言論外交の挑戦

両国の未来やビジョンを議論することで日韓関係の現状を変えていく ~「第3回日韓未来対話」非公開会議報告~

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 言論NPOと韓国のシンクタンクである東アジア研究院(EAI)は、日韓関係の未来を市民目線で考える公開型のフォーラム「第3回日韓未来対話」に先立ち、6月21日午前から、非公開のプレ会議を行いました。
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 日本側からは小倉和夫・元駐韓大使を座長に14氏、韓国側からは申珏秀・国立外交院国際法研究所所長を座長に13氏の現役国会議員、元外交官、企業経営者、研究者、メディア幹部、NGO関係者、文化人など各分野を代表する著名な有識者が、パネリストとして出席しました。


日韓関係の未来について民間レベルで語り合い、両国関係の基礎固めとなる対話に

160621_japan-korea1.jpg まず冒頭で、日本側司会を務める言論NPO代表の工藤泰志が、日韓国交正常化50周年を明日に控え、外相会談や記念式典が相次いで開催されるなど、政府間の動きが活発化してきたことに言及しつつ、「日韓関係の大きな流れが変わるこのタイミングで、政府の動きを待つのではなく、民間側も対話を始める必要がある。過去に対して謙虚に向かい合いながら、未来について語り合い、日韓関係はなぜ重要なのか、民間レベルで対話をしていくことが、両国関係の基礎固めになる」と、この対話の意義について語りました。

 韓国側司会を務める李淑鐘・EAI院長も、工藤の発言に同意しつつ、「日韓が将来のビジョンを描くためにプラスになるような議論をしてほしい」とパネリストに対して期待を寄せました。


日韓両国には共通課題が多くあり、各分野で『ポジティブサムゲーム』の展開を

 続いて、日本側座長を務める小倉氏は、「第3回日韓共同世論調査」の結果には、ネガティブなものだけではなく、ポジティブに評価できる結果もあることを紹介しつつ、「互いに相手国のどのような点に対して魅力を感じているのか、という点に焦点を当てながら、今後の交流のあり方について考えて欲しい」とパネリストに対して呼びかけました。小倉氏は、さらに、対話に臨む際の注意点として、「韓国側には『対話は課題解決のためにするもの』、という認識があるが、日本側には『対話をすること自体に意義がある』という認識があるなど、対話をめぐる認識に食い違いがある。今日の対話では、対話の意味を明らかにしながら議論してほしい」と述べました。

 韓国側座長を務める申氏は、日韓関係の現状は、互いに相手国に対する理解・認識が最底辺の状態にあるなど、非常に厳しいとの認識を示した上で、「日韓関係を回復させるためには、相手の肯定的な側面に注目していくことが必要だ」と述べ、小倉氏の呼びかけに賛同しました。その上で、申氏は、「日韓関係は歴史認識をめぐる対立や、産業競争などによって『ゼロサムゲーム』として捉えられることが多い。しかし、共通の課題が多いため、各分野で『ポジティブサムゲーム』を展開できる潜在力がある」と指摘し、そのような前向きな議論の展開に期待を寄せました。

 これを受けて李氏が、「国交正常化以降50年にわたる日韓関係を振り返るとともに、未来のアジェンダについても語り合ってほしい」と呼びかけ、非公開セッションが本格的にスタートしました。

まず、「国交正常化以降50年にわたる日韓関係」については、両国のパネリストから肯定的な評価が相次ぎました。


日韓間の現在の対立は、更なる発展のための通過点に過ぎない

160621_japan-korea4.jpg 韓国側からは、「確かにこれまで色々な問題があり、現状の雰囲気も良くない。しかし、国交正常化以降の50年間を全体として見れば、経済、安全保障で相互互恵的な関係を築き上げており、プラスの評価ができる。それを支えてきた両国民間の交流というしっかりとした土台もある。この『成功の50年』というのはまさに日韓関係にとっての資産であり、大きな武器だ」との発言や、「現状の対立は、これから日韓関係がさらに発展していくためのある種の通過儀礼であり、成長のための痛みともいえる。ここをしっかり乗り越える必要がある」など前向きな発言が相次ぎました。

 日本側からも、「1965年の日韓基本条約では解決し切れなかった問題は残っているものの、旧宗主国と植民地が水平・対等の関係をつくり上げた、という点では、世界的に見てもきわめて稀な成果をあげたのがこの両国だ。とりわけ1990年代以降の成果は目覚ましいものがある。これをもう一度確認しながら自信とし、未来を共につくり上げていく上で、何が足りないのか、というアプローチで議論をしていくべきだ」との意見や、「世論調査でも、北東アジアの平和と安定のために、日韓両国には何ができるのか、市民に将来を考えさせるような設問を増やすべきだ」など未来志向の発言が出されました。

 続いて、現状の問題点について議論が移りました。


日韓両国民に影響を与えるメディアと政治の責任

160621_japan-korea5.jpg まず、日本側から「実際に韓国に行って取引をすると、日韓関係がそれほど悪いという実感はない」としつつ、「日本国内では、『嫌韓』の人たちからの攻撃を恐れて韓国との取引に躊躇するような企業もある」と述べ、その背景には、「嫌韓を助長するようなメディア報道の影響がある」と指摘しました。
 また、韓国側からも、「両国はより大きな利益を得られるはずなのに、対立によってその利益を逃している」と逸失利益の大きさに関する指摘が出されました。
 これに対し、両国のメディア関係者からは、既存メディアの相対的な力の低下に伴う影響力の減退を自覚する声とともに、「それでもメディアの責任は大きい」との発言が相次ぎました。

