これからの中国とどう付き合うか

2011年2月02日

 放送第18回目の「工藤泰志 言論のNPO」はゲストに、昨年夏まで中国大使をお務めになられていた宮本雄二さんをスタジオにお迎えして、前週の工藤氏の中国訪問を受け、これからの日本と中国の関係について議論しました。
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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
― これからの中国とどう付き合うか

 
(2011年2月2日放送分 19分2秒)

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「これからの中国とどう付き合うか」

工藤: おはようございます。ON THE WAYジャーナル水曜日。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAYジャーナル」。毎週水曜日は、私、言論NPO代表の工藤泰志が担当いたします。
 先週は僕が正月に北京に行ったときの話を皆さんに伝えて、今の日中関係がどうなのかということを考えてみました。

  今日はその延長なのですが、中国という国と僕たちはどう付き合っていけばいいのかということを今回は考えたいと思っています。ただ、これを考えることは非常に難しいことなので、今日はスペシャルゲストをスタジオにお呼びしております。昨年の夏まで中国大使を務められた宮本雄二さんです。


ゲストは宮本雄二前中国大使

宮本: みなさん、おはようございます。宮本でございます。今、工藤さんから私が長いことやってきた、しかし大変難しい問題についての提起がございました。私の感じは、日本と中国は相手をよく理解せずに、そして、自分のイメージを相手についてつくり上げて、そのつくり上げたイメージに、お互いに腹を立てている、殴り合いたいと思っている。こういう風に見えてなりません。なぜ、こういう風に思うのかについても、工藤さんとのお話の中で、ご説明していきたいと思っています。

工藤: 何か、影に対してシャドーボクシングをしているような感じかもしれません。さて、宮本さんは、実をいうと『これから、中国とどう付き合うか』という本を出されているんですね。まさに、このテーマこそが今非常に大事だと思うのですね。なので、今日はこのテーマを中心に、宮本さんと話をしていきたいと思っています。
 宮本さん、この本の中で一番言いたかったことは何だったのでしょうか。


著書で言いたかったこと、新しい日中関係を根付かせたい

宮本: 中国との関係が非常に難しい。中国という国はわかりにくい。何を考えているのかわからない。しかし、恐い。そういう長い間難しい関係を続けてきた日本と中国の関係が、実は多くの方がお気づきになっていないのですが、新しい出発点に立てる、そういう約束事をしていたのですね。それが、2008年の胡錦濤さん訪日の時の福田総理との間の共同声明なのですが、ここで新しい日中関係ができあがっているのに、それを多くの方が段々忘れていらっしゃる。これに対する危機感ですね。それまでもどうしようもなかった日中関係を、やっとこさあそこまでたどり着く枠組みを両国首脳が責任をもって出したのに、その先に進めない。そういう現状を見て、ぜひこのことを多くの国民の方にお伝えをしたい。その半分以上は中国の人たちに向けてなのですが、中国の人にも考えていただいて、そして新しい日中関係を根付かせていきたい、これが最大の理由です。

工藤: まさに逆に言えば、チャンスというか、これからドラマが始まるのだから、みんなで考えようということですよね。

宮本: そうですね。そもそも中国は引っ越しできない隣国ですし。

工藤: そうですね。僕たちもひょっこりひょうたん島みたいに、どこかに移動できないですからね。

宮本: 行ければ、ブラジル辺りまで行きたいという気にならないことでもないのですが、それはできませんし、なおかつこれだけ大きくなって、更に大きくなろうとしている国ですから。この国との関係は安定した、できればいい協力関係を築くべきだと思います。

工藤: そうですね。宮本さんが、「予測可能な協力関係」と言っていますが、確かに予測不可能なことがあるのは良くないですよね。

宮本: これは、外交そのものをお前たちはどれぐらい予測して、ちゃんとやってきたかと言われると、キッシンジャー博士は、なかなか立派なことを仰っているのですが、あの方は学者さんですから。後で、あぁだった、こうだったという立派な理論をおつくりになっているのですが、現場の我々は、結構行き当たりばったりでございまして、申し訳ございません、国民の皆さま方に。そういうのが外交の現場なのですが、その中でも特に中国はわからない。要するに、どういう風に出てきて、どういう風に進展するかわからないということでありますから、これをできるだけ、外交的に言います計算のできる関係にしたいということですね。


