言論外交の挑戦

第3回日韓共同世論調査の結果を読み解く ~国交正常化50年に浮き彫りになった日韓の"危険な相互理解"と二国間関係の重要性~

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 言論NPOは5月29日、韓国のシンクタンクEAIと共同で、今回で3回目となる日韓の共同世論調査の結果を公表した。この調査の目的は、日韓両国民の相手国に対する理解や認識の状況を継続的に把握し、両国民の中に存在する様々な認識ギャップの解消や相互理解の促進の貢献する、ことにある。私たち二団体は2013年に、両国の関係改善とアジアの未来に両国が向かための、民間対話「日韓未来対話」を創設した。今年は日韓国交正常化の50年目の記念日,6月22日の前日に第3回目の対話が東京で行われるが、その対話の中でもこの調査結果が使われることになっている。

 この3年間、私たちが行った調査で見ると、日本と韓国の国民感情や日韓関係の現状に対する認識は昨年、急激に悪化したが、国交正常化50年の今年もその状況は基本的に変わっていない。両国民の相手国に対する意識や二国間の現状に関する認識は、依然厳しく、改善の傾向は見られていない。特に韓国の状況が昨年同様,厳しい。

 日本人の韓国に対する印象は52.4%(昨年54.4%)と、依然5割がマイナスの印象を持ち、韓国人は72.5%(昨年70.9%)と7割が日本に対してマイナスの印象を持っている。また、現在の日韓関係を「悪い」と考える人は、日本人で65.4%(同73.8%)と昨年よりはやや改善したが、それでも6割超存在し、韓国人では78.3%(同77.8%)と8割近くになっている。ただ、今後の日韓関係に対しては、この厳しい状況は今後も変わらないという意識が両国民共に4割と最も多く、昨年よりも増加しているが、若干、底打ちの傾向も見られる。両国政府も関係改善を模索しており、その展望はまだ見通せないが、これ以上の悪化も想像できない、からだろう。


両国民間のマイナス意識の見られる二つの構造

 両国民のこうした相手国に対する強いマイナス意識の背景には、二つの構造がある。まず韓国人の意識は、日本の歴史認識や領土対立という固まった枠組みの中での強い批判であり、日本人は韓国のそうした継続的な批判に反発を高めるという構図である。

 もう一つは、両国民間の認識は自国のメディア報道に依存している、ことである。

 今回の調査でも、両国民ともに9割以上が、相手国に関する情報源として「自国のニュースメディア」を選び、それぞれその7割が「テレビ」の存在を指摘している。他方で両国民ともに相手国への訪問経験は約2割で、日本人の7割以上、韓国人の8割以上が相手国に知人や友人を持っていない。両国民ともに相手国との直接交流の度合いがまだ乏しく、その間隙をメディアなどの間接情報に依存する構造は、調査開始以来変わっていない。

 メディア報道と国民意識に強い関係があることは、世論調査の結果と同時に私たちが毎年公表する両国の有識者向けのアンケート結果との比較からも,明らかである。直接的な情報源を持ち、メディアに過度に依存しない双方の有識者層の意識は、一般の国民の意識ほどにはこの間も悪化していない。

 この点では、両国民間で自国メディアの報道に対する評価が異なることにも留意が必要である。51.7%と半数以上の韓国人が、日韓関係に対する自国メディアの報道が「客観的で公平な報道をしているとは思わない」と判断しており、「どちらとも言えない」が43%の日本とは好対照となっている。多くの韓国人は自国の行きすぎた報道は信頼できないが、日本への批判の枠組みからも離れなれない。そして、この状況を改善する具体的な行動が始まらないまま、行き場のない対立感情だけが深まる。韓国人の強い批判の背景には、そうした世論の構造も読み取れる。


相手国が理解できない"危険な相互理解"

 今回の調査で唯一明るい結果なのは、こうした日韓の厳しい状況に両国民の実に7割(日本は67.8%、韓国は67.2%)もが、「望ましくない状況」で「改善の必要がある」と考えている、ことである。

 こうした声はなかなか大きなものにならず,静かな多数派とも言えるが、こうした声が7割も両国内に存在することは、日本と韓国の国民が、お互いが直面する課題を共有している、ことになる。ただ、今回の調査結果を見る限り、それをどのように解決すべきか、に国民は答えを見出しておらず、ことさら解決を急いでも効果があるわけでもないという意識があることも、この結果から読み取れる。

 両国間では3年前から首脳会談も行われていないが、両国民の相手国の首脳に対する評価も厳しく、首脳会談再開は8割を超える両国民が希望しながらも、その時期を急ぐべきではない、とする声も日本で4割、韓国で7割近くになっている。

 私たちが、逆に今回の調査で最も懸念しているのは、両国民全体の中に、相手国に対する認識や理解が、相手国が納得できない形で形成され始めている、ことにある。その意識の方向は一般の国民も有識者層も全く同じである。

 例えば、日本人の55.7%と半数以上が現在の韓国を「民族主義」と見ており、昨年(44.8%)よりも大幅に増加している。「国家主義」と見る人も38.6%(昨年は32.4%)とこの一年で増加した。韓国は「民主主義」の国である、という見方が、今年は14%(昨年は21.5%)と昨年から7ポイントも減少したのは、日本の新聞社の支局長を拘束した韓国の司法の在り方に違和感を覚えた人がいるからだろう。こうした意識の傾向は日本の有識者にも顕著である。これに対して、現在の日本を「軍国主義」と考える韓国人はこの一年間でさらに増加し、今回の調査では56.9%(昨年は53.1%)と6割に迫り、日本を「覇権主義」と考える韓国人も34.3%と昨年の26.8%から大幅に増加した。韓国の有識者では、日本を「軍国主義」と見る人はさすがに相対的に少ない(31%)が、日本に「国家主義」を感じる人は64.8%(昨年は57.8%)と急増している。日韓双方で増加するこうした相手国に対する認識に納得できる人は少ないだろう。

