「第9回 東京-北京フォーラム」の意義とは何か

2013年9月22日


明石 康 (「第9回 東京-北京フォーラム」実行委員長、国際文化会館理事長)
宮本雄二 (「第9回 東京-北京フォーラム」副実行委員長、元駐中国特命全権大使)
武藤敏郎 (「第9回 東京-北京フォーラム」副実行委員長、大和総研理事長)
工藤泰志 (「第9回 東京-北京フォーラム」運営委員長、言論NPO代表)


「第9回 東京-北京フォーラム」の意義とは何か

工藤:今回、ようやく「東京-北京フォーラム」が10月に開催する運びとなりました。今回の対話で、私たちのこの日中対話で何を実現しようとしているのか、ということについて、お話いただきたいと思います。

異常な日中関係の中でも議論ができることこそ、この対話の意義

宮本:去年一年間を経て、尖閣問題について私たちが今、しみじみと感じていることは、同じ問題でも日本と中国では見方が違う、認識が違うということです。つまり、尖閣関連で起こったことについて、私たちが理解していることと、中国の人が理解していることは全然違うわけです。日本と中国はお互いにとって大事な隣国で、未来永劫仲良くしていかなければいけないという宿命にあります。その中で、信じられないような認識の齟齬が起こっているということを、両国社会は真剣に反省して、なぜこうなったのかということをもう一回考える、そして、同じことが将来起こらないようにする必要がある、と考えています。

「東京-北京フォーラム」は日中間の民間の対話が少なくなる中で、しかも社会で発言権、影響力を持った方々が両国から集まって意見交換をするという非常に数少ない貴重な場です。この貴重な場を大いに活用して、なぜこういうことになってしまったのか、これから私たちはどうしたらいいのか、ということについて率直な意見を交わす。そういうことが一番大きな今回の対話の目的、意義になるのではないでしょうか。

武藤:日中関係の現状は、宮本さんがご指摘の通り、長い歴史の中で見ても異常な状態です。双方にとって甚だ不幸な状況に陥ってしまっている、と思います。お互いの国民がメディアの影響を受けたり、あるいは両国のいろいろな政治的な発言が、国民の誤解、思い込みというものを助長したりするような方向に行っているような気がして仕方がないわけです。そのようにして生じたお互いの不信感が事態のコントロールを非常に難しくしているのではないかと思います。

ですから、重要なのは相互理解をどうやって進めていくのか、ということだと思います。たぶん、有識者などハイレベルな人たちの相互理解はそんなに行き違っていないように思います。しかし、一般国民レベルということになるとなかなかそうはいかない。それから、政治というものは一般国民の意識を代弁するという部分があります。政治家も日中関係改善の必要性をわかっていても、やむを得ず強硬な言葉を繰り返してしまう。

そのためには我々は相互理解を進めて、政治に対して発信するということをしないと、このこんがらがった状態は解決できない、そのための知恵が必要なのだと思います。今回の「東京-北京フォーラム」に求められているのはその知恵です。両国は友好関係や平和ということを当然の前提として、話し合いを進めて物事を解決していくことが大切であると思います。

明石:今の日中関係が異常すぎるという認識は、日本においても中国においてもいろいろな人が持っているのではないかと思います。尖閣という領土問題については、これはお互いに主権を主張している以上、このまま続けてもゼロサムに終わってしまう。いわゆる戦略的互恵の大きな見地に立つならば、政治でも経済でも文化でも、いろいろな面において相互の利益が一致しているところが極めて大きいわけです。

お互いに上げた拳のやりどころに困っているような状況を、「何とかしなければ」という悶々とした気持ちが、両国にかなりあるのではないかと思います。だからこそ、有識者、市民社会の先端にいるような人たちが一緒に会って、忌憚なく話をするということの意味は、こういう状況の中ではとても大きいと思います。

工藤:先日、安倍首相と習近平国家主席がG20で立ち話をしたという話がありました。現在の日中関係は、残念ながら政府同士がなかなかコミュニケーションを取れない状況で、まだ非常に厳しい環境にあります。そういう局面の中で民間の対話が行われるということの意味を、どう考えればいいのでしょうか。


民間対話だからこそできる政府より一歩進んだ議論

宮本:先日、一週間くらい上海に居たのですが、中国の多くの有識者の人たちが、やはり「今のままではいけない、どうして日中はこういうふうになってしまったのだろうか」と言っていました。そして、「日本はけしからん」という声一色ではなくて、「中国自身も客観的にもう少し検証する必要がある」という中国側の声も聞かれ始めました。

日本のマスコミも少し中国の他の面というか、「日本はけしからん」と言って拳を振り上げているような中国人ばかりではなくて、そうではない中国人もいるのだ、ということを報道してくれるようになってきています。そろそろ両国社会にとって一つの潮目の変わり目に来たかな、という感じがします。