ダメージの背景の7割は「誤解と理解不足」

工藤: なるほど。ところで、僕が正月に北京に行ってきて、やはり尖閣諸島事件以降、日中関係は非常にダメージを負ってしまっているという感じがしていました。今回の訪中で、中国の若者も含めて色々と話をしたのですが、やはり日本を嫌いになってしまったという声がありました。一方で、ちょっとどういうことか分からなかったのですが、魚をいつも獲っていたのだけど、急にルールが変わってしまった感じがあって、逮捕にまで至ってしまったとか、大臣の発言が非常に不用意で刺激的で非常にびっくりしたとか。それから、急に日米韓で色々な動きが出てきて、非常に中国と事を構えるみたいな、表面だけ見るとそうみえることをどう考えればいいかとか、結構本音ベースで話を聞いてきたのですが、これをどう受け止めて判断すればよろしいのでしょうか。

宮本: 冒頭に申し上げました通り、日本と中国、あるいは中国とそれ以外の世界は、大いなる誤解と理解不足があります。しばらく前に、中国で自分の見るところ、日本と中国との間に生じている問題の7割は誤解と理解不足だと思うという話をしました。ところが東北大学で6年間勉強して帰ってきたばっかりの中国の日本研究者は「宮本さん、それは違います。7割ではなく8割です」と言うわけです。日本で生活していた中国の人もそういう感じを持っているのですね。やはり日中双方が、お互いに十分理解できていません。

 今回の尖閣諸島の問題にしても、やはり中国側が日本の状況を見誤っているのです。中国側は何を考えたかというと、日本政府が、ああいう風に漁船がぶつからなければいけないような状況を仕組んで、そして日本の裁判にかけて、そうすることによって日本が尖閣諸島を有効支配しているのだ、という基礎を更に固める。そのための陰謀だというのが、私が調べた限りでは中国側の認識なのですね。日本なんてそんなこと考えてもいません。中国側はそういう認識でやっているものですから、強硬な姿勢に出なければいけなくなった。ルールを変えたというふうに受け止められるかもしれませんが、ルールを変えたことはありません。しかし、日本の領海はしっかり守らなければいけないという気にはなっていました。理由は中国がつくったのですね。2008年の12月に中国の海洋局の公の船が、9時間尖閣のあの領海の中にとどまりましたが、中国側の、このような行為は初めてでした。ですから、日本政府は中国が力で日本の尖閣に対する有効支配に挑戦しようとしていると受け止めて、ならば領海はしっかりと守らなければいけないなと思って、今回のケースに繋がっていくのです。ですから、ルールを変えたと中国側は言うのですが、ルールを変えたように感じさせる原因は、実は中国側がつくった、ということも中国の人は分かっていないと思いますね。要するに、双方とも相手をよく理解していない。色々なことを想像して、相手はこういう風に我々にきつく出ているのではないかと思って、だんだん強い姿勢をとり、日中関係が厳しくなっていった。この誤解を解いて理解を深めるという仕事は早急に大規模にやらなければいけないと、今回の事件を通じてしみじみと感じました。


誤解を解いて理解を深める作業を早急に大規模に行うべき

工藤: そうですよね。まず1つは政府間同士でのコミュニケーションとか相互理解も大事です。一方で、国民レベルはもっと荒れちゃっている状況がありますよね。僕たちも世論調査をやっていて感じることは、中国人は日本のことをまだ軍国主義だと思っている人が半分ぐらいいるなど、もともと基礎的な理解が不足しているじゃないですか。そういうことを含めて、非常に弱い相互理解の状況の中に、またこういう形が加わっていくので、非常に不安ですよね。

宮本: 『これから、中国とどう付き合うか』という本の中にも書いておきましたけど、日中それぞれ国民の声が政府の方針に強い影響を与えるようになりました。日本は、本当の意味での民主主義になったなと思っています。すなわち、政府の一挙手一投足を国民の皆さんがちゃんと監視できる、監視する、というそういう民主主義になったと思います。ということは、国民の皆さんのお考えが、日本の政府の政策に影響を与える、とりわけ外交も例外ではないという状況になるわけですね。中国の中でも別の形で国民世論、社会の雰囲気というのが、中国共産党の政策に影響を及ぼすようなそういう仕組みになってきています。そうすると、両国とも結構大きな力で国民世論が政府の政策を決める、影響を及ぼすのですね。ですから、本当に日本と中国の関係を改善しようと思ったら、究極的には国民同士の和解といいますか、国民同士の相互理解といいますか、この段階までなりませんと、先程おっしゃった、私が言っていたという「予測可能な協力関係」というのができてこない。したがって、実は日中関係で一番大事なのは、国民レベルの相互理解と信頼関係をどうつくっていくか、ということが最大の課題だと思います。

日中に問われているのは、高度な相互理解では?

