【対談】「言論外交」が東アジアの平和的な秩序づくりにおける理念となる

2015年8月22日

神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
工藤泰志(言論NPO代表)
 8月19日、言論NPO代表の工藤泰志と、慶應義塾大学総合政策学部准教授で、言論NPO内で、「言論外交研究会」の主査でもあった神保謙氏が、今後の言論外交の果たす役割についての対談を行いました。
 その中で両氏は、「言論外交」の民間外交としての現代的意義と必要性を再確認するとともに、国民国家体系を乗り越えて、地域の平和的な秩序づくりにおける一つの理念型になることへの強い期待を表明しました。


現代における外交は、プロフェッショナルだけではなく、民間も重要な役割を担う

工藤泰志 対談では、まず工藤が、外交において「民間が果たすべき役割が非常に大きくなってきていると感じる」と切り出すと、これに対し神保氏は、「現代民主主義国家における外交では、プロフェッショナルの外交官が交渉によって得た結果も、国民に浸透しなければ、その外交的な成果も長続きしない」と現代における外交の特徴を指摘。その上で、外交課題は専門的で分かりにくいため、国民は感情的な発想の下、「自分にとって短期的にプラスになるか、マイナスになるかというところで判断し、世論が形成されがち」であるが、「10年とか20年というスパンの中で『結局、日本にとってプラスかマイナスか』と判断する長期的な視野を持たなければならない」と語りました。

 そこで神保氏は、「短期的な(国民世論の)思考と、長期的な国益追求との間をつなぐために、言論あるいは有識者のリーダーシップというものが極めて重要になる。分かりやすく広く国民を導いていく「言論外交」が今こそ必要とされている」と言論外交の意義とその重要な役割を強調しました。


言論外交は、「国民に対し啓蒙・説得していく」と同時に、「政府をもリードしていく」

こ れを受け、工藤は、これまでの中国、韓国との対話を通じて、過熱した国民感情により動けなくなる「政府間外交のジレンマ」が存在する、という問題意識を抱くようになったことを振り返りつつ、「世論が感情的に相手を批判するのでなく、課題解決に向かうようにする。そして、そのような課題解決の意志を持つ世論を喚起するために、有識者が当事者として動き出す。そうした世論をつくり出すことが、政府間外交の環境づくりにつながる」と語り、世論に支えられた外交こそが、強い外交になる、との立場を明らかにすると同時に、「そうなってくると、外交は政府だけではダメで、民間が果たすべき領域があるのではないかと考えた」と述べ、民間が外交に取り組む意義を明らかにし、それこそが「言論外交」誕生の契機となった、と語りました。

 神保氏はこの考え方に賛同しつつ、その際に「言論外交」に求められる方向性として、「国民に対し啓蒙・説得していく」ことと同時に、「政府をもリードしていく」ことを挙げ、この2つを柔軟に組み合わせることにより、「極めて大きなポテンシャルを持った考え方になる」と語りました。


言論外交は地域の平和的な秩序づくりにおける理念型になり得る

 この発言を受けて工藤が、2013年、北京で開催された「第9回東京―北京フォーラム」において、日中の民間レベルで「不戦の誓い」に合意した際のことを振り返りながら、「『戦争をしない』という国民同士の明確な意思が、国境を越えてつながることで、国境を越えた課題解決に取り組むための基盤ができる。それが、北東アジアの将来的な平和のフレームをつくることにつながるのではないか」と問いかけると、神保氏も、「外交における国民の支持は、政府の信頼性を支える基盤になる」「国民の意見が確固とした方向性を持っているとするならば、政府間外交での握手に対する意味は10倍にも100倍にも変化する」と応じました。

 さらに工藤が、「課題解決に向けた議論が国内でも広がることは、実は日本の民主主義を強化することでもある。そして、そうした視野が国境を越え、アジアの平和的な環境づくりや、世界の問題にも挑んでいく。その中で、日本の発言力が世界の中で強まっていく。そういうサイクルをぜひ起こしたい」と「言論外交」推進への意気込みを語ると、これに対し神保氏は、「民主主義国家においては、政治家は国民の利益に対して責任を持つので、外交上、相手国に言っている言葉というのは、常にその半分は国内に向かっている」とした上で、「実は、『言論外交』はそれを乗り越える力を持っているのではないかと思っている」と語りました。神保氏はその根拠として、「ビジネス、友人関係、国際結婚などを通じて、多くの市民は国境を隔てた多くの利益を共有する立場にある。そうした人々のボイスが国民国家体系を乗り越えて、『地域の平和的な秩序をどうつくるか』ということに対する一つの理念型になる」と述べました。


「言論」は時代を導く大きな資産であり、ツール

 最後に工藤から「言論外交」に期待することを問われた神保氏は、「『言論』は時代を導く大きな資産であり、ツールである。人は言葉によって生きているので、その言葉をどのように導いていくのか、社会をどのようにつくっていくのかというときに、この言論を常に重視しなければならない」とした上で、「大事なのは『繰り返す』ことだ。責任や重みのある言論をつくっていくためにも、言論NPOが、さまざまな相手国とのフォーラムを続けていくことの意味は大きい。そして、これによって新しいコミュニティを創造していくというのが、『言論外交』の大きな使命ではないか」と期待を寄せました。

 これを受けて工藤は、「アジア全域に『言論会議』をつくり、みんなが率直にアジアの課題や未来を議論できるようにする。将来、そういう民間の舞台をつくりたい」と応じ、対談を締めくくりました。

※言論外交とは:
 多くの国民が、国境を越えた課題に当事者として取り組むこと。課題を共有する声が世論を形成することで、政府間外交の基盤づくりを目指している。
 日本と中国、韓国で、国民感情の悪化により、政府間外交が機能を失う中、民間外交の取り組みとして、言論NPOが提起した。

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