 日本人にとってショックなのは、韓国人に見られる軍事的な脅威感にある。「日本」に軍事的な脅威を感じる人は、「北朝鮮」の83.4%に次ぐ58.1%となり、昨年の46.3%から10ポイント以上も増加している。「中国」に脅威を感じるのは36.8%であり、韓国人にとって、「日本」への軍事的脅威は、「中国」よりも大きい。これに対して日本が、軍事的な脅威を覚える国は、「北朝鮮」の71.6%と「中国」の64.3%が最も多く、「韓国」は11.2%に過ぎない。さらに驚きなのは、日韓間に「軍事衝突」があると見ている日本人は9.3%と一割にも満たないが、韓国人には37.8%も存在する、ことである。韓国の有識者で日本との「軍事衝突」を考えるのはさらに高く43%もある。


韓国から見た日本の二つの顔

 こうした認識の"危険な食い違い"は一体、どこから来るのか。国交正常化50周年の年に行われた今回の調査結果で私たちが真剣に考えなくてはならない、ことはこの点にある。

 日本人で韓国との将来の軍事衝突を予想する人は結果の通りごく稀で多分、韓国人も本気ではそう思っていないはずだ、と多くの日本人は高をくくっているはずだ。

 日本人がそう考えるのは正当な理由がある。日韓間には歴史認識などでの根深い対立があり、それが政府間外交の機能をこの3年、止めてしまっている。それ自体、日本にとっても解決すべき大きな課題ではあるが、両国は民主主義や自由と言った普遍的な価値を共有する国であり、安全保障上では米国を挟んで同じ側に存在する、国同士だと多くの日本人が考えている。この論理から言えば、日本が安全保障面での米国との共同行動を強めているのは、中国の台頭による北東アジアのパワーバランスの変化に対する極めて現実的な対応で、これは韓国の安全保障にも貢献する、ことになる。これは、日本が軍国主義化を進めている、こととは異なる。

 ところが、韓国人にはそれが、日本の「軍国主義」と映る。日本の政治指導者が過去の歴史認識問題で韓国民を刺激し、その解決を遅らせているだけが、その要因ではない。多くの国民が、日韓関係の今日的な意味を見失い始めている、のである。

 韓国から見た日本は二つの顔を持っている。一つは植民地支配をした、加害者としての日本、もう一つは、安全保障上の関係で、北朝鮮と対峙する中での実質的なパートナーとしての顔がある。韓国は、米韓同盟で米国を通じて、日本とつながっている。

 ところが、中国が台頭し、日本の歴史認識が揺らぐ中で、その後者の顔での意味での日本の重要性が見えなくなり、日本の集団的自衛権容認や安保法制などの安全保障面での新しい行動が、この北東アジアの環境の不安定化を助長させるという意味での「脅威」としてしか、韓国人に受け止められない。

 この点で興味深いのは、日韓関係の「重要性」に関する今回の結果である。今回の調査では、「日韓関係は重要」だと、考える日本人は65.3%(昨年は60%)と7割近くに達し、韓国人では87.4%(同73.4%)と実に9割に迫っている。いずれも昨年を上回ったのは、「どちらともいえない」という昨年まであった選択肢を今回は削除したという技術的な点も反映しているが、韓国ではその層の大部分が、「重要」に移ったことの意味はかなり大きい。

 ところが、両国民がこの日韓関係で感じる圧倒的な重要性も、中国との関係との比較で見ると、この結果の意味は大きく様変わりする。

 日韓関係よりも「韓中関係がより重要」が44.8%(昨年43.8%)と4割を超えており、「どちらも同程度に重要」(46.6%)という回答にに並んでいる。「日韓関係がより重要」は、5%しかない。これに対して、日本人も韓国と中国の「どちらも同程度に重要である」が49.1%(昨年47.0%)と半数近くになっているが、日中関係を「より重要」とみる人は、昨年の15.6%から大幅に増加したとはいえ、25.1%程度である。さらに言えば、日本よりも中国に親近感をより覚える韓国人は41%と最も多く、日本へより親近感を覚える韓国人は11.1%に過ぎない。


国交正常化50年にこそ未来に向けた対話を

 北東アジアでは台頭を続ける中国へのパワーシフトが進み、中国は、韓国にとって様々な意味で大切な存在となり、経済面だけではなく、北朝鮮との関係でも、影響力を持ち始めている。その中でどのような将来をこの地域に構築するかは、同じ価値観を持つパートナーとしての日本と韓国が背負うべき同じ課題のはずである。ところが、お互いの国民感情の悪化とそれを放任する政府間のコミュニケーションの圧倒的な不足が、両国関係の重要性の意味をより分かりにくいものにしており、それが今回の調査結果に厳しく反映されているのである。

 今回の世論調査で見られた日韓の"危険な相互理解"の実態は、こうした北東アジアの状況に新しい行動を迫っているようにも見える。加害者としての日本には過去に誠実な姿勢を示し続けることは当然だが、それだけではなく、変化が始まる北東アジアの中で、平和的で安定的な秩序を作り出すためにも同じ側に存在する国家は対立を乗り越え、未来に向かう対話を始めるべきなのである。

 日韓国交正常化の50年目のこの節目こそ、両国の政治指導者が、なぜ、お互いが重要なのか真摯に議論し合うべきなのである。それができないのであれば私たち民間がその舞台を動かすしかない。

言論NPO 工藤泰志
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