言論外交の挑戦

「日韓共同世論調査」をどう読み解くのか

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工藤泰志(言論NPO代表)


調査の目的は相手国への基礎的理解の状況と原因の調査と素材の提供

 私たちが行う韓国との共同の世論調査は、これまで9年間続けている中国との調査と同様に調査の目的は二つある。1つは、国民間の相互理解や相手国に対する基本理解の状況やその原因を知ることにある。そして、もう1つが、お互いの国民がそして市民が、冷静に今の日韓両国や相手国の状況を分析できる、そういう素材を提供することである。ここではこの調査結果で浮かび上がった3つの傾向を説明したい。


両国には相手国への理解を自国メディア報道に依存する構造がある

 まず、日韓の国民の相互理解の基本的な構造である。この状況は、基本的に昨年の調査結果とそう変わっていない。1つは、日本と韓国の国民間はお互いに国への渡航経験や知人もごく少なく、直接交流の度合いがまだまだ乏しいことである。その結果、相手国に対する認識や理解は、自国のメディアのニュース、とりわけテレビの報道にその大多数が依存していることである。

 そのため、同じニュースに関してもお互いの認識がかみ合っておらず、対立を助長する形で世論が構成されやすい。その結果、今回の設問結果でも、事実と異なるお互いの理解が形成される傾向が散見されている。

 例えば、昨年の調査でも指摘したが、日韓両国のお互いの現在の社会や政治のあり方をどう認識するか、の設問では、日本人の半数近くが韓国を強いナショナリズムに基づく社会である、「民族主義」と回答し、韓国人の53.1%が現在の日本を「軍国主義」と見ている。「民主主義」と見ている人は2割程度しかない。相手国の国民が自国をこのように見ていることを知り、驚く両国の国民はかなりいるだろう。

 この点で、私たちは今年、1つの質問を追加した。日韓国民間の感情対立の背景に、両国のメディア報道の影響があるのか、という設問である。その答えは、日本で62.1%、韓国で63.6%と6割を超える人たちが、「メディア報道の影響はかなり大きい」と答えている。私たちはこの認識の問題はメディア報道だけに問題があるとは考えていない。メディア報道に相手国に対する認識を依存する構造そのものが、問題なのである。

 この点から引き出される結論は、国民間の直接の交流がお互いの健全な認識や理解に決定的に大事になっているということ、そしてメディア報道の責任がとても大きいという事実である。

 この問題を考える上で重要な手がかりが、私たちがこの世論調査と同時に行う、有識者アンケートとの比較である。私たちは世論調査と同時に、世論調査と全く同じ設問を日本と韓国の有識者に聞いており、日本では633人、韓国では424人が回答している。この有識者と一般の世論調査に異なる点があるのである。

 この有識者には明確な特性がある。調査に回答した有識者はビジネスなど仕事等を通じて相手国への渡航経験をいずれも7割近くが持っており(一般の世論は両国民共に約2割)、また6割程度が相手国に知人を持つなど直接の交流のチャネルを持っており、情報源が多様化している。そのため、結果が世論調査と異なるものも多い。 

 例えば、相手国に対する印象は、国民レベルでは「悪い」というのが今回の世論調査の結論で、多くのメディアはそこに注目したが、有識者の認識は逆である。両国の有識者で最も多い認識は、相手国に対する「良い」印象であり、日本の有識者は41.7%、韓国の有識者は51.7%が相手国に「良い」印象(世論調査と同様に「どちらかといえば」を含む」を持っているのである。


日韓両国民には、政府間問題を相対化できる「冷静」な見方が存在する

 私が今回の調査で最も指摘したいのは、政府間の対立が継続する中でも国民や市民レベルで相手国に対して冷静な目が存在している、ということである。

 これは両国の国民性など様々な設問でも見られるが、特に今回、私たちが導入した新しい設問、つまり、現在の国民感情の状況を「あなたは、どのように考えるのか」という設問で浮き彫りになっている。そこでは、現在の状況を「当然で理解できる状況」は日本で13.2%、韓国で20.0%に過ぎず、「望ましくない状況であり、心配している」、あるいは「この状況は問題であり、改善する必要がある」と回答する国民が、日本で合わせて61.2%、韓国では69.7%と7割もある。