工藤: そうですね。ここで、僕も難しい課題が出てきたなと思うことは、今までは圧倒的に交流不足なので、お互いに沢山友達をつくったり、日本に何回も来てもらったり、逆に中国に行ったりすることによって...ただ、これも圧倒的に足りないのですが、多分、そういう交流が出てくることによって、自然に相手を知っていくチャンスが出てくるのでいいと思うのですが、ただ知っていくことによって、今度は意外に「違い」ということが見えてきますよね。国の違いなど色々なことに関して。その「違い」を認めるという形まで入っていかないと、相互理解が深まらない、かなり高度な相互理解が問われるような気がするのですが、どうなのでしょうか。

宮本: それはもうおっしゃるとおりで、私が最初に中国とお付き合いした大昔は、着ている洋服も違いましたし、女の方は全く化粧もしてらっしゃいませんでしたから、日本人か中国人かはすぐに見分けがつきました。でも、今は中国の若い子は、日本のファッションやお化粧が大好きですから、もう分かりませんね。

工藤: 確かにそうですね。

宮本: 外見で見分けがつかなくなってしまっています。そうすると、お互いに相手が自分のことを理解できるものだと錯覚してしまうのですね。例えば、アメリカの人に会ってこの人が理解できないということはある意味で納得できるのですが、全く同じ格好をした人間が自分のことを理解できないのはなぜだろうと。そういうことで、日中の相互理解の逆の難しさというものがあるのですが、やはり違うのですね。それを理解して、やらなければいけないということと、もう1つ、日本の人が特にできていなくて、中国の人もまだ不十分なのですが、異なる文化を持った相手に、自分の事を上手に伝えるということが日中双方ともできていないのです。そのために、例えば、中国の日本理解といっても、まだルース・ベネディクトが日米戦争をやっていたときに書いた『菊と刀』という日本に関する本とか、明治時代に新渡戸稲造が欧米の日本理解を進めようとして書いた『武士道』、この本がまだ中国の日本理解の基本的教科書になっているわけですよ。


異なる文化を持った相手に自分を上手に伝える

  ですから、中国の中でも、日本をきちんと紹介する本がないのですね。日本でももっと中国のことをきちんとする紹介する本...日本の方が中国よりははるかに多いと思いますけど、それでもまだ不十分。中国ではもっと足りない。ですから、日本のことに関心を持った人が行って話をするだけではなくて、もう少しそういう形で理解できるような環境を早急に整えないとお互いの理解が進むのには時間がかかってしまうな、という感じがしています。

工藤: 本当にそう思いますね。僕も6年前までは中国のことを、全く知りませんでした。でも、中国の人たちと色々付き合って、共同のプロジェクトを一緒にやることによって、相手を理解できるようになりましたね。それは嫌なこともあるけれど、きちんとやると、ちゃんと真剣にやるし、共通の目標に対して合意をすれば、成果を出そうとなるし、本当に付き合うことが重要ですよね、そういう感じで。


お互いの「違い」を認めて付き合うと共通点は広がる

宮本: 日本は1700万人ですけど、中国も毎年4000万人ぐらいの人が海外に行っています。それでも、中国の外の知識というのは、まだまだ限られているのですね。ですから、中国の人たちは基本的には中国の社会で成り立つ中国的な発想方法、ものの言い方できているわけです。ですから、日本人がそれにぶつかると、ちょっと違和感を感じたり、感情を傷つけられたり、色々なことをするわけです。これは文化の差なのですね。ですから、外見は似ているのですが、それは脇に置いて相手は違う文化を持っている人だと思い定めて、お付き合いいただいて...

工藤: その違いを理解するということですね。

宮本: 理解をした上で付き合ってみると、私の経験でいうと欧米人よりは共通点が広がってくるのですね、ある段階を超えると。

工藤: 僕もある段階を超えると、志を共有...何て言うんでしょう。中国にもそういう言葉が好きな人がいるのですね。
 もう1つありまして、僕が世論調査をやっていて感じるのは、中国の人は日本のことを過去の視点で見ている人が多い。一方で、日本人は今の中国を見ているために、中国が大国的に巨大になっていくことに、いいも知れない不安感を感じているのですね。この大国的な中国に、僕たちはどう向き合っていかなければいけないのでしょうか。