 日本側から「メディアの本質は、政治の作用に対する反作用である」とした上で、「メディアのせいで国民感情が悪化しているのではなく、メディアによって伝えられる相手国リーダーの言動によって悪化している。実際、世論調査でも、『政治リーダーの言動によって相手国に対して悪印象を抱いている』という声は多く見られる」と指摘がありました。
 その一方で、「世論調査では、国民感情の現状を問題視したり、日韓関係を重要だと考えている人が両国で多いことが示されている。メディアはネガティブな面を増幅させるのではなく、そういう健全なマジョリティの世論に働きかけるような報道をしていかなければならない。その結果として、政治リーダーの日韓関係改善に向けた動きを後押ししていくべきだ」とメディアの責任について語りました。

160621_japan-korea2.jpg これを受けて、韓国側から、「相手国に対する認識が食い違い、相手に対する良くない感情が鏡のように反射して増幅し、双方に『対立疲れ』が出てきている」と指摘した上で、「首脳会談が途絶えて久しい中、こういう状況が起こっているということは、民間交流だけでは限界があることを示している」と述べ、政治によるイニシアティブの重要性を説きました。さらに、別のパネリストからは、「これまでは政治リーダーが、国内問題に対する国民の不満を逸らすために、外交を利用してきたという面があったが、そういうことは慎むべき」との指摘もなされました。


東アジアの将来を考える上で、二国間関係にとどまらない地政学的な意味がある

 続いて、日韓関係に関する研究者からは、中国に対する両国の認識の相違についての問題提起がなされました。

 韓国側の研究者は、世論調査で、韓国人の中に日本を「軍国主義」の国であると考える見方が増加していることに言及しながら、「日本人はこの結果を心外だと思うだろうが、日本の最近の安全保障政策の変更が、明らかに中国をターゲットにしたものであるため、中国との協力が不可欠な韓国にとっては、そうした変更の動きが、まさに地域の不安定さを助長しているものに見えてしまうことが、この結果の背景にある」と説明しました。同時に、「戦後日本の平和主義の歩みも評価すべきだが、韓国では、そういう議論をすることはかなり勇気のいることであるため、これまで積極的になされてこなかった」と韓国側の課題についても指摘しました。

 日本側の研究者は、日韓関係は単なる二国間関係にとどまらない、アメリカや中国も含めた東アジアの複雑な国際政治に規定された、特別な地政学的な意味があるとした上で、「有識者調査では、日本の有識者の中にも韓国よりも中国を重視する姿勢が色濃くなってきている。このままいくと日本外交における韓国の位置付けはかなり変わってきてしまう」と警鐘を鳴らしました。そして、「東アジアの将来を考えていく上で、日韓関係には特別な意味があるということを、この対話を通じて再確認していかなければならない」と主張しました。


日韓両国の将来やビジョンの欠如により、日韓関係の重要性を見失っている

 議論では最後に、両国の市民社会関係者から、両国の共通課題についての指摘が相次ぎました。

 日本側から、「両国は、国内課題においては、高齢化対応や自殺問題、そして、グローバルな課題として環境問題や移民問題など、共有している課題は多い」との指摘がなされると、韓国側もこれに同調。さらに、両国の市民社会が、これまで互いに相手の長所を学び合ってきた、という協力の歴史を紹介しつつ、日韓関係の新たな希望として、「市民社会では、すでに共に未来について語り合うことが始まっている」と述べました。

160621_japan-korea7.jpg これまでの議論を受けて、工藤は、「各分野で、色々な立ち位置から課題に向かい合っている現状がよく分かった。民間が動けば、世論の構造も変わる」と午後から始まる対話への手ごたえを口にしました。
 工藤は続けて、世論調査を詳細に分析した結果として、若者世代に見られる傾向の違いや、「相手国に友人・知人がいたり、渡航経験があるなど、直接交流の経験がある層では、感情や認識の悪化も軽微である」ことを紹介しました。一方、「直接交流が多く、相手国に関する情報源も多様な有識者の中に、一般世論と同様の厳しい認識が出始めている。これをどう捉えるか」と述べ、有識者もこれまで両国の将来やビジョンについて議論をしてこなかったために、日韓関係の重要性を見失っていることが背景にあると指摘した上で、「有識者の責任として、午後の対話では、そういう未来について議論していきたい」と語りました。。

 小倉氏も、「現状が悪いと、未来への展望を語ることができない、と言う人もいるが、未来を語ることによって、現状を変えることができるかもしれない。午後からの対話ではそういう視点が必要だ」と居並ぶパネリストに改めて呼びかけました。

 申氏は、「日本側が、韓国が対中傾斜していると誤解していることは残念だ」とした上で、「未来を語る上でも、こうした認識の相違がなぜ生まれたのか、解き明かしていきたい」と抱負を述べ、白熱した非公開セッションを締めくくりました。

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⇒日韓の共同世論調査に見る基礎的認識の違いをどう乗り越えるか ~セッション1報告~
⇒日韓関係はお互いの国にとって、本当に重要なのか ~セッション2報告~

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