 つまり、多くの国民は両国の対立の現状を当然とするのではなく、問題視し、むしろ改善を期待しているのである。日韓の世論の現状は政府と国民が一体になってナショナリスティックに熱く加速させる状況にあるのではない。

この傾向と対称性を示しているのは、両国民が、現在の日韓関係に対しては、様々な厳しい評価を突きつけている、ことである。

 例えば、現在の日韓の政府間の関係に関しては、日本と韓国の国民はそれぞれ7割を超えて「悪い」と感じており、韓国人の4割は「さらに悪化する」と考えている。また、日韓関係は「重要だ」とする見方が日本で6割、韓国でも7割あり、日韓の首脳会談は8割程度がそれぞれ「必要」と考えているが、そのうち、日本では4割、韓国では7割が「急ぐ必要が無い」と答えている。また、相手国の政治リーダーに対する評価も低い。

 これは多くの国民が、日韓対立の現状を問題視しながら、現政権による政府間では日韓関係の改善は当面難しい、と判断していることを意味している。では、この状況を誰が改善できるのか。調査では政府外交と合わせて、民間の交流の重要性も聞いている。そこでは民間交流の重要性を指摘する声も日韓にそれぞれ7割ある。


日韓で軍事紛争が起こるかもしれないと考える韓国人は4割

 今回の調査で世界が最も注目したのは、韓国国民の2つの意識である。韓国では日本と中国を比べた場合、中国との関係をより重要と考える人が43.8%と4割を越えていること。さらに、韓国人が軍事的な脅威を感じる国も、今年の調査では日本が北朝鮮の次に脅威を感じる国になっており、これまで2番目だった中国を上回った。さらに日本と韓国の間で軍事紛争があるかもしれないという声が韓国に4割存在している。

 こうした韓国国民の意識は、日本からすれば信じられないものである。韓国は経済貿易面でも中国と関係を強めており、中国に経済的な重要性を感じることは理解できるが、日本に対する軍事的な認識のほとんどが、日本側の認識とは際だって異なっている。日本では韓国との軍事紛争があるという回答は1割にも満たない。しかし、そうした韓国側の声を増長させる行動や発言が日本側に存在することは事実である。そうした行動の全てがメデイア報道を通じて韓国民の世論に鋭く反映されていくのである。

 今回の調査では、韓国民の8割はこれからの政治をG2、つまり米国と中国がリードすると考えており、韓国政府の中に見られる米中のバランス論が支持される結果となっている。中国と韓国の接近は日韓対立だけが背景にあるわけではないが、対立の長期化は、朝鮮半島などの北東アジアの今後に深く影響をもたらす可能性も今回の調査は警告している。


政府の対立とは距離を置く、冷静な声の存在に耳を傾ける必要がある

 今回の調査で、私たちが理解しなくてはならないのは、民主的で自由な国ではそれぞれの国民の声は多様だ、ということである。しかし、政府や政治の一部の動きがメディア報道によって国をワンボイス化させ、それが国民間の対立的な世論を作り出す可能性がある。それが今の日韓の現状である。直接的な交流が乏しい国ではそうした傾向はさらに高まる。

 こうした状況を乗り越えるには政府の努力も必要だが、それ以上に民間レベルの取り組みが必要になっており、こうした民間の対話は政府関係に関わらず、広範に行われなくてはならない。

 今回の調査で示されたのは、政府の対立とは距離を置く、冷静な声が国民の中に多い、ということだが、その声が、今後、どのようにお互いの関係改善を支えるものになるかは、まだ判断できない。ただ、私は民間レベルでの動きが、政府間外交の環境づくりに益々必要になっていると考えている。日韓未来対話を7月18日ソウルで行うのも、そのためである。この世論調査の結果をそこで話し合い、市民レベルでの新しい動きを作り出したいと考えている。


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