中国の大国化にどう向かい合うか

宮本: 中国は今曲がり角にきていると、私は強く感じています。日本を追い越し、図体が大きくなって世界の中で生活をしている。今度は世界に対してどう対応するか。どういう理念で、どういう価値観で、どういう世界像で、世界をどう引っ張っていくか。これを中国の人たちが自分で決めかねているのです。今彼らを突き動かしているのは、昔の中国が弱かったころ...中国は色々な国からいじめられて、強くならないといけない、強くならないといけないと、ずっと自分に言い聞かせてここまできた。でも、まだその強くならないといけない、という意識が強すぎて、軍事面で見れば、周囲の国が中国は脅威ではないかと思い始めるような状況になってしまっているわけですね。その時に、中国の人が我々に語りかけるべきは、中国はどういうアジアをつくろうと思っているのか、どういう世界をつくろうと思っているのか、そこで我々はどういう役割を果たします。人民解放軍はどういう役割を果たします。皆さま方の脅威と感じることに対してはこうします。あるいは、脅威が拭いきれないのであれば、この分野はこれ以上やりませんとか、世界を意識した発信をしていく必要があると思います。ですから、中国はまだその途中にある。中国がすでにはっきりとした方向を決めて、そちらの方向に邁進しているのではない、ということだけは事実として理解しているほうがいいのではないかと思います。


中国自身、明確な自画像を描き切れていない

工藤: つまり、明確な自画像が描き切れていないということですね。宮本: そういうことなのですね。

工藤: ただ、その中国と日本は一緒になって世界に貢献する、つまり中国にそういうふうになってほしいわけですよね。

宮本: ですから、彼らがどういう自画像を描いたらいいか、日本人もそうですけど、中国の人は「あたなはこうしなさい」と教訓めいて言われると、内心反発するものなのですね。ですから、そういう言い方を中国の人にすると反発を招くだけです。しかし、上手な言い方というものがありますから、こうするのが中国のためではないですか、世界のためになるのではないですか、という感じで、我々の意見を中国にどんどん入れていくことによって、気がついてみたら中国の人の考え方が変わっていたということはあります。これは、私が外務省にいて、中国の人と付き合ってきて、ある日突然、中国側が自分の意見としてなかなかいいことを言い始めるのですよ。ところが、それはね、3年前に私たちが言っていたことだったのですよ。そういうことがあるのです。だから、いい話も目立たないように、工藤さんもこっそり大いに中国側に伝えてもらえれば、気がついたら工藤さんの言っていることが中国の政策になっているかもしれません。


でも、問題は日本自身が将来の自画像を描いていないこと

工藤: 3年後に。やっぱり、そういう形で、あの国と本気で、未来志向で付き合っていくことが大事だと分かりました。もう時間になってしまいましたのですが、宮本さんの話を聞いていて、中国が明確な自画像を描いていないということは、僕も分かります。一方で、この日本も明確な自画像を描いていないという問題があって、僕たちは日本も素敵な国にしていって、中国も将来素敵な国になっていけば、本当に一緒にやっていけるということですよね。

宮本: 間違いなくそうだと思います。それは、日本の国民一人ひとりの方が、どういう日本の社会をつくるのか、それを真剣に考えて自分の周辺のコミュニティから始めてもらいたいと思いますが、住みやすい、これこそ人間が住む街だ、というものをぜひつくっていく。そして、このソフトパワーで、日本は当分の間、中国は体が大きくなりますが、こちらは頭を大きくして、体の大きな中国と頭の大きな日本のバランスで日中関係をやっていければと思います。

工藤: そういう形で、これから中国と付き合いたいと思います。本当に、今日は宮本さんありがとうございました。今日の話は、言論NPOのWebサイトでも映像でご覧いただけますので、ぜひ見ていただければと思います。

 ということで時間になりました。今日はゲストに、昨年の夏まで中国大使を務めていた宮本さんに来ていただきました。本当に貴重な意見をありがとうございました。なお、冒頭にも言いましたが、宮本さんは『これから、中国とどう付き合うか』という本が、日本経済新聞出版社から出ています。よければ、書店等で買っていただければと思います。私たちも、これを読んでまた勉強したいと思っています。ということで、これからの中国とどう付き合うか、皆さんも色々と考えることがあったと思います。ぜひ、みなさんも意見を寄せていただければと思います。またよろしくお願いします。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)

【 前編 】

【 後編 】

 放送第18回目の「工藤泰志 言論のNPO」はゲストに、昨年夏まで中国大使をお務めになられていた宮本雄二さんをスタジオにお迎えして、前週の工藤氏の中国訪問を受け、これからの日本と中国の関係について議論しました。
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