「東京-北京フォーラム」というのは、民間の対話の場ですから、政府でできるような議論よりもさらに自由に意見交換ができるわけです。そういう中で両国社会の良い意味での変化の兆しも踏まえながら、どういうふうにこの問題に対応して、これから将来どうすればいいのか、ということについて意見交換ができればいいと思います。これは民間だからこそできるという側面もあるのですが、今の時期にやる意義は非常に大きいのではないかと思っています。

タイミングを考えると、こういう重要な時に「東京-北京フォーラム」を開催できるというのは、工藤さんもなかなか運が良いのではないですか。2006年も同じような状況だったのではないですか。

工藤:そうですね。このフォーラムは困難な時に始まった対話なので、そういう宿命を持っていますね。しかし、その後この対話がいつも困難な状況に直面していている気がします。武藤さんはどうお考えでしょうか。


経済的な問題を議論することで対話の基礎作りができる

武藤:民間対話の重要性が今ほど求められていることはない、と言っても過言ではないと思います。国家間の政治的な関係構築がなかなか思うように進まない時というのは、民間対話のチャネルが非常に有効な機能を果たす、ということだと思います。

私は経済的な面から特に申し上げたいのですが、経済というのはほとんどが民間です。かつ、中国と日本の経済というのは非常に有機的にインテグレートされていて、サプライチェーンだとか、あるいは貿易相手国としての重要性などあらゆる意味からいって、今やもう後戻りできない関係にあるわけです。そういうことを一番知っているのは民間の経済活動をしている人たちなのです。尖閣問題で人々の感情の温度が上がったり下がったりしていますが、経済は一刻の休みもなく活動をしているわけです。

その経済が、実は日本も中国もそれぞれ、いろいろな問題を抱えている。経済には、いつの時代でも、どこの国でも、課題はあると思います。11月に予定されている三中全会(中国共産党の中央委員会の第3回全体会議)でそういうことがだんだん明らかになってくると思いますが、中国は今、新しい体制になって、その新しい体制の経済政策をどうするのか、ということが非常に大きく取り上げられつつあるわけです。それは何かというと、江沢民、胡錦濤体制の20年間に、中国は非常に成長して大成功しました。しかし、同時に都市化の進展に伴う格差の問題とか、シャドウバンキングの問題とか、さまざまな問題点を抱えたわけです。かなり矛盾を抱えているといってもいいわけですが、それを彼らは十分認識していて、どうしたらいいのかということを自問自答しているわけです。

日本もその間、デフレでずっと苦労してきました。今、少しずつアベノミクスで転換していますが、まだこれが本当に定着するかどうかははっきりしていないし、課題は残っている。そういうふうにそれぞれ抱えている問題を虚心坦懐に話し合うことは、経済合理性の観点から話がかみ合うという面があると思うし、おそらく尖閣の話を乗り越えてすぐにわかり合える問題だと思います。

そういうことが日中両国をギリギリのところで経済的な利害関係によって強く結びつけているのです。そうした環境が両国の対話を必要としている、とも私は考えています。今回の「東京-北京フォーラム」はセッションがいくつかありますが、私が関心のある経済という観点から見ると、非常に困難な時であるからこそ有効な対話チャネルとして今回の対話が機能するのではないか、と期待しています。

工藤:最後になりましたが、明石さん、どうでしょうか。


政府間関係の基礎作りとなる対話に

明石:尖閣という小さな島の問題で日中関係は緊張状態のままこの一年進んできました。非常に大きな見地から見ると、経済規模における世界の2位と3位が交代して中国は自信満々だったわけですが、やはり巨大な中国は経済をはじめ、都市化問題や格差の問題などに直面して悩んでいる。日本の方は非常に低迷した15年ないしは20年を経て、今度はやや元気を取り戻しつつあるということで、両者がお互いにコンプレックスなしに、忌憚なく率直に話し合える雰囲気が熟してきているのではないかという感じを持っています。両国政府はなかなかお互いに面子があってイニシアティブを取りにくいのであれば、そういう懸念のない民間こそが雰囲気作りに前向きに取り組むことができるのではないか。我々が、政府が交渉しやすい雰囲気を我々が作るために、一汗かこうという機運が両国ともに民間の方から出てきているような感じがします。

工藤:今年の「東京-北京フォーラム」まであと一カ月あまりしかありませんが、何としてもこの対話を成功させたいと思っています。
今日はありがとうございました。

 日中関係が悪化する中、政府間同士の協議も開催されないない中、10月下旬に開催予定の「第9回 東京-北京フォーラム」まで、のこり1カ月余りと迫ってきました。
 そこで、本フォーラムの実行委員長である明石康氏、同副実行委員長の宮本雄二氏、武藤敏郎氏に、異常な状況下で開催される今回のフォーラムの意義などについて、語って頂きました。