言論スタジオ「領土紛争の解決と日中関係の今後」報告

2012年10月04日

 10月3日の言論スタジオでは、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、前駐中国特命全権大使)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、秋山昌廣氏(海洋政策研究財団会長、元防衛事務次官)をゲストにお迎えし、「領土紛争の解決と日中関係の今後」をテーマに議論が行われました。 



121003_studio.jpg まず、代表の工藤が「日本政府による尖閣諸島の国有化後、日中関係の対立が深まっている。こうした政府による国有化をどう評価するか」と問題提起しました。それに対して、宮本氏は、日中両国間での「国有化」に関する認識の違いに言及し、日本では単なる領有権の移転が、中国では「大きな措置を取ったと受けとめられた」と述べました。また、秋山氏は「現状を変えたくない」という日本政府の意図と、中国政府の「日本の行動に対して対抗措置を取らなければならないという戦略」との間で大きなミスマッチが生じたと指摘しました。その結果、周恩来と鄧小平氏による棚上げ論を踏襲してきた中国政府の中で、「日本が認めないならばご破算にしよう」などの新しい論調が出始めていると宮本氏は述べました。一方で、高原氏は、92年の領海法の変更と06年の海上法執行機関のパトロールの制度化に言及し、「中国側が現状を変更しようとしてきた」ことを指摘しました。


 続いて、尖閣問題を解決するための2国間協議について、宮本氏は、「対話を通じて平和的に解決すべきである」との立場を示しながらも、両国国民感情の悪化によって「今は議論するような雰囲気ではない」と述べました。また、日中両国間の危機管理の構築について、秋山氏は「尖閣について軍事の問題を議論することは危険」と述べ、「中国の一部の勢力は軍と軍との衝突を期待している」と日中両国の関係が深刻な状況にあることに言及しました。他方で、多国間協議について、台湾の重要性を指摘し、「米国、台湾とのトラック2が現実的である」と語りました。なお、国際司法裁判所の活用に関して、高原氏は中国政府からの提訴に期待を示しながらも、尖閣諸島は「争いもなく、我々のものだ」と領土問題は存在しない、との立場を中国側が示していることから困難であるとの見方を示しました。


 今回の議論に先立ち、有識者155人が回答した「領土紛争の解決と日中関係の今後」に関するアンケートの、日中両国間の対立を2国間交渉で解決できるか、という設問では、59.4%の方が「解決できない」と答え、「解決できる」(34.2%)を上回りました。また、「解決できない」と答えた人にその対処法を聞いたところ、45.0%の方が「国際社会に日本の立場を説明し、支持を得るべき」と答え、それに続いて3割余りの方が、「中国との共通利益を重視した関係改善」または「平和的解決を目指すための合意」が必要と答え、今回の3人のパネリストによる議論と同様な見解を示しました。

 なお、今後の日中関係について、高原氏は「戦略的互恵関係を重視すべき」と述べ、理性的な考えを持つ中国人に訴えかけるべきと語りました。また、宮本氏は「改善しようとする雰囲気が中国政府の現場にない」と述べながらも、ネットでは反日と異なる論調が出始め、「中国社会は変わりつつある」ことに言及しました。それを踏まえて、「力に頼んだ対外姿勢を取るのか、理性的な対外姿勢を取るのかの分岐点である」と述べ、中国政府は重要な局面を迎えているとの見解を示しました。最後に、代表の工藤は日中両国の対立を「議論の力で平和的に解決しながら、アジアでの日本の立ち位置を確立したい」と語り、締めくくりました。


 10月3日の言論スタジオでは、宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、前駐中国特命全権大使)、高原明生氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、秋山昌廣氏(海洋政策研究財団会長、元防衛事務次官)をゲストにお迎えし、「領土紛争の解決と日中関係の今後」をテーマに議論が行われました。