り、自己改革としての近代化、西洋化を進む、そういう道を歩んでいるようになってきているということであります。極論をすれば、そうした意味でのアジア的なものから脱却した国、すなわち昔で言えば脱ア入欧、そうした国こそがアジアだということになるのではないかと考えます。

 さて、そこで幾つかのことを提起させていただきたいと思いますが、こうした中で日本のみならず、アジア各国の国民の中には、今日のヨーロッパ文明の最先端を行く米国に対して反米、あるいは仰ぎ見る崇米の複雑な心理が働いているように思います。

 まず、21世紀アジアの課題の第1は米国を仰ぎ見る崇米的傾向の一部の知識人がみずから米国的になることで他のアジア諸国を見下す、そういう傾向でございます。こういう課題は乗り越えていかなければなりません。こうした崇米意識と、東アジアの各国内に伝統的に見られる自分自身を中心とみなし、他を周辺と考える、そういう二極意識、中国語では華夷意識、華夷秩序とも言われていると聞いておりますが、そういうものにつながると他のアジア諸国を見下す新たなアジアの盟主意識につながりかねない。私は、21世紀のアジアに盟主は要らないと思います。


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発言者

nakagawa_060804.jpg中川秀直(衆議院議員、自由民主党政務調査会長)
なかがわ・ひでなお

1944年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、66年日本経済新聞社入社、73年同社退社、故中川俊思代議士の秘書を経て76年衆議院総選挙初当選。96年国務大臣科学技術庁長官、同年自由民主党総務会長代理、98年衆議院議院運営委員長、2000年党幹事長代理、同年7月内閣官房長官(IT・沖縄担当兼務)・沖縄開発庁長官、2002年党国会対策委員長(歴代最長)などを歴任。2005年より党政務調査会長に就任、現在に至る。

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